現役世代と高齢世代、「対立構造ではない」 ── 高齢者医療の議論で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2022年10月28日の医療保険部会

 後期高齢者の医療制度などを議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「現役世代対高齢世代という対立構造になりがちだが、そうではない」と指摘し、「40代、50代、60代と連続性のある人生100年時代をどうみんなで乗り切っていくかという制度の変更」との認識を示した。

 厚労省は10月28日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第156回会合を一部オンライン形式で開催し、池端副会長は会場で参加した。

 今回の主なテーマは前回に引き続き医療保険制度改革について。厚労省は同部会に高齢者医療制度に関する資料を示し、これまでの議論を振り返った上で「当面の現役世代の負担上昇を抑制するため、高齢者負担率の在り方を見直すことが考えられないか」との論点を挙げた。

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最大の目的は現役世代の負担軽減

 質疑で、佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は健保組合の厳しい財政状況などを伝えた上で「今回の制度改革の最大の目的は現役世代の負担軽減。これが達成されなければ意味がない」と強調した。

 安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)も「現役世代の保険料負担は限界に達している」とし、「現役世代が納得して、これからも医療保険制度を支えていくためには世代間の給付と負担の在り方を公平に見直すことをはじめ、制度の見直しに向けた議論を進めていくことが大変重要」と訴えた。

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世代間の公平はわかりづらい

 一方、高齢者の立場から兼子久委員(全国老人クラブ連合会理事) は「高齢者と現役世代という分け方には無理がある。世代間の公平というのはわかりづらい」と指摘。「所得や資産を基本にした考え方を進めていくべき」と主張した。

 池端副会長は「納得できるのはやはり応能負担という考え方」とし、「現役並みの収入ある方には相応の負担を少し増やすことはどの世代でも納得できることではないか」と述べた。

 この日の部会では、オンライン資格確認等システムも議題に挙がった。池端副会長は「マイナンバーカードを持っていても、窓口に持ってきてくださる人はまだほとんどいない」と伝え、利用促進に向けた取り組みの必要性などを指摘した。

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2022年10月28日の医療保険部会

■ 高齢者医療制度について
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 高齢者の負担率などのデータを示していただき、ある程度の理解は可能である。このままではよくないということを私自身もすごく感じた。 
 ただ、今までの皆さんのご議論をお聞きしていると、どうしても「現役世代対高齢世代」という印象がある。対立構造になりがちだが、そうではないと私は思っている。現役世代も必ず年を取り、高齢世代に入っていく。40代、50代、60代と連続性がある。そういう視点でいえば、納得できるのは応能負担という考え方。現役並みの収入を持っている人には相応の負担を少し増やしていく。これはどの世代でも納得できることではないか。そういう意味での賦課限度額や所得割の比率の引上げ等は、どの世代でも了解可能であると思う。 
 一方で、均等割も含めて、もしこれをかなり劇的に実施する場合には激変緩和が必要である。例えば、今まで現役世代で保険料をきちんと払って、高齢者になったら現役世代におんぶしてもらおうと思っていたのに、払うだけ払って、高齢者になった途端に負担がさらに増えてしまうと、非常に不利益を受ける層が出てくる可能性がある。 
 あくまでも対立構造ではなく、連続性のある人生100年時代をいかにみんなで乗り切っていくかという制度の変更、調整だと思うので、そういう視点も必要ではないか。保険者間の格差是正も含め、応能負担をしっかり捉える。これは全世代に共通して、ある程度、ご理解いただけるのではないか。

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■ オンライン資格確認等システムについて
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 マイナンバーカード、オンライン資格確認等システムの普及に関しては、療養担当規則に義務化されるため医療機関の対応もかなり加速度化しているのが現状だと思う。日本医師会や都道府県医師会も急速にスピード感を持って対応している。一部、どうしても入っていただけない所には個別に対応している。私のいる福井県では、ほぼ100%近くになりつつある。
 一方で、マイナンバーカードの保険証は持っていても、窓口に持ってきてくださる方がどれぐらいいるか。アンケート調査をすると、まだほとんどいないという回答が圧倒的に多い。マイナンバーカードの保険証で負担が20円安くなることが動機づけになるかどうかは別として、利用をしていただくことも大事だと思う。これについても今後ぜひアナウンスをしていただきたい。

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■ 簡素な仕組みや用途拡大について
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 オンライン資格確認の資料3ページに「柔整あはき等の簡素な仕組み案」が示されている。これは当然ながらウェアラブル端末での取得になるので、患者の医療・健康情報は取得しないことになっている。セキュリティも考えるとそのとおりだと思う。
 一方で、資料5ページに用途拡大について「居宅同意取得型」が示されている。これに訪問看護等も入っているので、居宅で同意をすれば資格情報や薬剤情報等の提供も受けることができることになる。そのアプリだけの端末で受けた情報を持って、医療機関やステーションに戻って、そこで薬剤情報を見られるようなものにできるのだろうか。それとは別に、何らかの方法で資格確認の操作が必要なのか。

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【厚労省保険局医療介護連携政策課・水谷忠由課長】
 訪問看護等で開発している「居宅同意取得型」については、初回訪問時に資格確認、薬剤提供、薬剤情報の提供等に関する同意を居宅で、医療関係者が持参したモバイル端末を用いて実施する構造である。 
 一方で、医療機関等においては、もともとオンライン資格確認のシステムとネットワークでつないでいる。そのため、薬剤情報や特定健診情報等については、医療機関の本体の端末にその情報が行くようになっており、その端末で、そうした情報を閲覧していただける。その意味において、いわば医療機関本体で通常のオンライン資格確認の仕組みを構築していただいた上で、その患者宅においても同意を取っていただけるような仕組みを付加的に構築している。たとえて言えばそういう構造になっている。 
 一方、今回ご提案している簡素な仕組みについては、私が申し上げたような本体の部分がないので、施術所等において、その資格確認のみをこうした簡素なかたちで行っていただく仕組みとしている。そのため、健康・医療情報の取得はできない仕組みになっている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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