総合事業、「周知・広報活動が必要」 ── 介護保険部会で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

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 総合事業の充実に向けた中間整理が報告された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は「とても多岐にわたる素晴らしい試み」と評価しながらも、「医療・介護運営者にとっては、あまりピンとこない。失礼ながら広まっていない」との認識を示し、「周知・広報活動など国民の皆さんにわかりやすく示す必要がある」と今後に期待を込めた。

 厚労省は12月7日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早大理事・法学学術院教授)の第109回会合を開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の部会に、総合事業の充実に向けた検討会がまとめた中間整理や工程表を報告。地域共生社会の実現に向け、「多様な主体の参画」を促進するなどの方向性を示し、委員の意見を聴いた。
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総合事業サービスに留め置かれる

 総合事業を充実させるための「具体的な方策」では、「継続利用要介護者が利用可能なサービスの拡充」などを挙げたが、委員から不安の声が上がった。
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 花俣ふみ代委員(認知症の人と家族の会常任理事)は「総合事業にはまだ課題が多くある」と切り出し、「要介護になっても給付の対象とはならず、継続利用要介護者として総合事業サービスに留め置かれるのではないか。総合事業と給付が曖昧になるのではないか不安だ」と指摘した。

 その上で、花俣委員は「利用者にとって十分な理解が可能なのか。総合事業サービスと給付の違いを理解されている要介護者はほとんど見受けられない」とし、「最初から総合事業サービスという市区町村事業に留め置かれてしまう。要介護認定を受けた方々の在宅生活がどうなってしまうのか」と危機感を表した。

 橋本会長は介護保険と同様のサービスが総合事業では受けられない場合などを挙げ、「すみ分けができていないから、あまり理解されていない」と指摘。今後に向け、「もっと国民の皆さんにわかっていただくような出し方をしていくべき」と提案した。

【橋本康子会長】
 総合事業はとても多岐にわたる素晴らしい試みで進化している。今回、全体的に見直しをされるという報告があった。
 ただ、私たち現場で医療や介護、施設を運営したりしている者にとっては、総合事業というもの自体があまりピンとこない。
 介護保険は国民に周知されていると思うが、総合事業に関してはそうではない。介護予防や生活支援のサービスなので、今後、どんどん必要になってくるだろうとは思うが、実際にどうやって使ったらいいのか、どんな種類があるのか、介護保険を取ったらもう使えないのか、65歳になったらみんなが使えるのかなどが不明で、あまり広まっていないのが現状だろうと思う。私たち医療・介護関係者でも、「これはどうだったっけ?」みたいなことがある。介護サービス、通所サービス、訪問型のサービスなどもある中で、総合事業からサービスに行ってもらったときに、「ちょっとトイレに連れて行ってほしい」「入浴介助をしてほしい」と言っても、「いや、身体介護はちょっとできないんです」と言われ、利用者は「どうして?」ということになる。介護保険のサービスと総合事業のすみ分けができていないから、あまり理解されていない。トラブルにはならないまでも、「お風呂に入れてくれないなら、もういらない」とか、そういうことが起こる。
 今後は、そういう整理というか、もう少しわかりやすく変えていただければいい。
私たちも周知・広報活動などをしなければいけないと思うが、もっと国民の皆さんにわかっていただくような出し方をしていかなければいけないと感じる。
 総合事業を今後さらに充実させていくと、軽い認知症やフレイルの人にはとても有効で必要だと思う。総合事業の充実のための対応の方向性には「地域共生社会の実現に向けた基盤として総合事業を地域で活用する視点から多様な主体の参画を促進」とある。そこで質問だが、この「多様な主体」とは、具体的に何か。例えば、高齢者自身も入るのか。民間企業などは現在も入っていると思うが、具体的にどうなのか教えていただきたい。 
 なお、地域包括支援センターから居宅介護支援事業所に業務を委託できる点について。居宅介護支援事業所は赤字経営が多いので「業務だけ増えて」ということになると問題だと思うので検討していただきたい。

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【厚労省老健局認知症施策・地域介護推進課・和田幸典課長】
 検討会では、「多様な主体」には、もちろん高齢者ご自身も入るし、民間企業も入るという議論をいただいた。残念ながら現在は介護保険事業者の実施がまだ多いという状況にあるので、この多様な主体の参画が可能になるよう、われわれとしても促進しなければならないという議論をいただいたと考えている。
 また、認知症については、専門家による関与が必要だという意見もいただいている。

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不透明なままの検討、「納得しがたい」

 この日の部会では、介護サービス利用料の2割負担となる範囲についても議論があった。厚労省は同日の部会に「給付と負担について」と題する資料を提示。今後の対応案として、「予算編成過程で検討する」との意向を示した。
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 質疑で、笹尾勝委員(全国老人クラブ連合会常務理事)はこれまでの議論を振り返りながら「慎重な意見が大勢を占めていたと思うが、『予算編成過程で検討』には納得しがたい」と不満を表した。

 その上で、笹尾委員は「誰が検討するのか。国会の別の会議体なのか、厚労省や財務省なのか、政治の場なのか」と疑問を呈し、「不透明なままの検討を予算過程の中ですることは理解しがたい」と述べた。

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最終的には厚生労働省として判断

 江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「社会保障審議会である当部会は厚労相に諮問する会議だが、近年、医療や介護の分野において、これらの会議の形骸化が指摘されている」とし、「予算編成過程において当部会の議論がどの程度、反映されるのか」と質問した。

 厚労省老健局介護保険計画課の簑原哲弘課長は「予算編成過程においては与党とのご相談が途中の過程では出てくるが、最終的には政府、厚生労働省として決めていく、判断していく」とし、「本部会で出た意見はしっかり考慮させていただき、留意させていただきながら、また現状のデータでは把握できていない部分の負担の実態についても考慮しながら予算編成過程で検討させていただきたい」と答えた。

 閉会に際し、厚労省老健局の間隆一郎局長が挨拶。「本日の皆さまのご意見を受け止め、私としても今後の予算編成過程でしっかり検討、調整をさせていただきたい」と理解を求めた。

【橋本康子会長の発言要旨】
 給付と負担について、参考資料の14から16ページに介護予防の効果について示していただき感謝を申し上げる。この結果を見ると、平均寿命よりも健康寿命のほうが上がっている。要介護度も重度のところが下がっている。各予防サービスに一定の効果が認められる。
 私たちは医療・介護の従事者として、さらに要介護度を下げていく努力を続けていきたい。私たち医療・介護従事者の使命は、要介護度4・5の寝たきりの人を要介護度3や1・2に下げていくこと。リハビリも医療、ケアも医療の1つ。予防だけではなく治療もしていかなければいけない。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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