1病床500万円程度の補助金を ── 新年の会見で武久会長

会長メッセージ 協会の活動等

20190110_武久洋三会長(日慢協新年の記者会見)

 日本慢性期医療協会は1月10日、「今後の日本の医療提供体制」をテーマに、平成31年最初の記者会見を開きました。会見で武久洋三会長は、病床削減や消費税の増税などにより「医療資源は廃墟となる可能性がある」と危惧し、「社会的要因で病床を減少させるときには、1病床500万円程度の補助金を病床の減反、減床政策として考慮していただきたい」と述べました。

 武久会長は冒頭、2018年度改定を振り返りながら「一般病床」と「療養病床」を統一する必要性を指摘した上で、「将来的にはDPCデータで急性期から慢性期までの患者の状況変化を把握できる体制を構築すべき」と主張しました。また、重症患者を受け入れている療養病床の現状について調査結果を踏まえて説明し、「社会的入院は施設、看取りは介護医療院」との方向を改めて示し、病床の再編・統合に伴う対応案を提示しました。同日の会見には、中川翼副会長と矢野諭副会長が同席しました。

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20190110_日慢協新年の記者会見
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 以下、会見の模様をお伝えいたします。同日の会見資料は日本慢性期医療協会のホームページに掲載しておりますので、そちらをご覧ください。

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「一般病床」と「療養病床」を統一しては

[武久洋三会長]
 新年明けましておめでとうございます。新年早々、当協会の定例記者会見にお越しいただき、感謝を申し上げる。資料に沿って説明させていただく。

 療養病床には、主に慢性期の患者さんが入院していると思われているが、高齢者の急性期変化も多く診ているし、実は一般病床にも多くの慢性期の高齢者が入院しているのが現状である。
 
 現在の病床種別は、大きく「一般病床」と「療養病床」に分かれているが、2018年度改定で「20対1の慢性期の治療病棟以外は認めない」と、要するにそうではない療養病床は6年以内に廃止するという通告を受けている。慢性期はもう20対1の医療区分2・3が8割以上という重度の人を診る所ということで厚労省の見方が決定した。

 2000年の第4次医療法改正では、「その他の病床」が「一般病床」と「療養病床」に分けられた。しかし、現在の療養病床が20対1の重症患者を診る治療病棟だけならば、そろそろ「一般病床」と「療養病床」を統一してはどうかと思う。「一般病床」か「療養病床」か、という病床種別によって診療報酬システムが異なることを廃止してはどうか。
 
 つまり、同じ患者さんが発病から継続治療を行う過程で、急性期から回復期、慢性期へと病棟や病院を移っていくが、診療報酬のシステムが次々と変わるのは適切かどうかということである。

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急性期から慢性期までDPCデータで

 
 病棟種別による差は、急性期から慢性期、在宅まで、治療内容は多少変わっても、1人の患者の病気をフォローするためには、診療統計や診療内容請求のシステムはできるだけ統一したほうがいい。すなわち、現在メジャーであるDPCに一本化すべきである。

 昨年の改定で、療養病床でも200床以上の病院はDPCデータの提出が義務化された。すべての病床からDPCデータが欲しいと厚労省が思っているなら、その方向に動くべきではないか。そうすれば患者データが集積されるので、これからの利用に役立つ。

 現在、急性期は「重症度、医療・看護必要度」の基準、慢性期は「医療区分」ということで、患者状態の評価指標が異なっている。「重症度、医療・看護必要度」についてはDPCデータ(EF統合ファイル)への置き換えが議論されたが、一部の反対意見もあり、十分な見直しが行われなかった。

 将来的には現在、すべての病棟で提出が認められているDPCデータをもとに、急性期から慢性期までの患者の状態変化を把握できる体制を構築すべきである。「重症度、医療・看護必要度」をDPCに置き換えれば、現場の負担はずいぶん軽くなるだろう。

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療養病床でも機能が分かれている

 
 日慢協の調査によると、慢性期病棟での「重症度、医療・看護必要度」が50%以上の病棟も出てきている。急性期病棟は重症で慢性期医療は軽症という概念は大きく崩れている。

 10ページは、現在の「重症度、医療・看護必要度」の基準である。

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P10_記者会見資料(平成31年1月10日)

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 11ページを見ていただきたい。日慢協が昨年11月に実施した調査結果をここで発表させていただく。

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P11_記者会見資料(平成31年1月10日)_ページ_11

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 7対1の基準である「重症度、医療・看護必要度」の基準は30%以上である。その基準に合致しているという療養病床は実は29%もあることが分かった。

 一方で、10%以下という重症度が低い患者がいる病棟も42%ある。15%以上30%未満は28.5%。このように、療養病床でも病棟によって機能が分かれている。

 12ページは、A項目のどういう項目に該当しているかを表している。

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P12_記者会見資料(平成31年1月10日)_ページ_12

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 赤色が7対1一般病床で、ブルーが20対1療養病床である。「4 心電図モニターの管理」は7対1が多いが、「2 呼吸ケア」の場合には20対1の療養病床も非常に多いことが分かる。「7 専門的な治療処置」は、療養病床でも一定程度の処置をしている病棟がある。

 13ページはB項目で、患者の状態である。当然、ブルーの療養病床のほうが要介護状態は重いわけであるから、ブルーが多い。

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P13_記者会見資料(平成31年1月10日)_ページ_13

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一部の療養病床のレベルはかなり低い

 
 慢性期病棟は急性期病棟の付け足しのように思っている病院の療養病床のレベルはかなり低いことが類推されている。
 
 治す自信のないときは治してくれる所に紹介する。治らないし、治す自信がないからといって簡単にターミナルとして逃げてはならない。私たちが治そうしている患者の80%は後期高齢者である。年齢で「ターミナル」としているような状況は適切ではない。慢性期病院では、治せるかどうかの格差が非常に拡大している。先ほどの11ページの調査結果でも分かる。

 一般病床の4.3平米の病床が15年もの間、経過措置で認められていることは世界有数の文明国である日本の汚点であろうと思われる。4.3平米の6人部屋から6.4平米の4人部屋への転換に各都道府県の基金を使うことを提案する。

 病院は治療する場であるということを再確認し、高い技術を要する検査や手術、処置等は高度急性期としてより高く評価してはどうか。要するに、高度急性期病院の点数をより上げたらどうかと慢性期側からも提案する。

 そして、社会的入院は施設に行くべきであり、看取りは介護医療院に任せていくような方向にしてはどうか。慢性期病院は治療をする場である。当然、急性期病院も治療をする場である。病院という所は治療をする場である。
 
 そうすれば、病院、病床はさらに効率化されて、現在の病床は3分の2から2分の1へと厳密化されていく可能性がある。そうなれば、病床あたりの医療スタッフ数もほかの先進国に近づいて、短期間で効率の良い入院治療が可能となり、平均在院日数は半減するのではないかと思われる。寝たきりが半分になれば、入院単価を2倍にしても医療・介護費は確実に減っていくと思われる。

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医療資源は廃墟となる可能性がある

 
 「急性期医療は素晴らしく、慢性期医療はどうでもいい医療だ」という誤った認識は払拭しなければいけない。急性期医療で救えなくても慢性期医療で救って日常生活に復帰している患者の多いことを認識しなければいけない。要するに、急性期医療も慢性期医療もよりレベルを上げて患者の治療成績の向上を目指さなければいけない。

 全国の病院の運営は赤字の病院がどんどん増えてきている。民間病院も赤字の病院が多く、経営が苦しく、このままでは地域医療を維持できないところも出てきている。

 公的病院には多額の補助金や補填金が投入されている。しかしながら、それにもかかわらず収支が赤字のところが多い。しかし、民間病院には公的補助金や赤字補填などはほとんどなされていない。懸命に経営努力をしながら地域医療を担っている。

 一部の高度急性期病院以外の病院は、特に民間病院は主に地域の多機能な病院として地域医療を担わなければいけない。このまま消費税が10%から20%になれば、民間病院は病院のリニューアルが不可能であり、医療資源は廃墟となる可能性がある。日本の70%以上を担う民間病院の廃退は国民の健康な生活を奪う。

 病院は民間といえども国策医療で公的医療保険で運営されている。社会的要因で病床を減少させるときには、1病床500万円程度の補助金を病床の減反、減床政策として、考慮をしていただきたい。
 
 以上である。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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