急性期病院への「派遣リハビリ」を提案 ── 1月11日の記者会見

会長メッセージ 協会の活動等

1月11日の記者会見1

 日本慢性期医療協会は1月11日、「リハビリテーションを変えよう!!」をテーマに、平成30年最初の定例記者会見を開きました。会見で武久洋三会長は、寝たきり患者を半減する必要性を改めて訴え、そのために発症早期からのリハビリテーションが重要であると指摘。「リハビリテーション療法士が十分にいる回復期や慢性期の病院から急性期病院への『派遣リハビリテーション』を認めてはどうか」と提案しました。

 会見の冒頭で武久会長は、高齢者の寝たきり率の国際比較を示し、「日本はアメリカの5倍、スウェーデンの10倍も寝たきりが多い」と指摘。さらに平均在院日数の国際比較を紹介したうえで、「日本とアメリカとの寝たきり率の差が、そのまま平均在院日数の差となっているのではないか」との問題意識を示しました。

 武久会長は「寝たきりを半分にするには、早期のリハビリテーションをさらに進める必要がある」とし、「地域のリハビリテーション療法士が多くいる病院から療法士の非常に少ない急性期病院に、療法士を派遣すれば、発病と同時に直ちにリハビリテーションを開始できる。急性期病院にも『派遣リハビリテーション』を受けるという評価を加算したらどうか」と提案しました。

 以下、会見の要旨をお伝えいたします。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページ(http://jamcf.jp/chairman/2017/chairman180111.html)に掲載されておりますので、ご参照ください。
 
1月11日の記者会見2
 

大きな節目となる年を迎えた

[池端幸彦副会長]
池端幸彦副会長20180111 明けましておめでとうございます。

 大きな節目となる年を迎えたが、どうかよろしくお願い申し上げる。

 今年第1回の定例記者会見を始めさせていただく。
 

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平均在院日数が5倍だから、寝たきりも5倍になる

 
[武久洋三会長]
 今年は同時改定ということで皆さん方も大変お忙しいと思うが、われわれもてんてこ舞いである。改定の内容がだんだん明らかになってきている。

 介護報酬については、去年のうちに概略がまとまった。福祉の中に医療がかなり入っていくことを評価するということで、よいことだと思う。診療報酬では、独特なプレゼンテーションが示されており、非常に楽しみに思っている。

 では、本日の資料をご覧いただきたい。1ページは、高齢者の寝たきり率の国際比較である。日本はなぜかアメリカの5倍、スウェーデンの10倍も寝たきりが多い。

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 2ページをご覧いただきたい。日本の平均在院日数は30日近い。アメリカの5倍となっている。

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 すなわち、日本とアメリカとの寝たきり率の差が、そのまま平均在院日数の差となっているのではないか。平均在院日数が5倍だから、寝たきりも5倍になるのではないか。とすれば、寝たきりが半分になれば、医療・介護の費用はひょっとしたら半分になるのではないかと考える。
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病気になったらすぐリハビリを始めたほうがいい

 では、寝たきりを半分にするにはどうしたらいいか。早期のリハビリテーションをさらに進める必要がある。しかし、現状はどうか。5ページをご覧いただきたい。

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 発症から回復期リハビリテーション病棟に入棟するまでの期間は平均25.6日である。「31日~60日」が4分の1もある。発症から1~2カ月が経過しないと急性期から回復期リハビリ病棟に移ってこないということを表している。

 6ページをご覧いただきたい。脳血管疾患と整形外科疾患の場合を示している。

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 脳血管疾患の患者さんは、発症から回復期リハビリ病棟に移るまで約1カ月かかっている。整形外科疾患でも3週間かかっている。

 7ページをご覧いただきたい。回復期リハビリ病棟に入棟してから退院するまでの平均期間を疾患別に表したものである。

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 脳血管疾患は平均して85.6日、回復期リハビリ病棟にいる。しかし、この期間は発病からではなく、入院からの期間である。発病からの期間は、30日を足して115.6日ということになる。非常に長くかかっている。4カ月もかかっている。

 リハビリテーションは回復期にのみに必要な治療法ではない。当然であるが、病気になったらすぐにリハビリを始めたほうがいいことは誰だって分かる。リハビリテーションは、「急性期」「地域包括期」「慢性期」「在宅期」のいずれにも必須な医療技術である。
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「長期療養~急性期」とし、回復期の「か」の字もない

 
 当協会では、新たな病床機能区分をこのように考えている。

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 「急性期」と「慢性期」の間は「地域包括期」とし、「回復期」とはしていない。リハビリテーションは、「急性期」「地域包括期」「慢性期」などのいずれにも必須な医療技術と考えるからである。

 一方、厚労省はどのように考えているか。10ページをご覧いただきたい。

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 厚労省保険局医療課の迫井正深課長が昨年12月6日の中医協に示した。左側が「長期療養」で、これは「慢性期」である。一番右側は「急性期」としている。

 真ん中の所は、従来であれば「回復期」と言っていたのが、今回は回復期の「か」の字もない。「長期療養から急性期」という大きなエリアの部分を1つにまとめている。

 これは何を意味するのか。病床機能報告制度では、「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」と区分しているのに、どういうわけか書かれていない。これはどうも、迫井課長の頭の中には「果たして回復期でいいのか」という問題意識があるのではないか。

 当協会では、この部分を「地域包括期」としている。厚労省が示している方向が正しいと考えている。これからの「急性期」は、広域性の高度な急性期だけとし、医療センター的な機能や重度急性期に対応できる機能と考えるべきである。

 そして、急性期患者のほとんどは軽中度であるので、そうした急性期の患者は「地域包括期」が担う。すなわち、中学校区2つぐらいの範囲内から来る「地域急性期」の患者を受け入れるほか、在宅連携などの機能も果たす。地域包括ケア病棟やリハビリテーション集中病棟を持つ病院である。

 「回復期」という言葉は、どうもリハビリテーションを連想してしまう。そうすると、急性期の7対1病院から回復期に移りにくい。そこで、いっそのこと「地域包括期」としてはどうか。このように考えると、「回復期リハビリテーション病棟」という名称も変えて、「リハビリテーション集中病棟」にしたほうがいいのではないだろうか。

 「慢性期」については、慢性期治療病棟が重要である。きちんと治療をするところでなければ病院としては認めないようにする。在宅支援機能を果たし、在宅療養中の患者が急変した場合は慢性期病院が当然引き受ける。
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急性期病院への「派遣リハビリテーション」を

 日慢協ではこれまで慢性期リハビリテーションの重要性を訴えてきたが、急性期リハビリテーションをもっと充実させるべきである。急性期、すなわち発病直後からリハビリテーションが行われれば、寝たきりはもっと減少するだろう。

 しかし、急性期病院、特に高度急性期病院にはリハビリスタッフがとても少ない。高度急性期病院にはリハビリテーション専門医はほとんどいない。療法士は総定員法により十分に雇用できない。日常復帰のためにはよいことと分かっているのに、発病時からリハビリテーションが提供できていない日本の現状を変えていかないといけない。

 そのためには、リハビリテーション療法士が十分にいる回復期や慢性期の病院から急性期病院への「派遣リハビリテーション」を認めてはどうかということを提案する。

 地域のリハビリテーション療法士が多くいる病院から療法士の非常に少ない急性期病院に、療法士を派遣してはどうか。そうすれば、発病と同時に直ちにリハビリテーションを開始できる。急性期病院にも「派遣リハビリテーション」を受けるという評価を加算したらどうか。「派遣リハビリテーション」の点数は従来の点数と同じでいいと思うが、リハビリテーション医の訪問への評価もお願いしたい。

 次期介護報酬改定では、特別養護老人ホームに医師を休日・夜間にも派遣するように変わりそうである。これと同じように、ある機能が少ない所に必要なサービスを派遣するという考え方は当然である。従って、慢性期や回復期病院のリハビリスタッフを高度急性期病院に派遣する。

 さらに、療法士と同じく、リハビリテーション医の急性期病院への往診も評価してはどうか。急性期病院のリハビリテーション環境を変えることによりFIM効率は高まり、入院期間は短縮し、その後のリハビリテーション集中病棟での入院期間も短縮する。こういう期待が非常に高まる。患者の総入院期間は急性期も地域包括期も短縮し、在宅復帰・日常生活復帰が増加する。介護保険施設への入所者は減少する。
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医療・介護のシステムはだんだん変わっていく

 最後に、24ページをご覧いただきたい。以前の会見でもお示しした「新しいリハビリテーションへの提言」である。

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 このうち、「嚥下排泄リハビリテーションの実行」については、次期改定で評価される見通しである。

 日常生活復帰を最優先し、年齢によるゴール設定を柔軟にしたほうがいい。歩けなくても生活は自立できる。全身の臓器のリハビリテーションを併行して行う。知力、精神力、体力、内臓機能、こういうものの全体のリハビリテーションが必要である。

 高度急性期病院にはリハスタッフが非常に少ない。しかし、リハビリは発病と同時に提供されるほうが当然効果は高い。それであれば、リハスタッフが豊富にいる病院から派遣してはどうか。こういう考え方に至った。

早く良くなれば総医療費も減る。早く良くなれば寝たきりは少なくなって、介護施設の需要も減ってくる。全体的に良い結果をもたらすのではないか。

 機能が少ないものについて、機能が多くある所が補完する。機能の多い所から少ない所に派遣するという形を今後も医療と介護で適宜行えば、より効率的な医療・介護のシステムができあがるのではないか。リハビリテーション専門病院や慢性期病院などPT・OT・STが100人前後いる病院に、近隣にある高度急性期病院から「脳卒中の患者さんがいます」と電話がかってきたら、次の日からリハビリスタッフを派遣するようにすべきである。

 患者が早く退院しベッドがガラガラになると困るような病院は自然淘汰される。高度急性期病院は高度急性期病院として病気を治療する。リハビリスタッフが十分いないのであれば、スタッフが十分いる病院から派遣することを認めて早期回復につなげ、日本の寝たきりを半分にする。

 介護報酬改定では、看取りについて医療機関から特別養護老人ホームに医師を派遣したり、夜勤の看護師を配置することを評価する。このように、医療・介護のシステムはだんだん変わっていく。

 脳血管疾患等を発症したら次の日からすぐにリハビリを始めることによって障害者の数を大幅に減らすことがもし実現できれば、患者さんにとっても非常に良いことだし、日本の医療・介護の総費用が減ることにもつながる。減った分は、より高度な医療に点数を付けることもできると思う。

 以上、「派遣リハビリテーション」を中心に説明させていただいた。

                           (取材・執筆=新井裕充)

 

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