冬の時代にどう立ち向かうか? ── 定例会見で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等

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 日本慢性期医療協会の橋本康子会長は3月14日の定例記者会見で「回復期リハビリテーション病棟 冬の時代にどう立ち向かうか?」と題して、令和6年度診療報酬改定による影響について見解を示した。

 会見で橋本会長は「質が高く、努力している回復期リハビリテーション病棟ほど大きな打撃を受けることになった」とし、回復期リハビリ病院の試算結果を公表。年間1億円近い減収になるとの見通しを示し、「病院経営を成り立たせることができない状況に陥る」と危機感を表した。

 橋本会長が特に強調したのはリハビリの質低下で、「患者への影響とリハビリ医療の質の低下は深刻な問題であり、患者に不利益をもたらす恐れがある」と懸念。今後の対応策として、「加算取得と在宅支援の充実に舵を切る。算定率の低い加算を算定することで質を上げ、在宅復帰につなげるべき」と述べた。

 会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は当会のホームページをご覧いただきたい。

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冬の時代にどう立ち向かうか

[矢野諭副会長]
 令和6年3月の定例記者会見を開始する。本日のテーマは、「回復期リハビリテーション病棟 冬の時代にどう立ち向かうか?」である。それでは、橋本康子会長、よろしくお願いしたい。

[橋本康子会長]
 本日のテーマは、回復期リハビリテーション病棟について、まさに「冬の時代」とも言うべき今後に向けた対応である。当会の会員には、回復期リハビリテーション病棟を多く持つ病院もある。今回の改定を踏まえ、回復期リハビリテーション病棟に焦点を当てたい。
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 本日は、まず今回の改定の概要について述べる。その上で、回復期リハビリテーションが現在どのような状況にあるのか。経営の悪化だけではなく、リハビリテーション医療の質の低下も懸念されている点についても触れたい。特に、質の低下は重大な懸念事項である。最後に、今後の対応についても述べる。主に加算取得と退院後支援へのシフトを挙げたい。

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処遇改善を目的としたプラス改定

 令和6年度の診療報酬改定は0.88%のプラス改定と言われているが、この中には、看護職員や病院薬剤師、その他の医療関係者の処遇改善が含まれており、これらのアップにより0.61%の改定がなされている。
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 また、入院時の食費基準額の引き上げで、プラス0.06%。一方、生活習慣病の管理料や処方箋等の効率化・適正化により、マイナス0.25%となっている。
 
 入院基本料の見直しでは、一般病棟から療養病棟、精神病棟、特定機能病院、回復期病棟、地域包括ケア病棟まで、それぞれの点数がプラスとなっている。

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処遇改善以外はマイナス改定

 
 改定率の内訳を詳しく見ると、0.88%のプラスになってはいるものの、このうち0.61%や0.28%は処遇改善、つまり給料の改善に関するものである。給与の改善として0.28%、その他0.18%を合わせた0.46%が処遇改善に充てられている。
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 したがって、プラス改定の多くは賃上げの原資となる。医療機関のスタッフにとっては好ましい改善ではある。
 
 そのほか、プラス0.18%、マイナス0.25%である。この部分は施設運営分に該当し、実質的に病院としては0.07%のマイナスとなる。
 
 すなわち、処遇改善を除けば実質的にはマイナス改定である。収益減や物価高により、質の向上だけでなく施設維持さえ困難に陥ることが懸念される。
 
 今回、人件費に関しては処遇改善に大きく焦点が当てられている。しかし、この診療報酬の部分が人件費に充てられると、病院は医薬品の購入や診療材料の調達、施設の維持費、委託費なども必要となる。特に、物価高に対応するための委託費は重要だが、これが困難になっているのが現状である。
 
 さらに、病院の質を向上させようとすると、最近、強く推進されている医療DXや電子カルテなどにも対応しなければならない。これらの医療機器等、システム整備への対応は必須である。
 
 スタッフの研修費用も考慮する必要がある。研修などにも費用がかかる。給与が上昇することは確かに歓迎すべきことだが、それだけでは病院の運営は成り立たない。この点について検討する必要がある。

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質の高い回復期リハビリ病棟ほど打撃

 今回の記者会見では、回復期リハビリテーション病棟を中心に影響を考えたい。療養病棟などは次回以降に予定している。
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 今改定では、特に質が高く、努力している回復期リハビリテーション病棟ほど大きな打撃を受けることになった。

 当会の会員病院の中で、回復期リハビリテーション病棟の入院料を届け出ている病院は38%。その中で、質を高めた入院料1や2を届け出ている病院が8割を占める。

 例えば、「〇〇リハビリテーション病院」といった名称の病院は特に大きな影響を受けた。

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入院料以外ではマイナス

 回復期リハビリテーション病棟入院料に関しては、1日あたり100点アップした。これは他の入院料に比べて高い。
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 しかし、入院料以外ではマイナス改定となった。具体的には、2つのマイナスを指摘したい。①体制強化加算の廃止(▲200点/日)、②運動器リハビリテーション料の算定単位数の見直し(▲555点/日)──である。
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 このうち、体制強化加算は、病棟内に専従の医師と専従のMSWが配置されているような体制を評価している。「専従」とは、文字通り、その場に常駐し、医療にあたることである。

 この体制を整えていれば、体制強化加算として200点が加算されていた。患者1人当たり1日に2,000円が上乗せされ、これは非常に高い評価であった。

 この加算は医師が病棟に常駐することに対して付与されるため、医師は月曜日から金曜日まで毎日勤務し、もし休暇や学会出張などで医師が不在の場合は、体制強化加算のために他の医師がその役割を担うことで、手厚い医療体制が維持される。

 このように200点という高い点数が設定されていたが、今回、この加算は廃止され、ゼロになった。

 2つ目は、運動器リハビリテーション料の見直しである。大腿部や頸部の骨折が代表的な疾患であるが、これらのリハビリテーションの単位数の上限が9単位から6単位に変更された。

 ただし、注記があり、「脳血管疾患等の患者」で発症後60日以内の場合は9単位まで可能である。「脳血管疾患等」としているので、今後のQ&Aなどで運動器の疾患も含まれる可能性がある。その場合には、60日以内であれば9単位までのリハビリテーションが実施できるが、運動器の疾患が含まれなければ単位数は減少する。

 単位数の減少により収入が下がることは経営に影響するが、それだけではない。今後、リハビリテーションの質の維持が課題となる。
 
 以下、これら2項目について順に説明する。

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手厚い医師配置をしてきた

 まず体制強化加算の廃止について。この加算は、1日あたり患者1人に対して200点、すなわち2,000円が加算される。専従の常勤医師が1人、病棟に常駐することが条件である。

 加えて、社会福祉士も1人配置され、これらの専門職が不在の際には、バックアップとして他の医師が確保されていた。その結果、実質的には1.5人の医師が病棟に常駐している状況があった。
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 入院料1・2の病棟では、リハビリマネジメントに加え、「多病」の高齢者をケアするため、手厚い医師配置をしてきた。

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チームリーダーや全身管理の役割

 体制強化加算によって実現していたのは、リハビリテーションのチームリーダーとしての医師の役割である。
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 リハビリテーションはチームで実施される。OT・PT・STなどのセラピストをはじめ、看護師、介護士、管理栄養士、薬剤師、社会福祉士など多職種が協働してリハビリテーションのマネジメントや治療を進めていく。さらに歯科衛生士がチームに参加する場合もある。

 職種が多岐にわたるほど正しい方向へチームを導き、統率していくリーダーが必要となる。この役割を医師が担っていた。つまり、医師はチームリーダーとしての重要な役割を果たしていたのである。

 また、高齢者の治療や管理という役割もある。回復期リハビリ病棟には高齢者が入院するケースが多いため、総合診療医の機能が常に求められる。

 脳卒中、脳梗塞、脳出血や骨折などが主病名であっても、それ以外に低栄養、脱水、誤嚥性肺炎、透析が必要な患者、インスリンを注射する必要がある患者、気管切開を施した患者など、多様な医療ニーズを持つ重症または重度の患者が増えている。
 
 これは、急性期病院の平均在院日数の短縮に伴い、より重度の患者が回復期リハビリテーション病棟に入院するようになったためである。このような患者への医療的な対応を主治医が担っていた。

 さらに、専門医療機能がある。1人の医師がどれだけ能力を発揮しても、全てをカバーすることは不可能である。内科や脳外科、整形外科などの専門医はそれぞれの分野をしっかりと診ることができる。

 総合診療医は、低栄養や脱水、拘縮、血糖・血圧などのコントロールは可能だが、前立腺肥大の治療や、皮膚科の専門的な疾患に対処するには、それぞれの専門医が必要である。皮膚の疾患、例えば、かゆみや異常な発疹など皮膚科の専門医による診察が求められる疾患が存在する。

 また、精神疾患の患者に対応する必要もある。うつ病や高次脳機能障害など、特定の患者に対する対応が難しいケースも存在する。

 これらの専門的なケアを提供するためには、非常勤の専門医を招くなどして、専門医療の機能を持つ医師からコンサルテーションを受けるほか、診察してもらう必要がある。これには相応のコストがかかるため、体制強化加算の200点はこうした目的に充てられていた。しかし、体制強化加算の廃止により、これまでのように専門医療の提供が困難になるかもしれない。これは非常に重大な問題であると思う。

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リハビリは「ずっと同じ」ではない

 2つ目として、運動器リハビリテーション料の算定単位数の見直しについて説明する。
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 運動器リハビリを必要とする代表的な例は、大腿骨頸部の骨折である。高齢者が転倒して骨折するケースが多い。こうした患者のリハビリは一定の単位数で実施できるものではない。「ずっと同じ」ではない。

 リハビリが常に6単位や9単位でよいというわけではなく、最初は「免荷」が必要となる。例えば、手術後に入院した患者は、おおよそ6週間の免荷期間が必要である。「免荷」とは、骨折などをした部位に負荷をかけてはならないことで、例えば右足の大腿骨頸部を骨折した場合、右足で立つことを避ける。

 すなわち、運動器疾患の場合にはリハビリを制限すべき期間がある。受傷後、1週間や2週間で入院した場合、残り4週間は運動制限が続く。この1カ月間は運動制限があるため、9単位のリハビリを実施することは困難な場合がある。

 しかし、骨折した足に荷重をかけて歩いてもよいという段階になると、その期間に機能強化が必要となる。この時に、積極的にリハビリテーションを行い、筋力をつけたり、バランスを改善したりすることが求められる。そうしなければ、容易に歩行能力を回復することはできない。

 歩けるようになった後には実用訓練が必要となり、日常生活動作の向上を目指す。このように、強化と弱化を適切に組み合わせ、必要な時に適切な単位数のリハビリテーションを行うことが理想的な姿である。

 例えば、運動器リハビリテーションを1日6単位で90日間実施し、合計で540単位をどのように配分していくかを考慮しながら進める必要がある。これは年齢によっても異なると思う。

 若い人であれば、この程度のリハビリテーションで十分だが、高齢者の場合は、機能評価を行い実用訓練へ移行する際に、ADLの向上が求められる。
 
 例えば、歩行は可能でもトイレへの移動が困難であれば、歩行能力の意味を問うことになる。このような場合、実用訓練にはもっと長い期間や9単位近くのリハビリテーションが必要になることもある。これは個人差があり、また時期によっても変わると考えられる。

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手厚い配置の病棟は大きなダメージ

 回復期リハビリテーション病棟の改定による影響について、これまでは質の面に焦点を当てて説明したが、ここからは経営的な観点から述べたい。
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 回復期リハ入院料1(89床)の病院における影響の試算(年間)を示す。これは当院のデータである。
 
 まず、先ほど述べたように入院料は100点増加している。しかし、体制強化加算の廃止、運動器リハビリテーション料の減少などにより、年間で約9千万円の減収になるだろうと試算している。
 
 今までと全く同じサービスを提供していても、年間で1億円近いマイナスが発生する。1億円近いマイナスは、病院にとって非常に大きな打撃である。言い換えれば、取り返しのつかない状況になり、突然このような状況に陥ると対応が難しい。

 このマイナス分は、当院全体の5%の収入減に相当する。医療法人の利益率が通常2~3%であることを考えると、5%の収入減は大きな影響である。病院経営を成り立たせることができない状況に直面する。何らかの対策を考えなければならない。
 
 これまで医師やセラピストを病棟に手厚く配置してきた病院は大きなダメージを受ける。こうした状況での処遇改善は現実離れしていると言わざるを得ない。

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今後の対応策は?

 今後の対応策について、現時点で考えうる方法としては、加算取得と在宅支援の充実に舵を切るべきである。取得していない加算を積極的に取得し、質の向上を図る。
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 しかし、残念ながら、今回の改定で新設された加算のうち、算定可能な項目は皆無に等しい。回復期リハビリテーションに関しては、ほとんどなかった。
 
 また、病棟に医師を常駐させる必要がなくなったため、外来リハ、訪問リハ、訪問診療など、在宅医療へのシフトも1つの選択肢である。これらの対応を検討していく必要がある。

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算定率の低い加算を算定する

 加算算定による質向上について述べる。口腔ケアは重要だが、リハビリテーションの新規加算は歯科領域に属する。
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 そこで、算定率の低い加算を算定することで質を上げ、在宅復帰につなげてはどうか。

 回復期リハビリ病棟における既存の加算の中で、入退院支援加算と認知症ケア加算はほとんどの病棟で算定されている。

 一方、排尿自立支援加算の算定率は24.6%と低い。こうした加算を積極的に取得していく必要があるだろう。
 
 特に摂食嚥下機能回復体制加算は14%と低い。取得が困難である理由は、この加算を取得する基準として、毎月の内視鏡検査と造影検査が必要であることが挙げられる。

 内視鏡検査が可能な医師は限られており、多くは耳鼻科の医師しかいないことが課題である。さらに、毎月造影検査を行う必要があるが、これによって被ばく量が増加し、実施が困難な状況にあると考えられる。

 月に一度の造影検査による被ばく量の増加は、取得が難しい一因である可能性が高い。VF(嚥下造影)やVE(嚥下内視鏡)などの検査は、我々も実施しているが、毎月行う必要はないと考えている。したがって、評価方法について必要性に応じた柔軟な対応が望まれる。この点を改めて考慮していただきたい。

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リハビリの場は病棟から在宅へ

 退院後の支援については、医師やセラピストが外来リハビリ、訪問リハビリ、通所リハビリへ参加し、地域での活動を展開する。リハビリの場は病棟から在宅へ。生活の場でのリハビリに注力する。
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 こうした取り組みは良いと考えるが、その前段階としての回復期リハビリテーションの質が低下すると、その後の対応も見直さなければならず、状況は困難になる。

 回復期リハビリ病棟におけるリハビリテーションの質を担保することは非常に重要であり、質の高いリハビリテーションによって、その後の維持期の対応や、さらなる改善などが可能になると考えている。

 生活の場でのリハビリを強化するためには、維持期や生活期の評価を充実していただく必要がある。介護保険の範囲になるが、生活期における点数をもう少し高めて、より多くの人材を配置できるような設定にしていただけると助かる。
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 最後に、回復期リハビリ病棟の今後の方向性について述べる。患者への影響とリハビリ医療の質の低下は深刻な問題であり、患者に不利益をもたらす恐れがある。
 
 加えて、質の低下が続けば運営を継続することが難しくなる病院も出てくるだろう。今後、何らかの対応を求めたい。
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