「高齢者の急増は医療費拡大にそれほど影響していない」 ── 9月27日の医療保険部会で武久会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

武久洋三参考人(日本慢性期医療協会会長)_20190927医療保険部会

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は9月27日、2040年を見据えた社会保障制度改革などを議論した厚生労働省の会議で、「高齢者の急増は医療費の拡大にそれほど影響していない」との認識を示した。医療保険制度をめぐる状況については、急性期病院における介護の必要性や重要性を指摘した上で、「介護力を強化した急性期病院等をつくらなければいけない」と提言した。

 来年4月に実施される2020年度診療報酬改定の議論が本格化する中、厚労省は同日の社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=遠藤久夫部・国立社会保障・人口問題研究所所長)で基本方針の策定に向けた審議をスタートさせた。会合には、池端幸彦委員(日慢協副会長)の代理として武久会長が出席した。

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 ・ 資料等は → https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_06960.html
 ・ 説明等は → http://chuikyo.news/20190927-objection/
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 厚労省の担当者は来年4月までのスケジュールを説明した上で、改定の視点や方向性などを提示。「皆さんと一緒に議論していく中での『たたき台』として資料を用意した。こういう柱でいいのか、また別の柱があるのではないか、そういうことをこれから議論していただきたい」と意見を求めた。
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20190927医療保険部会2
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外来診療も入院費用も減っている

 基本方針に関する質疑では、「効率化・適正化」を重視する意見が多く出された。保険者の代表は「次期改定は団塊の世代が後期高齢者に入る2022年を見据えた改定になるため極めて重要な改定」と強調した上で、「制度の持続確保のための『効率化・適正化』という視点は喫緊の課題だと思う。重要項目として取り上げていただきたい」と求めた。欠席した経団連の委員からも同様の意見書が提出された。

 これに対し、武久会長は「だいぶ前には総医療費が100兆円を超えるのではないかと言われていた時期もあるが、外来診療も入院費用も減っている。平均在院日数も短くなっている」と指摘。「高齢者がどんどん増えていても医療費の拡大にはそれほど影響していない」と述べた。

武久会長の発言要旨
 数日前に総医療費が発表された。前年度から約3,000億円増加したようだが、近年は42兆円前後で推移しており、伸びが緩やかになっている。前年度より医療費が少し減った時期もある。厚労省のご努力の結果だと思っている。
2025年には総医療費がかなり多額になるような予想が示されている。以前には、100兆円を超えるのではないかと言われたこともあった。高齢者が非常に増えているが、統計上では外来診療も入院費用も減っている。平均在院日数も短くなっている。高齢者がどんどん増えていても医療費の拡大にはそれほど影響していない。保険診療としてはうまくいっているのではないか。新しい薬や技術を取り入れながらも、このような状況であることは非常にありがたい。
 病気の性格上、急性期よりも慢性期のほうが長くかかるが、現在は急性期の病床が約90万床、慢性期の病床が約30万床となっている。前回改定などでも、この比率を少しずつ変えていく方向性が示されている。
 高齢者があまり長く急性期病院に入院していると、リハビリテーションの実施が遅くなって寝たきり者が増えるのではないかと思われる。高齢者が増えているにもかかわらず医療費がさほど増えないように効率化されて、高度医療には適正な報酬を付けていただいている。われわれとしては、この方向で進めていただければありがたいと思う。

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武久洋三参考人2(日本慢性期医療協会会長)_20190927医療保険部会
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介護力を強化した急性期病院等を

 この日の会合では、基本方針の審議に続いて、2040年を見据えた社会保障制度改革などについても議論した。政府は20日、安倍晋三首相を議長とする「全世代型社会保障検討会議」を発足。その1週間後となる27日の医療保険部会でも「全世代型社会保障」の実現に向けた議論がスタートした。

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 ・ 資料等は → https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_06960.html
 ・ 説明等は → http://chuikyo.news/20190927-no-answer/

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 会合では、厳しい財政状況などを指摘した上で「効率化・適正化」を求める声が相次いだ。保険者の代表は「全世代型社会保障検討会議の構成員でもある遠藤部会長から、医療保険部会における議論の状況を説明していただくなど、しかるべき方法で検討会議の議論に反映していただくことが医療保険部会としての役割である」と要望した。

 武久会長は、医療と介護の一体的な運営を進めていく必要性を指摘した上で「急性期病院での介護の必要性が非常に高まっているので、急性期病院に『基準介護』を導入し、介護力を強化した急性期病院等をつくらなければいけない。医療・介護の現場にいる立場として、切実な思いを訴えたい」と述べた。

武久会長の発言要旨
 議題が「医療保険制度をめぐる状況」である。2006年度の診療報酬改定で7対1入院基本料が創設され、看護師の配置が多い急性期の病棟ができた。当時、既に急性期病院に入院している患者の高齢化が進み、現在では急性期病院の入院患者の4分3が高齢者である。
 こうした状況に伴い、急性期病院から慢性期病院に入院してくる患者が非常に重症化しており、それに相応して要介護度も高くなっている。寝たきりのような高齢患者も多い。そのため、病院における介護保険の需要もこれまで以上に高まっている。
 こういう時代であるにもかかわらず、7対1が導入された2006年から看護基準は変わっていない。ところが、介護の必要な認知症の高齢者、歩行不安定な方々がたくさん急性期病院に入院する。そのため、身体抑制されたり、尿道留置カテーテルを付けるなど、急性期の看護はいろいろなケアで非常に苦労されている。医療保険の必要性はもちろん、介護保険の必要性が非常に高まっている。
 リハビリテーションが医療保険から介護保険のほうにかなりシフトしてきた。医療保険制度と介護保険制度が一体となっており、患者は医療保険・介護保険制度の間を行ったり来たりしているのが現状である。急性期病院での介護の必要性が非常に高まっているということを再認識していただきたい。急性期病院にも「基準看護」だけではなく、「基準介護」という配置基準を取り入れ、介護力を強化した急性期病院等をつくらなければ、介護保険が必要になる人が急増する。その現場にいる者として、切実な思いを訴えたいと思う。

20190927医療保険部会

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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