2019年頭所感 日本慢性期医療協会 会長 武久洋三
新年あけましておめでとうございます。
2018年は非常に大変な年でした。医療介護報酬の同時改定が行われたことが最大のインパクトでした。2012年から始まった本格的な日本の医療改革に介護改革が加わって、大変なことになりました。安穏としていた病院経営者がバタバタ慌てだしました。安易にやれそうだと始めた介護ビジネスも、思惑が外れて厳しい結果となっている小さな事業所もあります。やはり資本力のある大手が楽な商売をしているし、損するようなところには手を出していない民間事業所は利用者のいるところにしか行かないのだから、当たり前と言えばそうですね。地方は疲弊し、過疎地からは人がどんどんいなくなっています。しかし、病院はそんなに簡単に場所を変えるわけにはいきません。その場所の人口がどんどん減っていっても、おいそれと他のところに莫大な資金を投じて新病院を作るなんて、できるわけがありません。
さて、2018年も1月から毎月記者会見をしてきました。(表1)
表1に代表的項目を示しましたが、何よりも4月の同時改定が最大のイベントでしたし、その時に新しく介護医療院が誕生したのです。今のところ、療養病床からしか移行できませんが、4月になるまでに私が警告していたことが、正にあからさまになりました。介護療養型医療施設から介護医療院へはスムーズに移行できたのに、医療療養病床からの移行に、なんと市町村が「NO」を突き付けたのです。それは、医療保険から介護保険の領域に変わってしまうからです。医療保険には主に社会保険(社保)と国民健康保険(国保)がありますが、高齢者の多くは仕事をしていないので、国保が多いのです。国保の保険者は2018年から市町村から都道府県になったのです。そうなると小さな市町村では、医療保険を使っている多くの要介護者が県単位の国保から市町村単位の介護保険に変わるということになるのです。例えば50人の病棟が医療保険病棟から介護医療院に変わったとすると、その病院のある自治体の介護保険料が爆増することになるからです。通所や訪問と違い、施設入所は大きい金額となります。そのため2018年9月末現在、医療療養病床から介護医療院への移行が全国で618床と、ほんの少しにとどまっています。人口と比べても多い日本の病床を減少させる最初の試みがもろくも開始早々つまずいたのです。この問題は年を越してもなかなかうまく解決できそうもありません。療養病床の25対1の6年以内の廃止ということも、一部の病院にとっては一大事です。日慢協の会員の病院では、まじめに「重症者をきちんと治療する」という決意をお持ちですが、会員でないケアミックス病院では、25対1と一般病床との間での患者のキャッチボールという方法で莫大な利益を上げていたのですから、そこを目指して熱い鉄槌が下ったということです。日慢協の会員病院のようにまじめに地域の高齢患者をきちんと治療してこなかった罰が下ったともいえます。しかし日本の病床はまだまだ多いのです。療養病床だけでなく一般病床の中にも多くの高齢者を長期に入院させているいわゆる社会的入院が依然として続いているのです。厚労省がここを整理しようとしているのは間違いありません。中途半端な自称急性期病院を急性期から追い出す急性期指標を持ち出してきました。一方慢性期の療養病床も社会的入院の宝庫として利用している現状を大幅に改善しようとされています。ここ15年ほどで居住系施設が約120万床分も増えたことにより慢性期病床でも入院患者の減少が、明らかとなってきたのです。2025年までに後期高齢者がまだ約400万人以上増えていくといいながら、患者一人一人の入院期間がどんどん短くなってきているのです。この傾向は慢性期よりも急性期に著明であり、昨年の5月では空床が約33万床になってしまいました。この傾向はますます強まるでしょうから、30万床以上の病院病床が空気を載せている状況なのです。そのため国はそのうち約10万床位を介護医療院として病院病床から変更させていこうという大目標があるのです。それでもなお、約20万床以上が空床です。さらに精神科でも約10万床を減少させる方向に動いています。最悪の場合、精神病床含め、将来40万床近い病床が病院病床でなくなる可能性がでてきました。日本の病院病床は今約155万床ですから、約40万床が利用されないとなってくると、実情は115万床くらいとなる可能性も考えておかなければなりません。
急性期病院の定義が変わり、慢性期も病院と施設へと分割してゆくという傾向が2025年までに実現する可能性があります。要するに急性期も慢性期もメリハリのある形となるでしょうし、いわゆる回復期が急性期の2週間の後の1ヶ月くらい、そして慢性期がその後約2か月程度を将来の目標としているかもわかりません。日慢協は急性期、それも高度な急性期を除く地域急性期から回復期、慢性期とさらに在宅機能などを有する地域多機能病院として生き残るしか方法はありません。やがて日本の病院は、高度な医療を提供する高度急性期病院と地域の多機能な病院の、大別して2つに集約されていくことでしょう。
日本慢性期医療協会の会員が日本の人口の減少と高齢化に対応し、地域の多機能な病院に今から成長してゆかなければなりません。本当に地域に必要と思われる病院にならなければ、地域に必要な医療機関として、住民に信頼されないことになります。しかし日慢協としては、日慢協だけが良くなればそれで良しとは思っていません。日本の医療全体が良い方向に改善されてゆくことが共通の目的です。日本の病院病床数の効率化も重要ですが、2001年に一般病床の病床面積1床当たり4.3㎡から6.4㎡に変更されているのです。しかし、18年たった現在でも約20万床以上の病床が4.3㎡の6人以上部屋のままとなっています。日本全国で経済的に恵まれていない家庭でも、高齢者も一人一部屋の方が多いという現実からいって、今だに20万床以上も存在するという4.3㎡という療養環境は何としても改革すべきでしょう。地域包括ケア病棟は6.4㎡と4.3㎡の病床で1日入院費が何と5,200円も差がついているのです。療養病床になれない一般病床の4.3㎡の6人以上部屋の病床を6.4㎡の4人部屋に改善する方向に国が関わるべきです。というのも、今や半数以上の病院が赤字経営という厳しい運営を強いられています。何とか今や世界で有数の先進国になっている日本でのとんでもない療養環境は、国にも責任があるでしょう。各都道府県の医療基金で4.3㎡の6人部屋から6.4㎡の4人部屋に改善できるようにしてあげるべきです。病床が2/3に削減されることもあり、医療の減反政策としても1床500万円を療養環境改善資金として出せるようにしてはいかがでしょうか。
一方で日本は高度な医療への報酬が低すぎます。レベルの高い高度医療の点数は倍増してもいいくらいですし、救急への評価も高めるべきです。損を出しながらも地域で救急医療を担っている民間病院を支援するべきです。また、いわゆる「慢急」すなわち「慢性期状況にある患者の急変」や高齢者の交通弱者ゆえの救急車利用の軽度中度の急変患者は地域の多機能病院、そうです、今までは地域の慢性期が中心の病院だった病院がそういう急変患者を引き受けるということも評価するべきでしょう。
また診療所との在宅連携、役割分担についても相互信頼を強めていくべきです。これについても評価をつけるなら、日本の医療全体が良い方向に動いていくために今年も日慢協は幅広いスペキュレーションをもって論議を展開していくつもりです。2019年元旦として大きな決意が必要ですし、平成は今年で終わります。この大きな節目の山をいかに乗り越えてゆくかが、日慢協の大きな課題です。会員とともに成長していきたいと思います。皆様頑張りましょう。
この記事を印刷する2019年1月1日