「中心静脈栄養を悪とするのか」 ── 10月16日の入院分科会で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_20191016_中医協・入院分科会

 日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は10月16日、中心静脈栄養を長期間にわたって実施しているとのデータが改めて示された厚生労働省の会議で「ほかの栄養摂取の手段に切り替える努力は必要だ」としながらも、「栄養を採るルートが中心静脈栄養しかない患者もいる」と指摘。「中心静脈栄養を悪とするのか。長期間はダメだとするなら、抜くのか。行き場のない患者はどこへ行くのか」と理解を求めた。
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 ■ 資料はこちら
   → https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000183658_00018.html
 ■ 速記録はこちら → http://chuikyo.news/20191016-report/
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 厚労省は同日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)の令和元年度第10回会合を開き、入院医療に関する最終報告に向けて議論した。
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会議風景_20191016_中医協・入院分科会
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新たな資料として「高カロリー輸液の投与状況」を提示

 最終報告の議論に先立ち、厚労省は“宿題”となっている「重症度、医療・看護必要度」や「医療区分」の見直しに関する資料を提示。その中で、「医療区分3の1項目に該当している患者の該当項目は、中心静脈栄養が多い」と改めて指摘した上で、療養病棟における中心静脈栄養の実施に関する新たな資料として「高カロリー輸液の投与状況」を示した。
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【入-1】入院患者の評価指標_20191016中医協・入院分科会_37ページ

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療養病棟における評価指標(医療区分)について論点

 この資料について、厚労省の担当者は「中心静脈栄養が入っている患者さんに対して、おそらく高カロリー輸液の投与がされているであろうということを見込み、高カロリー輸液の投与があったか、なかったか、あった場合に、どのぐらいの日数をされていたかという観点で分析を行った」と説明した上で、分析結果を紹介。「おそらく入院期間中のほとんどを占める期間において中心静脈栄養が入った状態で高カロリー輸液が投与されている」と指摘した。
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  ※ 高カロリー輸液の投与に関する説明はこちら
    → http://chuikyo.news/20191016-report/#chapter-3
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 こうしたデータを踏まえ、療養病棟における評価指標(医療区分)に関する論点として、「療養病棟における中心静脈栄養の実施状況について、高カロリー輸液の投与状況を踏まえ、どのように考えるか。また、カテーテル感染の発生状況等については、どのような分析が可能か含めて、引き続き検討が必要ではないか」とし、委員の意見を求めた。
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会議風景2_20191016_中医協・入院分科会
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「中心静脈栄養しかない状態、なかなか離脱できない」

 質疑で、池端副会長は「今回の新しい分析で事務局が何を言いたいのか」と切り出し、「何らかの理由で栄養を採るルートがほとんど中心静脈栄養しかない状態で療養病床に来ている患者さんが入院すれば、その患者さんは当然、なかなか離脱できない」と現状を説明した。

 厚労省が新たに示した資料については、「入院期間中、ほぼ入れたままになっている可能性が高いというデータに対して全く異存はないし、それが実態だと思う」とした上で、「では、それを悪とするのか、ダメとするのか。もちろん抜く努力はしていかなければいけないが、ほかの手段に切り替えることができない場合もある」と理解を求めた。

 池端副会長はさらに、「長期間はダメだとするなら、抜くのか。栄養を採っている手段を抜いて、では、そのあとはどうするのか。療養病床からどこへ行くのか。行く場所もないということになってしまうのではないか」と疑問を呈し、「高カロリー輸液は最後の栄養手段だということで来ている患者が多いということを理解した上で、この期間を理解していただきたい」と訴えた。

【池端副会長の発言要旨】
 37ページが今回の新しい分析の表だが、ここで事務局は何を言いたいのか。中心静脈栄養が「医療区分3」の半分、全体では10数パーセントというデータを示した上で、入院期間中の高カロリー輸液の投与について入院中の6割以上の日数が圧倒的に多いというデータまで出してきている。
 これをどう考えるか。急性期病院において中心静脈栄養を入れる場合は、一時的に食事ができなくなり、その治療期間中に中心静脈栄養を実施し、食べられるようになったらすぐに切り替えられることが多いだろう。
 しかし、その後に何らかの理由で口から栄養を採るルートがなくなり、中心静脈栄養しかない状態で療養病床に転院する患者さんもいる。そういう患者さんはなかなか離脱できない。
 ということは、入院期間中、ほぼ入れたままになっている可能性が高いので、今回のようなデータが出る。これに対して私は全く異存はないし、それが実態だと思う。
 では、それを悪とするのか。ダメとするのか。もちろん、抜く努力はしなければいけない。感染症への対策も必要だろう。ただ、何らかの理由で経口摂取ができない理由がある。急性期病院で中心静脈栄養を入れられて、そういう持ち込みが継続される場合も多い。ほかの手段に切り替えることができない場合もある。
 もし、長期間の中心静脈栄養はダメだというなら、抜くのか。栄養を採っている手段を抜いて、では、そのあとはどうするのか。療養病床からどこへ行くのか。行く場所もないということになってしまうのではないか。高カロリー輸液は最後の栄養手段だということで療養病床に入院している患者が多いということを理解した上で、この期間を理解していただきたい。
 私自身、まだ現役で病棟に張り付いてる人間だが、中心静脈栄養をしながら経口訓練をして切り替えられるのは1割ぐらいで、8割、9割はなかなか難しいという現状がある。そこをどう考えるか。それを踏まえて、今回のデータを評価していただきたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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