薬剤情報の利活用、「全国展開への課題は何か」── 池端副会長

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 日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は9月26日、大分県臼杵市の病院を中心に進められている薬剤情報の利活用に向けた取組に共感を示し、「これは本当に素晴らしい。薬剤情報ネットワークの構築に15年かかったとのことだが、他の地域でも同様に展開できないか。全国的に展開するための課題は何か」と問いかけました。取組を紹介した内科医の舛友一洋氏は「それぞれの市で考えていただかないと難しい」と述べ、各地域の自主的な取組に期待を込めました。

 厚生労働省は同日、「高齢者医薬品適正使用検討会」(座長=印南一路・慶應義塾大学総合政策学部教授)の第8回会合を開き、当協会から池端副会長が構成員として出席しました。会議の前半では、「高齢者の医薬品適正使用の指針(追補)の骨子案」について議論しました。後半は、各地域における具体的な取組について2人の参考人から意見を聴き、これを踏まえて意見交換しました。
 
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総論編を製本化、「医療機関や薬局等への周知の際にも活用を」

 この日の検討会で、厚労省はまず「指針(追補)」の骨子案を示し、委員の意見を聴きました。骨子案の内容は大筋で了承されたものの、「指針(追補)」というタイトル名について他の候補を提案する意見がありました。この骨子案は、同検討会の下部に設置されたWG(高齢者医薬品適正使用ガイドライン作成ワーキンググループ)ですでに了承を得ており、今後は具体的な本文の作成などをWGで進めていく予定となっています。

 「高齢者の医薬品適正使用の指針」の総論編について厚労省は今年5月に通知を発出し、都道府県を通じて全国の医療機関や薬局等に周知しています。厚労省はその後、「総論編」に表紙や目次等を付け、図表を見やすい形に整備し、体裁を整えたものを作成して製本化しました。PDF版は、厚労省のホームページに掲載されています。同検討会では冊子版を委員の机上に配布。厚労省の担当者は「医療機関や薬局等への周知の際にも活用いただきたい」と呼び掛けました。

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今回のコンセプトを踏まえると、「総論編」を補完する「追補」

 骨子案のタイトルは、これまで「詳細編」としていましたが、「追補」に修正されて同検討会に示されました。骨子案を作成したWGの主査を務める秋下雅弘座長代理(日本老年医学会副理事長、東京大学大学院医学系研究科・加齢医学講座教授)は、「『患者の療養環境ごとの留意点』といった今回のコンセプトを踏まえると、『詳細編』と言うよりは『総論編』を補完する形になるので、『追補』という表現に修正した」と説明しました。

〇秋下雅弘座長代理(日本老年医学会副理事長、東大大学院教授)
04_秋下雅弘座長代理(東大大学院教授) (前略) 骨子案では、「患者の療養環境の特徴を踏まえた薬剤の追加の留意点」として、大きく3つの形を想定しております。1つめは、「外来 ・在宅医療」について。2つめは、「回復期・慢性期等の入院医療」について。これは「急性期後の入院医療」ということで、地域包括ケア病棟に入院されている患者もこちらに含まれます。
 さらに3つめは、「その他の療養環境」として、介護医療院や老健施設等の介護施設に入所されている患者さんを想定したものになります。
 特別養護老人ホームについては、前回のワーキングでご議論いただいた際には、3つめの「その他の療養環境」に含むと整理されたところではありましたが、「患者の療養環境の特徴」という観点から、「医師が常駐している施設と、そうでない施設で区別してはどうか」ということで、特別養護老人ホームについては、1つめの「外来、在宅医療」の、「在宅医療」に含まれるという整理をしています。サ高住についても同様です。1から3の、どの環境に該当するかについては、骨子案に施設の種類も含めて記載しております。
 続いて、資料1の「骨子案」についてですが、「はじめに」の部分には指針の目的、患者の療養環境ごとの多剤服用の現状を記載し、その後、1部、2部、3部と、それぞれの患者の療養環境における処方確認・見直しの考え方、それから「入院から退院」、「入所から退所」といった療養環境移行時における留意点、処方検討の留意点、多職種の役割、チームの形成について記載をしています。
 さらに、「おわりに」として、「患者・国民への啓発」、および「患者本人・家族の意向を尊重した薬物療法の考え方」を記載することとしています。(後略)

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03_印南一路座長(慶應義塾大総合政策学部教授)

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「なぜかを情報共有していくことが非常に大事」── 舛友氏

 骨子案の議論に続いて、参考人のヒアリングが実施されました。印南座長は「先ほどご議論いただいた指針の骨子案は、患者の療養環境別の指針を作成するコンセプトになっているため、本日はお二方の参考人の先生方にお越しいただき、患者の療養環境におけるポリファーマシー対策の具体的な取組について、ご発表をお願いしている」と紹介しました。
 
 ヒアリングに参加したのは、臼杵市医師会立コスモス病院の副院長で同院医療福祉統合センター長の舛友一洋氏と、北里大学医学部新世紀医療開発センター「地域総合医療学」教授である木村琢磨氏の2人です。このうち舛友氏は「ここまで出来る薬剤情報の利活用 ── うすき石仏ねっとの挑戦 ──」と題して、薬剤情報の共有を通じた地域連携の取組を伝えました。
 
 「うすき石仏ねっと」は、医療情報ネットワークシステムとして大分県内でいち早くICTを推進し、全国モデルになりつつあるそうです。舛友氏は「大事なことはICTを利用することだけではなく、それがなぜかを情報共有していくこと。一緒に話す機会を設けていくことが非常に大事だと考える」と語りました。

〇舛友一洋参考人(臼杵市医師会立コスモス病院副院長)
05_舛友一洋参考人(臼杵市医師会立コスモス病院副院長) (前略) 臼杵市は大分市の隣にありまして、人口は4万人を切った本当に小さな町です。高齢化率ももうすぐ40%に届くという、少子高齢化、日本の田舎の典型的な町でございます。
 「石仏ねっと」は、臼杵市内の医療・介護機関を結ぶ情報ネットワークです。「石仏カード」というFelicaカード、Suicaみたいなカードを患者に持っていただき、そのカードを患者がさまざまな機関で提示します。カードリーダーの上にカードを置くとデータが見えるようになる仕組みをとっています。
 最初は診療所と結んでいました。その後、病院と訪問看護が入りまして、次に調剤薬局の先生方に入っていただきました。調剤薬局の先生方をお誘いするときは、「病院のデータや病名が見えます」、歯科の先生に入っていただくときには「お薬や検査データ、病名が見れますよ」という形でお誘いをしました。ケアマネにも入っていただきました。消防署でも活用することができるようになっています。最近は行政も入ってきて、どのように活用していこうかという形でネットワークが広がっています。
 約4分の3の医療機関がネットワークに入っており、調剤薬局、歯科医院はほぼ入っています。ケアマネの事業所である介護事業所、そして公的機関にも入っていただいています。保健所にも入っていただいて、これから活用を考えていくということになっております。
 カードを持っておられる同意者の数は1万9,500人弱で、ほぼ市民の半分を超えたのではないでしょうか。高齢者に限りますと、恐らく70~80%を超えているという段階ではないかと考えています。
 検査データは異なる医療機関でも時系列で見られます。検診データもこの中に載っており、若い方でもデータの共有はできます。「昨日、あの病院で採血した」という場合、状態によってはもう採血しないということも増えてきています。(中略)
 機能別の参照件数ですが、薬剤の情報がやはり一番参照されています。また、職種別の参照では、薬剤師が一番活用していることが分かりました。薬剤師はこういった情報を必要としているんだなと感じています。
 また、入力は医師が一番頑張って入力してくれています。歯科の先生方もかなり頑張って入力されているのが分かります。
 総務省が昨年度に実施した「クラウド型EHR高度化事業」には、「石仏ねっと」も参加しました。総務省としては各医療圏にあるネットワークが、そのネットワーク同士でつながらないことがネックであると考え、それぞれの医療圏のデータをクラウドに上げたならば日本中どこでも見れるような仕組みをつくったらいいのではないかと考えておられたようです。異なる医療圏の情報を見るネットワークをつくれ、ということでございましたので、「うすき石仏ねっと」としても、市外の医療機関の情報を見ることができるようにしました。
 大分大学病院や、臼杵から近い病院、また、かなり離れた国崎半島の高田という地域でネットワークを新たにつくり、その情報を共有することも行いました。共有するデータは検査データと処方データです。
 また、同じく総務省の事業で、「子育て支援アプリ」との連携を致しました。「石仏ねっと」の中に、市が持っているワクチンの情報を流し込みました。お母さんたちは、スマホのアプリを使って「石仏ねっと」が見られるわけです。当然、次回の接種スケジュールはアプリで分かりますし、予定日が近づいたらお知らせをしてくれる機能があります。ワクチンの説明も、クリックすれば見ることができるアプリになっています。
 さらにこのアプリは、市からの子育て情報であったり、市が持っている成長曲線、身長、体重の情報のほか、母子手帳の一部の機能も載せています。「石仏ねっと」には検診情報のほか、お薬手帳、疾病管理手帳、介護予防、かかりつけ連携手帳などの内容がほぼ入ってきています。母子手帳も入ってきましたので、「あとは学童検診だね」ということで、行政は来年度からやろうということになっています。「赤ちゃんから墓場まで」というネットワークで情報を共有していこうと考えているところでございます。(中略)
 このような形で、臼杵市では、電話で話していた「連携」の時代から、「調整、協調」へと進んできています。今後は、医療、介護、ケアマネを含めてやっていくことで、いろいろな仕組みが組み合わされた「統合」の時代に入ると思っています。
 もちろん、大事なことはICTを利用するだけではなくて、「それがなぜか」ということを情報共有していくことです。介護現場の方々と医療側も常に情報を共有していくことが大事で、一緒に話す機会を設けていくということが非常に大事だと考えています。

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具体的な運用やデータ活用は、「それぞれの町で考えてほしい」

 舛友氏の発表に対し、会議の構成員から「素晴らしい」「感銘を受けた」との声が相次ぎました。池端副会長は「他の地域などで全国的に展開するための課題は何か。問題点や解決策などがあれば教えていただきたい」と質問しました。

 舛友氏は、システムの導入は「比較的簡単」としながらも、具体的な運用や活用については各地域の自主的な取組の必要性を指摘。「われわれは、検査と処方のデータを集めるというところまでで、『活用についてはそれぞれの町で考えてください』という形でやっていこうと思っている」と述べました。

〇池端幸彦構成員(日本慢性期医療協会副会長)
 大変素晴らしい取組をご紹介いただきましてありがとうございました。本当に素晴らしい取組だと思います。このようなネットワークの構築には、ここまで15年かかったということですが、他の地域でも同様に展開しようとした場合の課題などはございますか。かなりノウハウができていますので、他の地域などで全国的に展開するための問題点や解決策などがございましたら、教えていただきたいと思います。

〇舛友一洋参考人(臼杵市医師会立コスモス病院副院長)
 豊後高田市にも新しいネットワークをつくったわけですが、比較的、簡単にできました。調剤薬局の方々に「石仏ねっと」の話をしましたら全面的に入ってくださって、もう運用が始まっています。
 集まってきたデータをどう活用するか、「石仏ねっと」のどの部分を入れるかについては、それぞれの市で考えていただかないと難しいのかなと思っています。対象となる患者はたいてい市民なんです。われわれは、検査と処方のデータを集めるというところまでで、「活用についてはそれぞれの町で考えてください」という形でやっていこうと思っています。

 

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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