フォーミュラリー、「慎重な議論や調査が必要」 ── 池端副会長(2020年1月31日の医療保険部会)
日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は1月31日、今後の医療保険制度について議論した厚生労働省の会議で処方薬のリスト化(フォーミュラリー)をめぐる議論に言及し、「まだまだ慎重な議論や調査が必要である」と述べた。
厚生労働省は同日、社会保障審議会(社保審)の医療保険部会(部会長=遠藤久夫部会長・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第124回会合を開き、「医療保険制度改革に向けた議論の進め方(案)」を示し、大筋で了承された。
後期高齢者の自己負担割合や大病院受診の定額負担などについて月1~2回議論し、今夏の取りまとめを目指す。
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「薬をゼロにするという選択もある」
質疑では、保険者の代表が「生活習慣病薬の適正な処方を推進するという観点から診療報酬制度に生活習慣病治療薬のフォーミュラリーを盛り込むことについても検討すべき」と主張したが、反対意見もあった。
池端副会長は「パターン化することによってかえって医療費を上げることになる。いくらパターン化しても、特に高齢者の場合は薬をゼロにするという選択もある」と指摘した上で、慎重な対応を求めた。
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【池端副会長の発言要旨】
今日は序章ということなので、各論の細かい話はなるべく控えて、まず大きな話をさせていただきたい。
今、各委員のご意見をいろいろお聴きした。当然ながら、この医療保険部会の議論では、保険者側、保険を受ける側、サービスを提供する側と、それぞれの立場でいろいろ意見が分かれることは当然だと思うが、1点だけ共有できるとすれば持続可能な社会保障制度を守ろうということと、それに対して給付と負担の割合をどう考えていくか、これはたぶん皆さん共有できるところで、そこの落としどころだと思う。
そういう意味で言うと、基礎資料の20ページ「実効給付率の推移」は明確な資料だと思う。実効給付率はここ10年、ある程度、きちんとそろっている。後期高齢者は20%弱の負担。一方、若人は約20%の負担。この負担の割合をどうしていくかがこれからの議論になるのだろう。
この問題は、医療保険部会の委員の中で決めるのではなく、ある程度のところで国民がどう考えていくかということをもっと落とし込んでいって、その情報を得ながら議論していかなければならないのではないか。
今日は、マスコミの方もたくさん傍聴されていらっしゃる。おもしろおかしくではなく、真剣な議論として報道していただき、それを国民がどう選択するのかという流れをつかみながら議論していかなければならないだろう。
簡単には言えないかもしれないが、高福祉・高負担を選ぶのか、あるいは中福祉を選ぶのかという議論に近いかもしれないが、そういったところを考えながら議論しなければいけないのではないか。
一方、少し各論の話をさせていただくと、大病院の定額負担によって、大病院の受診を控えるということだが、なかなか進まないのはなぜか。国民の大病院志向を変えない限り、いくら小手先をやっても難しいと思う。
私の母校の大学病院は、毎日何千人もの外来患者を診ている。しかし、外来がなくなったら病院は成り立たない。大学病院クラスの大病院ですら、外来の収入がなかったら成り立たない制度になっている。ここにもう少し切り込んでいく必要がある。
大学病院クラスの大病院の外来は主に専門の外来のみとし、あとは入院で十分その機能を果たせて、働き方改革もできるような収入体系にすれば、おそらく大学病院は外来を手放すだろう。こういう構造も実際にあると思う。こうした問題についても、少し突っ込んだ議論を各論でぜひ取り上げていただきたい。
一方で、軽い疾患を保険給付の対象から外すということについては、一見良さそうに思えるが、疑問である。
私は毎日、現場で入院も外来も往診もしている。今、本当に費用を払うのが苦しくて、外来に行けなくなってしまっている患者さんがいる。その結果、糖尿病が悪化して、結局、入院することになる。莫大な入院費を払わなければならなくなる。そういう患者さんが何人もいらっしゃる。
このフリーアクセスをなくしてしまうと、蟻の一穴から大変な事になるのではないかということで、私はこれに反対させていただく。
もう1つ、各論で言わせていただくと、予防に対して政府もかなり力を入れて予算も倍増していると聞いているが、予防が本当に医療費を抑制する効果があるかどうか。この議論も実はしていかなければいけない。どんな論文を読んでも、あまり明確な根拠はないように思う。
予防は大事である。予防することは勿論よいことだと思うが、それが医療費を抑制するかどうかは、また別の議論ではないかということを知りながら、予防を進めなければいけない。過度に予防を進めて、軽い疾患の人を全てあぶり出して、そういう人に全て薬を投与したら逆に医療費が上がる可能性もあるので、ぜひ考えていただきたい。
最後に、ほかの委員から発言があったフォーミュラリーに関して言うと、パターン化することによってかえって医療費を上げることになる。いくらパターン化しても、特に高齢者の場合は薬をゼロにするという選択もある。そういう選択を毎日やらなければいけない。パターンから外れることがどんどん増えてくるのに、フォーミュラリーが独り歩きしてしまい、結局パターン化するのが当たり前になってくると、逆に患者さんに不利益を与えてしまうかもしれない。医療資源から考えても、無駄な医療を提供してしまう可能性もあるではないか。フォーミュラリーに関しては、そういう逆説的なこともあるということを知りながら、もっと慎重な議論、そして慎重な調査をされた上で、保険に乗せるかどうかを考えることが必要ではないか。
(取材・執筆=新井裕充)
この記事を印刷する2020年2月1日