新春記者会見のご報告

協会の活動等

武久洋三・日慢協会長(2012年1月13日の記者会見)

 2012年1月13日(金)、日本慢性期医療協会において武久洋三会長の新春記者会見が開催され、一般紙、業界紙、関係者外、大勢のマスコミの方にお集りいただきました。
 

急性期も回復期も慢性期もそれぞれ本物しか残れない
 

 厚労省医政局により、昨年の暮れから短兵急に進められている『急性期病床群』という枠組みで一般病床を切り分けるという政策は、本物の急性期病床や慢性期病床は評価するが、中途半端な急性期病床や慢性期病床は評価しない、という厚労省全体の方向性の現れに他なりません。「一般病床=急性期病床ではない」「一般病床にはかなりの割合で慢性期の患者が含まれているはず」と機会あるごとに訴えてきたことが、行政関係者にも浸透してきた結果であると言えます。

 一般病床を急性期病床群という概念で切り分けようとしている政策の根幹は、亜急性期は急性期ではない、というところにあります。中途半端な急性期病床や自称急性期にとっては、どちらの枠組みに入るかは死活問題です。これからは急性期病床にしても慢性期病床にしても、本物しか生き残ることができない、これが時代の趨勢でしょう。
 
 常識的で一般的な急性期の治療が終わって1週間もすれば、通常、急性期で行われる治療はありません。回復期やポストアキュートなどの次のステージに移る方がよほど患者のためになると思います。

 医療も、本物として評価されるためには、特徴ある機能を持たせていかなければなりません。このことからすれば、“地域の特に何の特徴もない病床”とも読み取れる「地域一般病床」という概念には、およそ訴求力は感じられません。事業者の視点ではなく、患者の目線に立って機能分化を図っていく必要があります。

 厚労省が示している2025年の必要ベッド数の案で、平均在院日数が9日とされている「一般急性期」では、とても「高度急性期」の受け皿となることはできません。また、「亜急性期」や「回復期」には回復する見込みがある患者が入院するのが本来の姿です。そうであるとすれば、急性期後の気管切開や人工呼吸器のある患者は、療養病床が受けることになります。入院期間は長期であっても急性期の機能を持った病床群、すなわち「長期急性期病床」を想定する必要性が出てきました。急性期、回復期の後は、長期急性期と長期慢性期(従来の慢性期)が患者を引き受けることになると予測しています。

 在宅で提供される医療は「慢性期医療」であり、回復期、亜急性期で提供される医療についても、急性期の治療が終わった段階ですので「慢性期医療」です。つまり、慢性期医療の範囲は非常に広いです。「急性期以外は無くなればよい」という発言をすること自体、時代錯誤です。

 急性期以後を受けるのが在宅もしくは特養、老健だけ、というのでは、今後の高齢者医療を支えることはとても無理です。在宅療養支援のネットワークについては、在宅での看取りにこだわるというよりも、在宅療養支援診療所と在宅療養後方病院とのダブルサポートという考え方が必要だと思います。

 医療費の効率化・公平化などをすすめるにあたり、様々な無駄は、慢性期医療の適応患者が、急性期病床に入院している実態が一つの大きな要因です。これらを解消するとともに、慢性期医療のより一層の質の向上と、長期急性期患者の受け入れを強化していかなければならないと考えています。
 

2012 日本慢性期医療宣言
 

 「2012 日本慢性期医療宣言」として、下記の5項目が発表されました。武久会長から「会員一丸となってこの宣言にベクトルを合わせ、国民の医療を支えていきたい」と、今後の慢性期医療の方向性が示されました。
 
新春記者会見の模様(2012年1月13日)
 1.長期急性期病床として、高度急性期治療後の患者を迅速かつ適切に治療します。

 2.回復期機能として、積極的かつ充実したリハビリテーションにより地域復帰を目指します。

 3.癌末期や臓器不全などのターミナル期の患者に対し、何よりもQOLを優先し、周囲とのコンセンサスを得ながら治療します。

 4.在宅療養後方病院としての機能を整備し、在宅療養患者の緊急入院治療に対応します。

 5.身体疾患合併の認知症患者を積極的に受け入れ、早期の治療を推進します。
 

「医療の質の評価・公表等推進事業」中間報告
 

 日本慢性期医療協会の40病院が取り組む「平成23年度医療の質の評価・公表等推進事業」(厚労省医政局事業)の中間報告の公表では、武久会長は、「『内服薬定期処方の見直し平均頻度』や『注射薬処方の見直し平均頻度』、『起炎菌検索と細菌培養感受性検査の実施率』をみても急性期病床、一般病床と比べて遜色なく実施している」と説明。この公表では各データについての病院名が公開されており、「赤裸々な実態を示してでも慢性期医療の質のレベルアップに貢献していこうという会員病院の強い意志が感じられる」と述べました。

 会見の締め括りとして、武久会長は、「これからの慢性期病床の責務はとても大きく、単に患者を入院させて、適当に慢性期医療を提供すればよいというのでは国民に対する冒涜である」「国民の医療を支えていくために、診療の質においても、職員の質においても、急性期病床を上回るつもりで取り組んでいきたい」と述べました。

 会見終了後には、当協会参与の小山秀夫先生(兵庫県立大学大学院教授)ならびに小林武彦常任理事(小林記念病院理事長)も加わり、1時間余りにわたる意見交換が行われました。
 
会見後、記者らと(2012年1月13日)
 

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