救急医療と小児医療について見解 ── 医療計画の議論で池端副会長
令和6年度の診療報酬改定に向け、医療計画をテーマに議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は救急医療と小児医療について見解を示した。救急医療については高齢者の具体的な状況を考慮する必要性を指摘。小児医療については、医療的ケアが必要な子どもたちのショートステイについて診療報酬上の対応を求めた。
厚労省は5月17日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第545回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。
厚労省は同日の会合に「医療計画について」と題する95ページの資料を提示。新興感染症への対応を除く5事業について「課題と論点」を挙げ、委員の意見を聴いた。
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要介護高齢者が第三次救急に入院
救急医療について厚労省は「特に軽症あるいは中等症の単身や要介護高齢者が第三次救急医療機関に入院し、退院調整が滞るなどの『出口問題』の存在」などを課題に挙げた。
また、第8次医療計画について「第三次救急医療機関は重篤患者に対する高度な専門的医療を総合的に実施することを基本としつつ、他の医療機関では治療の継続が困難な救急患者の診療を担うこととなった」と説明した。
論点では、「増加する高齢者の救急搬送等も踏まえ、適切な急性期入院医療の提供及び機能分化の観点から、転院搬送を含め、救急医療に係る評価の在り方についてどのように考えるか」としている。
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診療報酬によって歪んでしまった
質疑で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は「高齢者の救急搬送等が増加している背景には、これまでの施策が三次救急の評価に偏重しており、二次救急の評価が十分になされてこなかったことがある」と指摘した。
具体的には、「これまでの診療報酬改定で高度急性期の評価を重視し、二次救急の評価が十分でなかったことも影響しており、診療報酬によって医療計画の在り方が歪んでしまった」と苦言を呈した。
その上で、長島委員は「二次救急の評価を充実させる必要がある」と主張。「三次救急からの下り搬送や、救急医療機関から退院する際の出口問題への対応についても、救急に携わるサービスへの負荷等の視点も念頭に置きつつ評価を検討していく必要がある」と述べた。
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現場の感覚とずれが生じている
同じく診療側の島弘志委員(日本病院会副会長)は「高齢者の救急に関して、少し誤解を招く表現がある」と切り出し、救急搬送件数の資料に言及。「高齢者の人口増加に伴い、高齢者の救急搬送人員が増加し、中でも軽症・中等症が増加」との記載について、「消防庁の分類は救急現場の患者の『重症』とは感覚的にずれが生じている」と指摘した。
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島委員は「この分類では、救急室で適切な処置が行われて症状が改善して自宅に帰れた場合は『軽症』になってしまうが、決して軽い怪我や全く生死に関わらない救急、コンビニエンス受診のような症例が多いわけではない」とし、アンダートリアージの危険性を指摘。「発症の段階では、虚血性心疾患や脳卒中の発症と区別がつかない症例が高齢者救急の現実」と強調した。
その上で、島委員は「ACPを確認した高齢患者でも、急激に状態が突然悪化した場合には早期の診断・治療により状態を改善する症例も多い」とし、「適切な発症時の医療の提供ができる体制を地域で維持していけるよう、主に二次救急を支える点数である救急医療管理加算や夜間休日救急搬送医学管理料などの更なる評価が必要である」と訴えた。
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高齢者救急は「急性期以外で対応を」
一方、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「救急医療について高次の医療機関にはこれまで以上に役割を果たしていただく必要がある」とし、「単に受入件数を増やすだけではなく、高次医療機関で受け入れる患者に重点化すべき」と主張した。
その上で、松本委員は「高齢の救急患者については、その症状レベルからもリハビリや介護との連携が必要なことを踏まえ、地域包括ケア病棟などの急性期以外の医療機関での対応を促す仕組みを強化すべき」と述べた。
同じく支払側の眞田享委員(経団連)は救急搬送の受入件数のばらつきを問題視。「高齢者の増加により救急搬送が増加する中においては、各地域の第二次救急、第三次救急医療機関がそれぞれの役割をきちんと果たしていただく必要がある」とし、「受入件数のばらつきをよく分析した上で必要な対応を検討すべき」と述べた。
一方、池端副会長は高齢者救急の範囲が幅広いことを指摘。「高齢者救急だから、例えば地域包括ケア病棟だけでいいというのは大きな間違いではないか」と疑問を呈し、地域の実情にも配慮した対応を求めた。詳しくは以下のとおり。
■ 救急医療について
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長島先生や島先生が述べたとおり、私自身も同意見である。その上で、私が付け加えたいと思う点として、高齢者救急の問題が挙げられる。多くの人々が「高齢者救急はこうあるべきだ」と言われているが、その「高齢者救急」というイメージは幅が広すぎると感じる。例えば、軽い発熱で救急搬送される症例から、重症の心筋梗塞や肺炎で発熱して呼吸困難を起こす症例までが含まれている。しかし、高齢者の場合、症状がほとんど表れないこともある。
具体的には、ごく軽い体調不良や食事摂取の困難から始まり、後に重症の肺炎や急性心筋梗塞が見つかる事例があり、そのような状況を少しでも早く察知することが極めて重要である。これは高齢者施設でも在宅でも同様で、医師の判断や看護師等の判断によって救急搬送され、大きな病気が見つかることが頻繁にある。だからこそ、「高齢者救急だから地域包括ケア病棟だけでいいでしょう」という考え方は大きな間違いではないか。
三次救急については、重症患者が集中的に治療を受けられる場所としての役割を果たすべきだと考えている。そして、その施設にミスマッチが生じた場合、迅速に下り搬送が可能な体制が必要である。そのような体制を確立するためには、一泊または短期入院せず、その場で次の適切な施設へ搬送できるようなネットワークが必要である。この点、東京の八王子や大阪で進んでいる好事例も参考にしてほしい。
一方、二次救急や一次救急も幅広い。外科系に特化した二次救急の病院もあれば、内科系が得意な二次救急も存在する。いわゆる「身の丈に合った救急医療」が各病院で可能である。現在、療養病床を有する慢性期の病院でも一次救急や二次救急に対応している時代である。各病院は自身の能力に見合った救急医療を提供し、それが不可能な場合には二次救急、または他の二次救急、あるいは三次救急へと患者を送る体制が求められる。
ただし、この体制は地域によってバランスが大きく異なるため、診療報酬で縛ってしまうと、地域ごとの医療計画が実現不能となる恐れがある。地域包括ケア病棟を持つ病院でも十分に救急対応できない地域もあるため、「高齢者救急は地域包括ケア病棟でやるべきだ」とされてしまうと、救急医療を適切に提供できない場所が生じてしまう。
診療報酬が医療計画に寄り添うものであるならば、地域ごとの医療計画に合わせた体制が求められ、各地域で様々なバリエーションが存在することを受け入れる余裕を診療報酬上でも持つべきである。そのことが無視されると、大きなミスマッチが生じる可能性がある。私は現場の医師としてこの視点を強調したいと思う。
加えて、長島委員が先ほど指摘したように二次救急の評価が厳しさを増しているとの印象がある。二次救急は非常に重要な位置を占めており、特に内科系の二次救急は、様々な重症度の評価を含めて厳格な要求がなされる。したがって、この領域をしっかりと支えていくことが今後、求められるのではないかと考えている。
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診療報酬上でも何かできるのでは
小児医療についての論点では、少子化の進行に触れた上で「医療的ケア児を含む小児患者に対して救急やレスパイトも含めた必要な医療を確保できるようにする観点」を挙げ、「小児医療に係る評価の在り方について、どのように考えるか」と意見を求めた。
質疑で、診療側の長島委員は「小児入院医療管理料の『注2 加算』で保育士の配置を評価したり、『注4』の重症児受入体制加算で小児の成長に応じたプレイルームの設置を求めるなど、既に小児医療の在り方に着目した評価がなされている」とし、「こうした点は今後も維持していく必要がある」としたが、レスパイトについては「診療報酬として直接評価すべきものなのか。ほかの対応がないのか、慎重に検討する必要がある」と述べた。
支払側の松本委員は「小児医療について既に診療報酬でさまざまな対応をしているため、さらにどのような対応が必要なのか、丁寧に議論したい」との認識を示した。レスパイト入院については「社会的に重要なテーマだとは考えているが、診療報酬というよりも違うかたちで対応することが本来のかたちではないか」とコメントした。
池端副会長は「在宅で人工呼吸器を付けた子どもの母親から、さまざまな事情で一時的に預かってほしいという要望がある」と現状を伝え、「受け入れやすいインセンティブについて、診療報酬上でも何かできることがあるのではないか」との見解を示した。詳しくは以下のとおり。
■ 小児医療について
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地域の医師会で医療的ケア児の支援も担当しているが、母親たちが最も求めているのはショートステイである。母親たちは毎日、自宅で人工呼吸器を付けた子どもの世話をしているが、さまざまな事情で一時的に預一時的に預かってほしいけたいという要望がある。24時間体制の訪問看護などの手当てもあるが、数日間預かってくれるサービスの提供がどの地域でも難しい。
資料77ページに障害福祉サービスにおける「医療型短期入所サービス」の紹介がある。福井県内では、このサービスを提供できる施設が県全体で2箇所しかない。この「医療型短期入所サービス」は障害のある人に対する支援の一部である。
これは障害のほうから出るお金だと思うが、こうしたサービスを医療機関が提供しようとしても、医療的ケア児の受け入れに対するインセンティブが不十分である。地域包括ケア病床や一般の急性期、あるいは療養病床でも場合によっては受け入れが可能であるが、重症度、医療・看護必要度の評価に反映されない。呼吸器が必要でなければ受け入れられないこともある。
そのため、受け入れやすいインセンティブについて、診療報酬上でも何かできることがあるのではないか。医療的ケアが必要な子どもたちを支えるためのショートステイを、医療的にも受け入れるべきだと考えている。
レスパイトケアについて、「入院ではないのではないか」という意見もあるかもしれないが、これらの子どもたちは適切な入院治療が必要であり、施設では絶対に対応できない場合がある。したがって、この問題に対する何か落としどころを見つけていただけるとよいのではないか。意見として申し上げる。
(取材・執筆=新井裕充)
2023年5月18日