2017年年頭所感 日本慢性期医療協会会長 武久洋三

会長メッセージ 協会の活動等

2017年年頭所感 日本慢性期医療協会会長 武久洋三

 「療養病床は一体どうなってしまうのだろうか」と全国の療養病床をお持ちの4,000近くの病院はやきもきしているのではないかと私は心配している。しかし、日本慢性期医療協会に入会しておられる大多数の会員病院については、私は全く心配していない。日本慢性期医療協会は私が2008年4月に会長に推薦された時にそれまでの日本療養病床協会の名称を日本慢性期医療協会にしたいと総会で訴えて、満場一致でご賛同頂いた時から協会は一変したのである。

日本慢性期医療協会 会員病院 病床種別の状況

 療養病床だけからの脱皮、幅広いpost acute機能や在宅支援さらには一部の地域急性期機能を含む地域包括ケア病棟まで私達の病床機能は果てしなく拡大の一途を辿っている。会員数も何らの勧誘もしないで、退会も止めもしない中で、およそ1,200と10年前の倍近くになっている。2016年現在の日慢協会員のお持ちの病床種別数を表1に示してある。療養病床が歴史的にいくつもの名前を付けられて変遷し、終いに医療療養病床となったものである。昔は特養の数も少なく、老健も28年前に初めてできたものの、慢性期高齢者の増加に追いつかず、療養病床と一般病床の一部(特定除外病棟)がいわゆる機能的には老人収容所的に利用されてきたことは事実である。

 特養がユニット化され、老健も35万床となるにしたがって高齢者の棲み分けが始まり、医学的には軽度な患者が特養、老健に入所し、重度の患者が療養病床に入院するという方向となって来た。療養病棟入院基本料1,2ができ、1は医療区分2、3が80%以上の縛りがありながら、何の縛りもない療養病棟入院基本料2との入院医療費の差は、1日たった650円程度という僅かなものであった。しかし日慢協の心ある会員はあえて重度の患者を断りもせず積極的に受け入れ、とてもじゃないが低い利益率の中で必死に病院経営をして来てくれたのだ。

 表1のように日慢協では療養病棟入院基本料 1と2の割合は圧倒的に1が多い。然るに厚労省の資料では2014年7月の段階でも 1と2の割合は1.8対1である。(図1)2016年4月にやっと療養病棟入院基本料2に医療区分2,3 50%以上の縛りが入ったものの、2013年度に全日本病院協会が実施した集計でも、図2のように療養病棟入院基本料2の医療区分1の患者割合は43.6%という調査結果も出ている。また、脳卒中患者の医療区分1の比率は、療養病棟入院基本料2において44%であるのに対し、障害者施設等入院基本料では64%、特殊疾患病棟1では31%であった。要するに重い患者を拒否し、楽な患者ばかり入院させようという、同じ収入ならばそういうことをするだろう。しかし日慢協の会員の25対1は院内に複数の病棟を持ち、その多くを20対1としたものの看護師の数により仕方なく25対1にしたものがほとんどである。日慢協の25対1は医療区分2,3を50%以上入院させてその使命を出来る範囲で果して来ている。

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  図1(2016年12月7日第7回社会保障審議会療養病床の在り方等に関する特別部会 資料より)

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  図2(2016年12月7日第7回社会保障審議会療養病床の在り方等に関する特別部会 資料より)
 
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       図3(2015年7月1日平成27年度第4回入院医療等の調査・評価分科会 資料より)

 2016年12月21日のメディファクスを見て驚いた。メディファクスによると、12月20日に全日病の猪口副会長が発表し、公の情報として出ている資料なのでメディファクスに記載してある表を表2に示させて頂いているが、実に25対1の病床が2016年3月と10月で3,030床減少している。

全日本病院協会 2016年度診療報酬改定に伴う病棟転換等状況調査結果2

 驚くべきは、2016年度診療報酬改定において、医療療養25対1に対する新要件として定められた、医療区分2,3患者割合が5割未満または、看護配置25対1のみ満たさない病棟に所定点数の95/100を算定できる経過措置が設けられたが、改定後に減少した25対1の病床の80%以上が、この減算へと動いているのだ。20対1への上昇志向はほとんどないという現状には、正に驚いてしまった。あとの病棟も30年4月までに同様の方向にゆくのか、どうやらレベルを上げる方向には動きそうにない。一方で7対1、10対1から地域包括ケア病棟へのシフトはわずかなものである。これに対し日慢協では、2016年2月に介護療養型医療施設を有する会員施設に対し、今後の運営に関するアンケート調査を実施し、転換の意向を調べた。その結果は、表3のとおり、73.6%が20対1への移行を希望している。私は、療養病棟入院基本料2を有する会員施設へ転換意向を調査しても、同様の結果となるのではないかと思っている。この差は一体何なのか。

介護療養型医療施設の今後の運営に関するアンケート調査結果

 実は療養病床の在り方等に関する特別部会の6月の第1回の会議で一般病床を代表される委員の方が発言され、「病床転換は療養病床からだけでなく一般病床からも新類型の施設等に転換させてくれ」という要望を述べられたのには、私も実は驚いたのである。それまでは折にふれ、「一般病床は療養病床なんかとは違うんだ」「急性期機能を全面に担っているんだ」という自信に満ちた態度の発言に終始していたので、まさかいきなり一般病床も病床としてやって行けないから「病床転換施設に参入させてくれ。」などと言われるとは正に青天の霹靂。やはり実は急性期顔をしていても、実質慢性期患者である特定除外が2012年、2014年にほとんど外されたのが響いているのだろう。

 特定除外の多かったような病院では空床がどんどん拡大して困っているという友人達の話も聞いている。私は困った時はお互い様だから病床転換は療養だけだなく、一般からも許可してあげればと思う。私が想うに、そうすれば療養病床からの病床転換より遥かに多い10万床以上が新類型に殺到するとみている。どうしてかというと、近頃金融機関から持込まれるM&A物件で立て続けに200床規模の一般病床で、入院患者が僅か50~60人しかいないなんてひどい状態が紹介されてきているので、「あぁそうか、一般病床はめちゃくちゃ厳しいのだ」と認識した次第である。

 そして厚労省が2015年6月に示した現在の病床機能別病床数を2025年にどう変えるという意図は図4に示してある。急性期病床を約24万床減らして、地域包括、回復期に持ってくるというものであるが、これが公表された当時、「そんな無茶な」と言っていた。自らを急性期病床の申し子として自認している人達だったが、数年を待たずとして各地で急性期病床といわれている一般病床がどんどん減ってきているのだ。どうやら2025年には厚労省の描いた図の通りに収斂してゆくのではないかという気さえして来ている。
 
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                   図4 2025年の医療機能別必要病床数の推計結果
 

 一方で急性期が減れば慢性期機能は拡大せざるをえない。それらの患者を病床で診るか病床転換施設で診るかはともかく、在宅医療を含め慢性期医療のすそのは果てしなく広がってゆく。また全員が在宅に帰れるわけでもない。重い障害のため施設ではとてもじゃないが対応できない重医療の患者さんもどんどん増えてくる。すなわち「重度長期慢性期病床機能」の必然的需要は膨らむであろう。

 新しい年は平成30年同時改定を目前にした戦の年である。ニーズが拡大するからといって、決して安心せずに私達、日慢協の会員は患者が入院したら迅速に適切な治療を行い、速やかに日常に帰すという目標に向って努力し、一方で行き場のない重度長期治療必要患者を丁寧な医療で支えるという、とても大事な機能も果たしながら、生きたリハビリテーションと総合治療力をさらに高めてゆくことを心していかねばならない。私は会員の努力を信じている。
 

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