地域包括ケア病棟見直しの指標、「先祖帰りしている」 ── 入院分科会で池端副会長
日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は7月25日、地域包括ケア病棟の見直しに向けて厚生労働省の会議で示された手術や検査、疾患別リハなどの指標について「先祖帰りしてしまっている。地域包括ケア病棟はそういう病棟ではない」と苦言を呈した。調査データによると、地域包括ケア病棟での手術や検査、リハの実施率が低かった。
厚労省は同日、2020年度改定に向けて中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)2019年度第5回会合を開き、来年度の診療報酬改定に向けて、①地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料、②回復期リハビリテーション病棟入院料──をテーマに挙げ、これらの論点を示した。
地域包括ケア病棟入院料については、入院料1・3の実績評価の要件を見直す構えを見せた。回復期リハビリテーション病棟入院料については、栄養管理を充実させる方向性を示した。
地域包括ケア病棟入院料・入院医療管理料【論点】 資料「入─1」P45
〇 地域包括ケア病棟に求められる機能をさらに推進する観点から、現状の自宅等からの患者の受入や在宅医療の提供状況、入退院支援の実施状況、入院中の患者に対するリハビリテーションの実施状況等を踏まえ、入院料1・3の実績評価の要件等について、どのように考えるか。
回復期リハビリテーション病棟入院料【論点】 資料「入─1」P71
〇 回復期リハビリテーション病棟から退棟した患者のFIM得点の変化や、FIMと他の指標との関連性に着目した分析等について、実施された治療の内容や、退棟後の治療の必要性等との関係等を踏まえて、進めてはどうか。
〇 回復期リハビリテーション病棟における栄養管理にかかる評価の要件等について、管理栄養士の配置状況や、栄養摂取の状況を踏まえて、どのように考えるか。
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手術は4分の1、検査も少なく、リハは3分の1
地域包括ケア病棟入院料の要件見直しに向けて示されたのは、手術や検査、リハビリなどの実施率。このうち手術について「『実施あり』は約4分の1であった」と指摘した。
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検査については、「過去7日間」の実施状況を提示。「検体検査(尿・血液等)は『実施あり』が約半数であったが、その他は『実施なし』の割合が多かった」と説明した。
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特に議論になったのが疾患別リハビリテーションで、調査データでは「いずれも実施していない」割合が3分の1を占めた。この結果について厚労省は「『いずれも実施していない』が多かった」と指摘した。
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検査の実施率は「データを取るタイミングの問題」
質疑では、地域包括ケア病棟での検査やリハビリの実施率が議論になった。口火を切ったのは保険者を代表する委員。手術の実施率については一定の評価をしたものの、検査については「実施の割合が非常に少ない」とし、リハについては「実施していないのが約3割も占めている」と問題視した。
さらに、具体的な退院日が決まっている患者のうち「検査なし・リハビリなし」が10%あることを挙げた上で、「地域包括ケア病棟の診療報酬点数の設計を考えると、実際、臨床現場にいらっしゃる先生方はこれについて、どのような評価をされているのか」と見解を求めた。
日本医師会の委員は、検査の実施率を「過去7日間」で調べた点に言及し、「どこの時点で取ったかによって、こういう統計が出てきてしまう。入院期間の中間や終わりぐらいの所で取ればこういう数字になる」と調査方法を問題視した。
病院団体の幹部は、入棟前に比べて退棟時のADLが向上しているデータを指摘し、「生活の場につなげる役割として非常に大きく機能している」と評価。検査については、「データを取るタイミングの問題ではないか」とコメントした。急性期病院の院長からも同様の意見があった。
疾患別リハとして算定せずともアウトカムはある
池端副会長は、栄養管理や多剤服用の改善など「非薬物的治療」に取り組んでいることを伝え、「地域包括ケア病棟では手術や検査などのほかに何もしていないわけではない」と説明。リハビリについては「20分1単位という枠にとらわれない5分程度の生活リハビリを小刻みに行い、1日で合算したら何十分もやっている。疾患別リハとして算定していないが、こういうリハのやり方でアウトカムを出している」と理解を求めた。
池端副会長の発言要旨は以下のとおり。
〇池端幸彦副会長
検査やリハビリの実施率が低いのではないかと、このデータを見れば誰でもそう感じるのは当然だろう。ただ、根本的に考えなければいけないことは、こうした手術や検査、疾患別リハなどは急性期を中心とした一般病床の指標であるということだ。
では、地域包括ケア病棟で何もしていないのかと言えば、決してそんなことはない。例えば、栄養指導、薬のポリファーマシーの調整、自宅に一緒に行って評価をする在宅支援など、非薬物的治療にも取り組んでいる。それが地域包括ケア病棟である。ところが今回の資料では、こういう非薬物的治療が指標から全く抜け落ちている。
現在、リハビリは単位数で評価されているが、すでに回復期リハの進んでいる医療機関では「20分1単位」という枠にとらわれないポイント・オブ・ケアの生活リハビリを5分程度ずつ小刻みにやっている。そして1日で合算したら何十分もやっている。ただし、疾患別リハとしては取っていない。こういうリハを積極的にやっていて、アウトカムも出している。
だから私は、今回示されたような評価は、「先祖帰り」してしまっている評価だと思う。地域包括ケア病棟はそういう病棟ではない。
地域包括ケア病棟入院料の前身は亜急性期入院医療管理料で、亜急性期1はポストアキュート、亜急性期2が在宅支援だった。しかし、亜急性期1がほとんどだったので在宅支援も入れようということで3つの機能にして、便利に使える病棟として地域包括ケア病棟ができた。
使い勝手が良くて、アウトカムも出す。一般病床だったら単価が7万円のところが3万円で済む。そういう病棟をつくろうという趣旨であったはずなのに、手術や検査、リハビリなどの実施率という評価を進めていったら、また先祖帰りしてしまう。今回、事務局はどういうつもりでこうした資料を出したのか。非常に疑問である。
地域包括ケア病棟が何もしていないはずがない。実際、現場を見ていただきたい。じっと寝ている人なんて、ほとんどいない。なぜならば、在宅復帰しなければいけない。自宅に帰さなければいけない。病床を回さなければいけない。
従って、非薬物的治療などを評価できるような指標を次回の調査には入れていただきたい。そうしないと、いつまでたっても、「なんだ、何もしていない病棟なのか」と言われることになってしまう。
特にリハビリに関しては、生活リハビリテーション的な短時間のリハで非常に有効な成果を挙げている。地域包括ケア病棟協会がデータを出しているので、これらも活用しながら評価していただきたい。
(取材・執筆=新井裕充)
この記事を印刷する2019年7月26日