医療アプリ、「歯止めは可能か」 ── 池端副会長、中医協総会で

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2021年3月24日の中医協(オンライン開催)

 スマホなどのソフトウェアで病気の予防などを支援する医療アプリについて日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「医師が関わったアプリと似て非なるものが開発されている」と指摘し、「歯止めは可能か」と尋ねた。厚生労働省の担当者は「事例を収集して検討したい」と答えた。

 厚労省は3月24日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第477回会合をオンライン形式で開催し、当会からは池端副会長が診療側委員として出席した。

 この日の主な議題は、①臨床検査の保険適用、②先進医療会議からの報告、③診療報酬改定結果検証部会からの報告、④費用対効果評価専門組織からの報告、⑤令和元年度DPC導入の影響評価に係る調査「退院患者調査」の結果報告、⑥プログラム医療機器の診療報酬上の評価の検討、⑦被災地における特例措置──の7項目。

 このうち③では、調査項目の1つである後発医薬品の使用促進をめぐる議論があった。⑥では、医療アプリ(プログラム医療機器)に関する検討がスタートした。
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「年末をメドにとりまとめる」

 医療アプリは昨年11月11日の総会で大きな議論になった。厚労省は同日の総会に、ニコチン依存症の禁煙治療を補助する製品の保険適用案を示した。

 この提案は了承されたものの、支払側・診療側の双方から診療報酬上の考え方を整理すべきとの意見が相次いだ。
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01スライド_P1抜粋【総-6】プログラム医療機器の診療報酬上の評価の検討_20210324中医協総会

              2021年3月24日の中医協総会資料「総-6」P1から抜粋
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 こうした議論などを踏まえ、厚労省は3月24日の総会に「プログラム医療機器に係る診療報酬上の対応の検討について」と題する資料を提示。今後の議論の進め方について、「(中医協)保険医療材料等専門部会において行い、年末をメドにとりまとめる」と提案し、了承された。

 質疑で、池端副会長は「これからどんどんアプリが開発される。その線引きをどうするかは大きな問題」と指摘した。
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02スライド_P2抜粋【総-6】プログラム医療機器の診療報酬上の評価の検討_20210324中医協総会

              2021年3月24日の中医協総会資料「総-6」P2から抜粋
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受診延期で「健康に影響がなかった」

 この日の総会では、令和2年度改定の影響調査に関する審議も行われた。厚労省は総会に先立ち、大学教授ら公益委員のみで構成される診療報酬改定結果検証部会を開催した。

 この検証部会では、かかりつけ医機能の評価や働き方改革、後発医薬品の使用促進など5項目の結果をまとめ、総会に報告した。

 総会では、後発品メーカーの不祥事に関連する発言が相次いだが、コロナの影響による患者の受療動向に関する議論もあった。

 厚労省の別の会議では、コロナによる受診控えについて経済団体の委員から「今まで安易に医療機関にかかっていたのでは」との発言があり、日本医師会の副会長が反論している。

 3月24日の総会で支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「非常に興味深いデータが出ている」と切り出し、受診間隔の延長により「7割がほとんど健康に影響がなかった。今後、医療との関わり方をどうするかを検証していく上で、もっと深堀した調査が必要」と指摘した。
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03スライド_P24【検-2-1】特別調査(令和2年度調査)の報告書案_20210324検証部会

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何らかの影響があったと捉えるのが自然

 幸野委員の発言に対し、診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「かなり強引な結論づけではないか」と反論。受診を延ばした期間が明らかでないことを指摘し、「おそらく短期だと思うが、短期間にどれだけの変化があるのか非常に難しい判断だ」と疑問を呈した。

 その上で松本委員は、505施設のうち58施設が影響を認めていることを挙げ、「1割以上が影響があったと答えていることがむしろ私どもにとっては重要ではないか」と述べた。

 さらに池端副会長は無回答の68施設などにも着目し、「3割に何らかの影響があったと捉えるほうが、むしろ自然。そこをもっと深掘りして、しっかり検証しながら、大きな影響があったかを考えるべきではないか」と提案した。
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04スライド_P100【検-2-2】特別調査(令和2年度調査)の報告書案_20210324検証部会

         2021年3月24日の中医協検証部会資料「検─2─2」P100から抜粋
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 池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

■ かかりつけ医の調査について
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 私も今、松本委員がおっしゃったことと、ほぼ同じような内容である。かかりつけ医の調査に関して幸野委員が「7割が影響はなかった」と指摘したが、逆に私は3割の方が何らかの影響があったと捉えている。例えば、今、問題になっているワクチン接種も、もし3割の方に影響があったらワクチンが実施できるかどうかも分からなくなってしまう。
 そういうことを考えると、3割の方に何らかの影響があったと捉えるほうが、むしろ自然ではないかと思う。そこをもっと深掘りして、しっかり検証しながら、どういうところに大きな影響があったかを考えるべきではないか。

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■ 病棟薬剤師の評価について
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 医療従事者の負担軽減等に関する資料「検-5-1」の37ページ(病棟薬剤業務実施加算の施設基準の届出のために行った対応)について、先ほど有澤委員からもご発言があった。病院内での薬剤師の役割が非常に大きくなってきており、それによって、タスクシフト、タスクシェアがかなり進んでいる。
 そうした中で、この基準を取れるかどうかという課題がある。この資料にあるように、病棟薬剤業務実施加算の施設基準の届出をしていない理由の中で、最も多い回答が「薬剤師の人数が不足しており病棟専任薬剤師による病棟業務の実施時間が週20時間に満たないため」となっている。
 これは病院団体の間でもかなり大きな問題になっている。病棟薬剤師は必要なのだが、なかなか確保できない。調剤薬局のほうにどんどん流れてしまって、病院薬剤師の人気がない。待遇の問題もあるかもしれないが、こういうことが問題になっているので、この辺は少し注目していただいて、次期の診療報酬改定で何らかの対応ができないかどうか、ぜひ検討していただきたい。

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■ プログラム医療機器について
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 今後の議論の進め方などの提案については特に異存はない。賛成したいと思うが、一般論として懸念がある。現在、こういうものがどんどん出てきている。いわゆる医療用アプリ以外にも市販されている。これからどんどん、いろんな所でアプリが開発されると思う。そうしたアプリとの線引きをどうするのかは結構大きな問題になってくるのではないか。
 医師が関わった、ちゃんとしたアプリと、それに似て非なるもので一般にどんどん利用されているアプリと、そこをどう、きちんと検証していくかは結構、難しい問題になると思う。それについて事務局のお考えがあれば、お伺いしたい。
 具体的に言うと、例えば、既にアップル社の製品で、心電図を腕時計でモニターできるなど、どんどん進んできている。その辺の歯止めは可能なものなのか、それもお伺いしたい。

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【厚労省保険局医療課医療技術評価推進室・岡田就将室長】
 ご指摘の点、事務局としても懸念を持っている。一方で、その線引きについて、現行の考え方としては、有効性・安全性が確認された薬事で認められたものが保険医療の中で用いられていくものと承知している。また今後、事例の収集を行って、どういった事例があるのかを踏まえて、ご検討をお願いしたいと思う。
 現状、個別的具体的に、この品目がどうだということをお答えする準備はない。医療保険の中で活用いただくことについては、中医協で定められたルールに則って、その有効性・安全性が確認されているものを適正に使うということがどのように担保できるのかということも明示しながら対応させていただければと思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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