慢性期リハビリテーションの今後に向けて ── 2014年3月13日の記者会見
日本慢性期医療協会は3月13日、「慢性期リハビリテーションの今後に向けて」をテーマに記者会見を開きました。武久洋三会長は、急性期以後のリハビリテーションの重要性を指摘し、「廃用症候群」の呼称を改めて「病後リハビリ」とすることを提案。リハビリテーションの意義は「人間の回復」にあるとし、「死ぬまでリハビリテーションが必要である」と訴えました。
武久会長は、「良質な慢性期リハビリテーションがなければ日本のリハビリテーションは成り立たない。これからも急性期以後のリハビリテーションに邁進する」と宣言。次期改定に向けては、在宅での治療継続が困難な重度の患者さんの受け皿となる療養病床の機能を主張していく構えを見せ、「行き場を失った患者さんを救うのも当協会の役割だ」と述べました。
以下、記者会見の模様をお伝えします。
■ 慢性期リハビリテーションについて
[武久洋三会長]
2月に診療報酬改定の答申があり、その後1か月はその話題でもちきりでした。そうしたなかで、リハビリテーションに対する考え方というものをはっきりと宣言させていただきたいと思いました。資料をご覧ください。
▼ 資料はこちら → 慢性期リハビリテーションに関する記者会見資料
まず、高いリスクや高度な技術力の必要な患者さんへのリハビリの報酬を高く付けるべきだと考えています。3月末で維持期のリハビリテーションが廃止になる予定でしたが、リハビリに関するどの団体も、慢性期リハビリの重要性を主張してくれなかったため、当協会が「慢性期リハビリテーション協会」を新設しました。
その後、調査を実施しましたところ、624名のうち脳血管障害が約56%でした。算定日数上限前と、上限を過ぎてからの改善度合いを比較したところ、リハビリ介入後の改善率のほうが高いという結果が出ました。移乗やトイレ、食事など日常生活に必要なADLが改善していました。
また、一昨年の9~10月にかけてリハビリ職員の夜勤に関する調査をしました。今回の改定では、休日のリハビリ実施が回復期リハビリテーション病棟入院料1で要件化されましたが、日慢協ではそうした流れを見通して、1年半前から調査をしています。夜中にトイレに行こうとして転倒するケースが非常に多いんですね。そのような恐れがある患者さんに対して、夜間に20分ずつトイレ誘導の訓練をするようにしました。その結果、転倒件数が非常に減りました。FIMの成績も良くなりました。
リハビリテーションに対するこうした取り組みを進めるなか、今回の改定では、維持期のリハビリテーションが無期限に認められたと考えることができる内容となり、これは慢性期リハ協会の活動成果であると評価しています。維持期のリハビリテーションの必要性や重要性について理解していただけるだけのデータを提出して、EBMを示した結果だと思っております。
現在、脳血管リハビリは最も必要なものですが、そのいわゆる「病後リハビリ」の実施に対し、診療報酬上は「廃用症候群」という病名が付けられています。これは非常に不運なことで、「廃用症候群」というのは、いかにも良くなりそうもないネーミングです。まるで、「廃用症候群」などへのリハビリは不要であり、リハビリをやるだけ無駄であると言わんばかりです。
しかし、神経損傷のない廃用症候群は、早い時期に十分なリハビリをすれば脳卒中よりも社会復帰は早いと思われます。患者さんは、脳卒中になるか廃用症候群になるかを自ら選べません。たまたま、本人が望まずに廃用症候群になってしまった。そうしたら、十分なリハビリをしてもらえないというのは、あまりにも不幸なことです。
療法士が最も恐れる事態は何か。それは、訓練中の急死、急変などが起こることです。そのリスク管理上、特に注意する点は、血圧上昇や過呼吸、不整脈、頻脈、血圧低下、低血糖、めまい、嘔吐、ワゴトニー(副交換神経緊張症)、誤嚥です。心臓外科医や呼吸器専門医にしてみれば、やはり心臓リハや呼吸器リハに力を入れて欲しいと思うのは当然ですが、点数が低いのです。期間についても、脳外科リハ医の一人勝ちとなっているのが現状です。
同じ国家資格を持つ療法士が、同じ時間の施術を行って、しかもリスク度や技術度の低いと思われる脳血管リハが1単位あたり700円も高いということは考えられません。どのようなEBMがあるのか。もしあるならば公表してほしいものです。
20分間、同じOTやPTが施術して診療報酬点数は245点から175点まであります。1分当たりの診療報酬は8.75点~10.25点となっています。最もリスクの高い、すなわち不整脈が出て急に血圧が下がってしまうとか、呼吸器リハのように酸素濃度が急に落ちてしまうとか、廃用症候群や骨粗鬆症で骨折したり関節を障害したりすることもあることを考えますと、この差は何か。
これまで日本の診療報酬は、重度で複雑で治療に困難を伴う症例に高く設定されてきました。ところが、脳血管リハビリだけがこれに反して一人歩きをしている状況です。脳血管リハと廃用症候群などのリハを差別するのであれば、むしろ1単位を20分ではなく15分にするとか、1日の施行単位を少なくするとか、そうした評価をするならまだ分かります。しかし、脳血管リハとは、それほどまでに優遇しなければならないリハなのかがよく分からない。
廃用性症候群は神経損傷がないため、その分、早く改善するはずです。リハビリの点数は、「リハ阻害因子が多いか少ないか」という基準で決めるべきではないでしょうか。リスクが高く、技術力があまり必要のないリハの診療報酬は低く設定すべきではないでしょうか。
確かに、完全自立も必要です。しかし、当然のことながら部分自立も必要でしょう。部分自立をもっと重視すべきです。食事自立、移乗自立、移動自立などの部分自立をしっかりすることによって、介護する人が非常に楽になります。
もはや、「廃用症候群」という呼び方は日本慢性期医療協会ではやめます。代わりに「病後リハビリ」という呼称を使い、患者を病気の前の状態に近づけるリハビリをします。他の疾患別リハビリに入らない部分を「病後リハビリ」と呼ぶことにします。
すべての患者にとって、リハビリという治療方法は必須のものであり、リハという部門を特別扱いする時代は過ぎました。リハビリは普遍的なものであります。感染症や手術による安静期間のために、ADL能力が低下した患者に対しては、より早く、より積極的なリハビリが必須です。
そもそも、「慢性期リハビリ」というのは、「急性期リハビリ」の対語です。急性期後のリハビリ、すなわち、「回復期リハ」「慢性期リハ」「介護リハ」「生活リハ」を含む概念であって、リハビリのほとんどが「慢性期リハビリ」に含まれます。
こうした考えに基づきまして、当協会は今月末、医師を対象にした「総合リハビリテーション講座」を開きます。今改定では、「回復期リハビリテーション病棟入院料1」を算定するために医師の研修が必要となりました。この講座は、その研修に必要な項目をすべて網羅するように企画しました。
リハビリテーションの根幹をなすものは、人間性の回復です。動けるようになることが優先されるべきではありません。まず何よりも仮性球麻痺を改善させることに注力すべきだと思っています。仮性球麻痺というのは、喉の嚥下障害や構音障害のことを言います。
経管栄養をしている人が、自立歩行を目指すリハビリに積極的になれるとは思えません。食事を自力摂取できれば、気力も充実し、モチベーションは上がり、リハに対する意欲がわきます。高齢者のリハビリは、障害を改善することと、さらなる老化との闘いとなるのです。短期ゴールの次は、経年ゴールを考えた年単位での長いリハビリが必須となってきます。
リハビリによって、どんどん歩けるようにすることも大切です。しかし、リハ阻害因子を除去し、新しい阻害因子を発生させないことが、結局はQOLにつながると思っております。老化は、筋肉量に大きく左右されます。特に、体幹筋と近位主要筋肉を付けるということが重要で、自主訓練が必須です。食事をするための指先訓練も非常に重要です。死ぬまでリハビリテーションを考えなければいけません。短期的に軽快しても患者さんの老化に伴う経年変化ごとの小刻みゴールがQOLには必須です。
一方、「総合リハビリテーション療法士」という存在が現場では求められています。リハビリテーションは、療法別のリハ施設認可から疾患別の診療報酬体系に変わり、すでに6年が経過しました。PT、OT、STのいずれの職種が訓練しても、脳血管障害や運動器リハビリの診療報酬が支払われますが、リハビリにはPT、OT、STの3つの職種の技術をある程度兼ね備えた療法士の存在が不可欠となっています。
療法士は訪問リハビリテーションに従事しますが、一軒の家にPT、OT、STの3名が別々に訪問するとは考えにくいと思います。在宅でのリハビリテーションを進めるため、これら3職種の治療技術をある程度習得した療法士の必要性が高まっています。従って、総合リハビリ機能を持つPT、OT、STが患者さんから望まれています。現在、コメディカルのキャリアアップとして、例えば看護師が特定看護師に、薬剤師が臨床薬剤師に、管理栄養士が臨床栄養士に進むように、PT・OT・STでは「総合リハビリテーション療法士」が考えられます。
当協会では、「良質な慢性期リハビリテーションがなければ日本のリハビリテーションは成り立たない」ということを宣言し、これからも急性期以後のリハビリテーションに邁進します。今後も、慢性期リハビリテーションの勉強を会員一丸となって進めてまいりたいと考えています。以上が、リハビリテーションに対する意見です。
■ 平成26年度診療報酬改定について
今回の診療報酬改定で、「地域包括ケアを支援する病棟(地域包括ケア病棟)」が創設されました。こうした急性期後の受け皿となる病棟の名称については、様々な意見があります。全日本病院協会は「地域一般病棟」と呼び、われわれは「長期急性期病棟」と呼んでいましたが、名称は重要ではないと思っています。問題は、当該病棟が担う機能です。「地域包括ケア病棟」という名前は非常に良いと思っております。この病棟の機能は、まさにわれわれが主張してきた「長期急性期」と全く同じです。
療養病床に在宅復帰率が導入されたことにより、在宅復帰機能のない療養病床には、地域包括ケア病棟や7対1の急性期病院から患者さんが紹介されてきません。そうした意味でも、療養病床を持つ病院にとって非常に厳しい改定となりましたが、療養病床のなかには、いわゆる「老人収容所」のような病院が依然として存在することも事実です。「いつまでも老人を収容していればいい」という病院に対して、今回の改定は目を覚まさせるような内容となりました。
当協会が2月3~5日に実施した緊急調査によりますと、療養病床は2週間以内に33%が在宅に復帰しています。すなわち、当協会に加盟する療養病床の3割は急性期機能を持っていると言えます。従って、入院患者さんをどんどん良くして早期に自宅に戻すという、本来病院が持つ機能をさらに強化していかなければいけません。
その一方で、「在宅へ、在宅へ」ということで、患者さんがどんどん移動していくと、在宅では治療を継続できない患者さんが出てまいります。例えば、気管切開をして動けない患者さん、重度の後遺症のために在宅では診られない患者さん、そういう患者さんたちを果たしてどこで診るのかが大きな課題となります。
そこで、平成28年度診療報酬改定に向けて、われわれは重度の後遺症が固定化した患者さんや、難病の患者さんを療養病床が支えてあげられるような評価を求めていきます。療養病床のなかにも、地域包括ケア病棟のような機能を持つ療養病床と、重度障害のために受け入れ先が見つからないような患者さんを救う機能を持つ療養病床があることを理解していただくために調査を実施します。重度の患者さんをどのようにサポートし、改善させたかという結果を提出したいと思っております。
自宅では当然診られない、サ高住でも難しい患者さんがいます。そうした「行き場を失った患者さん」を救うのも当協会の役割であり、そうした病床や病棟をわれわれの協会が中心となってつくらなければいけないと思います。こうしたことを次期改定では訴えていきたいと思っております。そのための具体的な取り組み、研修については、池端事務局長からご説明していただきます。
[池端幸彦副会長・事務局長]
地域包括ケア病棟の創設に伴い、スタッフの資質向上が必要となります。当協会では、すでに看護やリハビリをはじめとする様々な研修を実施していますが、今回、地域包括ケア病棟の算定に向けたスタッフ向けの研修を新たに開催していく予定です。
「入院から在宅へ」という方向性で進んでいますが、先ほど武久会長がおっしゃったように、全員が在宅に復帰できるわけではありません。必ずや、長期入院が必要で医療依存度の高い患者さんを受け入れる病棟が必要となります。そこもきちんと考えていく必要があります。それもわれわれに課された重要な責務であると思っております。
先ほど会長がおっしゃった、在宅で対応できない重度の患者さんを支える病棟について、具体的にどのような機能が必要なのか、スタッフにどのような能力が求められるのかなどを次期改定に向けて検討していきたいと考えています。協会内の様々な委員会活動も順次進めていきます。以上です。
[武久会長]
3月16日に、「第1回慢性期リハビリテーション学会」を開催いたします。すでに参加予定者は260人を超えています。26日には、「地域包括ケア病棟準備研修会」を行いますが、こちらは360人以上の申し込みがありまして、400人を突破するだろうと予想しています。当協会以外の参加者も非常に増えています。
また、以前から開催しております「在宅医療認定医講座」も100数十人に及ぶ応募があります。その半数以上は、日慢協の会員外からの応募です。1週間にわたり実施する在宅医療の講座は日慢協だけですので、非常に多くの応募があります。
3月29、30日の「総合リハビリテーション講座」には、170人を超える応募がありました。これは回復期リハビリテーション病棟入院料1の算定に対応した研修で、来年の3月までに受講すればいいのですが、早めに勉強して早めに従事しようという先生方が多いということだと思います。私からの報告は以上です。
(取材・執筆=新井裕充)
この記事を印刷する2014年3月14日