75歳以上の窓口負担引き上げ、「まずは凍結を」 ── 池端副会長、「受診抑制で重度化」と懸念

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【Photo】01_池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_20201119_医療保険部会

 75歳以上の窓口負担の引き上げについて日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は11月19日の会合で「受診抑制によって疾病の重度化が予想される。このコロナ禍で2割負担を実施したら、お年寄りはみんな動けない」と危機感を募らせ、「まずは凍結して、その後、きめ細かく検討し、個々に対して負担が軽くなる措置を講じるべきだ」と主張した。

 厚生労働省は同日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=遠藤久夫・学習院大学経済学部教授)の第134回会合を都内で開き、前回に続いて医療保険制度改革について議論した。

 この日の主なテーマは、①後期高齢者の窓口負担、②受診時の定額負担の拡大──の2項目。政府が年末にまとめる最終報告書に向けて、厚労省は具体的な仕組みを提案した。
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【Photo】02_20201119_医療保険部会
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5区分の「機械的な選択肢」を提示

 後期高齢者の窓口負担について厚労省は、原則1割から2割に引き上げる対象者の範囲を提案。年収155万円以上から240万円以上までの範囲で5つに区分した「機械的な選択肢」を示し、委員の意見を聴いた。

 座長代理を務める菊池馨実氏(早稲田大学大学院法学研究科長)は「4番、5番まで広げるのはちょっと厳しいが、1番、2番ぐらいであれば、あり得るかもしれないという印象を持った」とコメントした。

 保険者の代表らは、2割負担を早期に実施する必要性を改めて強調した上で、今回の提案が全ての範囲をカバーしていないことを指摘。「機械的ではなく、抜けている部分がある」と苦言を呈し、さらなる対象範囲の拡大を求めた。

 一方、医療関係者らは2割への引き上げ自体に慎重な姿勢を示した。
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01スライド_P4_【資料1】後期高齢者の窓口負担割合の在り方等_20201119医療保険部会

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1割から2割で、負担も2倍になるか

 窓口負担2割への引き上げをめぐっては、低所得者を除く点では一致しているが、負担を求める「一定所得」の範囲について、引き上げを実施した場合の影響との関連で議論になっている。

 これまでの会合で、大学教授らは「1割から2割に引き上げたとしても負担が2倍になるわけではないので、これを国民に周知させる必要がある」などと主張。一方、医療関係者らは「1割から2割になれば負担は2倍になるはず」と反論していた。

 こうした中、厚労省は前回11月12日の同部会に、自己負担額の分布状況を提示。2割負担とした場合には8.1万円から11.5万円となり、3.4万円の負担増にとどまるとした。

 これに佐野雅宏委員(健康保険組合連合会副会長)は「1割が2割になっても2倍になるわけではないと申し上げてきたが、まさにその数字が出た」と評価した。

 これに対し、池端副会長は「負担が2倍になる後期高齢者も確実にいると思うので、何割ぐらいの方々が2倍になるのかを示してほしい」と求めた。
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【Photo】03_池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_20201119_医療保険部会
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ほとんどの人が2倍払うことになる

 厚労省は今回の会合に、引き上げた場合の負担を軽減するための「配慮措置」を提示。その中で「2割負担となる者の特徴」を示し、2倍の負担額となる人が61%に上るとのデータを初めて公表した。

 松原謙二委員(日本医師会副会長)は「ほとんどの人が2倍払うことになる。こうしたことを本当にやるべきなのか。そのために消費税を導入したのではないのか」と語気を強め、「私は大変な混乱が起きると思う」と引き上げに反対した。

 秋山智弥委員(日本看護協会副会長)も「やはり6割の人が2倍になるというのはインパクトが大きい。高齢者の受診抑制、それに伴う重症化等の影響が懸念される」と指摘し、「引き上げについては慎重に考えるべき」と警鐘を鳴らした。森昌平委員(日本薬剤師会副会長)も「非常にインパクトがある。負担感が増す」と述べた。
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02スライド_P12_【資料1】後期高齢者の窓口負担割合の在り方等_20201119医療保険部会

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今のコロナ禍で、負担の議論をすべきか

 「負担額2倍の人が6割」との数字が出たことで議論の風向きが変わった。最終報告書の取りまとめに向け、厚労省は今回の会合で引き上げの範囲に関する大枠を固め、それに伴う配慮措置について大筋の合意を得る展開が予想されていたと思われるが、「今やるべきなのか」との声が上がった。

 口火を切ったのは、鳥取県の平井伸治知事(全国知事会社会保障常任委員会委員長)。「一昨日、全国の新型コロナ陽性者は1,699人。47都道府県のほとんどに感染が回っており、一番多い東京都は今日、500人を超えると報道されている」と切り出し、「今、私たちが向き合わねばならないのは、こうした負担の問題だけなのか」と問いかけた。
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【Photo】04_20201119_医療保険部会
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 平井知事は「医療機関の収入は大幅に減少している。病院の関係者は非常に危機感が強い。『これで受診控えになってしまうのではないか』という医療者からの声が届いている」と伝え、「年末を目指して、とにかく報告書を書いてしまうことだけが全てなのだろうか。現場の感覚として、配慮が必要ではないか」と訴えた。

 その上で、平井知事は「今、この時に受益者負担を上げる議論がどれほどの意味があるのか。当面は新型コロナ対策に全力を挙げていくというメッセージのほうが今は大事なのではないか」と強く主張した。

 兼子久委員(全国老人クラブ連合会理事)もこの発言に続き、「今のコロナ禍において、この議論をすべきことなのか、大変疑問がある」と述べた。

 池端副会長は「まずは凍結して、その後、順番に確実に負担を緩和していく。そういう少しきめの細かい、そして個々に対して少しずつ負担が軽くなるような措置をとることが本当の配慮措置ではないか」と厚労省に再考を促した。

 池端副会長の発言要旨は以下のとおり。
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【Photo】05_池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_20201119_医療保険部会

■ 後期高齢者の窓口負担について
 前回、実際に2倍の負担になる方々がどれ位いるかを質問し、今回お示しいただいたと理解している。私の想像どおり、2倍の負担となる人が6割以上いらっしゃる。それに対して配慮措置を行ったことをご説明いただいた。
 この配慮措置は一見すごくありがたいようだが、これはあくまでも総額で1万8,000円を超えた者に対しての配慮である。マスで考えると、どうしてもこういう形になるのだが、実際に現場の立場から個で考えてみる。例えば、八百屋に行って卵が10円から20円とが2倍に上がっていたら買い控えするのではないか。
 それと同じように、1割負担が2割負担になったら、受診控えが起こる。2倍になる人が6割いるというのは、個々にとっての負担感がものすごく大きい。高齢者だけではない。若者も含めた個々に対する配慮が必要であり、そういう点でも今回の配慮措置は不十分であると思う。今回の措置はいわば激変緩和である。2倍に増えるということは激変であり、その結果、何が起きるかというと、受診抑制につながる。
 この医療保険部会というのは医療保険制度を持続可能なものにしていくために負担の格差をなるべく整合性あるものにしていこうという会議であり、その方向性に対して反対するものではない。しかし、支出のことばかり考えると、受診抑制につながる。それによって何が起きるか。疾病の重度化である。そうすると逆に医療費が増える可能性も十分にある。こうしたことを全く検討せずに、ただ負担だけを考えて、帳尻合わせをする。支出は今までと同じだという前提で制度設計をすること自体、私は大きな問題があるのではないかと思っている。
 ましてや、このコロナ禍において、医療現場は非常に苦しんでいる。さらに、2割負担になることによって受診控えをして重度化する。糖尿病で透析治療をする人が増えてしまったり、高血圧性で脳症を起こす人が増えてしまう。こういうことまで想像しなければいけない。激変緩和は、いろんな長い目で見てやっていかなければいけない。今回の配慮措置はあまりにも貧弱だという気がしている。
 先ほど平井知事もおっしゃったように、このコロナ禍で窓口での負担が2割となれば、お年寄りはみんな動けない。
 そういうことも考えると、まずは凍結して、そして、その後、もう少し順番に、確実に負担を緩和していく。そういうきめの細かい、そして個々に対しても少しずつ負担が軽くなるような措置をとることが本当の配慮措置ではないか。
 厚労省の皆さんも大変だとは思うが、もう少しきめ細かな、個々に目を向けた配慮措置をしていただきたい。この2割負担を一気に実施することに対して私は非常に危惧している。

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■ 200床以上の大病院への受診時定額負担の拡大について
 定額負担を拡大する範囲について、「医療資源を重点的に活用する外来」を地域で基幹的に担う医療機関について検討されている。その資料が今回示されているが、そこに「大病院」という記載がある。一方で「200床以上」という記載もある。そこで、「大病院」と「200床以上」の関係について確認したい。
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03スライド_P4抜粋1趣旨_【資料2】定額負担の拡大について_20201119医療保険部会

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 次に、この「医療資源を重点的に活用する外来」の具体的な内容として、「高額等の医療機器・設備を必要とする外来」が挙げられている。このイメージがよく分からない。どの程度までの高額医療機器を想定しているのかによって、範囲がかなり違ってくると思う。想定されている高額医療機器として、例えばCTやMRIなのか、さらに高額なものなのか。現時点でお話しできることがあったら教えていただきたい。
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04スライド_P4抜粋2明確化の方法_【資料2】定額負担の拡大について_20201119医療保険部会

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 それに関連して、対象病院を拡大する範囲について緑の点線での「拡大」という矢印がある。こういう厚労省の図というものは幅も意味があるのだろうと意識して見てしまうので、「その他」の200床以上の688(8.2%)の半分近くまでを拡大をするという意味なのか。現時点でお答えできることがあれば、お願いしたい。
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05スライド_P5緑の矢印の図_【資料2】定額負担の拡大について_20201119医療保険部会

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 また、定額負担を5,000円の上にさらに2,000円を増額する「新たな制度案」について、現在、定額負担が義務化されている特定機能病院や地域医療支援病院について適用されるのか。以上4点が質問である。
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06スライド_P10抜粋5000円から7000円の図_【資料2】定額負担の拡大について_20201119医療保険部会

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 最後に、定額負担を増額するスキームについて意見を述べる。提案によると、「受診の際に生じる初・再診料相当額を目安に控除し、それと同額以上に定額負担を増額」とある。
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07スライド_P10抜粋-初診料召し上げの説明_【資料2】定額負担の拡大について_20201119医療保険部会

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 定額負担を求める病院の初診料に切り込んで、選定療養制度に当てはめるようなスキームが制度上、本当に可能なのか。資料にその例示があり、「180日以上の入院」が挙げられている。
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08スライド_P11選定療養の囲み_【資料2】定額負担の拡大について_20201119医療保険部会

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 しかし、180日以上入院する患者さんは例外的であり、どうしてもやむを得ない理由で希望された場合に限られている。ところが、今回のスキームは初診である。すなわち、ファーストタッチのところの初診料に対して保険給付をほぼ行わないという制度の提案である。もし、これが通ってしまうと、この定額負担をやめた時にどうなるのか。初診料はないのかという話になってしまう。この制度設計はかなり無理があるのではないかと思う。
 いずれにしても、北風政策では難しいと思う。一方で啓蒙ということも必要である。いかにして大病院に集中しないようにすべきかをもっと丁寧に啓蒙するなど、もっとやるべきことがあるのではないか。
 患者側からすれば、5,000円が7,000円になる。もちろんそれは病院の収入にはならないのだが、受診される患者さんにとっては、「また病院は儲かるのか」という印象を持たれる。ここが大きな誤解を生み、病院は非常に大変な思いをする。窓口がものすごく困ることになる。この辺は本当に丁寧に説明していただかないと、このスキームは非常に難しいのではないか。

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【厚労省保険局保険課・姫野泰啓課長】
 まず、「大病院」と「200床以上」の関連性については、現在、選定療養の初・再診時に紹介状がない方については定額負担を取れることが医療保険制度の中で「一般病床200床以上」と決められているので、医療保険制度の中で、こういった外来機能の明確化を考えていく中では「一般病床200床以上」を前提に考えている。
 また、「医療資源を重点的に活用する外来」については、病床数ありきの議論ではなくて、むしろ機能に着目した議論がされていることになっているので、こちらは機能を中心に整理をしていただき、それを実際に選定療養の仕組みの中に当てはめる際には「一般病床200床以上」の範囲内で、こうした機能の明確化を図ってはどうかという考え方である。
 高額な医療機器については、「今後さらに専門的な検討の場において検討する」とされている。
 拡大の幅については、緑の矢印で示しているが、この幅については特段、意図はない。単純に半分の所に引いているだけである。機能や明確化の議論をして、そこで決まっていくことでもあるので、この幅に意味があるものではない。
 それから、現状、定額負担の対象となっている医療機関についても、このスキームが適用されるのかという質問について。現在は緑の部分、200床以上の特定機能病院、地域医療支援病院は初診であれば定額負担5000円を必ず取っていただくが、右側の「その他」の部分については任意で徴収することができることになっている。
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05スライド_P5緑の矢印の図_【資料2】定額負担の拡大について_20201119医療保険部会

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 今回の提案は、定額負担を取らなければならない医療機関について、新しいスキームを適用してはどうかということなので、現在、既に定額負担の徴収が義務となっている所も、それから新たに「重点的な外来」ということで拡大される所も含めて、既存のものも新たなものも含めて適用していくことを想定している。
 なお、「初診料を外すということで、かなり広範な影響が出るのではないか」というご意見については整理させていただくが、紹介状のない方であっても、緊急の患者さんなど、紹介状なしで受診した場合には定額負担は徴収されないし、また紹介状を持って大きな病院に行っていただくということであれば通常どおりの初診料の設定になっている。
 また、初診料を控除するということではなくて、全体の診療費の中で初診料などを参考に設定した、例えば、2,000円を控除するということであるので、そういった意味では、「初診料をなくす」という趣旨ではないということは確認させていただきたいと思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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