介護人材の確保策、「要介護を減らす視点も」 ── 介護保険部会で武久会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

武久洋三委員(日本慢性期医療協会会長)_20190726介護保険部会

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は7月26日、介護人材の確保策などを議論した厚生労働省の会議で「要介護者を減らすという視点もある」と問題提起した。武久会長は「要介護者の急増を前提に介護職員の不足を議論しているが、介護人材不足は相対的なものではないか」と指摘。早期リハの実施などを医療側に要請するなど要介護者を減らすための方策も必要な議論であると語った。
 
 厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)の介護保険部会(部会長=遠藤久夫・国立社会保障・人口問題研究所所長)を開き、「介護人材の確保・介護現場の革新」を主な議題に挙げた。

 配布資料の内容は、①介護人材の不足、②介護人材の確保、③介護現場の革新──の三本柱。現状や課題などを整理した上で、最後に「論点」を示した。
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厚労省老健局・栗原正明企画官_20190726介護保険部会
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離職率、「事業所別にバラツキが見られる」

 
 厚労省の担当者は資料説明の冒頭で、人手不足の現状について説明した。

 その中で、介護職員の離職率を事業所別に示したグラフを紹介し、「離職率が10%未満の事業所が約4割である一方、離職率が30%以上と著しく高い事業所も約2割存在する状況があり、事業所別にバラツキが見られる」と指摘。介護事業所の職場環境が二極化している状況を改めて伝えた。

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介護人材の確保・介護現場の革新(参考資料)_20190726介護保険部会資料P10

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継続して働き続けられる労働条件や職場環境を

 
 厚労省の担当者は、こうした状況を踏まえた最近の取組や、介護現場の革新に向けた方策などを示した上で論点を提示。職場環境の整備を進める必要性を強調し、「継続して働き続けられるような労働条件や職場環境を確保するため、どのような対応方策が考えられるか」と委員の意見を求めた。
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【論点】介護人材の確保・介護現場の革新_20190726介護保険部会資料P8

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「要介護者を少なくしていくイメージを」と武久会長

 これについて各委員の発言が一通り出そろった終盤に武久会長が発言。「どなたかがおっしゃってくれるかなと思って聴いていたが、その関係の話がなかった」と切り出し、「脳卒中になった次の日から急性期リハビリができるような体制を医療側に要請するとか、要介護者を少なくしていくイメージを持っていただくことが介護保険部会の議論にも必要だ」と指摘した。

 武久会長の発言は以下のとおり。

武久洋三委員2(日本慢性期医療協会会長)_20190726介護保険部会

〇武久洋三会長
 介護保険部会に、医師の立場として出ているのは、日本医師会の江澤先生と慢性期医療の私である。私も長い間、介護保険部会の委員を務めているが、介護職員の人材不足というのは10年程前から続いている。その間、元気高齢者や外国人の方にお願いして、なんとか維持しているが、これからは非常に厳しいフェーズになる。
 結局のところ、「介護人材が不足している」というのは相対的なものだと私は思っている。今日のお話を聴いていて思うのは、要介護者の増加を是認した上で、介護職員不足について論じている。要介護者が一定数以上、どんどん増えてくることを大前提として、介護職員が不足するという話をしている。
 しかし、介護職員の不足というのは相対的なものであって、要介護者が減れば介護職員の不足に少し猶予が出てくる。われわれ医師の立場から見ると、要介護になる前は何らかの病気にかかっている。治療の結果、要介護という状況になる。
 皆さんご存知のように、リハビリテーションをするということは、その要介護者を減らすための非常に大きな医療的なツールである。しかし、リハビリテーションは回復期リハビリテーション病棟で実施するものだというイメージが付いているため、脳卒中になって1カ月以上たってからリハビリテーションが行われているのが現状である。ところが、脳卒中を発症した次の日からリハビリテーションが行われれば、この要介護者というのはかなり減るのではないか。
 介護保険部会では、介護保険に関する以外のことを言うべきではないとも思うが、要介護者が減ったり、また要介護度が軽くなったりすることが将来、見込めるとすれば、そういうポイントも必要ではないか。すなわち、脳卒中になった次の日から急性期リハビリができるような体制を医療側に要請するとか、とにかく要介護者をなんとか少なくしていくというイメージを持っていただくことは、この介護保険部会の議論にも必要だ。
 要介護者が増えてくるから介護職員が足りないのだと考えがちだが、要介護者を減らすためにはどうしたらいいか。そういう意見がこの介護保険部会でも出てもいいのではないかと思うので、こういう話をさせていただいた。
 われわれも医師として反省すべき点はある。リハビリテーションが急性期から集中的に行われれば寝たきりがだいぶ減ってくるのは医療界の常識である。
 2018年度の同時改定で、老健局は摂食嚥下や排泄、低栄養、脱水など、いろいろと介護保険の報酬を付けてくれた。これにより、だいぶ現場が動いてきている。非常に貴重なことだ。今後も、そういう視点を忘れずに、要介護者を減らすという視点もあるということをお話しさせていただいた。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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