中心静脈栄養の実施、「10%前後」と反論 ── 入院分科会で井川常任理事

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01_2021年10月1日の入院分科会

 中心静脈栄養の実施について新たな分析データなどが示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎常任理事は「療養病床で10%前後という数字が出ている。40床の病棟であれば4例ぐらいしかない」と反論した。

 令和4年度の診療報酬改定に向けて厚労省は10月1日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院医療等の調査・評価分科会」の令和3年度第8回会合をオンライン形式で開催した。

 同日の会合に、当会からは井川常任理事が委員として出席し、中心静脈栄養の実施をめぐる問題のほか、特定看護師の評価、回復期病棟での心臓リハビリ、地域包括ケア病棟の実績評価などについて意見を述べた。
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02_2021年10月1日の入院分科会
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中心静脈栄養、「割合が多い」との意見

 厚労省は同日の会合に、9月22日の中医協小委員会・総会で出された主な意見を提示。この中で、「中心静脈栄養を実施されている患者の割合が多い」との意見があったことを紹介した。
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スライド01_【入-1】中医協基本問題小委員会・総会への報告結果について_2021年10月1日の入院分科会

               2021年10月1日の同分科会資料「入-1」P3から抜粋
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 一方、厚労省は同日の会合に「中心静脈栄養を実施している患者数についての分析」と題する新たな資料を提示。それによると、平成30年10月では10.27%、令和2年10月では10.25%で、前回改定の前後で「大きな差はみられなかった」としている。
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スライド02_P141_【JPEG】【入-2参考1】診療情報・指標等作業グループにおける検討内容_2021年10月1日の入院分科会


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割合が多いとの指摘、「実はそうではない」

 次期改定に向けた入院医療の審議は、前回9月8日の同分科会で中間報告をまとめ、続く22日の総会で承認を得た後、再び入院分科会に審議の舞台が移った。この日の会合では、令和3年度の調査結果が新たに示され、これを踏まえて2巡目の議論に入った。

 委員からは、中心静脈栄養の患者に嚥下リハビリと脳血管疾患等リハビリのいずれも実施されていない割合が5割超である理由などを問う声があった。

 井川常任理事は、摂食機能療法の対象となる患者の算定要件が狭いことを改めて指摘し、「VE(嚥下内視鏡検査)やVF(嚥下造影検査)を実際にできない患者さんが少なくない。嚥下リハをしていくための疾患の対象がないので点数が取れない。だからなかなか伸びないこともあるので、これを改善していく方向が必要だろう」と理解を求めた。

 中心静脈栄養の割合について9月22日の中医協で出された「割合が多い」との意見に対しては、「実はそうではない。40床の病棟であれば4例ぐらいしかないという実態をご理解いただきたい」と反論した。

 井川常任理事の主な発言要旨は以下のとおり。
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02_2021年10月1日の入院分科会

■ 中心静脈栄養の実施割合について
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 慢性期医療の立場から療養病棟について述べる。資料で中心静脈栄養を実施している患者数の変化が示されている。数字のご説明はなかったが、CV(中心静脈カテーテル)が入っている率は療養病床で10%前後という数字が出ている。
 先ほど、中医協小委員会・総会から指摘について説明があった。資料では、「中心静脈栄養が実施されている患者数の割合が多い」との指摘が記載されている。しかし、実はそうではなくて、40床の病棟であれば4例ぐらいしかないという実態があることをご理解いただきたい。

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■ 中心静脈栄養患者への嚥下リハビリについて
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 (中心静脈栄養患者に嚥下リハビリまたは脳血管疾患等リハビリのどちらも実施されていない割合が5割超である理由などについて)委員から質問があった。前回の分科会でかなり細かくご説明をさせていただいたが、やはりマンパワー問題がある。
 また、摂食機能療法の対象となる患者の算定要件が非常に狭い。「摂食障害がある」、もしくは「嚥下機能の低下が確認できる」という2つしかない。VE(嚥下内視鏡検査)やVF(嚥下造影検査)を実際にできない患者さんが少なくない。
 特に、一番多いのは何かと言うと、脳血管疾患、気管切開した患者さんよりも、廃用になって来られる患者。そういう患者さんに対して嚥下リハをしていくための疾患の対象がないので点数が取れない。だからなかなか伸びないということがあるので、これを改善していく方向が必要だろう。
 こうした点も踏まえ、中心静脈栄養について、嚥下機能評価やリハビリテーションの実施をより促進させるなど、中心静脈栄養からの離脱を評価する視点の検討が必要という意見を出させていただいている。

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■ 中心静脈栄養患者からの離脱について
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 (経管栄養や胃瘻という選択肢もあるのではないかとの指摘に対して)現場感覚から言えば、何回か申し上げたように、最初に急性期病院でCVを入れられる患者さんが多い。前回の改定により、家族らにしっかりと説明するようになり、約1割の意向が変わったというデータも出ている。少し意識が変わったとは思うが、CVから胃瘻への転換に関しては、まだ患者さんの抵抗は非常に強いというのが事実である。
 経鼻胃管について、本来は腸を使うことが理想ではあるが、経鼻胃管をすると、多くの方は抑制をしなければいけなくなる。抑制という別の問題が関わってきてしまう。経鼻胃管が入っていると、ご本人にとっては非常に気持ちが悪い。チューブが顔の横からビーッと出ている状況なので、どうしても抜かれてしまい、ミトンであったり、場合によっては本当の抑制みたいなことになる。ADLも上げたいが、栄養も上げたいというところで、なかなか難しい。
 そこで、最近、私が注目しているのは特定看護師ができるようになったPICCである。栄養状態の悪い方には特定看護師がPICCを入れて、胃瘻に移行するか、経口訓練や嚥下訓練をどんどん実施して食べていただく。こうした取り組みを慢性期側で進めていかなければいけないと考えている。

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■ 特定看護師の評価等について
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 (ICUにおける適切な研修を修了した看護師の配置の評価が必須との意見を踏まえ)私からも意見を述べたい。
 日本慢性期医療協会は特定看護師を輩出している団体で、すでに現在、240名ほどの修了生がいる。やはり特定看護師について申し上げなければいけないと思っている。
 特定集中治療室管理料の1・2の施設基準の配置要件として「適切な研修を修了した看護師」と認められる特定行為研修を修了した看護師の基準がかなり厳しい。8区分全部を取らなければいけないのだが、トータル21行為を全て網羅して修了しないと、クリニカルケアの認定看護師と同じような扱いにはならない。 
 実際に、循環器関連の研修できる施設は現在の289施設の中で35施設となっている。そのため、大学院などに行かなければ、特定集中治療室管理料の基準を満たす特定看護師にはなれないという事態が起きている。
 現在、特定看護師がなかなか増えないということもあり、特定行為研修では、実施頻度が高い特定行為をパッケージ化した研修が増えている。平成30年4月から導入されており、令和2年10月には集中治療領域のパッケージ研修も始まった。こうしたパッケージ研修は全ての領域ではなくコンパクトにまとめられている。そこで、例えば、こうしたパッケージ研修を修了した看護師を(適切な研修を修了した看護師として)認めていただくなど、そういう方向性を進める必要がある。 
 特定看護師のメリットは非常に多い。医師の手順書さえあれあれば、医師に毎回問い合わせなくてもECMOなどを操作し、疼痛コントロールでは硬膜外カテーテルからの鎮痛剤の量を変えたりもできる。
 特定看護師は厚労省が進めている制度でもあるので、ぜひ、基準を少し緩和するなどして、特定看護師の配置が進めばいい。
 今回の資料によれば、適切な研修を修了した看護師の数字が出ている。専任の常勤看護師の平均3.3人、2.2人という数字に比べて、特定行為研修修了者は平均0.5人と、4分の1か5分の1ぐらいしかいないという状況であるので、緩和していただきたいと思っている。

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■ 回復期病棟での心臓リハについて
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 (心大血管リハビリを回復期リハビリ病棟の対象とすべきとの意見について)私はもともと心臓血管外科医であるので、意見を述べさせていただきたい。 
 われわれ心臓血管外科医の立場から、手術後の心機能は千差万別であると考えている。例えば、AS(大動脈弁狭窄)とMR(僧帽弁閉鎖不全症)の患者さんは違う。心不全の度合いが全く違う。例えば、狭心症と心筋梗塞。これも全く違う。狭心症の患者さんは、基本的には手術してしまえば心機能としてはほぼ正常、全く何もないという状況に近づく。
 そのため、フレイルが絡んでくると、その病態は実際に持久力を上げればいいのか、それとも筋力を上げていかなければならないのかという話に変わってくる。回復期リハでやろうと思うと、かなり疾患群を限定していくとか、EF(左室駆出率)など心機能そのものをある程度評価して、それ以上のものをやるということをしなければ、回復期リハビリテーション病院に循環器科医や心臓血管外科医を配置しなければならなくなる。
 実は、外科系の専門医資格を私は全部失った。というのは、外科系の場合、外科の手術をしないと資格がなくなる。内科系はまだ維持できるかもしれないが、心臓血管外科医は回復期リハビリ病棟にいると専門医ではなくなってしまうという問題もある。 
 そうすると、回復期リハビリ病棟での循環器科医や心臓血管外科医の配置をどうするのかという問題が大きくのしかかってくる。心臓リハビリを回復期リハビリ病棟に移行していくことを考えたとき、これが1つの大きな問題になるだろう。

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■ 地域包括ケア病棟の実績評価について
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 地域包括ケアの実績の各要件について、入院料ごとに満たしている施設の割合などが報告されている。
 資料によると、地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料の実績部分①~⑥のうち、①(在宅患者訪問診療料の算定)については、「どの入院料も基準を大きく上回っていた」としている。
 一方、医療機関分布を見ると、極端に少ない所と多い所が分かれてしまう。やはり平均値で評価するのは非常に無理がある。①から⑥のうち2つを取ればいいので、取らなくていいものに関しては、ゼロというのがいっぱい出てくる。従って、この部分を全部省いた上で平均値を取らないと意味がないと考える。つまり、①から⑥のうち、どの組み合わせで取っているのかをしっかりと出していただいて、その上で評価を加えていかなければならないと思う。

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■ 早期のリハ・栄養管理について
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 早期離床・リハビリテーションについて意見を述べたい。早期離床・リハビリテーションがしっかりとADLにつながるというエビデンスが出ているが、特定集中治療室管理料の早期離床・リハビリテーション加算の届出状況は75%から50%程度となっており、やはりまだ、これは少ないと思っている。
 早期栄養介入管理加算の届出状況を見ると、もっと少ない。早期離床・リハビリテーション加算の届出よりも2割ぐらい少ないという状況がある。これは、不十分な栄養のままリハビリをすることにもつながると考えられるので、やはり、この加算はもっと増えていくべきだろうと思う。
 そうした中で、何が問題かと言うと、やはり管理栄養士である。現在、管理栄養士がなかなか十分に確保できない。 
 管理栄養士は毎年、1万人ほど出ているが、病院に勤務しているのは全部で2万人ぐらいしかいない。特に、いろいろな加算の中で管理栄養士が必須条件になっていたり、介護のほうでも管理栄養士が必要になっていたりして、取り合いみたいになっている。そのため、管理栄養士を専任で配置するのはなかなか難しい状況にある。
 そのため、早期栄養介入管理加算などを動かすためには、早期に栄養を投与するところから始めるという原点に立ち返ったような要件化を考えていかなければならないのではないかと考えている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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