今改定から見える「地域医療提供体制の将来像」 ── 第49回通常総会記念講演で池端副会長

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池端幸彦副会長_20240626記念講演

 日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は6月26日、第49回通常総会記念講演で「令和6年度診療報酬改定からみえる地域医療提供体制の将来像 ~慢性期医療を中心に~」と題して見解を示し、今改定について「日慢協の方向性に合致している」と評価した。

 講演で池端副会長は、入院料通則の改定で新たに要件化された栄養管理体制、意思決定支援、身体的拘束の最小化について、「これまでの主張や提言が全病院に要件化されたことは、私たちにとって1つの勝利」との認識を示した。看護補助者の体制整備で介護福祉士が評価された点も挙げ、「前会長の武久洋三名誉会長の時代から当会が訴え続けてきた成果の表れ」と評価した。

 今後に向けて池端副会長は「地域密着型多機能病院」を目指す必要性を強調。在宅支援やリハビリなどの機能を挙げ、かかりつけ医やケアマネジャー、地域包括支援センターとの連携を強化する必要性を説いた。地域医療構想の実現にも触れ、「やりたい医療より、求められる医療を目指すべき」と締めくくった。講演の模様は以下のとおり。
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違った景色が見える

[池端幸彦副会長]
 今回の診療報酬改定を振り返った上で、地域包括ケアシステムにおける慢性期・回復期医療の役割について述べたい。

 今回の改定は0.88%のプラス改定と言われているが、そのうち処遇改善に充てる分などを差し引くと、経営に使える部分はほとんど残っていない。ここにおられる先生方も同様に感じているかもしれない。

 以前は薬価を1%程度下げて、その分を診療報酬本体の財源に充てることがあったが、今回はそのような措置は全くない。むしろ生活習慣病への対応などで0.25%のマイナスがある。約1,200億円の財源を病院に振り向けた部分もあるが、全体的に見れば病院経営にとって非常に厳しい改定である。この厳しい環境下で、どのように病院経営を安定させるかが今後の大きな課題である。

 確かに、実質的なマイナス改定により、病院経営がさらに厳しくなることは避けられない。しかし、私には違った景色が見えている。日慢協の立場から見ると、今回の改定にはこれまでの主張が反映されているように感じる。多くの病院にとっては厳しい改定かもしれないが、私たちが目指した方向性はしっかり反映されていると感じている。
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私たちの「常識」が要件化された

 今改定では、入院基本料が引き上げられた。40歳未満の勤務医等の給与に充てる財源として増額したとされているが、実際には病院に対するプラス改定と言える。一方、入院基本料の引き上げと同時に、栄養管理体制、意思決定支援、身体拘束の最小化が要件化された。これは急性期病院も含めた全病院に適用されるものである。

 これまで私たちは、医療療養病床や介護療養病床を運営する中で、身体拘束の廃止や意思決定支援を進めるために多大な努力を続けてきた。前会長の武久洋三名誉会長は、栄養管理の重要性を常に訴えてきた。私たちの主張や提言が今回の改定で全病院に要件化されたことは、私たちにとって1つの勝利と言える。

 この点を踏まえ、今回の改定が病院経営に与える影響を考慮しつつ、引き続き質の高い医療の提供を目指していく必要がある。例えば、栄養管理については、GLIM基準の導入など具体的な指針が示されている。

 身体拘束については、その定義が明確化されている。この定義は、長年にわたり身体的拘束ゼロを目指してきた日慢協の立場から見るとやや甘く感じるかもしれない。一方、これまで十分に取り組んでこなかった急性期病院などにとっては厳しいものかもしれない。しかし、まず最小化に向けた第一歩として要件化されたことを評価したい。

 身体的拘束とは、抑制帯等、患者の身体または衣服に触れる何らかの用具を使用して、一時的に当該患者の身体を拘束し、その運動を抑制する行動の制限であると明確化された。まずはここからスタートする。私たちは急性期の先生方に「こうすればうまくいく」という実践例を提供できると考える。

 身体的拘束の最小化については、これまで私たちが取り組んできた分野であり、急性期の病院も私たちに追いついてきたと感じている。これは日慢協の先生方も同様に感じているだろう。私たちにとっては当然のことが、急性期の先生方にとっては新しい取り組みである。私たちの常識が今回の改定で医療全体の常識となったことは非常に意義深い。
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医療DXの推進に向けて努力

 医療DXに関しては、我々も一層の努力が必要である。「医療DX推進体制整備加算」の経過措置が最も短く、9月30日までに一定割合以上の患者がマイナ保険証を使用しないと、この加算が得られなくなる。必要な割合は現時点では不明だが、非常に厳しい状況であることは確かである。

 現在、マイナ保険証を持っている人は増えている。利用率を上げるためには、各医療機関の窓口で患者に積極的に声をかける必要がある。病院でのマイナ保険証利用率は徐々に上がってきているが、診療所では依然として厳しい状況だ。薬局での利用率は増加している。

 以前は紐付けの誤りなどの問題があったが、最近は解消され、利用率が上昇傾向にある。しかし、現時点では平均利用率がまだ7~8%程度にとどまっている。そうした中で、福井県は高い利用率で、医科では全国1位になり表彰された。窓口での声かけを積極的に進めるといい。
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ウィンウィンの関係を築く

 私は中医協委員として議論に参加した。ポストコロナにおける感染症対策の評価については、一定の貢献ができたと思う。
 
 今改定では、特に感染管理が重要な感染症の患者に対して適切な感染対策を講じた上で入院医療を提供した場合の加算として「特定感染症入院医療管理加算」が新設された。しかし、中医協での議論では、回復期や慢性期の病院にとって厳しい内容であった。

 入院させるという提携を結んでも、療養病床での加算が認められない方針が出ていたが、私はこの点を指摘し、見直しが行われた。これにより、療養病床でも加算が認められるようになった。私が皆さんに少しでも貢献できた点であると考えている。
 
 同時改定に向けた意見交換会にも参加した。14名の出席者のうち、3人が日慢協の役員であることは大いに評価したい。この会議では、同時改定に向けてテーマごとに議論がなされた。その一番目に掲げられたテーマは「地域包括ケアシステムのさらなる推進のための医療・介護・障害サービスの連携」であった。

 医療・介護・障害サービスが連携し、相互にウィンウィンの関係を築く。介護施設側からは医療機関との連携に懸念があったかもしれないが、連携が進めば双方にとって有益であり、医療・介護の連携はさらに強化されるはずである。この施策は、厚労省老健局老人保健課の古元重和課長と保険局医療課の眞鍋馨課長の緊密な連携によって実現された。

 医療・介護の連携を進める中で、1つの競争が始まると見ている。介護施設が連携先として選ぶ病院はどこか。私たちとしては、やれることは全てやるという姿勢で積極的に取り組む必要がある。
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今改定は日慢協の方向性と合致

 今回の改定で特に厳しかったのは急性期医療ではないか。急性期一般入院料1の病床数は令和2年まで順調に下がってきたが、その後は増加傾向に転じた。これは財政サイドから見れば許しがたい状況である。こうした背景もあって、急性期病院に対して非常に厳しい改定となった。

 そうした議論の中で新設されたのが「地域包括医療病棟」である。私は、この病棟のコンセプトは素晴らしいと考えている。どれだけ増えるかは不明であるが、今後の重要な病棟になることは間違いない。

 当初、高齢者救急は地域包括ケア病棟で対応すべきという意見があった。しかし、私たち診療側委員は、高齢者救急には手術やICUが必要な患者もいるため、地域包括ケア病棟だけでは対応できないと主張した。橋本会長が先ほどの講演で指摘したように、高齢者救急は私たちの療養病棟、すなわち「慢性期治療病棟」でも十分に対応可能である。

 急性期病院の入院期間中にADLが低下し、寝たきり状態になる患者がいる。リハビリ、栄養管理、口腔ケアを一体的に提供できる新たな類型の病棟として「地域包括医療病棟」の新設は評価したい。「下り搬送」の評価は高度急性期病院にとって歓迎すべきものであり、日慢協にとっても同様である。

 こうして見ると、今回の改定は日慢協の哲学と大きくずれていない。私が中医協委員だからといって賛美するわけではないが、そのように感じている。

 今後は、急性期におけるリハビリ、栄養管理、口腔管理の取り組みが進む。これまで、土日のリハビリに対して反発の声もあった。しかし、急性期段階からの早期リハビリテーションの充実は、私たちが長年主張してきた方向性である。「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」の新設も、まさに日慢協の主張どおりである。

 また、看護補助者に関する評価では、「介護福祉士」という言葉が初めて明記された。武久前会長の時代から当会が訴え続け、私たちも引き続き主張した。その成果の表れであろう。今回の改定は、日慢協の方向性と合致している。
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次回改定では、さらに厳しい見直しも

 慢性期入院医療については、大きな見直しが実施された。今改定を踏まえ、私たち日慢協はどうすべきか。療養病棟はどうなるのか。療養病棟入院基本料に関する主な改定を振り返ると、まず平成12年。それまで出来高算定か包括算定かの選択制であった入院料について、包括評価の療養病棟入院基本料のみとした。

 続いて、平成18年に医療区分が導入された。同年7月から医療区分とADL区分に応じて5段階で評価する方式に見直され、その後、9区分は変わらなかった。平成22年には、看護配置や医療区分2・3の患者割合に基づいて入院基本料を2種類に分割した。重症患者の受け入れが促進された。
 
 平成30年には大きな見直しがあった。看護職員配置20対1以上を要件とした療養病棟入院基本料に一本化した。令和4年には、中心静脈栄養を実施している状態にある患者について評価が見直された。
 
 このように、療養病床に対して厳しく迫ってきた。そして、今回の改定である。9区分から30区分となった。具体的には、医療区分とADL区分に基づく9分類となっている現行の療養病棟入院基本料について、「疾患・状態」に関する3つの医療区分、「処置等」に関する3つの医療区分、そして3つのADL区分に基づく27分類及びスモンに関する3分類の合計30分類の評価に見直された。

 今回の医療区分の見直しでは、医療資源投入量が多ければ点数が高くなる。一方で、人的資源の投入量が反映されていない点が問題だ。この流れが今後も加速するならば出来高払いに近い報酬体系になる恐れもあるので今後の重要な検討課題である。中心静脈栄養についても制限が加わった。次回改定では、さらに厳しい見直しも想定される。
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やりたい医療より、求められる医療を

 急性期・慢性期を通じて、今回の改定は全体的に厳しかったが、コンセプトとしては当会の考え方と齟齬はない。改善点も見えた。私たちも変わらなければいけない面がある。
 
 では、地域包括ケアシステムにおける慢性期・回復期医療の役割は何か。地域包括ケアシステムを支える病棟について、私は回復期病棟でいいのではないかと考えている。地域包括ケア病棟でも対応できるし、むしろ、そうあるべきだと思う。医療と介護を一体的に提供してアウトカムを出すというコンセプトを持っている地域包括ケア病棟のほうが、地域包括ケアを支える医療としてはマッチしているのではないか。
 
 武久名誉会長もおっしゃっていたように、これからは「地域密着型多機能病院」を目指すべきだ。在宅復帰・在宅医療支援機能、リハビリテーション機能、看取りを含めた終末期医療機能を果たす。そのためには、信頼できるかかりつけ医とケアマネジャー、頼りになる地域包括支援センターが欠かせない。

 慢性期においては、「慢性期治療病棟」を目指す。法改正が必要になるというハードルはあるが、「一般病床」と「療養病床」という区分を見直す時期に来ているのではないか。
 
 地域包括ケアと地域医療構想は、車の両輪である。やりたい医療より、求められる医療を目指すべきだ。そして、医療と介護は、連携から統合へ。地域住民が最後の砦である。「Act Now for the Future 〜未来のための今〜」という思いを伝えて、私の講演を終わらせていただく。
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