年頭所感 ── 日本慢性期医療協会会長 武久洋三
会員の皆様、新年明けましておめでとうございます。
昨年は正に流動の年であり、2025年になって後を振り返れば、2014年は正に医療界にとって改革の年であったことを実感すると思われるほどの変革が行われたことがわかるだろう。それは2006年、平成18年に導入された7:1に集約された麦谷ショックを起因とする7:1狂想曲そのものの後始末が、その後約6年間、7:1を増えるがままに放置し、終いにどうにもならないところまで追い込まれてからの2014年改定であった。もっと早くに、せめて10万床くらいの時点で7:1に条件をつけてさえいれば、こうまで追いつめられることはなかったであろう。そのため今回の改定がドラスティックだなどといわれることになったのである。
2006年はまた慢性期医療にとっても医療区分というとんでもない半定量診療報酬も導入された。一度の試行もない、突然の評価表作成に右往左往したものである。この悪法ともそろそろおさらばであろう。療養病床を含む全病棟にDPCデータの提出を求めるということは、当然診療報酬システムもDPCシステムに移行しなければならない。データだけ出させて医療区分はそのままなどということは慢性期医療に二重三重の手間を取らせるだけであり、データだけ全病床から欲しいという厚労省のたくらみに易々諾々と承服するわけにはいかない。
不公平の極みであった特定除外やケアミックスの病院での患者のキャッチボールを在宅復帰率という一太刀で退治してしまった。痛快この上ない。正に優秀な若手官僚の知術ここにありというべきであろう。
そして新しく生まれた地域包括ケア病棟、私は高度急性期と地域急性期を分離する見事な作戦と見た。確かに高度急性期病院ならば県内及ばず広範囲な地域から患者がやってくる。しかるに同じ急性期と言っても狭い範囲の地域からしか患者が来ない病院こそ地域急性期であろう。一般などとあいまいな名称を使う必要はない。そういう分断の仕方をもって高度急性期を急性期、そして地域急性期をPost acuteとSub acuteを診るべくしてその病棟の名を地域包括ケア病棟と命名したことは、後から考えると納得してしまう。そして実はこの地域包括ケア病棟が最大で最強の病棟になってゆくのだ。
救急指定を取るように要請されている地域包括ケア病棟は、正に地方の中小民間病院の自称急性期病院の終着駅となるであろう。そうなりたくないからといって、いつまでも急性期面をしてても、そのうちその地域包括ケア病棟や慢性期病棟の医療介護総合確保区域の配分病床数の枠がいっぱいになれば、どこへも行けないコウモリ病棟となり、後は死を待つのみである。
地域医療構想策定ガイドライン等に関する検討会の中で日本医師会の中川副会長が療養病床で急性期を診るなんてとんでもないと主張されていたが、それは急性期と慢性期のケアミックス病院ならば高齢者であろうと必ず急性期で診るだろう。しかし、全病床療養病床の病院でも急性期の患者はどんどん来るし、日慢協の調査では、なんと全入院患者の33%は2週間で退院しており、1か月以内の退院は、実に53%となっている。全国に約4200ある療養病床を持つ病院のうち、日慢協には約1100の病院が会員となっている。医療に対して意識の高い病院の皆様が入会しているとは思っていたが、やはり会員病院は地域医療を守っていることが明白となっている。
あたりまえのことではあるが、厚労省の公的委員会の討議の場は、日本全国の普遍的な医療提供の話が交わされるものであり、所属団体や自らの医療機関の立場を主張する場ではないはずだ。
そうこうしている内にもう2015年、平成27年である。26年が保険局医療課の年であったが、27年は医政局地域医療計画課の年だといってよい。
病床機能報告制度から端を発した構想区域という新しい医療圏の中に、急性期、地域包括期、慢性期の3つの病期にいったい何床必要となるのであろうか。それを決める尺度は何か。その基準からはずれた余剰病床は一体どうなるのか。
DPCデータを全病棟に求めてゆくことは、日本中の病院の機能がつまびらかに丸裸にされるということだ。公的医療保険なのだから、何も隠さないようにしないといけない。個人情報は別として、各病院がどのような機能を有し、どのような治療を行っているのか。監督官庁だけではなく、国民、患者にもやがて公表されるであろう。その情報を見て、患者は受診行動を決めるであろう。至極もっともな形が近い将来やってくるし、日慢協の会員はその時に向けて自院の病床機能を高め、老人収容所機能から地域包括機能へと転進してゆかねばならぬ。慢性期医療として今後必要な機能は、
① 急性期医療の後始末機能
② 強力なリハビリ機能
③ Sub acute機能
④ 慢性期治療機能
⑤ 在宅療養総合支援機能
の5つであろう。この5つの機能をここ2~3年、即ち同時改定の30年の前に完成させなければならない。そうすれば地域の在宅療養後方支援病院として地域住民から信頼される病院となり、厳しい競争に勝ち抜くことができるだろう。
2015年1月1日