LIFEは二人三脚で育てていく制度 ── 介護給付費分科会で田中常任理事

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田中志子委員(日本慢性期医療協会常任理事)_2021年9月27日の介護給付費分科会

 新たな介護情報システム「LIFE」の課題が指摘された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は「LIFEはこれから事業所と国とが二人三脚をしながら育てていく制度だ」と期待を込めた。

 厚労省は9月27日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第203回会合をオンライン形式で開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。

 厚労省は同日の分科会に、令和3年度改定の効果等を検証するための調査案を提示。LIFEを活用した取組状況などに関する調査については、モデル調査の実施などを提案し、了承された。
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令和3年度調査は4項目

 今回の主な議題は、「令和3年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(令和3年度調査)の調査票等について」。

 冒頭、厚労省老健局老人保健課の平子哲夫課長は「令和3年度介護報酬改定に関する審議報告において検討が必要とされた事項などを整理するため、令和3年度、4年度、5年度に、それぞれ4本、6本、6本の調査を予定している。今回は令和3年度分の4本についてご審議をお願いする」とし、4つの調査概要を説明した。

 令和3年度調査は、①介護医療院、②LIFE、③文書負担軽減、④福祉用具貸与価格──の4項目。
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アンケート、ヒアリング、モデル調査

 LIFEの調査では、LIFEに関連した加算を算定している施設・事業所のうち約5,000箇所のほか、LIFEへのデータ登録がない事業所・施設の約2,500箇所を対象にアンケート調査を実施する。

 また、アンケート調査の回答があった事業所・施設のうち、「効果的にLIFEを活用している」と把握された事業所・施設の約25箇所と、「LIFEの活用に介して課題を感じている」と把握された事業所・施設の約25箇所に対してヒアリング調査を実施する。

 モデル調査では、訪問介護事業所・訪問看護事業所に対して、それぞれ約10箇所、居宅介護支援事業所は約10箇所としている。ただ、どのような事業所を「モデル」とするのか、選定基準は示されていない。
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現場が回答しにくい選択肢では

 質疑で、田中常任理事はLIFEのモデル調査について質問。「モデルの選び方はどのようにするのか」と尋ねた。

 平子課長は「訪問介護事業所・訪問看護事業所については、モデル事業所を募集して実施していこうと考えている。居宅介護支援事業所については、通所介護などの居宅系サービスでLIFEにデータ提出を行っている利用者を担当するケアマネジャーが存在する対象事業所を特定の上で、モデル事業所を募集することを考えている」と答えた。

 田中常任理事はまた、LIFEの調査について「現場が回答しにくい選択肢になっているのではないか」と指摘した。

 平子課長は「最低限の状況は把握させていただきたいということもあって、設問を設定させていただいている」と理解を求めた。
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負担感と今後に対する不安感

 LIFEは、介護サービスの質向上などを目的に令和3年度介護報酬改定で創設されたが、この日の会合では委員から厳しい指摘が相次いだ。

 全国老人福祉施設協議会(老施協)副会長の小泉立志委員は、老施協で実施したアンケート調査の結果を公表。「LIFE活用における課題として挙げられた主なものが全部で5つある」とし、①手入力で、LIFEへのデータ入力作業の負担が大きい、②LIFEに入力するための体制を整えるのが難しい、③LIFE記入項目に対する実施指導への不安、④LIFEを活用するイメージがわかない、⑤介護記録ソフトの入力からLIFEへのデータ転送までの負担が重たい──の5つを挙げた。

 小泉委員は「換言すれば、『負担感と今後に対する不安感』であると言える」とし、「これらの課題を解決できる手がかりが得られるような調査を望む」と求めた。
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手入力が必要である施設が半数以上

 全国老人保健施設協会(全老健)会長の東憲太郎委員は「LIFE導入状況調査に関して老施協と私ども全国老人保健施設協会で同じ調査票で調査しているので、老健の状況について補足させていただきたい」と切り出し、入力の負担に関する回答を挙げた。

 東委員は「そもそもLIFEは手入力等を行わずにICTを利用することで現場スタッフに大きな負担をかけずにデータを収集するということが大前提であった」とし、「介護ソフトがLIFEに対応している場合であっても、大部分および一部において手入力が必要になっている施設が半数以上」と指摘した。

 また、「業務時間内で対応できている」との回答は老施協37.9%に対し、全老健では14.5%だったことを挙げ、「ほとんどの施設で時間外労働を強いられており、当初、目指したものとはかけ離れている状況である」と苦言を呈した。
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LIFEの成長が見守っていける

 田中常任理事は「老施協の小泉副会長や全老健の東会長もおっしゃっているように、入力に大変時間がかかっているが、今回の調査では入力時間に関する設問がない」と指摘し、調査項目への追加を提案した。平子課長は「検討させていただきたい」と述べた。

 田中常任理事は「入力を開始したころは大変時間がかかったが、例えば、3年、5年という経過の中で入力が簡単になり、二重入力等はなくなったというようなアウトカムを出すためにも、現在の入力の手間に関しての設問を1つ加えていただくほうが、よりLIFEの成長を見守っていけるのではないか」と提案した。

 田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。
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2021年9月27日の介護給付費分科会

 LIFEに関して、今後、モデル事業を実施するということで、訪問系の所にサービスを広げたらどうなるかを調査するとされている。このモデル事業における「モデル」の選び方はどんなふうにするのかを質問したい。
 LIFEは、これから事業所と国が二人三脚で育てていく制度であると認識している。しかし、現在、まだフィードバックをいただいているものを、個人のケアプランに落とし込むにはまだまだ不十分。4月のものが現在動いているというような状況である。スケジュールを拝見すると、10月、11月で調査の回答をするとしている。
 そうした中で、調査票では、LIFEの活用状況についての回答で「フィードバック票を用いた提供サービス・ケアの見直し」「フィードバック票を用いた利用者・家族への説明」がある。
 また、「LIFEを活用することで、ケアの一連の活動(介護過程の展開)のプロセスの中で役に立った点を教えてください」との問に対する回答では、「LIFEにアセスメントデータが一元管理されることで、多職種での情報連携がしやすくなった」「LIFEへのデータ提出を通じて、利用者の経時的な状態変化等を分析するようになった(分析する予定)」という選択肢がある。
 さらに、「LIFE活用によるケアの質の向上に向けた取組の課題」についての設問では、「アセスメント・フィードバックをケアの質の向上に活かせていない」という選択肢がある。これらに関しては、なかなか現場が回答しにくい選択肢になっているのではないかなというのが現場の私どもの意見である。
 今後、LIFEを広く普及、または活用していくにあたり、比較検討が必要だと思うが、先ほど来、老施協の小泉副会長や全老健の東会長もおっしゃっているように、入力に大変時間がかかっている。しかし、今回、入力時間に関する設問がない。入力を開始したころは大変時間がかかったけれども、例えば、3年、5年という経過の中で入力が簡単になり、二重入力等はなくなったというようなアウトカムを出すためにも、現在の入力の手間に関しての設問を1つ加えていただくほうが、よりLIFEの成長を見守っていけるのではないか。これは意見である。

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【厚労省老健局老人保健課・平子哲夫課長】
 まず、LIFEのモデル調査の対象をどう選定するのかという質問であるが、「別紙2-2」の4ページをご覧いただきたい。(3)①で、訪問介護事業所・訪問看護事業所について、先ほど説明を割愛させていただいたが、モデル事業所を募集して実施していこうと考えている。また、居宅介護支援事業所については、通所介護などの居宅系サービスで、LIFEにデータ提出を行っている利用者を担当するケアマネジャーが存在する対象事業所を特定の上で、モデル事業所を募集することを考えている。
 また、項目の中身ということであるが、現在のフィードバックについては、単純なものをフィードバックするには限られてはいるが、フィードバックは一定程度、行われているという状況の中で加算としてもPDCAサイクルの実施を求めるということでもある。最低限の状況は把握させていただきたいということもあって、設問を設定させていただいている。
 一方で、入力時間について、現状、手間ということが大きな課題になっている中で設定することを考えるべきではないかというご指摘である。これについては検討をさせていただければと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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