新たな地域医療構想に関するヒアリングで見解 ── 池端副会長

協会の活動等 役員メッセージ

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 日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は5月31日、厚生労働省の「新たな地域医療構想に関する関係団体・有識者ヒアリング」で見解を述べた。「病棟」単位から「病床」単位の報告に変更した福井県の取り組みなどを紹介した上で、今後の課題を提示。「一般病床・療養病床の枠組は撤廃」との考えも示した。

 厚労省は同日、新たな地域医療構想等に関する検討会(座長=遠藤久夫・学習院大学長)の第5回会合を開き、池端副会長が参考人として出席した。

 この検討会は今年3月29日に初会合を開催し、4月17日の第2回会合から「関係団体・有識者ヒアリング」を実施。4回目となる今回のヒアリングで、池端副会長は「新たな地域医療構想について 〜小規模地方県と慢性期医療の立場を中心に~」と題して見解を示した。池端副会長の説明は以下のとおり。
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地域医療構想を取り巻く背景

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[池端幸彦副会長]
 今回、ヒアリングの場にご指名いただき、感謝を申し上げる。福井は今、新幹線で盛り上がっている。今日も3時間で東京に来た。ぜひ福井にお越しいただきたい。
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02_池端副会長提出資料_20240531新たな地域医療構想検討会

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 本日は、小規模な福井県の地域医療構想について、そして慢性期医療の立場から意見を述べる。

 新たな地域医療構想の背景、福井県における地域医療構想の進捗状況と課題、そして慢性期医療の立場で、これから求められる地域医療提供体制をどう考えるか。私見も含めて、新たな地域医療構想の成功のために何が必要かを述べたい。
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03_池端副会長提出資料_20240531新たな地域医療構想検討会

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 2040年に向けた医療需要の変化はご覧のとおり。
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 入院患者数は全体的にやや増加。外来患者は多くの地域で減少し、一方で在宅患者はほとんどの地域で増加が見込まれる。ニーズがある。
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 地域医療構想については、数からいえば、ほぼ目的を達していると言える。高度急性期、急性期、回復期まで約90万床。慢性期は少し減ってきている状況だが、最も問題なのは回復期である。回復期が少し足らないのではないか。でも、それは増やすのではなく機能分化をしなければいけないのではないか。
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06_池端副会長提出資料_20240531新たな地域医療構想検討会

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 多くの病気が治せなくなってきたことに対し、治し・支える医療をどういうキャパシティでボリュームをふくらませていくか。
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福井県における地域医療構想の進捗状況と課題

 こうした背景がある中で、福井県はどうか。
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07_池端副会長提出資料_20240531新たな地域医療構想検討会

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 地方の弱小県として代表的な福井県。人口は約76万人で下から数えて何番目、というところ。
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08_池端副会長提出資料_20240531新たな地域医療構想検討会

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 「幸福度日本一」と言われているが、こうした弱小県で地域医療構想をどのように進めてきたか。
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09_池端副会長提出資料_20240531新たな地域医療構想検討会

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 今後の地域医療構想の進め方については、これまでの取り組みにより、地域医療構想の趣旨に沿った病床の転換やスリム化が進んでいる。令和3年病床機能報告ベースで進捗率は全国第9位。
 
 最大の特長は、各病院に対して個別に実施したヒアリング。対象は、県独自の調査により取りまとめた基礎資料と令和4年度病床機能報告の内容が異なる医療機関。平均在院日数が22日以上の医療機関。病床稼働率が低い医療機関。こうした医療機関を中心に、県の担当者が丁寧にヒアリングを実施した。
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 その意見を吸い上げた結果、経営上の不安があるようなので経営セミナーを県医師会と共同で開催した。また、補助事業の募集をさらに増やしたほか、県入院退院支援ルールの活用や県版のACP、意思決定支援のエンディングノートを作るなどの取り組みを進めた。
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 医療と介護の連携において、特に医師とケアマネジャーとの連携が9割近く、入退院支援の中で実施されるようになっているので、一定程度の効果があると思う。
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 12、13ページは、福井県版エンディングノート。
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 14ページ以降はヒアリングの対象と内容について。
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 ヒアリングを実施した効果。まず、病床機能報告における2025年の病床機能と対応方針(案)における2025年の病床機能の相違について、病床機能報告は「病棟単位」で病床機能を選択している一方、対応方針(案)は「病床単位」で病床機能を選択していることが主な原因であったことがわかった。

 また、医療機関の役割分担・連携の観点では、有床診療所が貴重な位置づけであることを確認できたことも挙げられる。

 さらに、回復期への病床機能の転換やダウンサイジングを検討する医療機関が増えたこともわかった。

 ヒアリングの主な意見としては、「回復期病床への転換や介護医療院への移行を考えた場合、経営が成り立つか不安」、「有床診療所は機能を1つしか選択できないので判断に迷う」などの意見があった。
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 県としては、「ヒアリングにおいて、病棟単位で病床機能を選択する病床機能報告では、各医療機関の病床の実態を正確に把握できていないとの意見が多数あった」とし、思い切って病床単位で策定しようと方向転換した。
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 その結果、病棟単位と病床単位で、総数ではあまり変わらなかった。18ページに示したように、誤差は少ない。

 では、福井県全域と各構想区域はどうか。19ページ以降。
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 県全域とそれぞれの圏域で見ると、病棟単位と病床単位で、病床の数字は変わっていないが、中身がそれぞれ医療機関ごとに違っている。
 
 病床単位にしたことで機能を真剣に考えるようになったことは非常に良かったのではないかと思っている。
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 そこに至るまでの過程で、民間も公立・公的も含めて補助金をどこがどう取って、どう病床を減らしたかを全てプッシュ式で調べた上で、地域医療調整会議の場において紙面で公開した。そうしたことが功を奏して、皆が真剣にお互いを意識しながら考えるようになった。
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27_池端副会長提出資料_20240531新たな地域医療構想検討会

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 27ページは、診療所の機能について。
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 28ページ。県は今後の方針として、実態をより正確に表している病床単位の報告をベースにしようと決定した。過剰病床の医療機関については個別に対応することが非常に重要と考え、個別の確認を今後も続ける。
 
 新興感染症の発生・まん延時における病床については、地域医療構想の対象外としてカウントすべきではないかという意見が多くあった。令和6年度に改めて取り直して、病床単位ごとに全ての医療機関からの報告を全てオープンにする。
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 もちろん県のホームページには掲載しているが、紙面で地域医療調整会議の皆さん全員に公表したことは非常にインパクトがあったようだ。そのため、病院・診療所の先生方に集まっていただいた場でも公表している。
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 地域医療構想の進捗状況に対する県の考え⽅。今後は、新興感染症の受け入れ病床は別扱いにして、一般病床と療養病床の合計は8,150床程度にしようと考えている。
 
 新興感染症発生・まん延時に必要となる一般病床と療養病棟の合計は約300床で、重症心身障害児(者)の受入れに必要となる一般病床は240床とする。

 各医療機関の対応方針(案)において、2025年7月1日時点の意向を見ると、県内の病床数は8,246床(一般病床と療養病床の合計)となる見込みであることから、病床数に関して構想は順調に進んでいると評価できる。
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 2025年度までの取り組みについては、病床機能の転換や医療機関の役割分担・連携を中心に協議していく。各医療機関の連携先、紹介・逆紹介の状況、転院調整の実態などを把握する。

 また、協議の際には各医療機関の地域医療連携室に参加していただく。病病連携において連携室が非常に重要であるので、連携室も参加した協議を令和7年度からやっていこうということで今、動いている。 
  
 福井県では、各医療機関への「プッシュ式」でデータを取得し、オープンにしたことが大きな特長である。COVID-19対策でも、病床・病棟がうまく動いた。いくつかポイントがある。
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41_池端副会長提出資料_20240531新たな地域医療構想検討会

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 感染者は、これまでは原則として全て入院加療であったが、オミクロン株では原則、在宅療養へ大胆に変更した。その際、各病院がお互いに意見を出し合った。

 入退院調整については、県内D-MATで構成された「入院コーディネートセンター」で一括管理。全病院の担当者が集まって、お互いに顔の見える連携ができたことが有益だったと思う。
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これから求められる地域医療提供体制

 慢性期医療の立場から、これから求められる地域医療について述べる。
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42_池端副会長提出資料_20240531新たな地域医療構想検討会

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 地域包括ケアを支えるために、どうすべきか。まず在宅医療・介護を充実しなければいけない。
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 地域包括ケアを支える地域医療構想の担い手は、むしろ回復期的なところではないか。
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44_池端副会長提出資料_20240531新たな地域医療構想検討会

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 では、今回の診療報酬改定でどうなったか。7対1について重症度、医療・看護必要度が非常に厳しくなった。ここから一部、地域包括医療病棟に行くことを想定した。

 急性期一般入院料4・5・6は地域包括ケア病棟に移ることを想定している。逆に、地域包括ケア病棟が上がることは難しい。

 療養病棟入院基本料に関しては、いずれ療養2はなくなることを想定し、介護医療院に移行する動きが出てくる。

 このように考えると、包括的な病棟が増える。地域包括医療病棟も回復期的な機能になってくるのではないか。そうすると、最終形としては急性期医療と、広い意味での回復期機能と慢性期の3つに分かれてくるのではないか。
 
 ただ、13対1については、地方の公立・公的病院など、小規模な病院をどう残していくかが1つの課題ではないかと思っている。
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45_池端副会長提出資料_20240531新たな地域医療構想検討会

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 いずれにしても、「地域密着型多機能型病院」が非常に重要であると考える。
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 そのためには、信頼できるかかりつけ医とケアマネジャー、頼りになる地域包括支援センターをどう活用するかということになる。
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 現在、高度急性期・急性期・回復期・慢性期とあるが、急性期・回復期・慢性期、この3つのジャンルに分かれたほうがいいのではないか。そして、「回復期」という名前よりも、むしろ「地域包括期」。これは江澤先生もおっしゃったと思う。「包括期」という名前の方がぴったりくるような気がする。

 そして、急性期についても、急性期だけでできるところは少なくて、急性期多機能。回復期も慢性期多機能。

 急性期は主に特定機能病院、急性期充実体制加算病棟、総合入院体制加算病棟の3つぐらい。急性期多機能は、急性期一般病棟から地域包括医療病棟ぐらいまで。
 
 慢性期多機能は地域包括医療病棟から広く扱う。慢性期は慢性期治療病棟ということで、そうなると、高度急性期が純粋の急性期病棟。急性期多機能と慢性期多機能を合わせれば地域密着型の多機能病院という、こういったものになってくるのではないかと考える。
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 そして、3層構造の役割がある。日本医師会、各都道府県医師会、郡市区等医師会。 地域医療構想の調整会議には都道府県医師会が入ってくるが、やはり実働部隊は郡市区医師会である。この地域、市区町村をどう巻き込むかが、これからの地域医療構想には非常に重要ではないか。
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新たな地域医療構想の成功のために

 最後になるが、新たな地域医療構想の成功のために何をすべきか。
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 まず、ステークホルダー同士の信頼関係と情報共有が非常に重要ではないか。行政には聴く力を持っていただきたい。成功体験が非常に大事なので信頼関係をいかに構築するか。
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 また、情報公開していると言っても、ホームページに載せただけでは、なかなか情報公開になっていない。むしろプッシュ型で、どんどん情報を出すことも必要ではないか。医療・介護の提供者同士と患者・要介護者らに対する医療提供体制、地域医療構想の周知が全くできてないような気がするので、徹底した情報公開も重要ではないかと感じている。
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 課題としては、行政に対する不信感。「行政から押し付けられている」と、いまだにおっしゃる病院の先生方もいらっしゃる。また、在宅・介護提供体制との連携がいまだに希薄。地方と都市部の差異もある。国民への情報提供不足。上意下達の体質。

 そして、一般病床と療養病床の枠組みは必要か? ということ。
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 課題解決に向けて、丁寧な情報提供とヒアリングが必要である。在宅・介護提供体制の一体的な構想、そして、大胆な集約化をせざるを得ないという気もしている。
 
 国民への情報提供不足については、丁寧な説明と情報提供。上意下達ではなく、トップダウンからボトムアップ。情報開示の不足に関しては、マーケティングを意識したプッシュ型の情報開示が必要である。
 
 一般病床・療養病床の枠組みについては、法改正も必要なことなので難しいとは思うが、撤廃も考えていただいてはいいのではないかと感じた。

 53ページ以降は時間の関係で割愛する。いろいろなことを書いているが、後ほどご覧いただければと思う。
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 以上、簡単ではあるが私からの説明を終わらせていただく。
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下から積み上げて病院の機能を

 質疑では、病床単位での報告について2人の構成員から発言があった。猪口雄二構成員(日本医師会副会長)は「急性期が減ったのかなという気がしたが、実際上はあまり差が出なかったのだろうか」と質問。池端副会長は「数字は変わっていなかったが、調整会議の雰囲気が変わった。回復期に落として、一般をやめようという病院が増えてきている。病床で報告させたことが1つのきっかけになっていくのではないか」と述べた。

 今村知明構成員(奈良県立医科大学教授)は「通常、病院の機能を考えていくとき、まず病院全体の機能があって、病棟の機能があって、病床の機能がある。病床単位にするためには病院単位、病棟単位が決まっていなければ考えにくい」と指摘。「どのように整理して、病院単位、病棟単位、病床単位の中で病床単位を決めたのだろうか」と尋ねた。

 池端副会長は「小規模な医療機関が多いため実態と合わない報告が多かった」と説明。急性期機能で報告している病院について、「数字から見ると急性期とは言えないところがあり、そこをどう自覚していただくかという最初のスタートとして、小分けしていい(病床単位で報告していい)ことにした」と説明した。

 質疑を終え、最後に香取照幸構成員(未来研究所臥龍代表理事、兵庫県立大学大学院特任教授)がまとめの発言。「池端先生が47ページでお示しになっているように、それぞれの病院が病床単位、あるいは病棟単位でこういう機能を持っていて、それを必要に応じて組み合わせて持つという、下から積み上げて病院の機能をつくっていくという発想になるのではないか」と述べた。

【香取照幸構成員の発言要旨(抜粋)】
 (前略)今まで病床の機能分化ということをずっと考えてきた。一般病床と療養病床など、病院の機能について、病院を起点に考えて、全体をどういうふうに回していって機能分化をするかと考え、進めてこられたのだが、おそらく、これから考えなければいけないのは、病院だけではなく地域のこと。そうなると、地域医療全体の中で、病院病床にはどういう機能、役割が求められているのかを考える。そうすると、機能分化とは別に、それをどうやって連携させていって必要なサービスを地域でつくっていくかということになる。そうなると、連携の形というのがたぶん問題になる。単純に病期で分けて、ということよりは、池端先生が47ページでお示しになっているように、それぞれの病院が病床単位、あるいは病棟単位でこういう機能を持っていて、それを必要に応じて組み合わせて持つという、いわば下から積み上げていって病院の機能をつくっていくという発想になるのではないかと思う。
 そう考えると、有床診もそうだし、それから地域密着型の中小病院もそうだが、そういうところがある程度、ニーズに合わせて多機能な、昔でいうケアミックス、そういう形の機能をフレキシブルに持つことができるような、そういう病棟の形、病床の形というのを考えて、地域医療構想の中でどういう役割を担うのかと、たぶん、そういう話になってくる。(中略)
 全体的に今日は病床機能という意味での地域医療構想をどう考えるかという話と、地域医療構想全体、地域医療を含めて医療機能をどういうふうにそれぞれの施設に付けていくかということで、前回と今回で、ずいぶん論点が整理されたのではないか。非常に有意義なヒアリングだったのではないかと思う。

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