「第20回日本慢性期医療学会福井大会」のご報告(2) ─ 来賓挨拶

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御来賓

 11月8、9の2日間にわたり開催された「第20回日本慢性期医療学会福井大会」の開会式には、国内外から多数の来賓が出席し、祝辞を述べました。福井県知事の西川一誠氏は、「20回という節目の学会が福井で開催されることは大変意義深い。この福井から、さまざまな慢性期医療に関する情報の発信ができることを期待している」と述べました。来賓の方々のご発言要旨をお伝えします。
 

■ 高杉敬久氏(日本医師会常任理事)
 

高杉敬久氏(日本医師会常任理事) 会長・横倉義武は、この日を大変楽しみにしていたが、あいにくアジアの医師会の集まりがあり、参加がかなわない。私は介護保険を担当しているため、「おまえが行って私の意を十分に伝えてこい」との命を受けた。その代役が務まるかどうか分からないが、昼からのシンポジウムに参加させていただく。横倉会長および日本医師会の思いをみなさんに伝えたい。

 祝辞を預かっているので代読させていただく。人口構造をいびつなものとする我が国の少子高齢化社会の進展は、社会環境に変化を生じさせるとともに疾病構造をも変化させ、地域の医療提供の在り方にも重大な影響を及ぼしている。

 このような状況の中、人々の最大の関心は健康、すなわち予防、治療、介護、療養にあることは疑いがない。いわゆる団塊の世代が2025年に75歳以上になる超高齢社会について取り沙汰されている現在、日本慢性期医療学会におかれては設立以来、患者さんの慢性期における医療の在り方、およびそれに関わる問題に着目し、真摯な検討、討議を重ねられていることに敬意を表する。

 今回の学会においても、「慢性期医療ルネッサンス」をテーマとして、慢性期医療に関わる各種講演、シンポジウム、多様な演題による発表など幅広いプログラムによる企画がされており、参加した方々は必ずや素晴らしい成果をお持ち帰りになり、地域の医療、保健、介護、福祉にお役立てになることと存じる。

 日本医師会においても、我が国の疾病構造および人口構成の変化に適宜順応しつつ、国民、患者に最良の医療を提供すべく献身的に努力を積み重ねてきた。そして、安定した医療・介護の供給体制こそが国民に安心を与え得るものとして、これに関わるすべての問題に全力で対応を重ねてまいるので、本日ご出席のみなさまにおかれても、ご理解とご協力を賜りたくお願い申し上げる。
 

■ 河崎建人氏(日本精神科病院協会副会長)
 

河崎建人氏(日本精神科病院協会副会長) 本来であれば、四病院団体協議会を代表して、私ども日本精神科病院協会会長の山崎學がご挨拶を申し上げるところだが、本日どうしても出席がかなわない。私が祝辞を代読させていただく。

 日本慢性期医療協会におかれては、超高齢社会への突入という社会構造の変化に対応すべく、武久会長の下、医療・介護サービスの充実に努め、急性期医療、在宅医療等との連携を図りながら、慢性期医療の質の向上を目指して邁進しておられることに対し、深甚なる敬意を表する。

 昨年3月11日、東日本を襲った大震災と大津波、それに起因する原発事故。未曾有の惨事はいまだ癒えず、1年7か月を経過した今でも、復興は多くの地域でいまだ芳しいものとは言えない状況にある。被災した方々に衷心より改めてお見舞い申し上げるとともに、貴協会共々、被災者支援に引き続き万全を期してまいりたい。

 さて、超高齢社会が進む中で、日本の社会保障、医療、介護をどうするかは大きな課題となっている。来年から、今後5年間に実施することになる地域医療計画の見直しが始まっている。この見直しにおいても、2025年に向けた社会保障と税一体改革のシナリオに沿った地域医療提供の拡充が求められている。
 患者本位の良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制を構築し、国民の医療に対する安心、信頼の確保を図るため、新たな医療計画をはじめとする医療制度改革に適切に対処していく必要があると考えている。

 大きく疾病構造が変化した現在、人々の暮らし、産業構造や就労形態、家族構成も大きく変化してきた。長い人生で治療を継続しながら暮らしていくことはもはや特別なことではなく、この点からも慢性期医療はますます重要性を増している。高齢者の急激な増加は、医療と介護の両方を必要とする対象者の急増を意味する。

 われわれ医療提供者は、疾病構造の変化だけでなく、さまざまな変化を踏まえて高齢者医療体制の整備等々、解決すべき問題に取り組んでいく。そのために、今後とも四病院団体と日本慢性期医療協会はより一層団結し、これらの問題に取り組んでいかなければならない。本学会にご参加のみなさま方のさらなるご理解とご協力をお願い申し上げる次第である。

 去る8月10日、「社会保障制度改革推進法」や「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」など、社会保障・税一体改革関連法が成立した。今後、消費税率は段階的に10%まで引き上げられることになっている。消費税問題は、われわれ医療に関わる者にとっても大きな問題であり、四病院団体協議会は、厚生労働大臣に「平成25年税制改正要望の重点事項について」を提出し、医療および介護に関わる消費税の在り方について、抜本的見直しを要望するとともに、患者・利用者負担への配慮を求めている。

 本学会のテーマは、「慢性期医療ルネッサンス」となっている。医療制度の大きな転換期にあって、今まさに従来の枠にとらわれない医療ルネッサンス、再生が求められている。国民が安心して暮らせる社会を実現し、国民の健康と福祉の向上に大きく寄与する、この医療ルネッサンスの実現に向けて、貴協会をはじめとして病院団体全体が共通の認識の下、同一の方向性を目指して一丸となって取り組む必要がある。
 

■ 西川一誠氏(福井県知事)
 

西川一誠氏(福井県知事) 医療を取り巻く環境は、今後さらに高齢社会を迎えていく中で変化しており、病気を抱えながらも自分らしく生活できるよう、それを支える慢性期医療の重要性はますます高まっている。こうした中で現在、県が見直しを進めている保健医療計画の中でも、急性期から回復期、さらに慢性期、在宅医療までの連携を進め、病気になられた方を切れ目なく支える医療提供体制の確立を目指している。

 福井県民にアンケートをとると、半数以上の方が「自宅で療養したい」と考えている。福井県としては、安心して自宅で生活できるよう在宅医療体制の構築を進めている。現在、東京大学の辻哲夫先生と共同で県北部の坂井市で研究を進めている。医療と介護の連携、病院による救急時のバックアップ体制などを構築していく。さらに、がん患者が在宅でがん治療を受けることができるよう、地域の医療機関と連携して適切な緩和ケアを提供するための仕組みをつくっている。

 こうした取組みを福井県として進める中、20回という節目の学会が福井で開催されることは大変意義深い。この福井から、さまざまな慢性期医療に関する情報の発信ができることを期待している。

 今や全国の都道府県や市町村の自治体病院は、約1,000か所ある。私は全国の自治体病院の開設者協議会の会長を務めている。本日は公的医療機関のみなさまもご出席していると思うが、ぜひ公的病院または地域の医療機関が連携しながら、こうした問題に対し積極的に取り組んでいただくことを期待する。

 昨年、「47都道府県の幸福度に関する調査」で、福井県は日本一になった。全国で上位を維持している雇用の安定、あるいは子どもたちの学力・体力テストも日本一。「元気な高齢者率」も非常に高い。いろいろな意味で参考になるのではないかと考える。

 本県では、今週末から1週間を「ふくい味の週間」と定め、食育や地産フェアなども開催する。昨日は越前がにの解禁日で、昨日はかなり高かったと思うが、今日は少し安くなっていると思う。ぜひ、お楽しみいただきたい。お酒も、政府専用機で使われる日本酒、皇室などでもお好みの日本酒がある福井。コシヒカリ発祥の地、越前そばの福井。ぜひ、かにも含めて、ご研究の後にお楽しみいただきたい。
 

■ 東村新一氏(福井市長)
 

東村新一氏(福井市長) 超高齢社会に対応すべく医療・介護サービスの充実に努め、急性期医療や在宅医療などとの連携を図りながら、慢性期医療の質の向上を目指して日々研さんに努められていることは大変意義深く、敬意を表する。5つのシンポジウムをはじめ、ご参加のみなさまが活発な意見交換等を行われ、成果を得られることを期待する。

 せっかくの機会なので、地元福井のことを少しご紹介したい。昨日、今日とあいにくの雨で、福井の町に出たいと思っていた方々も外に出にくかったのではないか。この町の中心部には江戸時代の松平家がつくった「養浩館庭園」がある。アメリカの日本庭園をランキングする雑誌では、3~4位という位置づけを頂いている。日本庭園とはどのようなものかをコンパクトに見ていただける庭園なので評価されている。

 また、「北の庄城址公園」が町の中心部にあり、お市の方、お江をはじめとする三姉妹がここで生活した。ここには三姉妹神社もあるので、三姉妹の方、あるいは三姉妹をお持ちの方はぜひお参りしていただければと思う。
 少し郊外に出ると、「一乗谷朝倉氏遺跡」があり、テレビのCMで「白い犬のお父さんのふるさと」という位置づけを頂いたことで、多くのみなさまに足を運んでいただいている。

 ただ、今日は雨なので、なかなか遠出はできないかもしれない。ちょうど今、「旅の贈りもの 明日へ」という映画が全国で上映されている。「福井のことがあまり分からなかった」という人は、帰られてからでも結構なので、ぜひ一度観てほしい。急に寒くなったので、ぜひ暖かくしながら映画を観ていただければと思う。
 

■ 上田孝典氏(福井大学医学部長)
 

上田孝典氏(福井大学医学部長) 大学病院と言えば急性期、それから高度先進医療というイメージが強いと思うが、福井大学は総合診療、地域医療に非常に力を入れている。24時間365日、1次救急から3次救急まで受け入れるという北米ER型救急を全国の大学で初めてスタートして、それ以後、地域医療、総合診療に並々ならぬ力を入れている。
 そういう意味で、本学会のテーマである慢性期医療についても強い関心を持っている。私どもの大学院では、来年4月から地域医療に関するコースを日本で初めて開設することが決まっている。

 福井県について、先ほど知事や市長からご紹介があったが、私の立場から少し追加したい。医療について見れば、恐らくみなさまは「過疎」「高齢化」というイメージをお持ちだろうと思う。しかし、この会場がある福井市、それから私どもの大学がある「福井・坂井医療圏」は、東京にもそうそうないような高度な基幹病院がたくさんある医療の激戦区だ。
 一方、南の嶺南のほうに行くと、非常に過疎の町があり、その間に、それらの中間程度の医療機関がある。まさに日本の医療の縮図のような県と言える。従って、福井あるいは近隣からの発表をご覧いただければ、より参考になるのではないかと思っている。

 ここで少し、池端先生について述べさせていただく。福井大学は、池端先生に非常にお世話になっている。今でこそ、学生が地域に出て実習することが一般的に行われているが、そうした実習がカリキュラムとして確立される以前から、ローテーションのたびに学生を受け入れてもらっている。
 また、その実習のためにはオリエンテーションが必要だということで、ご多忙の中、講義もしていただいた。池端先生には現在、県医師会の副会長として、卒業間近の学生に対して「保健診療はこうあるべきだ」という講義をしていただいている。私も拝聴しているが、非常に格調高く、説得力ある講義をなさっており、感銘を受けている。

 このように、地域医療に携わっておられ、また教育力ある池端先生が本学会を開かれるということは、まさにご適任であると感じる。
 

■ 大中正光氏(福井県医師会会長)
 

大中正光氏(福井県医師会会長) 地元の医師会長として大変歓迎している。日本医師会は今年4月から横倉先生が会長になられた。横倉先生の第一声は、「地域医療の再興」だった。私は心臓外科医だが、横倉先生も心臓外科医だ。本日お見えの向井千秋さんも心臓外科医で、昔から存じ上げている。

 先ほど、いろいろと慢性期医療や急性期医療に関するお話があった。急性期から慢性期、在宅、介護と、「切れ目のない医療」というお話だ。聞こえは大変いいが、患者さんをあたかも工業製品のごとく取り扱う「ベルトコンベアー医療」とも言われかねない。
 病の後ろには、それぞれの患者さんがこれまで歩んできた人生、そして地域に密着した生活がある。こうしたことを知らずして、われわれ医療人はその病に立ち向かうことはできないと、私はずっと思ってきた。一律に流れ作業で扱われることに違和感を持っている。

 都会には、高度先進医療、急性期医療、慢性期医療などさまざまな形態の医療施設があるが、先ほど上田先生がおっしゃったように、地域には1つの病院ですべてを完結せざるを得ないケアミックス病院などがある。しかし、設備があまり整っていない状況にある。
 全国一律の制度、切れ目のない医療制度はできない。効率のみを主張する二次医療圏の見直し。この問題は、まさに地域医療の崩壊へとさらに進める施策と言える。都会と地方は違う。「あっちを削ってこっちを増やす」という選択と集中。重点分野に医療資源を配分する。このような考え方は、地域医療の荒廃の原因の1つだ。

 辻哲夫先生が坂井地区と連携しておられる、これからの医療の見直しに対し、われわれ福井県としても大変期待している。よろしくお願い申し上げる。本日、この会場には国の医療政策に影響を及ぼす、大変重要な役割を担っている偉い方がたくさん来ている。ぜひ、このことを頭に置いていただいた上で、政策を進めてほしい。

 大会長である池端先生は、私ども福井県医師会の副会長を務めている。さらに、中央で多くの重要な役割を担っている。本日、池端先生がこのような大会を催すことを大変嬉しく思う。
 

■ 金徳鎮氏(韓国慢性期医療協会会長)
 

金徳鎮氏(韓国慢性期医療協会会長) 昔から韓国では、「行事の前に雨が降ると良い事がある」と伝えられている。きっと、ここにいらっしゃるみなさまに幸運があると思う。

 日本と韓国は、文化や制度は違うものの高齢者医療の目的は同じであると思う。この大会を通じて得た知識や情報は、高齢者医療の発展と質の向上に役立つと信じている。福井大会の開催をお祝い申し上げる。[→(3)はこちら]
 

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