これからの医療提供体制のあり方 ── 第22回日本慢性期医療学会

協会の活動等 官公庁・関係団体等 役員メッセージ

シンポジウム5

 

■ グッド・プラクティスを世界に発信していく
 
[座長]
 三浦先生、ありがとうございました。本シンポジウムの当初の座長は武久会長の予定であったが、急きょ厚労省の重要な会議出席のため、私が座長をしている。武久会長から三浦先生にメッセージがある。「ぜひ医系技官のトップとして医療・介護をリードしてほしい」とのこと。よろしくお願いいたします。では、討論を始めたい。会場から何か質問はあるだろうか。
 
[会場から(富家隆樹氏・富家病院理事長)]
 日本慢性期医療協会は抑制をしない医療をこれからも進めていく。しかし、医療保険でも介護保険でもインセンティブとしてあまり評価されていないのではないか。
 
[三浦氏]
 抑制禁止が定着し、スタンダードになったことは、まさに日本に対する評価として高いものがあるだろう。諸外国も様々な取り組みを進めている中で、私ども日本も諸外国に負けないように、グッド・プラクティスを世界に発信していくことは非常に重要であると思っている。

討論
 
[富家氏]
 仲井先生が、地域包括ケア病棟はこれから日本で最大、最強の病棟になるとおっしゃった。地域包括ケア病棟について、老健局長という立場からどのように考えているか。
 
[三浦氏]
 地域包括ケア病棟というものが今後評価されていく。そういう中で、より良いものが1つ提案されれば、さらに日本の連携という評価のレベルが上がってくる。実質的に地域における医療の本来の中核的な役割を担っていけるような施設に育っていくかどうかというのが非常に重要な論点ではないか。

 仲井先生を中心とした地域包括ケア病棟協会の先進的な先生方のグループがこれから示す成果というものに対して、非常に大きな期待を持っている。と同時に、それを受けて特に慢性期医療や介護が連動しながらつながりを強く持ったサービスとして提供されるようなシステムが地域包括ケアシステムとして構築されるということになれば、これに越したことはない。

[座長(安藤高朗・日慢協副会長)]
 抑制の問題は慢性期ではだいぶ落ち着いてきたが、急性期病院も非常に高齢者が増えてきたので、急性期病院の身体抑制の問題も良い方向にケアできれば素晴らしいと思っている。ほかにご質問は。
 

■ 行政と話し合いをして様々な方針決定を
 
[会場から(木村宗孝氏・南昌病院院長)]
 私は岩手県の紫波郡医師会長も担当している。地域包括ケアシステムは、学校単位の小さい単位で作れというのが国の方針だと思う。紫波郡は2つの町を統括する医師会で、2町をまとめた地域包括ケアシステムをつくろうと、町長などといろいろ話し合いを持って動いている。

 片方の町は人口2万7,000人で、もう片方が3万5,000人、合わせて6万2,000人という少し大きい単位の地域包括ケアシステムになってしまった。ただし、当院のある片方の町には民間病院がある。片方には精神科病院がある。地域による偏在があり、医療資源が不足している。医療、介護支援で偏在があるので、それを統括すると良い状態になる。ということで、2つの町をまとめて行う方向で動いてはいる。そこで、6万2,000人という大きい単位の地域包括ケアシステムについて問題があるかどうか。

 それからもう1点。医療法人の経営者として、サービス付高齢者住宅などは医療関係者がやるものではないという考えでやってこなかった。ただ、今般の在宅復帰という流れの中で考えると、どうしてもそういったものを持たないと病院からの在宅復帰率、地域包括ケア病棟、そういったところで厳しい部分が出てくるのではないか。今、非常に悩んでいる。サ高住などを作るべきだったのか。医療法人ではあまりやるべきではないと思っていたが、今逡巡している。
 
[三浦氏]
 地域包括ケアシステムは、地域の特性、例えば、その地域での介護・医療に対する資源の状況、介護と医療の連携のあり様、さまざまな文化・歴史・伝統なども踏まえた上で、いわばテーラーメードのシステムとして構築されるべきだと思っている。それぞれの地域のオリジナリティーが優先されるべきだと思っている。

 今、ご指摘があったように身近な自治体である市町村を中心として地域包括ケアシステムの第一義的な取り組みが進むというのが最適ではないかと思うが、先生から指摘があったように1つの医師会が2つの自治体に対応しているというエリアもあれば、1つの自治体の中に3つの医師会があるという例もある。

 つまり医師会の区域と行政圏域が必ずしも合致しない例は多々ある。その中でそれぞれの地域包括ケアシステムをつくるという場合、それぞれのサービスを具体的に担当する医療や介護、福祉の関係者の人たちがその役割の一端を負うということは間違いないと思う。同時に行政としてこれを進めて行くことが重要である。今までの草の根で出てきているさまざまな取り組みを行政としてしっかり応援、支援していくという仕組みに持って行くというのがこの地域包括ケアシステムの1つの特徴だと思う。

 そういう意味で、2市、2町が連携しながら1つの形としての地域包括ケアシステムを作っていくというのはあり得ると思う。同時に最後はそれぞれの町の行政の責任、役割というのが明確にあるので、それぞれの町の役割は位置づけて行くことが重要だと思う。

 それから、町としてどういう仕組みを考えていくのかという点も忘れてはならない観点ではないか。地域の行政機関との連携や話し合いを進めて行く中で、良い形で資源を開発する。地域包括ケアシステムをつくるための資源を行政から出してもらうことも大事であるとも思う。
 

■ 介護療養病床、廃止のラインが今もある
 
[会場から(長谷川一朗氏・長谷川病院理事長)]
 質問がなかったのでお聞きしたい。介護療養型医療施設が今後どうなっていくのか。看取りをするために存続すべきだという意見が強くなっているが、今ひとつはっきり分からない。

 それから、特別養護老人ホームが地域に小さな規模で少しずつ整備されている。これは今後も続いていくのかどうか。融通の利く施設としてサ高住プラス定期巡回・随時対応型訪問介護看護というものが悪くないと思って整備しようとしているが、これに対してどれくらい期待しているのか、期待していいのか。
 
[三浦氏]
 介護療養型医療施設については、介護給付費分科会で介護報酬上にどう位置づけるかという議論のペーパーが示されたところ。医療に関する機能を強化した場合の評価について議論されている。介護保険法の規定によると平成30年に廃止ということになっており、そのラインというのが今もあることは事実である。制度の見直しということになれば、介護給付費分科会で議論すべきものでもないので、今のところは分科会ではそれ以上の議論は進んでいない。

 特養の整備についても地域の状況というのは様々で、例えば大都市で特養の整備をこれからも進めていくことになると考えている。ただ特養が全てということでもないのも事実で、さまざまな住まいの中にサービス付き高齢者向け住宅のような受け皿もあるので、それぞれの地域における資源の整備の状況をよく見た上で考える必要があるだろう。日本全国での議論というものも確かにあるが、最後はその地域の状況に合わせてとなるわけなので、それぞれの地域の中でどう考えるかということが重要だ。

 平成27年4月から市町村が介護保険事業計画を施行するので、その点の議論が各市町村で行われている。また特養は都道府県の支援計画の中で位置づけられることになると思うので、そういう意味でそれぞれの地域の特性というのがそれぞれの計画に反映されたものになるのではないか。
 
[池端氏]
 介護療養病床の機能が当初とは違ってきている。どうしても残さざるを得ない機能というものがあると感じている。今後はわれわれがアウトカムをきちんと出していかなければいけない。
 
[仲井氏]
 当院では介護療養型にしか行けない方が介護療養型に入院している。急性期から直接在宅復帰できない。地域包括ケア病棟の対象でもない。医療療養でもない。かつ医療は必要であっても必要度が少ない方、その方が介護療養型医療施設に入っている。

 自分たちでも療養機能強化型の要件についてシミュレーションしてみたが、ターミナルケアという言葉の定義が若干難しいところもある。重篤な身体合併症認知症高齢者、一定の医療処置、ターミナルケア、生活機能の維持改善リハビリテーション等の機能を強化していくということは在宅復帰を考える事が難しくなってくると思うが、やっていかねばいけないと思っている。ただ、その中でどうしても診られない方もいるので、どうしていけばいいのか考えなくてはならない。
 

■ 「総合医」が地域包括ケアの担い手になっていく
 
[座長]
 急性期の神様である副島先生がいらっしゃるので、副島先生に何か質問はないか。

[池端氏]
 総合医の話をされた。先生がイメージしている「総合医」について教えていただきたい。
 
[副島氏]
 当院では、「救急医」と「総合医」という2つの部署が一緒に「救急総合診療部」というものをつくり、救急などに対応している。アメリカではホスピタリストという病院総合医がある。病院の管理を一手に引き受けてやる。それは専門医が必ずしもすべてを診るわけではなく、病棟の一般的管理も総合医が担う。

 地域包括ケアを考えると、総合医的な位置付けの医師、総合内科を中心にした、あるいは老年医学、そういうところを一通りできる医師が地域包括ケアの担い手になっていくのではないだろうか。もちろん、それぞれ得意なところはあっていいと思うが、主要疾患に対して全てとは言わないが、ある程度対応できるという能力の医師を養成する必要がある。

 しかし、総合医の養成は大学ではなかなか養成が難しい。従って、私は地域の基幹病院、特に救急、救急総合診療部を持っている病院が教育の担い手となって、地域包括ケア病棟を持つ病院と連動しながら教育体制もつくっていくというのが一番現実的かつ早いと思う。
 

■ 老健施設、在宅復帰の旗が降りることはない
 
[会場から(猿原孝行氏・湖東病院院長)]
 老健の類型化が進んでおり、かなり複雑になっている。老健が将来的にどうなるのかよく分からない。介護療養病床を持って不安を感じている方々は、老健の将来の姿がよく分からないから不安があるのではないか。

 それから人材不足の問題。先日、静岡県看護協会との話し合いがあった。高齢者施設の看護師の平均年齢が非常に高く、若手看護師が非常に不足しているという。介護士も枯渇してきている。そういう中で高齢者がどんどん増えている。そういう人材不足をどのように補っていくのか。
 
[三浦氏]
 2000年の介護保険制度施行に向けて介護報酬をいろいろ検討した時のことを思い出せば、当時は簡素簡明な報酬をめざして、まだ措置で行われていた福祉施設の支払いをどうやって保険の給付の形に変えていくのかということで結構な量の作業があったことを記憶している。その後、14年、15年経つうちに、報酬体系も複雑になってきて、老健施設1つを取っても加算などいろいろな形で多様な機能を老健施設に期待しているという状況になってきているのではないか。

 施設を特徴づけるもの、例えば人員配置や設備や施設の要件などがある一方で、それぞれの地域の中で多様な使われ方、利用の仕方が存在しているというのは事実だろう。いわば実態を踏まえた報酬の体系というものにならざるを得ない。そういうことで老健施設も多様な加算などが出てきているので、若干、「老健施設とは」と言った時に、一概に定義し難くなってきているということは否めないかもしれない。それでも中心的なメッセージは在宅復帰、そもそもの中間施設としての役割、こういうことがあることは間違いないので、これからもその旗が降りるということはないと思っている。

 人材不足については、看護師不足は医療全体に言えることで、別に慢性期だけの話ではない。介護福祉士に代表される介護職員の確保というものが非常に難しくなってきているということも、いろいろなところで聞いていることであり、今般の介護報酬の見直しにあたってもこの人材の確保が、いわばいくつかの視点の1つに位置づけられているのではないかと考えている。

 そのための報酬をどう考えるかとなると、例えば手厚く配置されている場合についての評価を高めるなどの方法もあるが、介護福祉士の方々の働きやすい環境を作っていくことも重要である。

 そのために、働きやすい環境をそれぞれの施設で検討していただくことをお願いしたい。その場合、キャリアラダーの作成なども入ると思われるし、また研修体制など様々なものが要素として入ると思う。
 
[座長]
 ありがとうございました。元日本医師会副会長の岩砂先生に最後のご質問をお願いしたい。
 

■ 金太郎飴のような地域包括ケアではなく
 
[会場から(岩砂和雄氏・元日本医師会副会長)]
 日本全国にはたくさんドクターがいる地域もあるが、岐阜県は医者が少ない。岐阜市の田舎で開業しているが、やはり在宅復帰と言われている。在宅でいろいろな世話をしてもらいながら、介護を受けながらこの世を全うすることは素晴らしいことだと思うが、田舎では24時間対応しきれない。

 国家予算は少ない、高齢者はどんどん増えてお金が掛かる。「効率的」という言葉は良くないかもしれないが、効率的にやっていくには、24時間体制で看護師らが出向いて行くよりも、ある程度集めてもらうことも必要ではないか。ご意見を頂きたい。
 
[三浦氏]
 地域包括ケアの中で、住み慣れた地域でどう過ごすかという論点は非常に重要であることはご指摘の通り。一方で、一朝一夕にそういうことができないということも現実を見ればある。それに向けてどう歩を進めていくかが重要である。明日はできないからといって目標を下げるということではなく、将来に向けて一歩一歩進んでいく。

 地域包括ケアはいわば手段であり、それによって高齢者が安心して最後まで過ごせる地域をつくっていくことが何よりも重要。そのための道具としての地域包括ケアであるので、先生が指摘したような地域の実態というものもよく見据えた上で、どこを切っても金太郎飴のような地域包括ケアではなく、それぞれの地域の特性を生かしながら、しかし最後の目的を忘れずに一歩一歩、先生方にご指導いただけるとありがたい。
 

■ 最終目的は、まちづくり、人づくり、思い出づくり
 
[池端氏]
 仲井先生に質問したい。地域包括ケア病棟のリハビリによって、初めてリハが包括化された。今後、20分で1単位などの出来高はそろそろやめた方がいいのではないかと、個人的に思っている。超急性期から在宅までリハをある程度のレベルで包括的にやって、あるところまで行ったら在宅復帰率であるところまで出るわけだから、そういう流れがあればいいと感じている。ご意見を頂きたい。
 
[仲井氏]
 リハビリ包括について、最初は「どうかなあ」と思っていたが、実際にやってみてリハの療法士たちは良い成果が出る手応えを感じている。患者やその家族が一緒にリハビリをして、そして非常に安心感を持って在宅へ帰る。生活回復リハビリはなかなかいいものだと感じている。包括的なリハビリが少しずつ進んでいくだろう。

 生活支援型の医療がどの分野にも入ってきて、たとえ高度急性期であろうともその部分が終わったら、すぐに生活支援が始まる。これはもう絶対に切っても切り離せない。本日は、様々な立場の関係者が同じことを違う切り口で話すことができたのではないか。
 
[座長]
 ありがとうございました。名残惜しいが、そろそろ時間になった。私としては、地域包括ケアの最終目的は、医療や介護を通じた街づくり、人づくり、そして今学会のテーマである「満足」も含めた想い出づくりではないかと思っている。演者の先生方、どうもありがとうございました。
 

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