「新しい病床機能別分類」を提案 ── 12月14日の定例記者会見
日本慢性期医療協会は12月14日の定例記者会見で、「新しい病床機能別分類」を提案しました。「急性期」「地域包括期」「慢性期」の3機能を軸に病床を区分する考え方です。会見で武久洋三会長は、「回復期はリハビリというイメージが定着しているが、リハビリは回復期のみに必要な技術ではない」と指摘。在宅医療との連携や軽中度の急性期対応、リハビリの集中的な実施など幅広い機能を有する領域を「地域包括期」と位置づけました。
【12月14日の定例記者会見の内容】
新しい病床機能別分類の提案について
「急性期」については、「広い地域から患者が来る高度な急性期病床」とし、「例えば県の医療センター、日赤など規模の大きな病院が本来の急性期に該当する。医療センター的機能を持ち、主に重度急性期を診る」としました。
一方、「慢性期」については、慢性期治療病棟としての役割に期待を込めました。障害者病棟、在宅支援機能、慢性期救急などの機能も併せ持つことを指摘した上で、「医療療養25対1がなくなることも踏まえると、重症者をきちんと治療できるような機能が『慢性期』には求められている」と述べました。
この日の会見には池端幸彦副会長が同席し、武久会長の説明を補足。「急性期」「地域包括期」「慢性期」の連携をさらに進めていく必要性を指摘した上で、「『地域包括期』と『慢性期』をわれわれが担う。急性期以外は全部担う。われわれが頑張らなければ、急性期の医療も成り立たない」と語りました。
以下、会見の要旨をお伝えいたします。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページ(http://jamcf.jp/chairman/2017/chairman171215.html)に掲載されておりますので、ご参照ください。
厚生労働省の考えが非常に明らかになってきた
[武久洋三会長]
平成30年度の介護報酬改定に向けた議論は昨日でほぼ終わり、あとは点数付けだ。診療報酬改定に向けた中医協での審議は、立て続けにいろいろな資料が出てきて、厚生労働省の医療課が考えていることが非常に明らかになってきた。
そうした中で、当協会は「こうしてほしい」ということは言わない主義。「こういう方向に」ということだけを言う。いろいろなものを欲しがり、手を差し伸べるやり方は適切ではない。自分たちできちんと実践し、その上で「こういう結果が出たから、これに対してどう評価していただけるか」というプレゼンテーションをするように努力している。
「回復期」というネーミングが悪いのではないか
本日のテーマは、「新しい病床機能別分類の提案」である。まず、資料2ページを見ていただきたい。これは12月6日の中医協に、厚労省保険局医療課が出した資料。皆さんも、よくご覧になっていると思う。これを見ると、右側が「急性期」、左側が「長期療養」となっている。その間に入るのは、本来ならば「回復期」という名前になるだろうが、そうは書いていない。「急性期医療の一部から長期療養の一部まで」という書き方をしている。
これはわれわれの考える病床の機能の分類と非常によく似ている。3ページのように表にした場合でも、「回復期リハ病棟」と「地域包括ケア病棟」と「13対1、15対1」を1つのジャンルに入れているということに、皆さんには注目していただきたいと思う。
4ページをご覧いただきたい。これは財務省の財政制度分科会で示された資料に加筆した。一番右端は、われわれ日慢協が考える3つの分類である。
一番左端は平成27年度の病床機能報告。これを見ていただければ分かるように、回復期が依然として全然増えていない。とにかく回復期を40万床近くまで増やすと言っているのに、全然増えてこない。
回復期がなかなか増えないのは、「回復期」というネーミングが悪いのではないか。「回復期」という病期は、「回復期リハビリテーション」というイメージが強いため、急性期から回復期への転換には慎重な病院が多い。「当院ではリハビリを提供していないのに7対1から回復期になるのか」という思いもあるだろう。従って、病床機能分化で厚労省が目指す方向に進めようとするなら、「回復期」という言葉を使わないほうがいいのではないか。
「急性期」「地域包括期」「慢性期」という3区分
リハビリテーションの専門家の頑張りによって、「回復期」は「リハビリ」というイメージが非常に定着している。このことが、7対1や10対1から回復期に移行しない原因ではないか。5ページをご覧いただきたい。考えられるべき病床機能である。
「急性期」「地域包括期」「慢性期」という3つの機能に分けると、いろいろなことがスムーズに見えてきて整理ができる。すなわち「急性期」というのは、広い地域から患者が来る高度な急性期病床のことをいう。例えば県の医療センター、日赤など規模の大きな病院が本来の急性期に該当するのではないか。医療センター的機能を持ち、主に重度急性期を診る。
真ん中の所は、地域を全体的に包括する「地域包括期」である。すなわち、全県下から患者が集まるというよりも、1つか2つの中学校地域から集まる。近所の人が、急に具合が悪くなったときにすぐに来られる病院。これが地域急性期。在宅医療を支援するために連携し、軽中度の急性期に対応する。リハビリテーションを集中的に実施し、早期の在宅復帰を目指す。
これに対し「慢性期」には、慢性期治療病棟としての役割が期待されている。また、障害者病棟、在宅支援機能、慢性期救急といった機能も併せ持つ。医療療養25対1がなくなることも踏まえると、重症者をきちんと治療できるような機能が「慢性期」には求められている。
リハビリテーションは「回復期」のみに必要な技術ではない
ここで、先ほどの2ページに戻っていただきたい。
この真ん中のような大きな範囲を「回復期」という一言で表すのは少し不適切ではないか。われわれは、「地域包括期」という呼び方を提唱したい。
「回復期」という病床機能は、すでに役目を終えたネーミングである。「回復期」と「地域包括期」は同じ機能なのかといえば、それはやはり違う。「地域包括期」とは、地域急性期を含み、かつ救急機能も有するものではないか。病床機能は明確であることが望ましい。名は体を表す。病床の名称が、その病床の機能を表す。
リハビリテーションは「回復期」のみに必要な技術ではない。リハビリテーションとは、病気にかかる前の日常生活に早く復帰するためには必須の技術である。病院から日常生活に戻ってからのリハビリテーションのブランクや頻度の低下によりADLが低下することが明らかとなっている。リハビリテーションは、「急性期」「地域包括期」「慢性期」「在宅期」のいずれにも必須な医療技術である。
リハビリテーションを発病直後から行えば、その効果が大きいことは常識。回復期になるまで行わないなどということはナンセンスである。リハビリテーションは発病直後から行われるべき治療であり、ADL等の低下の防止や、日常生活に復帰した後の悪化を防止するためにも必須の技術である。リハビリテーションは発病と時を置かずして提供されるべき技術であり、各病期における治療のアウトカムの状況により評価されるべきものである。
リハビリテーションは多くの単位を行えば評価されるのではなく、治療によるアウトカムで評価されるべきものではないか。医療とは本来、治療による病状の回復を目途として提供されるものであり、不可抗力による必然的悪化を除けば、治療によるアウトカムを評価することは当然である。
「慢性期」は、慢性期治療病棟機能が評価されるべき
「慢性期」は、慢性期における急変患者も担当すべきであり、慢性期治療病棟機能が評価されるべきである。慢性期病床は、迅速で的確な治療により、早期に入院前の状態に改善するよう、最大限の努力をするべきである。
慢性期治療病床は、現在約40%となっている死亡退院率を半減させるよう、すなわち入院治療により病状を軽快させ、退院する患者を増やすべきである。
病状等により、明らかに終末期とされる患者さんは、根本治療よりもQOLを優先させた症状緩和治療を主として、介護医療院で看取るべきである。
以上のような考え方を踏まえて、当協会の池端副会長が図示してくださった。池端副会長にご説明していただく。
われわれが頑張らなければ、急性期の医療も成り立たない
[池端幸彦副会長]
いま武久会長がおっしゃった内容を図にした。現在、病床機能報告制度では「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」という4つの機能を基準にしている。各都道府県の地域医療構想も、こうした4機能を踏まえて策定されている。
しかし、「回復期」という単独の機能が本当に必要なのか。本来の回復期とは一体何だろうか。リハビリテーションは、急性期から慢性期、在宅医療に至るまで、すべての病期において必要な医療ではないか。そのように考えると、大きなくくりでは「急性期」「地域包括期」「慢性期」という3つの区切りが一番理にかなっているのではないかと思っている。
「急性期」は、特定機能病院を含めた高度急性期と、遠くの地域からも患者さんが集まってくる広域急性期的な機能を持つと考えるべきで、これが本来の「急性期」である。
それ以外の急性期、すなわち在宅療養中の患者さんが急性増悪したときに、すぐに緊急対応できる急性期病床。また、近隣に住む患者さんの具合が悪くなったときに対応できる急性期病床。これらは「地域包括期」である。現在の「急性期」の大部分を占めている病床のほか、地域包括ケア病棟、回復期リハビリテーション病棟なども含めたものを「地域包括期」と呼ぶべきであろう。
慢性期の病棟でも、介護と在宅期とを行ったり来たりする。「時々入院、ほぼ在宅」という役割を担う慢性期病棟もある。「急性期」「地域包括期」「慢性期」という3つが連携していくことが、これからの医療の流れではないか。
当協会が提唱する主な病床機能において、この大きなくくりの「地域包括期」と「慢性期」をわれわれが担う。急性期以外は全部担うという考え方である。「地域包括期」と「慢性期」のいずれを担うかは、それぞれの病院のスタンスや地域の医療提供体制のバランスなどを考えて決めていく。急性期以外のすべての「地域包括期」と「慢性期」は、私たち当協会会員の役割であることを明確に示し、われわれが頑張らなければ、急性期の医療も成り立たないという考え方の下に、推し進めていく。そうした思いを、この図が表している。
「地域包括期」「慢性期」の領域をさらに良い医療提供体制にするために、どういう診療報酬が必要かということについても今後は提言していきたい。実態調査などを通じてお示ししていきたいと考えている。
(取材・執筆=新井裕充)
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2017年12月15日