後発品、「使いたいが使えない」 ── 医療費適正化計画の議論で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2023年6月29日の医療保険部会

 医療費適正化計画などをテーマに議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は後発医薬品について「使いたいが使えない」と現状を伝え、使用促進に向けた目標について「あまり性急に8割を目指すと、さらなる不安定供給につながる恐れもある」と懸念した。

 厚労省は6月29日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第165回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。アクリル板のない対面開催は2020年2月以来、約3年ぶり。

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01Photo_2023年6月29日の医療保険部会
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 厚労省は同日の部会に「第四期医療費適正化基本方針について」と題する資料を提示。その中で、後発医薬品について「金額ベース等の観点を踏まえて見直す」としながらも、「当面の目標として、可能な限り早期に数量シェア80%の達成を目指す」とした。

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01スライド_P7_【資料3】第四期医療費適正化基本方針_2023年6月29日の医療保険部会

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 池端副会長は「後発医薬品の不安定供給がかなり長期間にわたり、数年先までずっと続くのではないか」と懸念した上で慎重な検討を求めた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 「医療の効率的な提供の推進」では、後発医薬品の数値目標について「現時点で数量シェア80%を達成していない都道府県では、当面の目標として、可能な限り早期に数量シェア80%の達成を目指す」としている。
 私はこれに反対するものではないが、現在、後発医薬品の不安定供給がかなり長期間にわたり、しかも数年先までずっと続くのではないかと言われている。医療機関としては後発医薬品を使いたくても使えない。使っても後発医薬品がなくなって先発医薬品に変更している状況である。この問題を解決しない限り、後発医薬品の使用促進に逆行してしまう。こうした認識は課長もお持ちだと思うが、現場の感覚としては「使いたいが使えない」という板挟みになっていることをご理解いただき、令和6年度以降の目標については慎重にお考えいただきたい。あまり性急に8割を目指すと、さらなる不安定供給につながる恐れもある。先日の検討会の答申についても即効性ある内容とは思えないので、不安定供給が数年先も続くことを考えて、今後、この問題については対応していただきたい。

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現場の実態を踏まえ適正化を

 都道府県が作成する第4期(2024~29年度)の医療費適正化計画について、厚労省は同日の会合に「基本方針のポイント」を示すとともに、具体的な内容を「参考資料」で紹介した。

 厚労省の担当者は「この審議会でご了承をいただければ法令審査など必要な手続きを経て、7月中旬目途で告示したい」とし、「来年度からの都道府県計画の策定の基本的な方針となるものなので、そうした計画に支障がないように、なるべく早く示し、都道府県に具体的な作業にかかっていただきたい」と説明した。

 今回の「ポイント」では、「保険者等との連携」や「医療の担い手等との連携」も挙げられている。

 質疑で池端副会長は「医師会や歯科医師会等から参画することも可能という理解でよろしいか」と質問。厚労省の担当者は「地域ごとに実態を把握、検討していただき、適正化に向けた取り組みを進めてもらう。その際には医療現場の実態を踏まえながら進めていただくことが必要だ」と答えた。

【池端幸彦副会長】
 5ページの「都道府県計画の作成のための体制の整備」の項目に「医療の担い手等との連携」が挙げられている。現在、医師国保が保険者として参画している医師会等もあると思うが、それ以外に「医療の担い手」として、医師会、歯科医師会等から参画することも可能という理解でよろしいか。
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【厚労省保険局医療介護連携政策課・水谷忠由課長】
 保険者協議会の設置要領の中で、医師国保等は保険者の立場であるが、まさに医療の担い手として、具体的には住民の健康の保持の推進、生活習慣病の重症化予防などは当然、医師会をはじめとする医療関係者の団体との連携が必要である。また、後発医薬品の使用促進や重複投薬の適正化も当然、さまざまな医療関係者との連携が不可欠である。
 今までも医療の担い手の立場としての参画は進めていた。さらに今回、「効果が乏しいというエビデンスがあることが指摘されている医療」、あるいは「医療資源の投入量に地域差がある医療」について、すなわち医療の提供の部分について、さらに目標を追加することもある。そうした中で、医療関係の担い手も含めて、関係者、地域ごとに実態を把握、検討していただいて、適正化に向けた取り組みを進めていただく。その際には医療現場の実態を踏まえながら進めていただくことが必要だと考えている。

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マイナ保険証、「多くのメリットがある」

 この日の会合では、オンライン資格確認もテーマになった。厚労省は「マイナンバーカードと健康保険証の一体化を推進し、令和6年秋に保険証の廃止を円滑に実現するため、オンライン資格確認におけるデータ登録の更なる迅速化・正確性の確保を推進する」とし、今後の対応策などを示した。

 その中で、マイナンバーカードでオンライン資格確認を行うことができない場合の対応案も明示。10割負担を回避するための「被保険者資格申立書(案)」のほか、「保険証交付時の周知内容例」なども示した。

 それによると、「転職等により新しい保険証が交付された場合などは、受診前にマイナポータルで新しい保険資格が登録されていることを確認するか、念のためマイナンバーカードとあわせて保険証を持参していただきたい」としている。

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02スライド_P15抜粋【資料1】オンライン資格確認

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 池端副会長は「電子カルテ化などが進めば多くのメリットがあるので粛々と進めていただきたい。みんなが協力し合い、後戻りすることはないようにしてほしい」とコメントした。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 オンライン資格確認システムを設置する医療機関の立場から述べる。まず医療機関・薬局におけるオンライン資格確認の導入状況を見ると、顔認証付きカードリーダーの申込は2023年6月18日時点で91.6%、義務化対象施設に対する割合は98.3%まで伸びた。準備完了施設は82.6%。運用開始施設は義務化対象施設に対する割合が82.7%と8割を超えている。当初、私たちがこの会議で心配していた頃よりは、かなり進んでしまったという事実もある。福井県でも1医療機関を除き、全て準備が終わっている状況である。オンライン資格確認は医療DXの1丁目1番地として評価していい。
 ただ、これから利用するときに、ヒューマンエラーが必ず起きる。今までは「エラーは一切ない」という風潮もあったと思うが、ヒューマンエラーは絶対にあるので、エラーがあることを前提にどこまで対応できるかということに対して、少し後付けになってしまったのではないか。ヒューマンエラーがあることを前提に、これからどこまで進めていけるかをきちんと正直にお示しいただいて、そして国民にもわかりやすく伝えてほしい。今は過渡期だと思うので、ここまでは少し我慢していただきたい、しかし今後はメリットがとても増えると説明してほしい。
 医療機関にもメリットがあるが、今は過渡期である。全ての医療機関が電子カルテ化されてオンライン資格確認システムの情報がカルテにすぐに反映されればいいが、残念ながら診療所も合わせて全体で50%ぐらいしか電子カルテ化されていない。果実を得るにはこれからだと思うので、ぜひそういう意味でみんなが痛み分けしながら協力して進めていくことが必要ではないか。どのようなメリットがあるのか、当院の職員にも確認した。電子カルテ化などが進めば多くのメリットがあるという。ぜひ、粛々と進めていただきたい。みんなが協力し合い、後戻りすることはないようにしていただきたい。

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診療報酬改定等でも使いやすくなる

 同日の部会では、NDBデータの利活用をさらに進める方策も示された。「NDBデータ提供の抜本的見直し(概要)」によると、現在の「申請からデータ提供まで平均390日」を短縮し、「申請から原則7日で処理」としている。

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03スライド_P5【資料2】NDBデータの利活用の更なる促進

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 池端副会長は「本当に大丈夫なのかと根拠のない不安を感じざるを得ない」としながらも、「これほどの短縮が可能ならば診療報酬改定等についてもNDBデータを非常に使いやすくなる」と期待を込めた。

 このほか、KDBデータの活用について「いずれNDBデータと同じような対応で使えるようになるのか」と見解を求めた。

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02Photo_2023年6月29日の医療保険部会

【池端幸彦副会長】
 NDBデータ提供の抜本的な見直しを進めるとの方針に賛成する。ただ、申請からデータ提供まで平均390日の現状に対し、申請の締め切りを毎月設定し、申請から原則7日で処理する案が示されている。大幅に短縮することについて、本当に大丈夫なのかと根拠のない不安を感じざるを得ない。
 匿名化され、解析用に特別抽出した安全なデータに限定してHIC(クラウド上の解析基盤)に入れてから取得してもらう仕組みなので、審査期間だけが短くなれば今までよりも短縮されるのだろう。そこで質問だが、トライアルデータセットで解析されたデータの取得では、タイムスタディではできているのか。ある程度の確証があるのか。それがないと、なかなか一気に進めるのは厳しいのではないか。この点をお聞かせいただきたい。
 また、もしこれほどの短縮が可能ならば、診療報酬改定等についてもNDBデータを非常に使いやすくなると思うが、一方で地域医療構想などの面では、高齢者医療等においてKDBデータが使えないと非常に難しい。以前もこの点を指摘したが、KDBデータは匿名性の面で課題があるとお聞きした。原委員にお聞きすればいいのかもしれないが、KDBデータもいずれNDBデータと同じような対応で使えるようになるのか。可能性について、お聞かせいただきたい。

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【厚労省保険局医療介護連携政策課・水谷忠由課長】
 まずトライアルデータセットについては専門委員会で既にご議論いただいている。基本的にはサンプリングデータセットに非常に近い形であり、1ヶ月分(1月・4月・7月・10月診療分)の匿名レセプトデータから、入院診療10%、外来診療1%を抽出し、高額レセプトの削除等の匿名化処理を行ったプリセットデータである。こうしたプリセットのデータについてHIC上で研究者にアクセスしていただけるようにする。NDBデータをどのように使えるのかを研究者が探索的に利用する上で大変有意義なものだと思っている。専門委員会では実際の形でご議論いただいた。
 一方、来年秋から「解析用に処理したNDB」をHIC上で提供することについては、厚生労働科学研究においてHICにおける効率的なデータ提供のあり方や新たな提供体系に必要な安全管理措置についてご議論いただく。そうした中で、私どもとしては必要な安全に十分配慮しながら、一方で研究者に迅速にお使いいただけるように、そのバランスを取りながらデータ提供の形を考えていきたい。
 KDBの質問については、私の理解で申し上げる。NDBは高齢者医療確保法に基づく法律上のデータベースである。その活用に当たっては、厳格な手続きを経た上で必要な安全管理措置を講じて提供させていただく。
 一方、KDBデータは保険者が持っているデータであり、保険者の保険事業の範疇である。KDBに限らず、健保組合でも協会けんぽでも、ご自身がお持ちのデータを保険者のために活用するという意味では、そこは柔軟に活用していただいていると思う。ただ、それを保険者をまたいで紐づけてデータベース化し、NDBのようにデータベースとして提供するということになると、これは法律に基づいたルールのもとに匿名化して、きちんと提供する必要がある。KDBをKDBの範疇で保険者に使っていただくのは国保でも積極的に活用していただいていると思うが、保険者を超えて連結させるということになると、それは個人の同意等、さまざまな問題が出てくると考えている。

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【原勝則委員(国民健康保険中央会理事長】
 KDBについては、その保険者が使うのは問題がないが、他の保険者との連結ということになると、当然、それぞれの市町村に個人情報保護条例があり、審査委員会が設けられている、市町村によっては時間的な長さが違うところもあるが、手順が異なるのはやむを得ない。しかし、データの使いやすさなどについては、KDBシステムを充実させて、できるだけ使っていただきたいとは思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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