「前回改定後の数字が全く分からない」 ── 井川常任理事、入院医療に関する議論で
コロナ収束後の新たな医療提供体制に向け、令和4年度診療報酬改定ではどのような方向を目指すか。6月30日、入院医療に関する本格的な議論がスタートした厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎常任理事は「前回の改定後の数字が全く分からない」と指摘した。
厚労省は同日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)の令和3年度第3回会合を開き、当会からは井川常任理事が委員として参加した。
この日の議題は「急性期入院医療について」。令和2年度調査の結果を踏まえ、厚労省は同分科会に、旧7対1入院基本料の要件見直しや急性期病院の再編・統合などに影響するデータを示し、委員の意見を聴いた。
今回の議論に用いた資料「診調組 入ー1」は、表紙を含めて101ページ。全体の構成は、「1.入院医療を取りまく現状について」「2.一般病棟入院基本料について」──の二本柱で、一般病棟入院基本料の項が3つのサブパートに分かれている。
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令和2年を最終年としていない
資料前半の「入院医療を取りまく現状」では、少子化が進む人口構造の変化などを紹介した上で、病床数や平均在院日数、病床稼働率の推移などを示した。
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質疑の冒頭、井川常任理事は病床数などのデータが最新の数字ではない点を指摘。「前回の改定後の数字が全く分からない。令和2年を最終年としていないのは何か理由があるのだろうか」と尋ねた。
厚労省の担当者は「令和2年の数字については今まさに集計をしている最中であり、6月の時点では更新が間に合わなかった」と理解を求めた。
厚労省が6月末に公表した医療施設動態調査(令和3年4月末概数)によると、一般病床は88万6,348床。一方、この日の分科会に示されたデータ(令和元年)では88万7,847床となっており、1,499床の開きがある。
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「療養病棟では疾患のバラツキ」に異論
「入院医療を取りまく現状」の最終ページでは、「入院料ごとの入院患者の主な傷病」が示された。
それによると、「急性期一般入院料1や2・3では悪性腫瘍が最も多く、急性期一般入院料4~7や地域一般入院料、地ケア病棟は骨折・外傷が最も多かった。療養病棟では疾患のバラツキが大きかった」としている。
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質疑で、井川常任理事は「療養病床に来られている方の病名というのは基本的には後遺症と言うか、廃用症候群として残っている場合であるため、急性期の治療病名という意味合いとは少し異なる」と指摘。急性期医療と慢性期医療の疾患等を「同じ土俵にして『バラツキが多い』というのは少し違う」と異論を唱えた。
井川常任理事はこのほか、同日の分科会で議論になった重症度、医療・看護必要度などについても意見を述べた。
■「入院医療を取りまく現状」のデータについて
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スライドの6~9ページに、病床数や平均在院日数、病床稼働率の年次推移などが示されているが、令和元年、すなわち前回の診療報酬改定前が全て最終年になっており、前回の改定後の数字が全く分からない。
医療施設動態調査の結果は毎月末に集計されて厚労省から統計情報として公表されているので、少なくとも病床数のデータは既に出ていると思う。令和2年を最終年としていないことに関して何か理由があるのか質問したい。
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【厚労省保険局医療課・金光一瑛課長補佐】
6ページ以降について、令和元年が最終のデータとして示されているため、最新の数字ではないというご質問だと思う。
診療報酬に関係した7月1日時点の届出状況を毎年、集計している。令和2年の数字については今まさに集計をしている最中であり、秋ごろまでにまとめてお出しするタイミングですすめているので、申し訳ないが、この6月の時点では更新が間に合わなかった。
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■ 療養病棟の入院患者の傷病について
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12ページの「入院料ごとの入院患者の主な傷病」について。この資料の説明で、「急性期一般入院料1や2・3では悪性腫瘍が最も多く」とし、「療養病棟では疾患のバラツキが大きかった」と記載されている。
しかし、療養病棟に入院されている患者の病名というのは基本的には後遺症と言うか、廃用症候群として残っている場合であるため、急性期の治療病名という意味合いとは少し異なる。同じ土俵にして「バラツキが多い」というのは少し違うのかなと感じている。
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■ 看護必要度Ⅱの増加の原因について
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資料33ページ「一般病棟入院基本料の重症度、医療・看護必要度の届出状況」について。前回の平成30年度調査のものと比較すると、重症度、医療・看護必要度Ⅱを届け出ている施設は、急性期一般入院料1では約2割だったのが3倍近く増加しているが、急性期一般入院料4~7ではまだ1~2割と低いというグラフであると認識している。
これはおそらく、必要度Ⅱへの移行を進めていこうという意図でお出しになっているのではないかと感じている。そうだとすると、必要度Ⅱの増加に影響を及ぼす他の要因についても調べていただけるといいのではないかと思っている。
例えば、調査票にある項目で言うと、開設者種別。公立病院と民間病院ではどれくらい違うのか。また、病床規模別。400床以上は義務化されたので別として、それ以下の施設はどうなのか。病床数が減ってくれば、必要度Ⅱへの移行が非常に少ないのではないか。こうしたものを教えていただきたいと思うが、いかがだろうか。
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【厚労省保険局医療課・金光一瑛課長補佐】
重症度、医療・看護必要度の届出状況について、開設者種別や病床規模別なども見て、今後の令和4年度改定での対応というものを考慮していくべきではないかというご質問、ご意見であった。
われわれとしても、そういったご要望、ご趣旨については受け止めて、今後の議論の際に準備したいと思う。
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■ 看護必要度とコロナの影響について
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重症度、医療・看護必要度ⅠとⅡを比較するグラフが多く出ている。そのⅠとⅡのデータは令和2年度調査票の「入院基本料、病棟の状況等」に関する問「6-2」の⑧と⑨から得られたデータだと思う。
昨年、お示しいただいた調査票では、「平成31年4月~令和元年6月」「令和元年8月~10月」、それから、「令和2年4月~6月」「令和2年8月~10月」となっており、例年よりも4月から6月を増やした状況で調査したと思うが、今回出ているデータは全て8月から10月分のみになっている。
調査票をお示しいただいた時のご説明では、緊急事態宣言が発令されていた4・5月を含む3カ月をある程度、汲み取るような形で取って比較ができるように設問を構成したとおっしゃっていたように記憶している。
今後、令和2年4月から6月、8月から10月の比較検討をなされる予定があるかどうかをお伺いしたい。8月から10月は第2波の最中であったので、それも考慮しながらの検討だろうと思っている。
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【厚労省保険局医療課・金光一瑛課長補佐】
重症度、医療・看護必要度ⅠとⅡの比較の際に、今回は8月から10月のみで資料を構成していることについて、4月から6月はどこに行ったのかというようなご質問、ご意見だったと受け止めている。
調査票を設計した際に4月から6月を出したのは、まさに緊急事態宣言という、ある意味、特異な状況をどのように加味するのか、どのように見るのか、という視点から設けたものであって、それは例えば、3月の当分科会に「速報その1」を出した時も、結果をお出ししながら議論をしていただいたところである。
一方で、今回、診療報酬改定に向けた議論という、「一歩前に進める」ということを前回の6月16日にも何人かの委員から頂いたので、8月から10月を使った。
これまでの診療報酬改定に向けた議論では、例えば令和2年、平成30年に向けた議論では8月から10月の数字を使いながら進めてきた。そういったことも踏まえて、今回、8月から10月で、改定前後の数字を比較しながら議論に役立てていただこうと思って準備をしてきたところである。
(取材・執筆=新井裕充)
2021年7月1日