「第20回日本慢性期医療学会福井大会」のご報告(7) ─ シンポ4(介護療養病床)

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「第20回日本慢性期医療学会福井大会」のご報告(7) ─ シンポ4(介護療養病床)

 日本慢性期医療協会(日慢協、武久洋三会長)は11月14(木)、15(金)の両日、東京都港区台場の「ホテルグランパシフィック LE DAIBA」で、「第21回 日本慢性期医療学会・東京大会」(大会長=富家隆樹・日慢協常任理事、医療法人社団富家会理事長)を開催します。昨年の第20回福井大会では5つのシンポジウムが行われ、当ブログでは1~3までお伝えしました。東京大会が間近に迫る中、福井大会のシンポジウム4「介護療養型医療施設の今後を考える」の模様をお伝えします。座長を清水紘・日慢協副会長が務めました。
 

■ 迫井正深氏(厚生労働省老健局老人保健課長)
 

介護保険制度の開始から6年、その後の6年
 
 
 介護療養型の医療施設は平成18年の制度改正を契機に、さまざまな議論がある。厚生労働省としては、平成24年3月の廃止を6年間猶予するということで整理している。それに併せる形で、介護老人保健施設についても、療養機能を重視している施設類型である「介護療養型の老健」(いわゆる転換老健)と、「従来型の老健」ということで機能的に位置付け、介護老人保健施設への転換を図っている。

迫井正深氏(厚生労働省老健局老人保健課長) 平成12年から介護保険制度が始まり、ちょうど12年経った。その中間である平成18年、先述したように制度の大きな見直しを図った。平成18年の制度見直し前後6年間を見ると、社会全体の構造の変化が顕著である。特に、独居老人が増加している。介護保険施設の平均要介護度も上昇している。

 平成18年の見直しを受け、施設の実態はどうなっているのか。介護療養病床に関する実態調査結果(平成22年度老人保健健康増進等事業「医療施設・介護施設の利用者に関する横断調査」)によると、われわれとしては、「介護療養病床と医療療養病床の機能分化が進んでいる」と認識していいのではないかと考えている。

 同調査では、療養病床の平成17年時点と22年時点とを比較した。それによると、医療療養病床は「医療区分1」の割合が減少し、「医療区分2、3」が増えている。これに対し、介護療養病床は「医療区分1」が増加し、「医療区分2、3」が減少している。医療区分とADL区分の分布を見ると、介護療養病床では「医療区分1かつADL区分3」の患者割合が高く、医療療養病床では「医療区分2または3で、ADL区分3」の患者割合が高く、両者の分布に差が認められる。

 さらに、介護療養病床は医療療養病床に比べて、「人工呼吸器」、「中心静脈栄養」、「気管切開・気管内挿管」、「酸素療法」の実施割合が低く、「喀痰吸引」と「経管栄養」を同程度実施している。「喀痰吸引」と「経管栄養」は、老人保健施設よりも実施割合が高い。

 こうした調査結果を踏まえると、介護療養病床は医療療養病床に比べて、「医療ニーズがより高い患者さんの割合が薄い」という実態が示されている。そこで今後、いわゆる「療養病床」をどのように考えていくべきか。
 

「着実な転換をする」という方針
 
 
 介護老人保健施設への転換が実態として十分に進んでいない。このため、介護療養病床の廃止を6年間猶予している。現在の与党である民主党の医療政策から引用させていただくと、「現在の療養病床は居住施設への転換を図りつつ、急性期病床から亜急性期病床へ、亜急性期病床から療養病床への転換を図りながら、総枠としての療養病床38万床(※)を維持しなければなりません。(※) 38万床は平成37年(2025年)の目標値」としている。基本的には転換を図りつつ、トータルとしての必要病床数、必要とされるキャパシティは維持していくんだという考え方で整理されている。

 そこで、「転換」の意味について整理すると、医療療養病床の転換先として医療療養病床もあり得るし、介護保険3施設(介護療養型医療施設、老人保健施設、特別養護老人ホーム)もある。ただ、介護保険としての給付の体系は、あくまでも介護を前提とした給付体系であるという整理で考えている。

 介護療養病床の廃止を6年間延期した基本的な方針は、「介護療養病床については対処する」ということを前提に整理しており、「転換期間を6年間延長する」ということである。従って、6年間の期限の延長であるので、平成24年度以降は新規の介護療養病床を認めない。その間、引き続き転換を円滑に進める政策を実施していきたい。これが、われわれの基本スタンスである。

 医療療養の病床数は平成18年時点から微増であり、介護療養の病床は転換が十分に進んでない状況にある。療養病床数はトータルで減少しているが、さほど大きな変化はない。私どものスタンスとしては、繰り返しになるが、基本的には「着実な転換をする」という方針である。
 
  
■ 高橋泰氏(国際医療福祉大学大学院教授)
 
 
前橋と宇都宮の比較から戦略を考える
 
 
 もし、私が介護療養病床を持っていたら、どう考え、どう判断をするかを示したい。まず、制度の方向性を決定付ける3つの要因を考える。①現在の医療提供状況、②人口構造の変化、それから③財源の問題がある。さらに利用者や医療スタッフらの質、考え方の変化もあるだろう。これらの変化の総体として、制度の方向性は決まっていくのではないか。

高橋泰氏(国際医療福祉大学大学院教授) 私は現在、①地域の医療提供状況と、②人口の変化──に関する研究に注力している。これらを考える題材として、群馬県と栃木県の比較を示したい。群馬県と栃木県はそっくりな県で、人口はともに約200万人、面積も約6,000k㎡。しかも自動車の所有率が1位と2位で、ライフスタイルも非常に似ている。

 しかし、県庁所在地である前橋と宇都宮は全く状況が違う。医療の提供状況が異なっている。人口10万人当たりの医師数を見ると、前橋は全国2位だが、宇都宮はワースト2位で全く違う。トップ2位とワースト2位。前橋の人口は約39万人で、宇都宮約75万人の半分だが、医師数は前橋が多い。今後、人口構造がさらに変わる。前橋は75歳以上の後期高齢者が4万人(2010年)から6万人(2030年)に増加。宇都宮は、75歳以上の後期高齢者が6万人(2010年)から12万人(2030年)に増加する。

 従って、同じ政策でも、宇都宮にとって良い政策が前橋にとっては不幸な政策になるし、前橋にとって良い政策が宇都宮にとってマイナスになることもある。地域によって人口動態、医療提供の状況が違うので、自分たちの地域が今後どうなるかを把握することが基本になる。人口減少時代に必要な戦略は、日本全国の各地域を同じ物差しで測定し、それぞれの現状と人口推移に合わせた地域独自の将来プランを作成することである。
 
 
自分の地域がどのグループに属するか
 
 
 2010年から35年にかけて、わが国の人口は75歳以上が59%増え、0~74歳は23%減る。すなわち、0~74歳に対応する高機能な急性期の需要が2割ぐらい減って、地域密着型病院の需要が6割増えるだろうと予想する。そうすると、今後重要になるのは高度急性期から受け入れて、地域に戻してくれる「中間施設機能」と、在宅高齢者の急変などに対応する「一般急性機能」が最も重要になる。こうした医療を手厚くしていかなければならないことは間違いない。「中間施設機能」「一般急性機能」を果たす施設に療養病床を移していくことが非常に重要だろう。

 ただ、これはわが国全体で見た場合であり、地域ごとに見るとやや異なる。高知県や埼玉県、宮城県の例を示したい。まず、高知市は急性期が多過ぎる。高齢者人口は大幅に増えないので、急性期を減らさないといけない。埼玉は地域密着型を増やしていく。宮城は、急性期も地域密着型も少しずつ増やす必要がある。

 これらをすべて合計したものを全国の目標値にするのが望ましい姿であろう。地域によって進んでいる方向が違うことを踏まえる必要がある。急性期医療を「増強」するのか、「現状維持」か「削減」か。また、地域密着型医療を「増強」するのか、「現状維持」か「削減」か。自分の地域がどのグループに属するかを押さえることが戦略の基本になる。全体的に見ると、療養病床にとって追い風になる。

 財源の問題も非常に重要である。急性期医療をやるなら、やはり密度を上げないといけない。日米の100床当たりの医師数を比較すると、日本は15.6(2002年)、アメリカは77.8(2000年)。100床当たりの看護職員数は、日本が42.8(2002年)、アメリカは230.0(2000年)と、このぐらい違う。

 今後、急性期の密度を上げなければいけない。都市部のいわゆる「9時─5時の診療所」や、病状が安定している患者の長期入院を削り、急性期医療に人員と財源をシフトせざるを得ない。2012年度の診療報酬改定で、回復期リハビリ入院料と医療療養の入院料の一部が同じ点数になったほか、一般病床の13対1と15対1が2種類に分かれて、一部は医療療養と同じ点数になるという改革があった。療養病床で急性期の患者を受け入れる改定もあった。私は、この辺りが非常に大きなメッセージではないかと思っている。
 
 
高齢者を受け入れる機能を強化する
 
 
 利用者やスタッフの考え方の変化についても述べたい。私は5年続けてフランスを視察した。フランスは1990年ごろ、胃ろうをガンガンやっていたが、2000年ごろはほとんどなくなった。2009年にそれを知り、「日本もいずれ胃ろうはなくなるだろう」と、医療関係者に話してきた。ご存知のように、胃ろうが急激に減ってきている。恐らく、この流れは止まらないだろう。

 次に来る流れは何か。口から食べられなくなった場合に、フランスは非常に諦めが良すぎる。日本もこの傾向にきている。今後どうなるか、はっきりとは分からない。介護療養病床は、急性期病院の入院料よりも安いが、老健や特養に比べて高いというのが1つのポイントだと思う。今後、制度がどのように変わろうと、高齢者を受け入れる施設は絶対に残る。

 もし、私が介護療養病床を持っていたらどうするか。急性期病院や在宅患者から受け入れられるような機能を少し強化していくだろう。確かに、周囲の病院の行き先が見えた時に最終決断をしたい。しかし、介護療養病床の廃止がどちらに転ぼうが急性期機能を強化し、高齢者を収容所的な形でそのまま置いておくというのは非常にリスクが高いと思う。100%とは言わない。3割、4割の確率で政治決断ができずに介護療養病床が残る可能性はあるとは思うが、その3、4割の可能性に賭けるのは非常に怖い。

 むしろ、急性期の高齢者を受け入れるような形に体質改善していって、しかるべき新しい種類のものが出た時に、それに応じて状態を変えていくというのが、恐らく正しい方法ではないかと思っている。
 
高橋泰氏(国際医療福祉大学大学院教授)2_講演
 
 
■ 定光大海氏(国立病院機構大阪医療センター救命救急センター長)

 
 
救命救急センターに集中している
 
 
 私は、大阪市中央区で救命救急センターをやっている。病院全体は698床で、救命救急センターは30床。三次救急に特化した救急医療を救急科専門医、指導医、専門医ら約10人の専従医で対応している。本日は、救急医療の現状、救命救急センターの出口の問題、慢性期病院との連携などについて話したい。

定光大海氏(国立病院機構大阪医療センター救命救急センター長) 現在、厚生労働省が提示している救急医療体制は、初期救急・2次救急・3次救急での対応。救命救急センターは全国に約250カ所で微増しているが、2次救急の医療機関がなかなか増えない。救急車の出動件数はどんどん増加し、平成20年に受け入れ困難事例が起こった。2次救急医療機関が減った時期があり、その後は少し増えたり減ったりしているが、大きく変わっていない。救急患者の資質の問題など、いろいろな問題が絡んでいる。

 3次救急の医療機関に関して言うと、大阪市は6つの救命救急センターを持っており、260万人の搬送件数のうち16万人の最終的な搬送場所になっている。当院では、2005、06年の年末、なぜか救急患者を受け入れられないことがあった。救急搬送件数が激増したことも原因に考えられるが、「救急医療の崩壊」と言われる事件があった。交通外傷などを複数の3次救急医療機関で受け入れられないことがあり、結果的にお亡くなりになった。1時間30分以上かかって搬送したが駄目だった。

 救急患者の受け入れ困難事例は病院の問題もあり、システムとして解消するのはなかなか難しい。その後、現場で1時間以上の滞在を余儀なくされた患者さんはとりあえず救命救急センターがいったん受け入れようという取組みもスタートした。

 救急医療の課題は救急搬送の増加で、救命救急センターなど時間外対応が可能な医療機関に集中してしまうことが問題になっている。飲酒、精神疾患、身体合併症の患者さんが救命救急センターに集中している。

 加えて、救急医療機関や医師が不足しており、社会は専門医志向になっている。専門医に分化すると、医師は不足する。例えば、一般外科医の10人が5つの身体パーツで呼吸器や消化器などに分かれると、それぞれが2人ずつになる。そうすると、2人で24時間365日は対応できないので、受け入れ困難事例が発生してしまう。
 
 
転院先の確保が非常に難しい
 
 
 救急搬送件数を年齢層別に見ると、65歳以上の高齢者が増えている。平成23年は45.5%になっており、高齢者がどんどん増えている。また、高齢者に限らず、単身世帯も増えている。高齢者と単身世帯の急増に対応するセーフティーネットは未整備の状況にある。

 救命救急センターには、ご自宅で倒れた人や、老健施設の入所者が搬送されてくる。8割は亡くなってしまうが、回復する人も6%ぐらいいる。ということは、約10%の人は障害を残して生存する。こうした方々がどこに行くのか、ということが問題になる。

 65歳未満と65歳以上の大きな違いは、死亡率が変わることだ。転院の頻度は、65歳未満も65歳以上もだいたい23%。従って、いったん良くなって別の病院に移ってほしい人がこれぐらい存在している。平均在院日数も、65歳未満と65歳以上は明らかに違う。われわれの救命救急センターの平均在院日数は7~8日、救急科トータルで14日。その中で高齢者と転院だけを見ると、平均在院日数は65歳以上が36日。65歳未満でも28、29日となっている。これだけ長い期間、診ていることになる。

 平均在院日数の分布を見ると、なんと1週間以内で退院できる人は30%弱にすぎず、60日や90日、180日以上の入院もいる。急性期病院であるにもかかわらず、6カ月も診なければいけない人がいる。こうした患者さんを別の施設で診てもらってもいいわけだが、なかなか難しい。

 救命救急センターに搬送された施設入所者は転院が多く、再び施設に戻ることはまずない。亡くなるか、転院しかない。転院先は、もちろん施設ではなく療養型病床になるが、時間が掛かる。転院先は、一般病床が約28%、回復期リハビリ20%、療養病床33%などで、施設に戻る人はわずかしかいない。

 転院困難な理由は、自殺企図や病態などいろいろな理由がある。独居の高齢者、生活困窮者、外国人も含め、転院先の確保が非常に難しい。家族の希望もある。若い人は別として、家族は同じケアを求め、「急変時になんとかできないか」と言う。
 
 
療養病床の減少は救急医療に深刻な影響
 
 
 救命救急センターの出口問題として、他の医療機関に受け入れをお願いする時に、しばしば長期化する局面がある。われわれは、初期・2次・3次という救急医療システムの中で、3次救急を担っているが、一方向の連携が多く、逆はなかなか難しい。

 慢性期医療機関の中には、急性期機能を持っている施設もある。今後、救急医療を維持するためには、そうした機能を持つ慢性期医療機関との連携が欠かせない。慢性期医療機関の後方施設である老健などから直接、救命救急センターに運ばれても元に戻らないので、慢性期医療機関にお願いするしかない。

 救命救急センターと急性期医療機関とのキャッチボールはもちろんできるが、今後は救命救急センターと慢性期医療機関との連携がどうしても必要ではないか。救命救急センターと慢性期医療機関は相互的な関係にある。そのため、療養病床の減少は、救急医療に深刻な影響をもたらすのではないかと思っている。
 
 
■ 勝田登志子氏(認知症の人と家族の会・副代表)
 
 
介護療養病床はとても必要だ
 
 
 今回のように多彩で盛大で、そして現場の声を真摯に発表される学会があることは、孤立感を持っている認知症の人や介護家族にとって非常に励みになり、勇気を持たせる。

勝田登志子氏(認知症の人と家族の会副代表) 「認知症の人と家族の会」の本部は京都にある。1つの県に1つの支部を目指して沖縄支部を準備しており、全国で1万人の会員がいる。厚生労働省は先日、認知症の人が約305万人いると発表したが、これは生活自立度の2以上である。早期に発見し、早期に治療する必要がある自立度1の人を含めれば、500万人をゆうに超えているのではないか。

 私たちは30数年間、「家族介護から社会介護へ」と訴え続けてきた。訴え続けて20年後、ようやく介護保険制度が成立し、とても喜んだ。それから12年、どうなったか。だんだん介護保険が利用しづらく、そして私たちの思いとは少しずつずれているのではないか。そして、利用者負担も増えている。

 認知症があっても1人の人間として豊かに暮らしたい。日常の生活を続けたい。そういう思いの中で、やはり慢性期の病床、介護保険の療養病床はとても必要だと思っている。
 
 
認知症の人はどこへ行ったらいいのか
 
 
 この30年間で家族の形が大きく変わった。男性の介護者がとても増えている。30数年前、この会を立ち上げた時は、嫁の介護をめぐる問題がたくさんあったが、現在では10人に1人ぐらいしか介護していない。同居家族も減っている。30年前は6人以上の家族もあったが、現在では4人以上の家族は2割程度だ。独り暮らしや老々世帯の増加に伴い、介護がとても困難になってきているという現実がある。

 一方、介護保険では「施設から在宅へ」という流れで、地域包括ケアを目指す流れが大きく出されている。確かに、歓迎する部分もある。しかし、こうした家族の変化がある中で、私たちは本当に在宅で診ていけるのか。私たちはとても不安になる。

 例えば、なんとか施設に入所できても、認知症があるので時々不穏な状態になると急きょ入院ということになる。そうすると、入院した途端にやはり拘束される。少し本人の状態が落ち着いても拘束が続けられ、1週間、2週間のうちに完全に寝たきりにさせられてしまう。そして、いよいよ退院となった時、施設の側では「寝たきりの者なら預かりましょう、でもリハビリを望まれるならうちでは受けられません。在宅にお帰りください」と言う。今まで元気に歩いていた認知症の方が、1週間か2週間で寝たきりにされ、「寝たきりなら受け入れるが、リハビリを要求するなら受けない」と言われる。では、認知症の方はどうすればいいのか。まだ60歳そこそこなのに。

 家族は、「これ以上はどうしようもない」と諦めて寝たきりにさせるのか。でも、まだまだ歩けるようだから、何とか頑張って歩けるようにしたいだろう。認知症があっても、元気に過ごしてもらいたいという願いはぜいたくなものなのか。私たちは、認知症の方を受け入れてくれる施設を望むが、残念ながら10件、20件と探しても希望の施設に入ることはできない。

 そうした中で、介護療養型病床があり、そして医療型療養病床がある。認知症があったとしても、やはり病気になる。そういう人はたくさんいる。国は、介護療養病床を6年後に廃止すると言うが、では、認知症の人たちは一体どこへ行ったらいいのか、不安でならない。

 65歳以上の10人に1人が認知症になる。世界保健機関は今年4月、認知症の発症者が毎年770万人ずつ増え続けていると発表した。団塊の世代がすでに後期高齢者になりつつある。そうした状況の中で、「介護療養病床を廃止しても従来と同じ」、「総枠としては変わらない」と言われるが、今後の需要を考えると、相当数がやはり必要ではないか、受け皿が必要ではないかと思っている。
 
 
認知症を正しく理解してもらう動きを
 
 
 最近、働き盛りの若い世代の認知症が増えている。65歳未満で認知症を発症する人は、3万8,000人とも4万人とも言われている。私たちの会への相談事例も急増している。そういう人たちの受け入れ先もほとんどないのが現状だ。認知症サポーターは全国に約350万人いるが、その人たちが本当の意味で支えられるには、まだまだ不十分ではないか。

 若年性認知症の方々は、「認知症という病気があってもやれる事はたくさんある。働きたい」と言う。一方、家族の思いはどうか。介護家族にとって、認知症を公表することはとても勇気が必要だ。私たちは30数年かけて、「認知症を正しく理解してほしい」と言い続けてきたが、やはりまだまだ差別や偏見が強いため、認知症であることを公表できない現状がある。

 日本慢性期医療協会は、「認知症科」の新設を提案している。認知症を正しく理解してもらうための社会的な動きも急速に強めなければいけないと思っている。厚生労働省の「認知症施策検討プロジェクトチーム」が今年6月、「今後の認知症施策の方向性について」という文書を出した。これは私たちにとって非常に嬉しいことだ。今後の5年間の「オレンジプラン」も出された。
 
 
介護療養病床の廃止に反対
 
 
 私たちは、「オレンジプラン」をなんとか成功させたい。その反面、「絵に描いた餅になるのではないか」という不安も持っている。なぜなら、厚生労働省のプロジェクトチームは、「なるべく早期に発見し、早期に医療を提供し、そして良いケアで認知症をなるべく重度化させない」という方針を示しているが、その一方で介護保険制度はどうだろうか。

 財務省の試算によると、「要介護2」までを介護保険から外す方向が数年前から出されているし、今回もまた出されている。この相反する施策の整合性をどこに求めていくのか、私たちはとても懸念している。そういう点で、私たちは、もし介護療養病床がなくなったらどうなるのか、とても不安に思っている。

 「受け皿をしっかり整備する」「在宅へ帰す」と言っても、老々介護や独居世帯が増えている中で、社会の支える力がどれだけ育っているのか。そういう中、私たちは介護療養病床を6年後に廃止することに反対だ。認知症という病気があったとしても、1人の人間として安らかな死を迎えたい。みなさまと一緒に今後も頑張って、そして私たちの声を届けていきたい。
 
 
■ 桑名斉氏(信愛病院理事長)
 
 
なぜ転換が進まないのか
 
 
 介護療養型医療施設を持つ病院の1人としてお話しさせていただく。当院は、緩和ケア病棟(20床)、一般病棟(43床)、介護療養型医療施設(104床)、回復期リハビリ病棟(32床)の計199床で、今後は小規模多機能などに展開しつつある。医療療養病床は持っていない。なぜなら、介護療養病床が制度化された時、「これからの慢性期医療は介護療養型だ」と信じ、それをいまだに信じているからだ。
 
桑名斉氏(信愛病院理事長) まず、療養病床をめぐる経緯と諸活動について述べたい。平成12年に介護保険制度ができて、その翌年に第4次医療法改正で「療養病床」が創設された。ところが、介護療養病床が廃止されるという話になり、「なんとか止めないといけない」と考え、さまざまな運動を始めた。座長の清水先生や上川病院の吉岡先生らが中心になって、「介護療養型医療施設の存続を求める会」を発足し、14万3,297筆の署名を当時の舛添要一厚労大臣に提出したり、国民会議を開いたりした。その後も署名運動を続け、政権が変わったので民主党にも提出した。

 厚生労働省は介護療養病床の老健への転換を進めているが、いわゆる「転換老健」はなかなか進んでいない。なぜ、老健施設への転換が進まないのか、あるいは転換したくないのか。それはやはり、医療的なケアの必要性が高いからだろう。認知症の自立度が低い4や5の患者さんが50%以上なので、無理して介護療養型から転換するとスタッフがつらくなってしまう。身体拘束に依存する可能性がある。

 以前、ある転換老健を見学した。スタッフが「非常に楽になった」と言う。理由を尋ねたら、「経鼻経管栄養を全部胃ろうにしたので、管理しやすくなりました」と答えた。その是非は別として、スタッフが疲弊するために、そういう管理をしなければうまく経営ができない。これも、転換が進まない理由の1つではないか。
 
 
介護療養病床を廃止できるのか
 
 
 もし介護療養病床が廃止されたら、受け皿はあるのか。認知症の高齢化人口は今後も増え続けるというデータがある。そこで問題になるのは、「不適切なケアの流れ」である。自宅からグループホームに移った後、精神科病院に入院させることがある。精神科病院の入院期間は長期化の傾向にあると言われる。

 厚生労働省の「認知症施策検討プロジェクトチーム」の中間報告によると、「適切なケアの提供・家族への支援が不十分なために自宅で生活可能な認知症者が施設や精神科病院を利用せざるを得ない」、「不適切な薬物使用がみられる」、「退院支援や退院後の受け入れ態勢がない」などの問題点を指摘している。

 また、看取りの問題もある。介護療養病床を廃止する理由の1つに、「転換老健は看取りのできる施設だ」ということが言われるが、調査によると看取りができたのは、介護療養で33%であるのに対し、転換老健では13%にすぎない。今後の看取り場所に関する厚生労働省の推計によると、自宅死は1割程度で推移し、大幅には増えない。介護施設もさほど増えない。そうすると、看取り場所のない「その他」約47万人がどこで亡くなるのという問題がある。
 
 2009年の死亡者数(114万人)の死亡場所を見ると、医療機関93万人(80.8%)、介護施設5万人(4.3%)、自宅14万人(12.4%)、その他3万人( 2.4%)となっている。これが2030年になると、医療機関89万人(53.94%)、介護施設9万人(5.45%)、自宅20万人(12.12%)、その他47万人(28.48%)になる。これは国が目指す目標であり、医療機関での死亡8割を5割ちょっとにしましょう、ということだ。 

 しかし、仮に今のままの割合で進むと、2030年の医療機関での死亡80.8%は133万人で、介護施設4.3%は7万人、自宅12.4%が20 万人、その他28.48%は47万人になる。この数値を病床数に置き換えることが妥当とすれば、看取りの病床が40万床不足することになる。しかし、国の推計値である医療機関内死亡率53.94%を当てはめれば89万人であるから、看取りのための病床は4万床(93万-89万)少なくて済む。これは果たして可能か。

 介護施設の必要数について同様の推計をすると、2009年の老健と老人ホームを合わせた介護施設での死亡は5万人であり、同率予測値は7万人になる。しかし、国の推計値では9万人なので、看取りが可能であれば、十分に足りる。

 自宅死亡の予想はどうか。在宅療養支援診療所などの充実で、2009年の14万人から2030年には20万人と見込まれている。しかし、果たしてマンパワーが追い付くのだろうか。在宅医療を一生懸命にやっている先生方はまだまだ少ない。また、訪問看護ステーションはどれだけ増えるのだろうか。
 
 
介護療養病床の機能・役割を示していく
 
 
 重要な課題は、残された47万人がどこで死ねるのかということだ。単純計算では、余剰になる医療機関内死亡の4万人に、増加予定の介護施設4万人を加えた8万人分はまかなえる。しかし、残り39万人の死亡場所は確定していない。ベッドを減らせば病院死が減るが、受け皿がない。介護療養病床を除いた介護施設での看取りは少ない。サービス付き高齢者向け住宅などでは、看取りの枠が少ない。

 従って、解決策は主に3点。まず、現行の介護療養病床をターミナルケア専用の機能をもつ病棟、例えばターミナルケア病棟、終末期医療病棟にすること。次に、介護施設でも看取りを原則可能とすること。そして、地域の医療機関と訪問看護ステーションとの協力で、高齢者住宅を含む在宅死を十分可能にすることである。

 このように考えると、介護療養病床の機能として、「緩和ケア」、「慢性疾患治療」、「認知症ケア」、「リハビリ」、「ターミナルケア」などが挙げられる。日本慢性期医療協会では、「長期急性期病床」30万床、「回復期病床」15万床、「長期慢性期病床」30万床、「障害者病床」10万床──という見通しを示している。このうち、介護療養病床は、「長期慢性期病床」に該当するのではないか。

 介護療養病床の廃止を単に撤廃すればいいのではなく、介護療養病床がどういう機能を持ち、どういう役割を果たしていくのかをきちんと示した上で、介護療養病床の必要性を主張していきたいと思っている。[→ 続きはこちら]
 

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