後発品から先発品へ、“逆選択”の可能性も ── 新目標の議論で池端副会長

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_20240314医療保険部会

 「後発医薬品の金額シェアを2029年度末までに65%以上」など新たな目標が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「保険財政を考えれば、同じ薬効なら安い先発品を使用することも(財政)効果があるのでは」と“逆選択”の可能性を指摘し、医療現場への丁寧な説明を要請した。

 厚労省は3月14日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第176回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の部会に「後発医薬品に係る新目標について」と題する資料を提示。供給不安への対応や品質・信頼性確保の取り組みなどを説明した上で、「新たに金額ベースで副次目標を設定する」との方針を示した。
.

01スライド_P7抜粋1

.

医療費の適正化を不断に進めていく

 質疑で、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「後発品の使用促進による医療費の適正化を不断に進めていくという観点から、新たに金額ベースを副次目標に設定することに異論はない」と賛同した。

 中村さやか委員(上智大学経済学部教授)も「医療費の増加を抑えることが目的であるならば、金額ベースで評価したほうが、数量ベースよりもむしろ適切なのではないか」とコメント。経団連の井上隆参考人も「医療費適正化に資するような形で柔軟に目標自体を見直していくべき」と述べた。

 厚労省によると、2023年薬価調査で後発品の数量シェアは80.2%だが、金額シェアは56.7%にとどまっている。
.

02スライド_P9

.

金額目標を上げるのは現実的ではない

 一方、医療関係者の多くは、供給不安が続く中での促進策を懸念。経済界からも同様の意見があった。

 藤井隆太委員(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)は「金額ベースでの設定目標を上げるのであれば、計算上、後発品のある先発品の価格を下げるか、後発品の供給量を増やさない限り、難しいのではないか」と指摘した。

 その上で、藤井委員は「安定供給に支障が出ている中で金額目標を上げるのはあまり現実的ではないのではないか」と疑問を呈した。

.

数量ベースは「わかりやすかった」

 有識者からは「目標を実現する手段が気になる」との指摘があった。伊奈川秀和委員(東洋大学福祉社会デザイン学部教授)は「主目標(数量ベース)に関しては関係者の努力によってここまで来ている。比較的、何をやればいいのかがわかりやすかったが、金額ベースの副次目標では、どうすればいいのか」と問題提起した。
.

03スライド_P7抜粋2

.

 伊奈川委員は「薬価の影響を非常に大きく受ける数字であり、また分母と分子の関係なので、そこの関係性によって、この数字は当然変わってくる」と指摘。長期収載品の選定療養に言及しながら、「医療保険財政上から見ると、自己負担になるのだから財政上は有利に働くことも考え出すと、きりがない。もっと複雑な式が作れるのではないかと考えたが、それは一般にはわかりにくい」と悩みを見せた。

 金額ベースでの目標値の設定について、厚労省の担当者は「数量ベースではある程度、置き換わっていたとしても、金額ベースでなお置き換えの余地があると考えられる領域(オレンジの台形部分)がある」と説明している。
.

04スライド_P8抜粋

.

 こうした意見を踏まえ、池端副会長が発言。比率の計算式について尋ねた上で「金額ベースになったことを医療従事者、医療機関に説明する場合に、どうすれば金額ベースで下がるのか理解されにくい」と指摘した。

【池端幸彦副会長】
 私も少し混乱しているので確認したい。後発医薬品の金額シェアの数字は、「後発医薬品の金額(薬価ベース)+後発医薬品のある先発品の金額(薬価ベース)」が分母で、「後発医薬品の金額(薬価ベース)」を分子となると、より差額が少ない後発品を使うことによって、この率を上げることができることになってしまうのではないかと思うのだが、そういう考え方で、この式はよろしいのだろうか。
.
【厚労省医政局医薬産業振興・医療情報企画課・水谷忠由課長】
 単純にミクロでそういう事象だけ見れば確かにそう見える。一方で、これは後発品と長期収載品の薬価差の比率によって変わってくる。完全に置き変われば、比率は1になる。1に至るその曲線が、どういう軌跡を描くかということの違いであり、その薬価の差が大きい場合には、その軌跡がより膨らんだ形になるし、そうでない場合には、より直線に近い形で置き換わっていく。
 ただ、置き換わった数量による効果ということもあるので、その価格差の部分と、その置き換わりがより進むことの効果とのバランスの中で決まっていく。マクロで見ると、そういうことになる。
 ただ、現実に、薬局でどちらの薬を選ぶかというときに、金額ベースの割合を少しでも上げたいということだけを念頭に置けば、そういう逆選択のようなことが起きてしまうので、そうした意味においても、これが医療現場において具体的な取組をする上で、ミクロのレベルの取組で参考にする指標としては数量ベースのほうがなじみやすいので、これを主目標としていると説明させていただいた。

.
【池端副会長】
 そうすると、金額ベースになったことを医療従事者、医療機関に説明する場合に、その辺を少し理解していただかないと、どういうふうにすれば金額ベースで下がるかということがちょっと理解しにくくなってしまう。たぶん、今の説明だと、最終的には後発品をどんどん置き換えていけば金額も最終的に下がっていくという理解でいいのだと思う。 
 保険財政そのものを考えれば、同じ薬効なら、より安い先発品を使用することも、そういう効果になると思うが、これは金額ベースで出てこないことになるかと思うので、その辺をまた別の観点で考えなければいけないのではないかと感じた。
 それから、もう1つ質問。本件とは直接の関係はないかもしれないが、不安定供給の中で、後発医薬品ではないが、先日、肥満症治療薬のGLP-1が中医協で承認された。この薬は糖尿病で使っているが非常に不安定供給になっており、同じ薬効の薬が肥満治療薬として出る。そのため、安定供給について大丈夫かと質問した際、1月までには安定供給できるとおっしゃっていた。しかし、一向に糖尿病の薬の不安定供給が改善されていない。
 一方で、SNSを見ると、「痩せ薬で、これがいいよ」という声がどんどん出ている。企業間の連携・効率化という方針がある中で、糖尿病の薬が不安定供給になるというのは本末転倒であるような気がする。この件について何か把握していることはあるか。

.
【水谷課長】
 いわゆるGLP-1受容体作動薬については、これまでも適切な使用をお願いしている。直近で申し上げると、昨年の11月に医療機関・薬局に対し、真に必要とする2型糖尿病の患者への供給が滞ることのないよう適正使用に努めていただきたいというお願いをさせていただくとともに、医薬品卸売販売事業者に対しても、こうした趣旨を理解いただいた上で、医療機関・薬局から注文を受けた際に、薬事承認を得た範囲での治療を目的としたものであるかどうかをご確認いただいて、薬事承認範囲外の治療目的による使用であることが明らかな場合には納品をしないなど、糖尿病の治療を行っている医療機関・薬局へのGLP-1受容体作動薬の供給をお願いした。
 ただ、実際にこれがどのように実行されているかについては、なかなか把握が難しい。卸の側でも、医療機関・薬局が実際にどういう目的でこれを購入され、処方されるのか。私どもの11月の事務連絡に沿った形で、卸においても適切にご確認をいただいているものと思うが、やはり一定の限界もあるというのも事実かと思う。
 引き続き、私どもとして卸にも協力をいただきながら、また、当然ながら医療機関・薬局にもご協力をいただきながら、真に必要とする2型糖尿病の患者さんにきちんとお薬が行き渡るように努めてまいりたいと考えている。

.
この記事を印刷する この記事を印刷する


« »