コロナ受け入れ、「病院によって受入れ患者数は違う」── 入院分科会で井川常任理事
感染拡大が止まらない。危機的状況にある大阪で緊急連携ネットワークなどを通じてコロナ病床の確保に奔走している日本慢性期医療協会の井川誠一郎常任理事は4月28日、入院医療に関する厚生労働省の会合で大阪の厳しい状況を説明。「病院によって受け入れの患者数が違う」と指摘した上で、コロナ患者の受け入れ状況を詳しく調査するよう提案した。
井川常任理事が問題提起したのは、医療機関に対する調査のうち「転院患者受入の動向」に関する設問について。
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2021年4月28日の同分科会資料「入-2参考」P1から抜粋
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原案では、コロナ患者受け入れの「有」「無」のみを回答する様式になっているが、井川常任理事は「人数を具体的に記入したほうが現状を把握できると思うが、どうだろうか」と提案した。
これに対し、人数を把握することの難しさや回答者の負担などを懸念する意見があった。一方、井川常任理事に賛同する声もあり意見が分かれたため、座長預かりとなった。
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次期改定に向け、入院医療の調査案
厚労省は同日、中央社会保険医療協議会(中医協)下部の診療報酬調査専門組織である「入院医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大名誉教授)の令和3年度第1回会合をオンライン形式で開催し、その模様を YouTube でライブ配信した。
ライブ配信は中医協総会などで既に実施されているが、同分科会のライブ配信は今回が初めて。第4波による緊急事態宣言を踏まえ、報道関係者らの傍聴を制限して開催された。当会からは井川常任理事がオンラインで参加した。
厚労省は同日の分科会に、次期改定に向けた入院医療の調査案を提示。116ページにわたる調査票のうち、前回調査からの変更点や新規の項目などを中心に厚労省の担当者が約20分間にわたって説明し、委員の意見を聴いた。
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9月以降、できるだけ早く結果報告
今回の調査は、令和4年度診療報酬改定の基礎資料となる調査で、診療報酬上の加算や要件の見直しなどに影響する。
この日の会合で示された調査票は、①施設調査票(P1~74)、②治療室調査票(P75~85)、③病棟調査票(P86~116)──の3部構成。
このうち、①と③はA~Dに分かれ、Aは主に急性期病院、Bは主に回復期の病院、CとDは慢性期病院など長期入院の患者を受け入れる病院が対象となっている。
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2021年4月28日の同分科会資料「入-2」P8から抜粋
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今後のスケジュールについて厚労省の担当者は「6月から7月に調査を実施して8月に集計し、9月以降、できるだけ早い段階で結果報告を当分科会、そして中医協の基本問題小委員会と総会に上げたい」と伝えた。
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療養病床の看護必要度のデータ解析を
調査票に関する質疑は、①施設調査票、②治療室調査票、③病棟調査票、④全体について──の4つに分けて行われた。
A(急性期)、B(回復期)、C・D(慢性期)に共通の施設調査票について、井川常任理事はコロナ患者の転院の受け入れに関する設問について発言した。
また、病棟調査票については、「療養病床の重症度、医療・看護必要度のデータ解析を検討していただきたい」と提案した。
井川常任理事の主な発言要旨は以下のとおり。
■ 施設調査について
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私は今、大阪に住んでおり、重症病床の使用率が130%を超えている状況である。急性期病院の先生方に話を聞くと、必ずしも重症病床に重症患者がいて、軽症患者が軽症の病棟にいるわけではないという。コロナ受け入れ病院、特に重症病棟をお持ちの先生から、そういう話をよく聞く。
すなわち、コロナ専用病院全体の病床が全て埋まっているために、重症患者の抜管をしても中等症を扱う病院には移れない。
逆に、中等症や軽症を扱っている病院で、患者が重症化しても重症病床を持つ病院に転院できないという状況がある。
中等症の患者を受け入れている病院では、人工呼吸器をつけている患者も多くいる。そうした中で、さらに悪化して、その病院でECMOをつけることができないために、手をこまねいて見ているしかない、という状況である。
大阪府知事も受け入れ病院をなんとか確保するために増床を指示しているが、お話を伺うと、現時点では増加分はもう数日で埋まってしまう状況である。
われわれ慢性期側の人間としては、この状態を少しでも軽減するために、後方支援病院がポストコロナの患者の受け入れを積極的に行って、軽症・中等症の病床使用率を下げる必要があると考えている。日本慢性期医療協会でも、こうした方針を会員病院に、ことあるごとにお願いしている。
調査票のA・B・C・Dにおいて、新型コロナの感染者の受け入れ病院からの転院患者の受け入れ、すなわち、ポストコロナの患者の受け入れの動向の項目が出ている。
ようやくポストコロナ患者の受け入れに光を当てていただいたと、ありがたく思っている。
私ども大阪では「大阪緊急連携ネットワーク」という急性期から慢性期へのネットワークシステムをつくっており、そこで70数名のポストコロナ患者を受け入れている。ただ、病院によっては1例から20例ぐらい、受け入れの患者数が違う。
コロナ患者の受け入れに関する設問は、施設調査票にも病棟調査票にもあるが、このうち施設調査票については、ポストコロナ患者の受け入れの「有」「無」だけではなく、例えば、人数を具体的に記入するようにしたほうが現状を把握できると思うのだが、いかがだろうか。
基本的には、補助金等との兼ね合いで、「月に何名」という把握は、病院側は割とできているのではないかと理解している。
なぜ、「人数」を調査する必要があるかと言うと、コロナ患者を受け入れた病床で、入院患者の割り振りがどう動いているかを知りたいからである。例えば、ポストコロナを受け入れたために、コロナ以外の入院患者の受け入れが非常に減ってきているとか、そういうことが表れているような病院が出てきているのか、ということも一緒に把握できるだろうと思っている。
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【厚労省保険局医療課・金光一瑛課長補佐】
患者数を入れたほうがよいのではないかというご指摘については、ぜひ先生方のさまざまご意見を伺いたい。われわれとすると、できるだけ簡素に、なおかつ答えやすく、と思って「有」「無」という所に丸をしていただく。これであれば、基本的にはお分かりいただけるのではないかと思っているので、「有」「無」という質問にしているが、これにあわせて患者数も入れると、答える医療機関側からすれば、かなり手間がかかるかもしれない。それでもなお入れたほうがよいのか、いや、とりあえずこれのほうがよいのか、これでも集計できるのかというところは、ぜひ、ご議論をいただいて、ご意見を賜れればと思っている。
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■ 病棟調査について
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病棟調査票の「C」(療養病棟入院基本料)について、令和2年度の調査票では、「新型コロナウイルス感染症による、貴病棟の重症度、医療・看護必要度に係る基準を満たす患者割合への影響について」という設問があったと思うが、今回の令和3年度調査では消えている。
その理由について教えていただきたい。療養病床は算定要件に入っていないので、この設問に答えることができないからだと私は理解しているが、それでよろしいだろうか。
もう1つは要望または質問だが、療養病床の重症度、医療・看護必要度のデータ解析を検討していただきたいが、その予定はあるだろうか。
現在、データ提出加算の経過措置があと1年を切り、療養病床でも多くの病院が提出することとなっている。療養病床の重症度、医療・看護必要度に関しても、DPCデータから抽出可能となるので、ほかの一般急性期や回復期リハ、地域包括ケアなどと同列にして、療養病床の重症度、医療・看護必要度のデータ解析をお示しいただけないだろうか。
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【厚労省保険局医療課・金光一瑛課長補佐】
1つ目の質問については、まさに先生ご指摘のとおり、療養病棟入院基本料の問いになるので今回は該当しないということで落とさせていただいている。
後段について、まさにその重症度、医療・看護必要度や医療区分、ADL区分をどのように扱うかは、(本分科会の下に設置する)「診療情報・指標等作業グループ」での議論になっていくかと思う。
今、頂いたご指摘について、どのようにできるかも併せて、検討の対象にはしてまいりたいと思っている。
(取材・執筆=新井裕充)
2021年4月29日