「第20回日本慢性期医療学会福井大会」のご報告(6) ─ シンポ3(終末期)

会員・現場の声 協会の活動等

福井大会シンポ3

 

■ パネルディスカッション
 

[中川氏]
中川翼座長 フロアーからご質問があればお願いしたい。
 
[静岡県・女性]
 現場がすごく積極的に動いているという印象を受けた。現場が生き生きとケアできるような組織づくりのために努力していることがあれば、教えてほしい。
 
[安藝氏]
 お互いの現場をお互いが知らなければいけないと思う。同じ法人内でも、病院の看護職が訪問看護を知らなかったり、何をしているのかを全然知らなかったりすることもある。病院のナースが、1日でもいいので訪問看護の現場を見に行くとか、逆に訪問看護師が病院を見に行くとか、互いの現場を知るということが一番大事だと思う。
 
[理学療法士の男性]
 中川先生は、「リハビリスタッフが『ターミナルケアカンファランス』などに参加したことが大きい」と述べた。そう考えた理由や、リハスタッフに求められることなどをお聞かせいただきたい。
 
[中川氏]
 私はリハスタッフについて、「患者さんが元気な時だけケアする職種ではない」と考えている。患者さんの状態がだんだん衰え、訓練室に行けなくなった場合のベッドサイド等々を含めて、お亡くなりになるまでの経過を知ってこその病院職員であると考えているので、私はリハスタッフにも積極的に参加することを求めてきた。

 その結果、リハ職も終末期に対して何らかの関わりを持つようになり、とても喜んでいる。リハの役割が終わっても、病室を訪ねてご家族とお話ししたり、本人に声をかけたりしながら、個人的にも関わりを持つようになった。とてもいいことだと思っている。
 
[岡田玲一郎氏(社会医療研究所所長)]
 一般市民の方々は、「事前指示書」などをあまり知らないので、どうしたらいいのか。例えば、インターネットの「食べログ」みたいに、そのサイトに行けば説明してくれるとか、そういう取り組みを長尾先生はされているのではないだろうか。
 
[長尾氏]
 リビング・ウィルを知らない方が多いかもしれない。「口頭ではなかなか分かりづらいことがあるので、何らかの文書に残したほうがいい」ということを講演会などで説明している。
 
[和歌山県・男性]
 「意思確認用紙」について、法的な根拠はあるか。「成年後見制度」などを考えると、家庭裁判所への申請などが必要になるのではないか。
 
[中川氏]
 「意思確認用紙」は、患者さんのご家族の希望で始まった。患者さん側にすれば、「この病院はどんなことをしてくれるのか」ということを、口頭だけではなく文書で確認したいという希望があると思う。

 お話しした結果を文書で確認することは必要であり、夜間や週末はスタッフが交替するので、情報を共有する意味もあると考えている。ご家族も終末期について考えていただきたいということであり、これを法的にどうこうするという意味は全く考えていない。
 
[和歌山県・男性]
 ご家族がいない患者さんや、ご家族がいても患者さんに関わりたくないという場合はどうか。非常に孤独な患者さんで、しかも認知症などで自分の症状を判断できないような場合には、基本的には「成年後見制度」などによるのではないか。そうすると、成年後見人は「病院にお任せします」ということになるのではないか。
 
[中川氏]
 認知症で、親戚などが全くいない患者さんもまれにいる。そういう場合、弁護士に依頼して親戚を捜していただくと、どこかにいらっしゃることが多い。そして、「こういう治療をしている」ということをご了解していただいたりしながら進めている。

 医療に関しては、「成年後見制度」はあまり有効とはされていないと思うので、ご家族や親戚などに対する説明ということしか、現在のところ方法はないのではないか。
 
[和歌山県・男性]
 できれば、法的な制度設計が求められてもいいのではないかと思っている。
 
[中川氏]
 その通りだと思う。
 
[在宅療養支援診療所の男性]
 長尾先生にお尋ねしたい。「24時間以内に診断していれば、往診しなくても死亡診断書が書ける」との説明だが、その場合、最終死亡確認や死亡時刻はどうなるのか。
 
[長尾氏]
 医師法20条は昭和24年の法律で、離島や無医村などを想定した法律だと思う。現在は、往診しないことはないと思う。医師法20条は、「医者は診ないで死亡診断書を書いてはいけません。ただし、24時間以内に診ていればこの限りではない」と書いてある。

 照沼先生は、「3時間も待たせた医者もいて、とんでもない」とおっしゃったが、実際にはそういうこともある。その場合の死亡時刻は推定になる。在宅ではいろいろなケースがあり、常に「推定時刻」になる。ご家族との話し合いで決まる。「実態に一番近い時間を書いていい」ということになっていると思う。
 
[中川氏]
 24時間を超えて亡くなった場合、その疾患であると想像される場合も当然、その患者さんを見に行くと考えていいだろうか。
 
[長尾氏]
 その通り。異状死の可能性があれば、警察に届け出る必要がある。しかし、その疾患で亡くなったと医師が判断すれば、死亡診断書を書いていい。
 
[男性]
 胃ろうの中止についてお尋ねする。家族からどのぐらい要望があり、どのぐらい中止したことがあるか。
 
[安藝氏]
 胃ろうの患者さんは多く、各病棟に10人ぐらいいる。その中で、完全に中止した例はないが、「中止してほしい」との要望があって倫理委員会で話し合ったケースは、私の記憶では1例ある。それは、完全に中止したというよりも、少し減量したという形にした。多職種からいろいろな意見が出たが、ご家族の意向を踏まえて減量した。
 
[男性]
 「胃ろうをやめたほうがいい」と思われる症例はあったか。
 
[安藝氏]
 胃ろうに限らず、「点滴などもやめてほしい」という要望が出るケースもある。ご本人が点滴を希望しなかったので、点滴をしなかったという事例はあった。これは、ご本人の意思だった。

 点滴などを減量することについては、完全にやめてしまうことが難しいので、量的に減らしていった。また、中心静脈栄養法(TPN)を希望しない患者さんのケースで、末梢からの点滴が入らなくなった時期があり、皮下注で水分を少し補給して対応したこともあった。
 
[男性]
 やっていることが全く同じなので安心した。
 
[都内クリニックの男性]
 「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)で看取りをしている。約8割をこの住宅で看取っている。最近、従来の看取りと変わってきていると思う。私自身、かつて病院で看取っていた時と、雰囲気が大分違う。そこでお尋ねしたい。どういうお言葉で看取りを行っているか。
 
[長尾氏]
 「サ高住」で8割とはすごい。びっくりした。私も在宅での看取りをしているが、病院での500人と在宅での500人は全く違う。泣いたり、悲しんだりするのは当然だが、在宅での看取りは、何かをやり遂げたような、介護した後の達成感、泣き笑い、というような感じで、非常に穏やかな看取りをしている。
 
[照沼氏]
 私どもの診療所では、年間約150人の看取りをしている。いろいろな看取りがある。例えば、ご親戚が多い患者さんの場合で、30人ぐらい集まって看取ったこともある。ひっそりしたお看取りもある。

 いろいろなお看取りがあるが、大切なことはそれまでのプロセスだと思う。いかにご家族との信頼関係をつくるか、患者さんに慕われるか。ご家族が、「この医療スタッフのチームならば、安心してお任せできる」と判断して、お看取りになるのだと思う。精神的な1つの柱をつくっておかなければいけないと思う。
 
[安藝氏]
 毎日ご面会に来ているご家族には、「毎日ご面会にいらっしゃって頑張りましたね」という一言をおかけすることはよくある。
 
[木田雅彦氏(福島寿光会病院院長、日慢協理事)]
 「胃ろうをやらない」というご家族がいる。その一方で、「中心静脈栄養はやる」「点滴はやる」と言う。何をもって「延命」と言うのか、よく分からない点がある。

 「腸が使える間は使ったらいい」という考えも、私は理解する。腸が生きている限りは、プラス延命があるということにもつながるのではないか。

 「意識がない」ということだけをもって生命を判断していいのか。もし、「治療をやらない」と言うのであれば、「点滴さえもやらない」というのが整合性あるだろう。しかし、「経管栄養はやらないが、点滴はやる」ということはどうだろうか。国民のみなさんに意見を発信する際には、その辺りのことも考えながら、きちんと説明する必要がある。

 私は、照沼先生のお考えが一番受け入れやすい。家族はさまざまであり、日本の文化がある。欧米から持ってきたものが、必ずしも日本に合うかどうかは分からない。
 
[中川氏]
 そうした点も含めて、これから長い月日をかけて考えていかなければならない。シンポジストの先生方も、まだまだ話し足りない部分があろうかと思うが、そろそろ終わりにしたい。

 私は、「在宅死vs.施設死」というタイトルを見た時、「病院はもっとこうしてくれ」などと、かなりバトルになるかと思ったが、意外にもお互い謙虚だった。お互いを知り合うということがやはり重要ではないかと感じた。長尾先生もご著書で書かれているように、「在宅医療が困難になった場合、良い療養病床に入れたい」というお考えのようなので、今後も密接な連携を取って進めていかなければならないと感じている。

 地域全体を療養病床と考え、その中に病院もあり、在宅医療もあると考えていくのが、これからの私どもにとって大事なことではないかと思っている。 [→(7)はこちら]
 

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