これからの医療提供体制のあり方 ── 第22回日本慢性期医療学会

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シンポジウム5

 第22回日本慢性期医療学会(学会長=末永英文・医療法人財団聖十字会理事長)の2日目となる11月21日、「これからの医療供給体制の在り方 ──地域包括ケアシステムを機能させるために──」をテーマにシンポジウムが開催され、本学会を締めくくりました。シンポジストに厚生労働省老健局の三浦公嗣局長らをお招きし、地域包括ケア病棟や介護療養型医療施設の今後などについて議論、会場からも質問が相次ぎました。
 
 座長は、日本慢性期医療協会(日慢協)副会長の安藤高朗氏(永生病院理事長)が務め、シンポジストには三浦局長のほか、日本長期急性期病床研究会幹事の副島秀久氏(済生会熊本病院院長)、日慢協副会長の池端幸彦氏(池端病院理事長)、地域包括ケア病棟協会会長の仲井培雄氏(芳珠記念病院理事長)が参加しました。以下、参加者の発言要旨をご紹介いたします。
 
[座長(安藤高朗・日慢協副会長)]
座長(安藤高朗・日慢協副会長) 最後のシンポジウム、大いに盛り上がっていただきたい。今学会のテーマは「最期まで満足する介護・看護・医療」で、まさに地域包括ケアのシステムの目的そのものではないか。

 今年4月の診療報酬改定では地域包括ケア病棟ができた。6月には医療と介護の総合確保推進法が成立し、地域医療ビジョンを含めて地域での医療と介護の連携、連結ということがまさに求められている。4名のシンポジストの方々に大いに語っていただきたいと思う。

 トップバッターは池端病院理事長で、日慢協の副会長でもある池端幸彦先生に「地域包括ケアシステムで求められる慢性期医療」というテーマでお願いしたい。
 

■「時々入院、ほとんど在宅」がいい
 
[池端幸彦氏(日慢協副会長)]
 地域包括ケアシステムに求められる慢性期医療について、地方の小さな病院を経営している立場も含めてお話ししたい。ご承知の通り、都道府県別の高齢者の増加状況を見ると、これから高齢者の増える人数が首都圏を中心に9都道府県で全体の約6割を占めている。当院は下から二番目に少ない福井県にあり、恐らく厚労省は、福井県の高齢者医療までは目が届いていないだろう。だからこそ、それぞれの地域でその特性に合わせて地域医療・介護の現場に携わる私たちの手で、地域包括ケアを実現していかなくてはならない。

池端幸彦氏(日慢協副会長) これから一気に増える超高齢者への医療は、病気を治すことや救うことよりも、病気を抱えて生きること、病気を支え癒やすこと、そして安らかに看取ることに重きが置かれる。すなわち包括的医療、生活的医療、在宅医療が大切になる。また「住まい」は、自宅だけではない。サ高住、グループホーム、特養などがある。そしてこれからは医療もどんどん地域包括の輪の中へ入らなければいけない。介護も生活支援、予防にも地域に根ざした医療が関わるべきであると考えている。

 そのベースにあるのは、本人や家族の覚悟。QOL(Quality of life)だけではなく、QOD(Quality of death)。これからは「Quality of death」ということも考えねばならない。地域包括の究極の目的はむしろQODではないか。そのためには、在宅ケアが欠かせないが、そこで重要なのは、不安な時にいつでも相談できて、必要な医療を提供できる医師がいてくれること、さらに必要な時、必要な期間入院できるようなベッドが身近にあることではないか。しかもこのベッドは超急性期のベッドではなく、療養病床、地域包括ケア病棟のベッドが大きな役割を果たすことになろう。

 今後の死に場所はどこか。在宅死か、病院死か。私は、在宅死が「○(まる)」で病院死・施設死が「×(ばつ)」と割り切れるものではないと思う。むしろ、在宅ケアの限界点を高めるように努力をしていく必要がある。「時々入院、ほとんど在宅」がいい。更に、高齢者救急が増えており、特に軽症・中等症の救急搬送が増えている。今後、高齢者救急を受け入れるのは、地域包括ケア病棟が中心になるだろう。
 

■ 循環型の連携システムを地域ごとに
 
 介護老人福祉施設(特養)は、「終の棲家」と言われる。しかし、特養は63.7%が死亡退院で、その殆どは医療機関で死亡している。ではなぜ、医療機関に搬送しているのか。本人や家族の希望もあるかもしれないが、スタッフの不安などもあって、看取り機能が不十分であると言われている。特養での看取り加算が増えても、死亡前日、前々日のあたりは増えていない。そこで介護療養型医療施設(介護療養病床)の看取り機能に期待がかかる。介護療養病床の機能を評価する必要がある。

 今後、医療療養病床の20対1は人員配置基準等のハードルが少し上がり、25対1は施設に移行する流れになるだろう。とすると、在宅復帰強化型を取るか、地域包括ケア病棟を目指すかという選択になる。当院では、入院患者の7割が在宅から来て、死亡退院が2割近くだが、6割を在宅に返している。在宅復帰率は89%。たった1病棟の小さな病院でもこれくらいのことはできる。そこで、地域包括ケア病床を目指そうと取り組んでいるが、現状では「正看護師の比率7割」がクリアできないでいる。

 しかし私は、地域包括ケア病棟を目指すこと自体に意味があると考えている。地域包括ケア病棟の申請に向けて各部門の連携が強まり、院内が活性化した。外来や訪問系、通所系など病棟以外のそれぞれの部門が地域包括ケアの名のもとに新たな動きを始めた。単に病棟だけの問題ではなく、法人全体のものだという問題意識を持ちつつあり、地域連携室もさらに活性化している。

 こうした院内連携が地域連携にも生かされる。私は「循環型地域連携システム」と呼んでいる。「急性期から回復期、慢性期」という上下の連携ではなく、在宅から急性期、慢性期という「循環型連携」がある。もし「上下」があるならば、むしろ在宅がトップで、ぐるぐる回る。どちら回りでもいい。ダイレクトに在宅と慢性期の間を行き来してもいい。こういった循環型連携システムが地域ごとに求められる。
 

■ 長生きをしたから幸せとは限らない
 
 慢性期医療に必要な三大機能として、①在宅復帰・在宅医療支援機能、②リハビリテーション機能、③看取り機能──が挙げられる。今後はさらにもう1つ、「地域包括医療・介護支援センター」(仮称)のような役割が期待される。現在、各自治体に「地域包括支援センター」があるが、1人の患者さんが急性期から回復期、在宅に至るまでの一連をフォローするセンターが各医療圏に必要になる。そこで、「地域包括医療・介護支援センター」(仮称)機能を中心として、地域密着型の慢性期医療がその機能を高める努力をしていくことが肝要である。

 この写真は、施設内によくある休憩室。パーキンソンⅢ型のお母さんと、92歳の誤嚥性肺炎を繰り返すおばあさんがいる。そして、脳梗塞後遺症で高次脳機能障害があり、両膝の手術をしたばかりの方。ある種の「覚悟」があれば、この3人暮らしが、在宅で成り立っている。40代の脳出血後遺症のリハ目的での入院患者では、本人の強い希望があり、単なる在宅復帰ではなく車の運転までできるようにして自宅復帰出来た例。更にただ帰すだけではなく、仕事も見つけてあげる。慢性期の病院には、こういう機能もこれから求められるかもしれない。

 当法人は保育園も運営している。園児を含め、インフルエンザの集団予防接種を地域で展開している。さらに当院のPTやOTが地域に出て支援事業をどんどん展開している。ほとんどボランティアだが、こういう事業を通じて顔を売る。「顔の見える連携」だけでなく、「腹の底が見える連携」をすることで地域に信頼され、愛される病院になっていく。更に最近では、リハ職らをケアマネジャーに同行させてマネジメントに生かしてもらうという事業なども展開している。

 われわれ医療者には、生活を支える視点が必要であり、治療的医療だけではなく生活的医療の提供である。一方で、介護従事者の生活支援の中に医療のマインドを吹き込むことによって、医療と介護を融合していく。医療、介護、福祉、保健の連携(リンケージ)から統合(インテグレーション)へ。これをできるのが、われわれ慢性期医療ではないか。

 最後に一言。「Happy People Live Longer」、すなわち「幸せな人は長生きをする」という研究論文が科学誌「サイエンス」の2011年2月号の総説として掲載された。自分は幸せであると思っている人、不幸と思っている人をどのように集めたかは知らないが、幸せな人の方がなんと6、7年長生きするというデータが出た。幸せな人は長生きする。しかし、長生きをしたから幸せとは限らない。本人、家族の選択、QODという考え方がここに必要なのではないだろうか。

[座長]
 池端先生は福井県医師会の副会長も務められ、地域に根付いた中・小規模多機能な医療を展開されている。ありがとうございました。次の演者は、地元熊本で、全国的に有名な済生会熊本病院病院長の副島秀久先生。副島先生は、LTAC研究会(日本長期急性期病床研究会)の幹事もされている。「急性期病院から見た地域包括ケア病棟への期待」というテーマでお話しいただく。
 

■ 大きな改革、しかし様々な課題がある
 
[副島秀久氏(済生会熊本病院院長)]
 急性期の立場からお話をしたい。また熊本地域は連携が非常にうまくできていることもご紹介したい。まず今回の診療報酬改定、それから病床機能報告制度と、いろいろと大きな改革が進められている。

副島秀久氏(済生会熊本病院院長) 「高度急性期」と「急性期」は、「診療密度」の違いで区分しているが、「回復期」はすべて回復させる機能を持つのか、地域包括ケア病棟はどこに位置づけるのか、病床機能を報告するための定義が若干不明確であるように思える。さらに今後、各都道府県に設置される地域医療構想の協議会はどのような内容になるのか、構想区域と二次医療圏との関係はどのようになるのかなど様々な課題が山積している。

 そうした大きな改革の中で、熊本市内の医療連携は非常にうまく機能している。北に救命救急センターの国立病院、南に済生会、東に日赤という配置で、市内を救急車が交錯することはほとんどない。それぞれの得意分野を生かしながら、地域包括ケア病棟とも連携している。急性期病院とその周辺の回復期や地域包括ケアなどは、配置や病床数の割合などを見てもうまくいっている。

 熊本で早い段階で連携が進んだのは、平均在院日数を短縮させようという急性期病院側の意識があったからだろう。これから超高齢社会になっていくので、医療提供体制の効率化を図らなければいけないという議論が背景にあった。しかし、平均在院日数をどう設定するかによって今後の必要病床数が大きく変わってくる。そこで、今後のインフラ整備をどう進めていくべきか、どのように改善すればいいのか、7対1入院基本料の要件が厳しくなっていくのか、7対1がどのぐらい地域包括ケア病棟に移行するのかなどについて述べたい。
 

■ 医療提供体制のカギを握る「総合医」
 
 当院の2013年度のデータを見ると、転院数が退院総数の28%で3割弱が何らかの形で転院をしており、転院率は比較的高い。重症の疾患を治療するところほど、在宅復帰率は厳しくなる。一方で例えば小児科や眼科、耳鼻科などの患者は治療を終えて自宅に帰るのが通常だが、外傷で入院した患者は自宅に帰るまでに相当の時間が掛かる。転院する割合が多い血管系、呼吸器系、手術や外傷の患者が多いと、在宅復帰率は厳しくなる。つまり疾患構造に大きく左右される。

 2013年のデータでみると入院患者3,812人が転院しており、転院先は253施設のうちわずか11施設で転院患者の50%を占めている。当院で「アライアンス連携」と呼んでいる密接に連携している施設である。退院患者の多くは多重疾患を抱えているので、「総合医」のようなトータル管理ができる施設がアライアンス先として望ましい。高血圧や糖尿病、心不全は最低限できることが必要で、最近では特に認知症も加わり、こうした患者の病態管理ができないと、急性期病院からの転院はスムーズに進まない。

 今改定で新設された地域包括ケア病棟はどうか、どういう医師が担うべきかを考えると私は、やはり総合医であると思う。総合医は、今後の医療提供体制を考える上で一番重要なポイントの一つであり、総合医が医療提供体制のカギを握る。2017年よりようやく「総合診療専門医」がスタートすることになったが、2025年まであと10年しかない。総合診療専門医の養成が間に合うかどうか分からないが、たとえ遅くてもやらないよりはいい。現状は総合医がいないことによって専門医の負担を増大させる一方で、専門性を高めることが困難な状況が生じている。
 

■ 地域包括ケア病棟は「急性期」にカテゴライズ

 われわれ急性期病院の認識はどうかと言えば急性期の医師は慢性期医療をあまり知らない。しかし、これからの急性期病院は慢性期医療のこともよく理解しておかなければいけない。急性期病院だけでは生き残れないし、「地域包括」という言葉は恐らくそういう意味を含んでいると思う。従って急性期病院の医師といえども急性期から地域包括ケア病棟、療養病床、介護施設、在宅、福祉など、これらを包括的に理解しておく必要がある。

 4月1日時点で、11ある「アライアンス病院」の総病床数は計2,111床で一般病床が28%あった。それが10月1日時点で20%に減少、約8%が一般病床から転換した。旧亜急性期の4%と一般病床から移った8%で、地域包括ケア病棟12~14%を構成している。

 病床機能報告制度も始まったが、自院のポジショニングに悩む病院も多いだろう。地域包括ケア病棟はどこに位置づけられるのだろうか。地域包括ケア病棟が仮に、LTAC(Long term acute care、長期急性期病床)をモデルにしていると考えれば「急性期」にカテゴライズすることになろう。いろいろな議論があると思う。高度急性期、急性期、回復期、慢性期などの定義付けが明確ではないことが迷う原因である。議論はこれから始まるのだろうと思う。
 

■ 2025年に向けた医療連携のモデルを各地域でつくる
 
 熊本の医療圏は11あり、多すぎる。救急救命センターへの救急車搬送の地図を書いてみると、きれいに3色に分かれる。3つである。従って、医療圏を同じくらいの人口規模で分けて、守備範囲を決めた方が合理性がある。救命救急は、救急車が生活圏の中で移動する。患者も遠い所へ行ってくれとは普通は言わない。やはり生活圏と一致した医療圏という考え方のほうが計画を立てやすいと思う。

 二次医療圏で考えると、「この医療圏は医者が少ない」「ここは医者が多い」という議論になる。熊本を3つに分けるとほぼ平均化、平準化する。11医療圏だと、最大で3.26倍の格差があるが、3医療圏にすれば最大格差は1.6倍にしかならない。こういう形で考えてはどうか。

 7対1の一般病床から地域包括ケア病棟への転換が進みつつある。しかし、地域包括ケア病棟をはじめ、どの程度の病床が必要かを正確に予測しないと、病床機能報告で迷う。2025年に向けた医療連携のモデルを各地域でつくり、「大都市モデル」「中都市モデル」「小都市モデル」などのカテゴリーで考え、解決方法を見つける必要がある。

 今後、急性期医療の需要は減っていく。代わって地域包括ケア病棟が拡大し、ハブ的な役割を果たす。私は、地域包括ケア病棟が非常に重要な位置づけになると予測している。地域包括ケア病棟をうまく動かすためには、まず病床区分の定義の明確化、それから正確な主要疾患の発生率、平均在院日数の設定、在宅復帰率の設定、総合医の診療範囲の設定、医療圏の再編などが必要だろう。さらに、先述した大都市、中都市、小都市などのモデル設定をして、協議の場で建設的かつ永続性のあるプランを策定する必要がある。
 

[座長]
 ありがとうございました。非常に的確に分析されており、連携の中に、地域包括ケア病棟が13%、また在宅強化型の医療療養病床、そして驚いたのは介護療養病床も8%アライアンスに入っていること、大変勉強になった。続いて、芳珠記念病院の理事長で、地域包括ケア病棟協会の会長でもある仲井培雄先生に、「最大で最強の地域包括ケア病棟」というテーマでお話しいただく。[→ 続きはこちら]
 

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