「介護助手」への報酬上の対応を質問 ── 介護保険部会で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

2022年7月25日の介護保険部会

 介護人材の確保策などを議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は「介護助手という名称では混乱を招くのではないだろうか」と指摘し、報酬上の対応などを尋ねた。厚労省の担当者は「外部への業務委託を介護助手と同じ扱いにすることは現時点では考えていない」と答えた。

 厚労省は7月25日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学法学学術院教授)の第95回会合を一部オンライン形式で開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。

 同部会では、介護保険制度の見直しに向けた検討が進められている。5月16日の第93回会合で示した「当面検討を行う論点」のうち、今回は「介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進」が主なテーマになった。

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02_【資料1】介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進について_2022年7月25日の介護保険部会

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介護職の業務を切り分ける

 厚労省は同日の会合に「介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進について」と題する92ページの資料を提示。この中で、「総合的な介護人材確保対策」として進めているモデル事業などの取り組みを紹介した。

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10_【資料1】介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進について_2022年7月25日の介護保険部会

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 基金を活用した「介護現場における多様な働き方導入モデル事業」では、取組例の「ステップ1」として、「地域の特性をふまえ、介護助手や季節限定労働者等、多様な人材を効率的に呼び込むための手法の検討・改善」を挙げている。

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15_【資料1】介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進について_2022年7月25日の介護保険部会

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 また、介護助手等の普及に向けた事業では、掃除や配膳、見守り等の周辺業務を担う人材を介護事業所とマッチングする仕組みを構築。厚労省の担当者は「介護分野への参入ハードルを下げて、さらなる人材確保を促進する目的で介護職の業務を切り分ける」と説明した。

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16_【資料1】介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進について_2022年7月25日の介護保険部会

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令和3年度の実施は8府県

 質疑で小林司委員(連合総合政策推進局生活福祉局局長)は「これらの事業が人材確保にどれほどつながってきたのか。令和3年度の政策評価の事前分析表を見たが、どれぐらいかは書かれていなかった」と指摘し、「可能な範囲で教えていただけないか」と尋ねた。

 厚労省福祉基盤課福祉人材確保対策室の今泉愛室長は「多様な働き方の導入モデル事業は令和3年度から基金事業で始まったもので実績は調査中」とした上で、「令和3年度実施の自治体数は8府県」と答えた。

 また、「介護助手」等の普及を通じて多様な就労を促進する事業については、「まさに今年度から始まった事業で申請を受け付け中」とし、「実際に今、申請があるのは3府県」と答えた。

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学生アルバイトを想定した介護助手も

 今後の対策について、染川朗委員(UAゼンセン日本介護クラフトユニオン会長)は組合員8万6,321人の調査結果を紹介し、「若い介護従事者が極めて少ない。対策を講じるべきは若者の確保ではないか」と強調した。

 調査によると、40代は21.7%、50代が28.8%、60代が20.8%である一方、20代が8.4%、30代が12.8%という結果だった。染川委員は「既に女性や中高年齢者が労働力の中心となっているのが実態」とし、いわゆる「元気高齢者」を介護助手として介護現場に呼び込む方向性に疑問を呈した。

 石田路子委員(名古屋学芸大学看護学部教授)は「さまざまな介護の業務を細分化して、介護のスキルが必ずしも必要ではない業務に介護助手のマンパワーを当てる考え方は非常にいい」と評価しながらも、「若い世代の参入が少ない現状があるならば、例えば学生アルバイトなどを想定した介護助手というイメージも今後は必要ではないか」と述べた。

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介護助手に対する報酬の評価は

 橋本会長は「国家資格を持たない人でもできる仕事がある」とし、掃除などの周辺業務を「間接介護」、介護福祉士のような専門職が身体に直接触れる業務を「直接介護」として明確化する必要性を指摘。その上で、介護助手が担う「間接介護」を外部の業者に委託する場合のコストも課題に挙げた。

 東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「人件費がかかるが、介護助手が多くいる施設は介護職員が本来の介護業務に専念することができてケアの質の向上にもつながるのは明らか」とし、「介護助手の普及を図るために今後は何らかの報酬上の評価も必要にはなるのではないか」と提案した。

 一方、石田委員は「掃除や洗濯などを業者に委託する場合が少なからずある」とし、「それにプラスして介護助手を新たに導入する場合には、その整合性を踏まえ、介護助手に対する報酬の評価は厳密に考えるべき」と述べた。

 江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「介護助手の定義が一般的にまだ共有されておらず、コンセンサスが得られていないのも実情」と指摘。「雇用関係にある労働者であるのか、事業所の人員配置基準に含まれるのか、すなわち介護職員の範疇にあるのか等の基盤を整備し、ひいてはガイドライン等の作成も念頭に入れるべきではないか」とコメントした。

【橋本会長の発言要旨】
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■「介護助手」について
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 資料33ページに介護業務のガイドラインが示されている。このようなガイドラインを作成していただいたのはとても評価できる。その中で、②の「業務の明確化と役割分担」は大切であり、私どもが以前から主張している内容が含まれているので非常にありがたい。 
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33_【資料1】介護人材の確保、介護現場の生産性向上の推進について_2022年7月25日の介護保険部会
 ②の絵を見ると、「介護職員が専門能力を発揮」「介護助手が実施」とある。ここに「介護助手」という名称が出ているが、この「介護助手」というのは、看護師がいて、看護助手がいて、そして介護福祉士がいて介護助手というイメージだろうか。それで「介護助手」という名称になったのだと思うが、ちょっと混乱を招くのではないだろうか。わかりにくいところもあるかと思う。
 名称は「介護助手」でも構わないと思うが、私たち医療従事者が説明するときのために、「直接介護」「間接介護」という名称も入れてはどうか。そのほうがわかりやすいのではないか。介護助手は間接介護を担当し、介護福祉士は直接介護を担当するとされるほうが、業務の内容が私たちにはわかりやすいところもある。意見として述べておきたい。
 業務の明確化と役割分担はとても大事だと思う。介護助手が実施する間接介護の業務は国家資格を持たない人でもできる仕事で、シーツ交換や掃除、ゴミ捨て、物品の発注や受け取り、洗濯など、たくさんある。介護士の業務のうち、半分ぐらいはそういう仕事。そこを明確化して、患者さんの体に触れる業務は直接介護、そうではない周辺業務は間接介護であると、はっきり分けていただければいい。働きがいにもつながると思う。
 それに関して、介護助手の仕事が業務委託になる場合について質問したい。ルームキーパーを雇ってシーツ交換や掃除をしていただくなど、業務を委託した場合も「介護助手」に含まれるのだろうか。そのコストが非常にかかるが、今後、何かそれに関する補助などがあるのかをお聞きしたい。タスク・シェアなどを考えると、やはり専門家にお願いしたほうが効率がいい。洗濯は洗濯業者の人にお願いしたほうがいい。掃除の業者はルームキーパーを雇って教育をしている。教育面も含めて専門業者がよいと思うので、私どもの施設では、そういう対応をしている。今後、ぜひ考えていただきたい。

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【厚労省老健局高齢者支援課・須藤明彦課長】
 介護助手の外部への業務委託はどうなのかという質問があった。現時点では、介護助手について皆さまから名称も含めていろいろご意見もいただいているところなので、そこも含めて考えたい。まずは間接的な業務等を中心に、という運用を考えているので、現時点では、外部業務委託そのものを介護助手と同じ扱いというのは今のところは考えていない。
 また、外部への業務委託等に関しては費用もかかる。そういったところへの支援はあるのかという質問もいただいた。その点に関しては、トータルで、こうした生産性の向上につながるような取り組みに対してどうインセンティブ等を考えるかという中で、しっかりと考えていくべき課題であると認識している。

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■ 介護福祉士養成施設等の状況について
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 処遇改善加算が導入されてから介護福祉士の数は増えたのだろうか。私もいろいろ調べたが、なかなかわかりにくい。資料7ページ(介護福祉士の資格の概要)によると、合格者数は約6万人、資格者の登録状況は約180万人、養成施設数は463校ある。これは実際、増えているのだろうか。 
 大阪では、介護福祉士を養成する施設が定員割れしているので、募集をやめる施設もあると聞いている。介護士の養成施設が減っているのではないかと危惧している。

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■ 介護ロボットの導入支援について
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 介護ロボットの導入支援の対象に「見守りセンサー」がある。とても有用であるかもしれないが、プライバシーの問題があるので慎重にしていかなければいけないと思う。24時間、常に誰かに見られている。ずっと見られたままでいいのかとも思う。ちょっと微妙なところがある。身体拘束として禁止されるケース、精神的圧迫にも関わるので注意する必要があると思う。
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■ 特定看護師の活用について
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 染川委員の発言にあったように、介護現場は高齢化している。私もよく経験するのだが、呼吸状態が急に悪くなった場合など、急変時の対応について医療的なところで恐怖を感じてしまう。90歳、100歳の高齢者がたくさんいるので、「私、こんな所で働いていて、もし利用者の息が止まりそうなったらどうしたらいいの?」という不安の声をよく聞く。医師がいればそれが一番いいのだろうが、コスト的に難しいと思う。
 そこで、特定看護師の活用もこれから必要になってくると思う。そういったことも考えていければいいと思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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