令和6年診療報酬改定からみた慢性期医療 ── 定例会見で井川副会長
日本慢性期医療協会は5月23日の定例記者会見で、「令和6年診療報酬改定からみた慢性期医療」と題して医療区分の見直しなどについて見解を示した。下り搬送を評価する「救急患者連携搬送料」の新設について「高齢者救急を考えるうえで重要な加算」と評価した上で今後の課題を挙げた。
今回の会見は、大阪府内で長年にわたり救急医療と慢性期医療の連携などの取り組みを展開している当会の井川誠一郎副会長が説明を担当した。井川副会長は中央社会保険医療協議会(中医協)の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」の委員として、令和6年度診療報酬改定に向けた議論に携わった。
会見で井川副会長は「慢性期医療に関しても多くの変更がなされた」とした上で、主に3点に絞って課題を提示。①療養病棟における医療区分に係る評価体系の見直し、②急性期病棟におけるリハビリ・栄養・口腔ケアに関する評価、③高齢者救急における慢性期医療の役割──について述べた。
このうち③については「大阪緊急連携ネットワーク」の取り組みを紹介。「救急患者連携搬送料」の対象となる患者を療養病棟で受け入れている実績などを報告し、「全ての慢性期病院が今後、積極的に関わっていくべきである。搬送先にも加算が付けば下り搬送がさらに加速し、喫緊の課題である高齢者救急問題の解決につながるのではないか」と述べた。
同日の会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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慢性期医療でも多くの変更があった
[矢野諭副会長]
5月の定例記者会見を開催する。最初に橋本会長から、ご挨拶を申し上げる。
[橋本康子会長]
今回の記者会見は、長年にわたり高度急性期から慢性期への患者の受け入れなどに取り組んでいる当会副会長の井川誠一郎先生に説明していただく。
[井川誠一郎副会長]
私は中医協の「入院・外来医療等の調査・評価分科会」の委員を務めている。本日は、令和6年度診療報酬改定からみた慢性期医療について、ご説明を申し上げる。内容は主に3点。
1.療養病棟における医療区分に係る評価体系の見直しについて
2.急性期病棟におけるリハビリ・栄養・口腔ケアに関する評価について
3.高齢者救急における慢性期医療の役割 ─ 大阪緊急連携ネットワークについて ─
今改定では、慢性期医療に関しても、かなり多くの変更がなされた。その中で、特に上記3点に絞って、当会の見解も含めて述べたい。
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医療区分の点数増減
まず、療養病棟における医療区分に係る評価体系の見直しについて述べる。
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6月から施行される新しい医療区分表を示す。スライド右下は現在の医療区分の点数表である。(以下、新しい医療区分は「新区分」、現在の医療区分は「旧区分」と称す)
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矢印の方向は、旧区分と比較した点数の増減を示している。線の太さは増減幅で、「100点以上」「50点以上」などに分けている。
例えば、「疾患・状態」が区分3であれば、旧区分はADL区分3で、1,813点の点数が付く。6月からは「処置等」区分との組み合わせになるため、「疾患・状態」区分3の患者のうち、「処置等」区分3に該当すると、100点以上の増点となる。
しかし、旧区分では「医療区分3」とみなされる患者であったとしても、「処置等」区分が2となるだけで、100点以上の減点となる。さらに、「処置等」区分が1になると、150点以上の減点になってしまう。
では、「疾患・状態」の区分2はどうか。「処置等」の区分が2・3であれば、50点未満ではあるが、増点となる。区分1は100点以上の減点である。
「疾患・状態」の区分1では、50点未満ではあるが、全て増点となる。旧区分1の点数は、新区分では入院料25から27に相当するが、いずれも15点アップしている。
▼ ADL区分3:968点 → 983点
▼ ADL区分2:920点 → 935点
▼ ADL区分1:815点 → 830点
この15点は、40歳未満の勤務医や事務職員等の賃上げのための増点であろうと推察する。
その上で、新区分の2を見ていただきたい。「疾患・状態」の区分が2で、かつ「処置等」区分2は旧区分2に該当する。新区分では、ADL別にそれぞれ41点の増点となっている。
▼ ADL区分3:1,414点 → 1,455点
▼ ADL区分2:1,386点 → 1,427点
▼ ADL区分1:1,232点 → 1,273点
しかし、先ほど申し上げた「15点」を差し引くと、実質的な増点は26点であると考えられる。
また、「処置等」の区分が2であっても、「疾患・状態」の区分が1になると、その増点は28点となる。さらに、ここから「15点」を差し引くと、実質的には13点しか上がっていないと言える。
▼ ADL区分3:1,414点 → 1,442点
▼ ADL区分2:1,386点 → 1,414点
▼ ADL区分1:1,232点 → 1,260点
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スモン以外の疾患・状態区分と処置区分
今回、区分内の項目内容に変更はなかった。医療区分2では、スライドの赤枠内に示している項目がもともと「疾患・状態」に関する項目だったが、今回の見直しで「処置等」の項目に移動している。
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そのため、「処置等」の区分2は取りやすくなっている。しかし、医療区分3の「処置等」の項目のうち、赤字で示している「中心静脈栄養」では基本的に腸が全く使えない状態は別として、それ以外の状態では「30日以内」という制限が加わった。医療区分3の算定をずっと続けることは不可能になった。
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多くの療養病棟が重症患者に対応している
療養病棟の患者像は年々、重症化しつつある。一般病棟用の重症度、医療・看護必要度のA項目で重症と評価されている項目のうち、「注射薬剤3種類以上の管理」や「シリンジポンプの管理」、「輸血や血液製剤の管理」、さらに「昇圧剤の使用」や「抗不整脈剤の使用」など、ここに赤枠で囲んでいる項目は全て、多くの療養病棟で既に実施されている。
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また、後ほど紹介するが、高齢者救急における慢性期医療の役割として、救急搬送直後の転院受け入れや在宅系からの緊急入院も既に実施している。
今後、こうした取り組みに関わる項目は「処置等」の区分3、もしくは2の項目として、追加・修正をお願いしたいと私たちは考えている。
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医療区分評価体系の見直しについて
以上、医療区分評価体系の見直しについて述べた。まとめると、「疾患・状態」区分が3の患者のうち「処置等」区分が3に該当するものでは100点以上の増点があったが、「処置等」区分2では100点以上の減点となった。
また、「疾患・状態」区分1、「処置等」区分1の増点15点は40歳未満の医師等の賃上げ実施分であると考えると、「疾患・状態」区分3かつ「処置等」区分3以外での増点は実質わずかしかなく、全体的に収入減となってしまう病棟が多く存在すると考える。
次期改定では、「処置等」区分項目の追加、見直しも検討する必要があると考える。
今回の診療報酬改定では、医療資源投入量のみが反映されており、それに見合った点数というかたちで反映されている。人的資源の投入量は今回の診療報酬改定で反映されていないので、今後、大きな課題になると考えている。
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急性期病棟におけるリハ・栄養・口腔ケア
次に、急性期病棟におけるリハビリ・栄養・口腔ケアに関する評価について述べる。
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今改定では、「リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算」が新設された。
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急性期一般入院基本料等を算定する病棟に入棟した患者全員に対し、原則入棟後48時間以内にADL、栄養状態、口腔状態についての評価に基づき、リハビリテーション・栄養管理・口腔管理に係る計画を作成し、それに基づいて多職種で取り組みを行った場合に算定できる。
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さらに、人工呼吸器が装着されていたり、Aラインが入っていたりなどのかなりの重症例では開始日から2週間、リハビリを実施した日に「急性期リハビリテーション加算」を算定できる。「早期リハビリテーション加算」と「初期加算」を併せると120点の加算が算定できる。
これらの加算は、われわれが以前より申し上げてきた、急性期病院から転院した患者の低栄養、ADLの低下、オーラルフレイルの進行などの改善に正面から向き合ってくださった加算であると考えている。
慢性期病院に急性期病院から転院していただいても、残念ながら半数近い症例では、これらの改善に1カ月以上、場合によっては数カ月もの時間を費やしている。
もし、この時間を節約できれば、慢性期であっても早期に退院ができ、高齢者に「ときどき入院、ほぼ在宅」という生活を送っていただけると期待している。
すなわち、急性期病棟におけるリハビリ・栄養・口腔ケアに対する加算は、従来からわれわれが提言してきた「多くの寝たきりは急性期でつくられる」という概念に基づいた改定項目であり、私どもは最上の評価に値すると考えている。
従来、慢性期病院入院患者の多くが低栄養、サルコペニアの状態にあり、疾患治療に先立って、それらの改善に日数を費やす必要があった。しかし、今後は急性期から転院されて患者さんの低栄養、廃用症候群が著減し、転院後も継続した原疾患の治療を実施できれば、慢性期病院での在院日数の削減、ひいては医療費の削減につながると考えている。
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高齢者救急における慢性期医療の役割
最後に、高齢者救急における慢性期医療の役割について述べる。
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今改定では、「救急患者連携搬送料」が新設された。
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三次救急医療機関等に搬送された軽症・中等症患者の下り搬送について、搬送後3日以内であれば搬送元が算定できる。搬送当日の下り搬送であれば1,800点と、なかなかの点数が付く。
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大阪緊急連携ネットワーク
実は、われわれ日本慢性期医療協会では、「たらい回し」や「三次救急崩壊」などと話題になった2008年、今から約16年前より「大阪緊急連携ネットワーク」を実施している。大阪府全域を対象にした三次救急から慢性期病院への下り搬送の取り組みである。
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主な目的は、三次救急に搬送されたミスマッチ患者のスムーズなドレナージ。そして、三次救急病院に長期入院されている患者さんを受け入れることによって三次救急病院の病床回転率の向上を目指すこと。三次救急5施設と慢性期病院22施設で開始した。
現在は、大阪府下の三次救急16施設のうち14施設と国立循環器病研究センターを合わせた15施設が救急側として参加し、慢性期病院は37施設が参加している。
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約16年間の下り搬送依頼件数は1,909例で、依頼までの三次救急施設の在院日数は平均約22日。2カ月以上も入院されていた例が9.1%もあった。
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下り搬送依頼患者の病態
下り搬送依頼患者の病態を示す。人工呼吸器の装着例は12.5%、気管切開例は30.4%だった。3人に1人が酸素投与を必要としていた。
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このような患者さん1,909例のうち、1,174例、62%が本ネットワークを通じて慢性期病院に転院している。
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紹介例の中には、慢性期病院の側で対応が困難と判断してお断りする「完全不調」の症例が多く出るのではないかと当初は不安を感じていたが、現在まで1,909例のうち102例、わずか5%しかいなかった。
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下り搬送された1,174例は全て追跡調査を実施し、ネットワーク事務局で把握している。それによると、580例、約50%は自宅や施設への「生存退院」となっている。
一方、「死亡退院」は149例、13%であった。退院後、がんや老衰など3カ月以上経過して亡くなった「遠隔期死亡」は229例、3%となっている。これを含めても「死亡」は378例、33%であった。
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高齢者救急における慢性期医療の役割
下り搬送依頼患者の依頼までの三次救急入院期間は、先ほども述べたように平均22.8日であった。
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このうち、「救急患者連携搬送料」の対象となる「入院後3日以内」という患者さんは紹介例のうち15.1%、289例だった。
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一方、下り搬送の依頼から転院までに要した日数は平均12.2日。このうち、「3日以内」が242例、転院例の20.6%であった。「当日転院」は104例で、8.9%となっている。
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0~3日以内で見ると、1,174例のうち123例、10.5%が、今回新設された「救急患者連携搬送料」の対象となる患者さんであった。
これは、インセンティブのない状態でのデータである。今後、何らかのインセンティブが付けば増加が期待できると考えている。
下り搬送を評価する「救急患者連携搬送料」の新設は、高齢者救急を考える上で非常に重要な加算であると思われる。
連携先として、地域包括ケア病棟や地域包括医療病棟等が想定されているが、大阪での16年間の実績から、療養病棟を含めた慢性期病院への転院も十分可能であり、全ての慢性期病院が今後、積極的に関わっていくべき加算であろうと思っている。
しかし、搬送元には多くの加算が付くのに対し、残念ながら下り搬送先では地域包括ケア病棟における在宅患者支援病床初期加算の増点のみで、ほかに加算がない。
今回の同時改定では、医療と介護の連携に対し両者に加算が付いて、win-winとなった。医療と介護の連携が緊密になった。しかし、「病病連携」という観点から見ると残念である。搬送先に加算が付いていない。
今後、搬送先に加算が付けば下り搬送がさらに加速し、喫緊の課題である高齢者救急問題の解決につながると考えている。
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「良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない」という従来のスローガンに、橋本会長が「今こそ、寝たきりゼロ作戦を!」というスローガンを追加された。
今回の改定は「寝たきりゼロ」に向けての大きな前進を期待させる内容が盛り込まれた改定であると、われわれ日本慢性期医療協会は考えている。私からは以上である。
[矢野諭副会長]
井川副会長から新しいデータも示された。最後に橋本会長から一言、お願いしたい。
[橋本康子会長]
今回の改定は、医療・介護等の同時改定であり、厚労省をはじめ関係者の方々は苦労されたと思う。ただ、現場としては実質的にマイナス改定になっている印象を受けたが、治療や処置に要した分については点数が上がるという点では以前よりも進んだのではないか。
また、急性期医療におけるリハビリ提供や栄養・口腔管理に加算が付いたので、私たち慢性期病院にとっても望ましい方向である。これまでよりも状態の良い患者さんが慢性期病院に来ていただけることになり、リハビリに集中できる。
新設された「救急患者連携搬送料」については、井川副会長がおっしゃるように私たちの方にも点数を付けていただきたかったという思いはあるが、患者さんの行き先を一定程度、明確化できたのではないか。そうした点では、とても良い改定であったと思っている。
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2024年5月24日