高齢コロナ患者の治療は適切か ── 会見で武久会長、早期転院を呼び掛け

会長メッセージ 協会の活動等

武久洋三会長_2022年3月11日の記者会見

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は3月10日の定例記者会見で、「高齢コロナ患者の治療は適切か」をテーマに見解を述べた。武久会長は、急性期病院のコロナ専用病床で低栄養や脱水などで死亡するケースが多く見られるとの認識を示し、慢性期や回復期病院への早期転院を呼び掛けた。

 会見で武久会長は、昨年10月までの会員病院のデータを示し、入院時から退院時までのADLの変化を紹介した。

 それによると、コロナ発症前のADLが「自立」であった患者の約6割は、慢性期病院に入院する時に「一部介助」に落ちていた。一方、慢性期病院の入院時に「全介助」だった患者の約3割は慢性期病院で「自立」に、約2割は「一部介助」に改善していた。

 武久会長は「ウイルスを直接的に絶対的に完治させる治療法はまだないので、患者の体力と抵抗力を強化するしか方法はない。ウイルスの増殖をいかに抑制するかに注力すべき」との考えを示し、「発症後10日間が過ぎたら直ちに回復期や慢性期に転院させて、すぐに全身状態の悪化の改善をすべき」と述べた。

 この日の会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。

.

低栄養・脱水等で死に至った

[矢野諭副会長]
 定刻になったので令和4年3月の定例記者会見を開催する。武久会長、よろしくお願いしたい。
.
[武久洋三会長]
 いよいよ2021年度の年度末だが、第6波がなかなか収まらない。診療報酬の改定も出た。詳しい説明も出た。
 
 大変な時である。コロナが収まらない。高齢者が多く死亡している。こうした状況に対して日本慢性期医療協会はどういうスタンスで臨むか。高齢コロナ患者の治療は適切か。本日は、このテーマを中心に述べたい。
 
 日本慢性期医療協会は従来から、コロナに感染して急性期病院の専用病床で治療した後の患者、いわゆる「ポストコロナ」の患者を積極的に受け入れる方針を示している。当会の会員病院は第6波でも、どんどん引き受けている。高齢者のコロナ治療によって引き起こされた低栄養・脱水等による衰弱からの回復やリハビリテーションは、急性期病院ではなく私たちの専門であるからだ。
 
 第6波では、東京でもまだ1万人前後の感染状況が続いている。3月現在、高齢のコロナ患者が増えるにつれて、急性期病院のコロナ専用病床での死亡者数がどんどん増えている。
 
 それはなぜだろうか。現場からの報告によると、こうした患者は低栄養・脱水等による衰弱、混合感染等により死に至ったケースが多いという。すなわち、コロナが直接の死因ではないとの見方もできる。

.

急性期病院で「自立」が「一部介助」に

 日慢協関連の25病院について、昨年10月までの約1年半のコロナ患者受入れ状況を調べたところ、600人近い受入れ患者の多くをポストコロナ患者が占めていた。コロナ患者187人に対し、ポストコロナ患者は374人だった。

.

06_2022年3月11日の記者会見資料

.
 
 その中で、コロナ発症前のADLが「自立」だった人は237人。その「自立」のままで慢性期病院に紹介されて入院した患者が44人だった。

.

07_2022年3月11日の記者会見資料

.

 ところが、「自立」から「一部介助」になった紹介されたのは148人で、約6割を占めていた。「全介助」が44人で2割近い。コロナ患者は、このような状態で急性期病院から紹介されてきた。

.

慢性期病院で「一部介助」が「自立」に

 
 ポストコロナ患者を「自立」の状態で受け入れた病院は一生懸命に治療して、軽快退院が43人。97.7%が「自立」のままで帰っている。
 
 「一部介助」で入院した患者は 70.3%が「自立」で、「一部介助」のままだったのは 12.8%だった。「全介助」はわずか2人(1.4%)である。
 
 入院時に「全介助」だったポストコロナ患者は、31.8%が「自立」で帰っている。「一部介助」は20.4%、「全介助」は1人(2.3%)だけだった。このようにADLが改善して帰っている。
  
 これは第5波の時のデータである。今回の第6波で、コロナ専用病床を持つ病院がポストコロナ患者をわれわれ慢性期病院にどんどん紹介してくれていたら、現在のような状況にはなっていないはずだ。それぞれの病床機能を持つ病院による機能別対応ができなかったことで、結果として満足できるものとなっていないのは明らかである。

 発症後10日間が過ぎたら直ちに回復期や慢性期に転院させて、すぐに全身状態の悪化の改善をすべきである。コロナによる発熱や食欲不振、水分や栄養の摂取不足など、いろいろなものが重なっている。現在のコロナ専用病床の平均在院日数を公表してほしい。

.

もっと適切に補充していれば

 コロナウイルスは2週間前後で体内から消えるとされるが、重症患者の場合はどうか。急性期のコロナ専用病床では、どのような対応がなされているのだろうか。

.

10_2022年3月11日の記者会見資料

.

 最近のデータとして、A病院(回復期リハビリテーション病棟)でクラスターが発生した時の状況を示す。

 回復期リハビリ病棟でクラスターが起こった時の軽症者は16人、中等症以上は14人だった。すでに入院している患者なので、血液検査のアルブミン値はいずれも3.5以下になっている。軽症者は3.4、中等症以上は3.1である。

 このうち中等症以上の場合、入院中で最も悪かったときは入院時の3.1から0.4減の2.7に下がっているが、尿素窒素(BUN)やクレアチニン(CRE)は正常である。栄養の投与はやや少なかったが、水分投与は適切にできていた。
 
 入院時と比較した悪化率について、中等症以上の場合は 13.9%の減少で済んでいる。もともと3.5以下だったのが少し下がった。しかし、もっと適切に補充していれば、これほど下がることはなかったとも考えられる。

.

低栄養の状態では悪化する

 介護老人保健施設ではどうか。B老健施設で48人が陽性となって、このうち軽症者が36人、中等症以上が12人だった。

.

11_2022年3月11日の記者会見資料

.
 
 クラスター発生前、軽症者のアルブミン値の平均は 3.3だった。中等症以上は3.1で、クラスター前でもやや低い。補充が十分にできていない。
 
 クラスター後の平均値では、中等症以上の平均3.1が2.4に下がっており、アルブミン血症になっている。原因か結果かは別として、低栄養の状態では中等症以上に悪化すると言える。

.

ウイルスの増殖を抑制する

 

 人間は毎日、栄養と水分を摂取しなければ生きてはいけない。コロナに罹患した高齢者は予備力がない。非常に弱い。少なくとも毎日、必要な栄養量や水分量だけでなく、それまでに不足していた分も摂取しなければ、どんどん衰弱してしまう。
 
 高齢者の場合、すでに虚弱化している人もいる。そのため、虚弱化した高齢者を診断したら、直ちに栄養や水分を補充することが肝心である。体力がなければ病には勝てない。これは常識である。
 
 ウイルスを直接的に絶対的に完治させる治療法はまだないので、患者の体力と抵抗力を強化するしか方法はない。食事が十分とれなければ、栄養補給は経管栄養ではなく、主に中心静脈栄養となる。栄養と水分を補充している間に体力を回復させ、コロナに打ち勝ってもらうしかない。
 
 特効薬のない疾病に対し、医療スタッフは患者の体力の補充に努めて抵抗力を強めるとともに、ウイルスの増殖をいかに抑制するかに注力すべきである。

.

地域の急性期病院との連携を進める

 今年2月17日に日慢協から会員宛てにメールで一斉送信した内容をご紹介したい。メールの内容は次のとおりである。
 
 「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は、今や第6波に入り、すでに2年に及び度重なる医療崩壊を招き、医療や介護が正常な体制に戻る見通しは未だ見えない状況です。
 
 しかしながら、我々の使命として国民の命を守ることに努力を惜しまず、どのような状況下であっても慢性期医療を提供する者としての役割を果たしていかねばなりません。
 
 日本慢性期医療協会では、2020年2月にダイヤモンドプリンセス号の乗客対応以降、特にポストコロナ患者受け入れを頑張っている会員病院も多くあります。
 
 この度2月9日に厚生労働省医政局からポストコロナ患者に対しての協力要請を受け、翌10日の記者会見において、その旨お知らせさせていただいておりましたが、本日、岸田文雄首相が日本医師会中川俊男会長と官邸で面会され、高齢者施設でCOVID-19に感染した入所者が療養を続ける場合、施設への補助金を一人当たり最大15万円から30万円に倍増。
 さらに、感染後に症状が悪化せず拠点病院から転院する人や、救急患者を受け入れる病床を確保した医療機関に、1床当たり450万円を支援する医療強化策を表明されました。」
 
 これらの内容について、各病院が直ちに対応できるとは限らないが、政府もポストコロナに対して気を配っていることの証左だと思う。

 「最近は特に高齢者でCOVID-19に罹患した患者が多く、死亡例も増えています。しかし直接の死因はCOVID-19というより、低栄養、脱水などによる衰弱、混合感染によるものです。高齢患者においては急性期治療を終えても、栄養状態の改善等の全身状態の回復に努め、適切なリハビリテーションの提供等の医療・ケアを提供することが必要です。
 
 つまり、ポストコロナ患者については、COVID-19の感染症病棟から慢性期病棟になるべく早く転院を促し、慢性期医療が日常復帰に向けた重責を担っていくことが強く求められております。会員病院におかれましては、地域の急性期病院との連携を進め、ポストコロナ患者の受入れに積極的に取り組んでくださいますようお願い致します。」

 このように、会員病院にお願いした。

.

ポストコロナ患者は慢性期病院に

 最後に、改めてポストコロナ対応について述べる。日本慢性期医療協会は、新型コロナウイルス感染が拡大し始めたころから「ポストコロナ患者は慢性期病院に任せていただきたい」と訴えてきた。
 
 ポストコロナ患者を受け入れ、栄養や水分投与、そして積極的なリハビリテーションを行い、在宅復帰を目指してきた。
 
 しかし、第6波においても、コロナ専用病床が優先的に使われており、そこに長期入院している患者さんが非常に多い。その結果として、高齢患者の状態が低栄養や脱水に陥りやすくなっている。誤嚥性肺炎の合併症によって死亡する例が多いとの報告もある。
 
 普通の病気の場合、まず急性期病院で急性期的な医療処置をしていただく。そして良くなって、その後の回復をしっかりするために慢性期病院やリハビリテーションを行う。これは普通の病気の場合の普通の流れだが、現在のコロナ対応は普通の流れではない。
 
 コロナ専用病床に入って、そのままずっと治療する。そこで良くなればいいが、入院期間が長くなって、結局、低栄養や脱水、混合感染で亡くなる例があること自体が由々しきことだと思われる。
 
 コロナ感染が直接の死因となるのではなく、コロナ治療中における栄養や水分補給が不十分であるために、あるいは体を動かさないことによる弊害で体力が失われて誤嚥性肺炎になったり、いろいろな混合感染を引き起こしたりして、ついに亡くなるということは本来あってはいけない。
 
 ポストコロナに対して慢性期医療の現場は、特に日慢協の会員は地域の中で積極的に受け入れさせていただく。私からの説明は以上である。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

この記事を印刷する この記事を印刷する
.


« »