医療療養病床は「最後の砦」── 医療保険部会で井川副会長

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井川誠一郎副会長_2023年12月14日の医療保険部会

 療養病床から介護施設への転換を支援する助成金事業を2年間継続する方針が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は「医療療養病床は長期に医療を必要とする人や、医療が必要で在宅に帰ることができない人にとっては最後の砦のような場所」と述べた。

 厚労省は12月14日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第173回会合を開催し、当会から井川副会長が池端幸彦副会長の代理として出席した。

 厚労省は同日の部会に「病床転換助成事業について」と題する資料を提示。これまでの経緯を振り返った上で、活用状況などを説明。「2025年までの地域医療構想の期間に合わせて、事業を延長(2年間)してはどうか」と提案し、了承を得た。
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01スライド_P4赤囲みの提案

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事業の周知や理解不足がある

 厚労省によると、病床転換助成事業は平成20年度に事業を開始して以降、これまでに2度、事業期限を延長しており、現在の事業期限は令和5年度末となっている。

 同事業はこれまで計7,359床の医療療養病床の転換に活用され、主な転換先は介護医療院。厚労省の担当者は「地域医療構想の取り組みが始まって以降、活用実績が増加しており、地域医療構想の取組や医療費適正化の取り組みに活用されてきたことがうかがえる」と評価した。
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02スライド_P3_転換病床数

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 一方、都道府県ごとのばらつきも指摘。「都道府県が実施した意向調査で医療機関の活用希望がないことや、実績のない所もある」とし、「事業の周知または理解不足などの課題があるのではないか」と説明した。
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03スライド_P3都道府県ごとの活用実績

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十分に機能しているとは思えない

 2年延長の提案に反対意見は出なかったが、出席した委員からは課題を指摘する声が相次いだ。

 佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「平成20年度からスタートして、私ども保険者も当初は2年間限りということで支援金を拠出したが、既にこれまで2回延長されている」と事業の効果に疑問を呈した。

 佐野委員は「16年間で転換したのが約7,000床にとどまっている。この数字を見る限り、この政策が十分に機能しているとは、とても思えない状況」と苦言を呈し、「効果検証をしっかり実施していただきたい」と強く求めた。

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延長後の対応は「引き続き検討」

 ほかの委員からも同様の意見があった。村上陽子委員(日本労働組合総連合会副事務局長)は「地域医療構想の取り組み以降、『活用実績が増加』としているが、平成31年を除けば、近年はあまり活用されているように思わない」と指摘した上で、「いつまで延長することを想定されているのか」と質問した。

 厚労省保険局医療介護連携政策課の竹内尚也課長は「慢性期を担う医療療養病床については介護施設や在宅医療等への転換を含めて、地域医療構想の中で適切に受け皿の整備を進めていく必要がある」と説明。来年度から始まる第4期医療費適正化計画を挙げ、「都道府県は現在もこの事業を活用して病床機能の分化・連携に向けた取り組みを行っている」と延長の必要性を指摘した。

 2年間とする理由については、「地域医療構想が2年後の2025年までの取り組みであることを踏まえた」とし、その後については「引き続き検討させていただきたい」と述べるにとどまった。

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療養病床が過剰な地域への支援策

 こうした説明に対し、多久市長横尾俊彦委員(全国後期高齢者医療広域連合協議会会長)は「厚生労働省としては、医療費適正化等の観点から、この際、療養病床は福祉関係と言うか、介護関係の施設へ転換したいというのが本音なのか」と尋ねた。

 竹内課長は「地域医療構想の中で、それぞれの機能に応じた病床をどの程度、整備していくのかを地域で話していただいて、目標を立てて進めていただく」とし、「療養病床が過剰で介護施設に転換していくような地域では、転換にあたって支援措置を活用してもらう。それを後押しするための事業として設けられている」と説明した。

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療養病床、「潜在的なニーズはある」

 これに対し、横尾委員は「実情を説明する立場ではないが」と断った上で、「地域で聞く話では、例えば、年配になって急性期病院に入院したが、療養のために時間も日数もかかりそうなので療養病床に移る。本当はもっと病院に居たいのだが、入院に関する点数のことなどで『出てください』と言われる。しかし、『それは困る』という潜在的なニーズはあると思う」との認識を示した。

 その上で、横尾委員は「都道府県といっても東西南北、そして周辺の隣接する都市や医療圏も違う。隣の県の医療が充実していれば、そこの医療機関を利用する」と指摘。「きちんと現状を把握して適切な対応をすることが重要と感じる。全体が円滑に回るようになればいい」と述べた。

 こうした議論を踏まえ、井川副会長は次のように述べた。

【井川誠一郎副会長の発言】
 日本慢性期医療協会の井川でございます。医療療養病床に関わる問題でございますので発言させていただきます。
 日本では、多くの方が急性期疾患を発症した場合に、かかりつけ医を受診し、また重症であれば高度急性期や急性期病院を受診するのが一般的だろうと思います。ただ、急性期において後遺症や合併症を残さずに元の生活に戻ることができれば何ら問題ないのですが、近年の超高齢社会の中では、在宅で治療しつつ生活していけるような疾患、例えば高血圧や糖尿病など、さまざまな疾患を多く抱える『マルチモビディティ』と言われる高齢患者さんが多く存在します。そのような高齢者の方々が急性期治療を受けられた後、先ほど横尾委員もおっしゃっておられましたが、後遺症や合併症によって在宅に復帰できずに長期に入院医療が必要となるケースが少なからずあります。そうした場合、回復期病院のリハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟などで集中的なリハビリを提供し、ADLを改善させて早期の在宅復帰を目指します。
 一方、医療療養病床を有する慢性期病院であっても、できる限り在宅復帰を目指します。医療療養病床は長期療養の場と思われていますが、医療を必要とする重症な患者さんを多く受け入れなければ基準をクリアできませんので、治る見込みのある患者さんはできるだけ治してさしあげる『慢性期治療病床』です。確かに、回復期の病院に比べれば入院期間は長期にわたるかもしれませんが、できるだけ在宅復帰に向けて頑張っています。それが慢性期病院の現在の実情であろうかと思います。
 もちろん、年代別ごとの患者像によって必要とされる病床機能の量的な部分は異なってまいりますので、参考資料の8ページ(2022年度病床機能報告)に示されていますように、必要な病床数は急性期や回復期などで変わってまいります。
 先ほど、『地域医療構想が2年後の2025年までの取り組み』という説明がありましたが、2022年度の病床機能報告では、慢性期の病床数は、2025年見込みに近づいています。当然、地域差はあると思いますが、療養病床が余剰という状況ではないと思います。本事業について実績の少ない都道府県がある点については、ご指摘のように事業の周知・理解不足等の課題があると考えられます。医療療養病床は、長期に医療を必要とされる方にとっては必要です。医療が必要で在宅に帰れない方にとっては最後の砦のような場所ですので、絶対的に必要です。しかし病院である以上、私どもは退院を目指す場所であるべきだろうと思っています。超高齢社会が進行する中、医療機能の分化は必須です。地域によっては医療療養病床から介護医療院などの介護施設に転換するニーズは十分あります。病床転換助成事業の必要性は、まだ、しっかり残っていると考えますので、今回示していただいた方針に基づき、事業を継続していただきたいと思っています。以上です。

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