「リハビリの診療報酬を包括性にしませんか」 ── 武久会長、定例会見で提案
日本慢性期医療協会の武久洋三会長は7月15日の定例会見で「リハビリテーションの診療報酬を包括性にしませんか」と提案した。武久会長は、リハビリの診療報酬が複雑であることや包括化の流れが進んでいる状況などを説明し、「疾患による差をなくし、全てを包括したほうがよい」と述べた。
会見の冒頭、武久会長はコロナの影響に触れ、「政府もお金をたくさん使っている。来年度の診療報酬が大きく上がるという期待はできず、包括化は避けられないだろう」との認識を示した。
その上で、リハビリテーションを取り巻く環境の変化や、近年の診療報酬改定、改革の方向性などを説明し、「必要なときに必要な治療を時間に関係なく提供できるようにし、病態の改善を第一に考えるべき時が来た」との見解を示した。
この日の会見に参加した橋本康子副会長(慢性期リハビリテーション協会会長)は「脳卒中や骨折、心臓リハ、呼吸器リハ、廃用症候群も含めたそれぞれで点数が違うのはおかしい。リハビリテーションに関して、疾患別に点数を変えることはそぐわない」との考えを示し、「疾患別ではなく、症状別(難易度別)に点数を変えるべき」と述べた。
同日の会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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非常に複雑な診療報酬体系
[池端幸彦副会長]
ただいまから日本慢性期医療協会の7月度定例記者会見を始めたいと思う。本日は武久会長と橋本副会長が出席、私が司会進行を務める。早速、武久会長にごあいさつをお願いする。
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[武久洋三会長]
いよいよオリンピックが始まるが、コロナが拡大せず無事にオリンピックが終わることを期待している。なお、8月の定例記者会見は夏休みとさせていただく。
では、7月の定例記者会見を始める。資料をご覧いただきたい。今回のテーマは「リハビリテーションの診療報酬を包括性にしませんか」とさせていただいた。
リハビリテーションは非常に複雑な診療報酬体系になっている。過去20年間でも、すごい勢いで、いろいろなかたちで診療報酬が変わってきた。出来高払いの問題点もあちこちで言われているが、診療報酬を包括性にしてはどうかということを日本慢性期医療協会から提案したい。
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包括化は避けられない
3ページをご覧いただきたい。これは6月10日付けのメディファクスに掲載された「経済財政諮問会議」の方針である。「診療報酬、『包括払いの在り方』を含めた見直し」と報じている。包括化に向けて動き出している。
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この1年以上、コロナにより、いろいろなところで大きな打撃を受けた。当然、政府もお金をたくさん使っている。来年度の診療報酬が大きく上がるという期待はできず、包括化は避けられないだろう。
回復期リハビリテーションができて20年が経った。時代が変わってきた。昨年4月以降、回復期リハビリテーション病棟への入棟条件について、発病から2カ月以内という条件が外れた。これにより、回復期の患者さんでなくても回復期リハビリテーション病棟に入れることになった。
リハビリテーションが大きく変わっている。今後、診療体制が変わっていく。日本慢性期医療協会からも提案をしたい。
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2006年度改定、多くの改革があった
現在のリハビリテーションに係る報酬システムになったのは、2006年度の診療報酬改定以降である。医療区分の導入や7対1入院基本料の創設など、多くの改革があった。2000年に新設された回復期リハビリテーション病棟は、リハビリテーションの発展に大いに寄与してきた。
2006年の診療報酬改定において疾患別リハビリテーション料となり、脳血管リハビリテーション、運動器リハビリテーション、呼吸器リハビリテーション、心大血管リハビリテーションの4つになった。
リハビリテーションは20分を1単位とし、1人の療法士が1人の患者さんを1対1で加療したときのみ報酬が与えられている。
心大血管リハビリテーションや呼吸器リハビリテーションなど、リスクの大きいリハビリテーションよりも脳血管リハビリテーションが40点から70点ほど高いというのは理解できないという方もたくさんいる。また、その明確な理由を答えてくれる人もいない。
表にあるように、脳血管障害が20分間で2450円、呼吸器は1750円と、700円も違っている。
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20分間という同じ時間をかけてリハビリテーションを実施するのに、疾病により報酬に差があれば、現場はどうするか。当然、より報酬の高い患者さんを優先するだろうし、それが悪いとは言うこともできない。
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急性期病院で要介護者が増える
リハビリテーションは医師と療法士だけで行うものではない。特に入院中は、看護師や介護士も含めた多職種によるチームリハビリテーションが行われている。そういう方向で協調していかなければならないと思う。
療法士と患者さんが1対1で行われるリハビリテーションでなければ診療報酬が支払われないというおかしなシステムをいつまで続けるつもりだろうか。
リハビリテーションに関して、必要なときに必要な治療を時間に関係なく提供できるようにし、病態の改善を第一に考えるべき時が来たのではないか。
要介護者を増やしている原因である急性期病院での入院中の拘束や安静臥床、バルーンカテーテルの強要を撤廃しなければならないと考えている。
認知症入院時にも、既に50%近くが身体拘束をしているという調査データもある。ベッドから下りられないように柵で囲う、車いすにベルトで固定する、チューブ類を抜かないようミトン型手袋をするなど問題は多い。
高齢患者さんの増加で、現場の看護師の業務量が実際に増えているが、2006年から看護職員は増えていない。
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効率の悪いリハビリシステム
2年前、『クローズアップ現代+』というNHKの番組で、特に急性期病院における身体拘束の多さを問題視し、討論が繰り広げられた。急性期病院では、高齢患者さんの増加により介護ケア需要に十分対応できていないのではないかとNHKから指摘されたと言える。
急性期病院では、認知症患者さんや歩行が不安定な患者さん、夜中にトイレに行く高齢患者さんに対して身体拘束や膀胱留置バルーンカテーテルを実施する。
その結果、約1カ月後の退院時には、既に関節拘縮が進行し、寝たきり状態になってしまう人が多い。
一度、可動性を悪くしておいて、改めて回復期リハビリテーション病棟で改善させる。そのような効率の悪いリハビリテーションシステムをいつまで続けるのだろうか。こうしたシステムを許容せずに、急性期治療中にも可動性が損なわれないよう、最善の努力をするべきではないか。
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誠に恥ずかしく情けない
FIM利得というものが2016年から入ってきた。それまでは漫然としたリハビリテーションで評価の指標がなく、1単位をどれだけやるかによって診療報酬が決まっていたが、FIM利得が評価されるようになったため、一部の病院ではFIM利得を多くしようとする動きが顕著になってきている。
これを問題視した厚生労働省保険局医療課は、FIM利得に関する資料を中医協の入院医療分科会に出している。
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それによると、導入前は15くらいのFIM利得だったものが24程度になっている。入棟時FIMと退棟時FIMの幅が拡大し続けている。
現場でリハビリテーションを提供している者として、誠に恥ずかしい限りで情けないことと思っている。このようなさまざまな問題点のある現行のリハビリテーションシステムを、がらりと変えてはどうか。
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FIM利得からBI利得への変更を
2014年には、一足先に地域包括ケア病棟のリハビリテーションが2単位包括となった。2単位を満たせば、あとはいくらでもリハビリテーションができる。
これでリハビリテーション療法は包括化へと進むかに思われた。しかし、現実には変更がないまま7年が経過した。そろそろ旧態依然としたリハビリテーションシステムを改善すべきと考える。
制度が複雑になればなるほど、恣意的な対応をする可能性が大きくなる、アウトカム評価を重視することは、現場スタッフのモチベーションを上げる。公平な評価ができるよう、動画を用いた評価を提案したい。
評価者の恣意的評価の可能性が高いFIMから、実務的にBIにしてはどうかということは、先月の記者会見でもお話しした。FIM利得からBI利得への変更を求める。
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BIは素人でも判断しやすい
FIMとBIについて改めて説明する。21ページ。左側がFIM、右側がBIである。
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左の表の「4点」「3点」「2点」のところを見ていただくと、「75%以上自分で行う」「50%以上75%未満自分で行う」「25%以上50%未満自分で行う」などとなっている。
要するに、25%の幅において、評価者が状況を見ながら自由に判断できるということであり、枠が非常に広い。
一方、BIはどうか。右側の表の「移乗」の15点を見ていただくと、「自立、車椅子で安全にベッドに近づき、ブレーキをかけ、フットレストを上げてベッドに移り、臥位になる」となっている。
また、10点の項目では「部分介助あるいは監視が必要」としており、「座ることはできるが、移動は全介助」であれば5点。このように、非常に具体的に示されており、素人でも判断しやすくなっている。
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16.9点から26.4点に急上昇
FIM利得が導入される前後でどのように変化したか。日本慢性期医療協会の関連病院や回復期リハビリテーション病棟協会のデータを調べた。
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それによると、2016年よりも前の13年、14年の段階では、膀胱直腸リハビリテーションを強化したところではFIM利得が27.7点だった。
通常のリハビリテーションをしたところではFIM利得は16.9点となっている。このように、回復期リハビリテーション病棟協会が出している数値とも似通っている。
ところが、制度が変わった後の18年、20年を見ると、膀胱直腸リハビリテーションは点数が高いため、29.2点に上がった。そして回復期リハビリテーションは16.9点から26.4点まで一気に上昇している。
そんなに改善するわけがないと当時から疑問視され、その結果、先ほどの資料が厚生労働省医療課から出されることとなった。
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緊急調査を実施した
日本慢性期医療協会では今年6月、緊急にアンケート調査を実施した。1000弱の会員病院のうち、半分近くの病院が回復期リハビリテーション病棟を持っている。緊急調査であったが100弱の病院が協力してくれた。
回答病院の総病床数は1万5569床。このうち回復期リハビリテーション病棟は5361床である。
基本データとして、回答病院の病床種別を示した。
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リハビリテーション実績指数はこのようになっている。リハビリテーション実績指数は報酬に関係する。
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左側は今回の日本慢性期医療協会会員病院のアンケート結果、右側は回復期リハビリテーション病棟協会の資料である。
実績指数を見ると47.0と45.6ということで、ほとんど同じであるが、下のほうを見ると、実績指数「45以上50未満」や「55以上」のところで、日本慢性期医療協会の会員病院ほうが高くなっている。
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平均FIMは27.1点、在宅復帰率は83.7%
2020年4月1日から2021年3月31日までの1年間に日本慢性期医療協会会員病院の回復期リハビリテーション病棟に入棟した新規入院患者さんは2万4300人、平均年齢は70代後半である。
このうち2021年5月31日時点で退棟している約2万2000人の患者さんについて見ると、平均在棟日数は69.3日、平均FIM全項目利得は27.1点、平均在宅復帰率は83.7%と高くなっている。
これを回復期リハビリテーション病棟協会が発表した値と比べても、日本慢性期医療協会の回復期リハビリテーション病棟は遜色がないと言える。
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平均在棟日数は回答病院の平均が69.3日で、60日から90日の間にほとんどの病院が入っている。
また、FIMの全項目利得は、ほとんどの病院が20点から40点の間に入っているが、平均は27.1ということで、回復期リハビリテーション病棟協会資料の値、24.04とは少し差がある。
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2021年5月31日時点で退棟している患者(22,245人)の平均在宅復帰率は83.7%。ほぼ全ての患者が在宅復帰している。
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脳血管疾患リハが最多で56.5%
前述のとおり、2020年4月1日から2021年3月31日までの1年間に日本慢性期医療協会会員病院の回復期リハビリテーション病棟に入棟した新規入院患者さんは2万4300人いるが、そのうち、発症から2カ月以上経過して回復期リハビリテーション病棟に入院した患者は3.7%、887名であった。
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疾患種別では脳血管疾患、脊椎損傷等で高次機能障害がある患者が31%と一番多くなっており、高次機能障害のない人が26.5%、骨折、廃用症候群と続いている。
算定については、脳血管疾患リハビリテーション料が最も多く56.5%、次いで運動器リハビリテーション料が30.9%、廃用症候群リハビリテーション料が12.6%などとなっている。
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発症から2カ月以上の入棟が増加
回復期リハビリテーション病棟について、原疾患の発症から2カ月以内という条件が外れた当初は、発症から2カ月以上の割合はそれほど多くなかった。
しかし、その後の21年3月は20年4月の約2倍、11.5%と増えている。今後もさらに増えるだろう。
30ページの右側の表をご覧いただきたい。回復期リハビリテーション病棟に入棟するまでの日数を調べた。「61日以上100日未満」が77%、「100日以上200日未満」が19%となっており、ほとんどの患者さんがこの範囲に入る。
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リハビリは回復期に限定されない
こうした患者さんの入棟までの日数はどうか。昨年4月から今年3月末までの1年間を調べた。
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それによると、新規に回復期リハビリテーション病棟に入棟した患者さんのうち、発症から2カ月という期間を超過して入棟した患者さんの入棟までの日数は脳血管障害の場合で約3カ月、骨折など整形外科疾患の場合は少し短くなっている。
在棟日数の平均は82.4日となっている。入棟時のFIM利得について、運動の項目だけを見ると全体が35点、脳血管障害が「高次機能障害なし」で34.1点、「高次機能障害あり」で31.0点だった。
退棟時と入棟時のFIM運動項目利得を計算した結果、平均では18.4点だが、整形外科疾患は約25点、またリハビリテーション実績指数は全体で35.7、脳血管障害も同程度、整形外科疾患は40から50となっている。
ということで、2020年4月の要件撤廃により、リハビリテーションが必要な、いろいろな患者さんが入棟できることになった。
慢性期の状態でもリハビリテーション病棟に入棟できるということは、リハビリテーションが回復期に限定されていないということであり、「回復期リハビリテーション病棟」というネーミングもやがて変わるのではないかと思っている。
入棟元の調査結果は32ページ。他院の一般病棟が圧倒的に多く、自院の一般病棟を含め、一般病棟からの入棟が多い。
退棟先としては半数が自宅、4分の1程度は他病棟への入棟、介護施設に約15%、残りはほとんどが居住系の施設となっている。
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公平で自由なリハビリテーションへ
本日の記者会見に間に合わせるため、会員病院の皆さんに無理をお願いして、多くの症例を調査していただいた。
2020年4月の改定時よりは1年後の2021年3月のほうが、発病後2カ月以上経過した患者さんの回復期リハビリテーション病棟への入棟が増えている。今後も増えてくると思われるが、2000年当時と比べて専門医やPT、ST、OTが増員したこともあり、リハビリテーションが必要な多くの患者さんに対応できるシステムになってきている。
この際、疾患による差をなくし、全てを包括していただいたほうがよいのではないか。地域包括ケア病棟では7年前から包括になり、順調に運営されている。
全部が包括になることは、今回の改定では難しいかもしれないが、24年度の同時改定までには、ぜひとも疾患別の点数の違いぐらいは改善していただきたい。そうすれば公平に、自由にリハビリテーションができるようになる。
早期に日常生活に患者さんを戻せる体制、医療スタッフ全員でリハビリテーションができる体制に変われば、現場に活気が生まれ、回復する患者さんが増えるものと考えている。
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包括化が当然の流れ
[池端幸彦副会長]
橋本副会長、慢性期リハビリテーション協会会長の立場から、追加のご発言をお願いしたい。
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[橋本康子副会長]
現場から、思うところをお話ししたい。私は個人的に武久会長の言われている包括化や疾患別点数の差の是正には賛成である。
回復期リハビリテーション病棟ではリハビリテーションの単位数のみが出来高で、そのほかは既に包括となっている。今後、ほかの部門でもどんどん包括化が進むことを考えれば、回復期リハビリテーション病棟も包括化が当然の流れだろう。
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スタッフの資質向上も課題
包括化に向けて、私たちは今後の課題についても考えなければならない。
まず1点目は、武久先生のお話にもあったように、包括化する上でアウトカムの評価方法が課題となる。FIMだけで評価していて本当にいいのか。こうした点も十分に考える必要がある。画像やITなどを使うことも含め、いろいろな方法を考える必要がある。
もう1点は、個々の患者さんに必要なリハビリテーションの量、方法について、正しく判断できる資質がリハビリテーションスタッフや医師に求められるということだ。
点数を重視してリハビリテーションスタッフの人数を減らすなどということにならないよう、患者さんに本当に良くなってもらうために適切な量と方法で、倫理観をもってリハビリテーションを施行しなければならない。
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疾患別ではなく、症状別に
疾患別の点数差については、脳卒中や骨折、心臓リハ、呼吸器リハ、廃用症候群も含めたそれぞれで点数が違うというのはおかしい。リハビリテーションに関して、疾患別に点数を変えることはそぐわないと私は考える。
リハビリテーションを実施していて大変なのは、例えば廃用症候群で栄養状態が悪く、腎機能も悪化しており、体重も減り内臓疾患を伴っている患者さんの場合、リハビリテーションを経て社会や家庭に戻していくのは、脳疾患などの大きな疾患がなくても大変なこと。そういったところの点数が低いのはどうかと思う。
また、高次脳機能障害があったり、言葉が話せないことは大変なことであるし、心臓の機能が悪ければ、リハビリテーションをしたくても十分にできない。そういった場合は慎重にリハビリテーションを進めていかなければならない。
疾患別ではなく、症状別や難易度別に点数を変えるほうがリハビリテーションのあるべき姿ではないかというのが現場からの意見である。
(取材・執筆=新井裕充)
2021年7月16日