中心静脈栄養の原因、「多岐にわたり絡み合う」 ── 入院分科会で井川常任理事
令和4年度の診療報酬改定に向けて、日本慢性期医療協会の井川誠一郎常任理事は9月8日、入院医療の「中間とりまとめ(案)」を審議した厚生労働省の会合で、中心静脈栄養をめぐる問題について医療現場の声を伝え、「高齢者の摂食障害の原因は多岐にわたって、それが絡み合っている」と理解を求めた。
厚労省は同日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院医療等の調査・評価分科会」の令和3年度第7回会合をオンライン形式で開催し、当会からは井川常任理事が出席した。
厚労省は同日の分科会に、これまでの議論を踏まえた「中間とりまとめ(案)」を示し、委員の意見を聴いた。厚労省はこの日の議論を踏まえて一部修正し、次回の中医協・基本問題小委員会に報告する見通し。
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「検討結果」は11項目で構成
この日の審議に用いられた資料は「入-2ー1」(文章編)と「入-2-2」(資料編)で、このうち「文章編」では、これまで示されたデータや、分科会で出された意見を中心にまとめ、「検討結果」は11項目で構成されている。
井川常任理事は、5番の「地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料」、7番の「療養病棟入院基本料」について意見を述べた。
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2021年9月8日の入院分科会資料「入-2-1」P1から抜粋
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嚥下リハ、約9割に実施されず
療養病棟入院基本料の「医療区分・ADL区分」について、「中間とりまとめ(案)」では、主に中心静脈栄養をめぐる問題を記載。医療区分3の1項目に該当している患者の該当項目について「中心静脈栄養を実施している状態が最も多かった」とした。
その上で、中心静脈栄養に該当する患者について、入院中の嚥下機能評価の有無が「ありの割合は入院料1では25.4%、入院料2では32.6%、経過措置(注 11)では0%」と指摘。嚥下リハビリについては、「約9割の患者で入院中に実施されたことがなかった」と記載している。
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2021年9月8日の入院分科会資料「入-2-1」P11から抜粋
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摂食機能療法の対象、「非常に狭い」
質疑で、井川常任理事は「療養病棟入院基本料について大きな異論はない」と今回のとりまとめ(案)を了承した上で、中心静脈栄養の患者への嚥下リハビリの実施や、中心静脈栄養の抜去の見込みなどについて見解を述べた。
井川常任理事はその中で、摂食機能療法の対象となる患者の算定要件に言及し、「厚労省が診療報酬で定めている定義が非常に狭い」と見直しを求めた。
井川常任理事はこのほか、地域包括ケア病棟の役割についても意見を述べ、「ばらつきがあってもいい」と改めて強調した。
■ 地域包括ケア病棟の役割について
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資料「入-2-1」(文章編)の9ページ、地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料について、「地域包括ケア病棟の3つの役割のバランスが様々となっている、との指摘があった」と記載されている。
ともすれば、バランスが「様々」ということが問題であるような捉え方をされる可能性がある。これは7月8日の分科会での意見に基づくものと考えているが、この時の議論では、「3つの役割はバランスよく担うべきだ」という意見と、それから、「地域性や施設の持つ特性などを考えると、極端でなければ、ある程度、ばらつきがあってもいいのだ」という意見の2つ、両者があったと記憶している。
結論が出ていない以上、具体的に両者の意見があったということを私は記載すべきではないかと思っている。いかがだろうか。
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【厚労省保険局医療課・金光一瑛課長補佐】
「バランスが様々となっている」との記載は、先生のおっしゃっておられることを全て含み込んで「様々となっている」というふうにニュートラルに表現させていただいたつもりである。「ばらつきがある場合があってよいし、バランスよくやっている場合もあってよい」という意見のほうがよいというご指摘であれば、そのように修正してもいいと思うが、それも含み込んだ書き方であると事務局としては思っている。
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■ 地域包括ケア病棟の実態分析について
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資料「入-2-1」(文章編)の9ページでは、地域包括ケア病棟の3つの役割について「病床種別等での分析結果も踏まえつつ」「その一部しか担えていない病棟の場合の評価については、他の場合と分けて考えることも検討していくことについて、新たな要件等も念頭に、地域包括ケア病棟の実態等についてさらに分析が必要、との指摘があった」という記述がある。
これも7月8日の分科会であったと思うが、200床以上が対象の地域包括ケア病棟入院料2で、自院の一般病棟からの転棟割合が多く自宅からの入院が少ない病院が少なからずあるというデータが示された。これについて、牧野委員から「病床規模別で出してはどうか」という意見があった。
これに対し、中野委員から次のような意見があった。すなわち、「先ほど『病床規模別で分類を』という意見があったが、一部のみを担っている、一部しか担っていないという、地域包括ケア病棟について実態を知ることが必要だ。これをどういう形で知るかということになるかと思うが、この違いの評価なり新たな要件設定につなげるべく考えていかなければいけない」という意見であったと記憶している。
つまり、バランスが崩れる要因を検討すべきという意見であって、ベースに「病床種別」があるというニュアンスではなかったような気がする。従って、「病床種別等での分析結果も踏まえつつ」という記載が必要なのかどうか。私はなくてもいいような気がしている。
具体的に言えば、このディスカッションの中で牧野委員から、200床以上であれば、400床以上のところも入ってくるので、本来であれば自院からの転棟患者割合は減ってくるはずだが、結構転棟があるというお話があった。その上で、牧野委員は「入院料2に関して、病床規模単位でどういった状況になっているのか、病床規模単位でのグラフを作ることはできるだろうか」と求めた。
それに引き続く形で、中野委員から先述したような意見があった。必ずしも「病床種別」に限定するのではなく、例えば、退院までの日数などにも違いがあるのではないかと。だから、そういうものも一緒に検討しなければいけないという意見であると私は理解した。その上で、「要件に関しても考えてはどうか」というお話だった。
つまり、私の印象では、種別ではなく全体の要件として、これに対して影響を与えているものをもうちょっとしっかり見ましょうよ、という意見だったと記憶している。これは中野委員に伺ったほうがいいのかもしれない。
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【中野惠委員(健康保険組合連合会参与)】
今、解説していただいたとおりで、「大局的に見てどうか」ということで意見を申し上げたつもりである。
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【厚労省保険局医療課・金光一瑛課長補佐】
この文章の読み方なのかもしれない。冒頭の部分、「病床種別等での分析結果も踏まえつつ」というのは、ある意味、この文章編をまとめるにあたり、全部を受けているということかと思い、こちらを記載していた。そこの解釈がやや分かりづらいということかな、とも思ったので、例えば、「病床種別等での分析結果も踏まえつつ」というのを落として、「地域包括ケア病棟の3つの役割について」からの書き出しにして、一番最後の所で集約されていると思うので、「新たな要件等も念頭に、地域包括ケア病棟の実態等について、病床種別等も含め、さらに分析が必要」という書きぶりにすると、たぶん先生のおっしゃっていることと合うと思う。
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■ 療養病床の重症患者割合について
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資料「入-2-2」(資料編)の169ページに「病床種別の重症度、医療・看護必要度について」の表があり、「療養病床のほうが、基準を満たす患者割合が低い傾向にあった」とまとめられている。
私はその時の分科会でも申し上げたが、この数字には有意差が全くない。明らかに差がないので、このように書かれるのは困るというお話をさせていただいたが、訂正されていない。よろしくお願いしたい。
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【厚労省保険局医療課・金光一瑛課長補佐】
「以下のとおり。」までで切ってしまっても、あとは数字をどのように解釈するかである。「療養病床のほうが」のくだりについては削除するということを、もし他の委員のご了解もいただければ、そういうことでよいかと事務局としては思っている。
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■ 中心静脈栄養患者への嚥下リハ等について
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療養病棟入院基本料について、大きな異論はない。ただ、(文章編)11ページの「医療区分・ADL区分について」の所に記載されているのは、ほとんどが中心静脈栄養に関する内容である。離脱ができず、嚥下リハビリをあまりやっていないという記載がされている。
この分科会のマターかどうかは分からないが、嚥下リハビリの実施がかなり少ないという指摘があるので、当グループ病院のSTなどに聞いてみた。それを踏まえて、意見を述べたい。
まず、摂食機能療法を嚥下リハビリと考えた場合に、なぜ嚥下リハビリがこれほど少ないのかという点だが、療養病棟に配置されているSTの数、それから看護師数、歯科衛生士数など、それに携わる人たちの数が少ない。ほかの業務に追われて、なかなかそこまで手が回らない。
次に、CVの入っている患者さんの一定数が意識障害や意思疎通が難しい認知症患者ということもある。そういう患者さんの場合には、VE(嚥下内視鏡検査)やVF(嚥下造影検査)が実際にはできない場合がある。
3番目に、VEやVFに精通した医師が不足しており、しかも療養病棟におられる先生方がそれに対する抵抗をする。自分たちの知らないことを勝手にやってもらったら困るという形で抵抗されることがある。
4番目に、摂食機能療法の対象者は摂食機能障害者だが、厚労省が診療報酬で定めている定義が非常に狭い。
すなわち、摂食機能療法の対象となる患者の算定要件によれば、摂食機能障害者とは、「発達遅滞、顎切除及び舌切除の手術又は脳血管疾患等による後遺症により摂食機能に障害があるもの、及び他に内視鏡下嚥下機能検査、嚥下造影によって他覚的に嚥下機能の低下が確認できる患者であって、医学的に摂食機能療法の有効性が期待できるものをいう」とされている。
つまり、「摂食障害がある」、もしくは「嚥下機能の低下が確認できる」という、この2つしかない。
例えば、われわれの所によく来られる患者さんで、食べられない患者さん、CVが入って来られる患者さんはオーラルフレイルと言われる、例えば誤嚥性肺炎を繰り返して絶食が続いている。そういう患者さんが非常に多い。その方々がもし、先ほど申し上げたような理由で、VEやVFができなければ対象にならないということになる。そのため、嚥下リハビリがなかなかできない。
さらに、摂食機能訓練は単位が30分であるという問題がある。30分以上と30分以下がある。STは、ほかのいろいろな疾患別リハビリテーション、これは20分単位でやっているので、30分単位のものを1つ組み込むと、20分単位のリハビリがずれ込んでくるということがあって、なかなか整理をしにくい。ずれが生じて組み込みにくくなることがある。このため、嚥下リハビリの実施割合が低迷しているのではないか。
また、摂食機能療法を実施したとしても、治療開始から3カ月が経過すると月4回しか算定できなくなる。高齢者の摂食障害の原因は多岐にわたって、それが絡み合っているものが非常に多いので、3カ月間の間にCVが抜けるかと言われると、それもなかなか難しいということもある。
人員不足の問題はなかなか解決しがたいと思うが、嚥下評価法を、例えば、VE・VFに限定せずに、例えば、水飲みテストの理学的所見などでもOKであると認めていただき、機能障害の定義が緩和されれば、嚥下リハビリの時間数はちょっと増えてくる。時間数を20分にしていただくと、もうちょっと増えてくるという気がしている。たぶん増えてくると、STの者はみな口を揃えて言う。
以上、皆さんに知っていただきたい意見として述べさせていただいた。
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【尾形裕也分科会長(九州大学名誉教授)】
貴重なご意見として承っておきたいと思う。
(取材・執筆=新井裕充)
2021年9月9日