感染症有事への対応、「柔軟に」 ── 感染症法改正の議論で池端副会長

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池端幸彦副会長_2022年9月8日の医療保険部会

 感染症の流行初期に対応する医療機関の責務や減収補償などを盛り込んだ感染症法の改正案を議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は、有事の対応を平時に定めておく点を指摘し、「想定できない新興感染症が起こることも考えれば柔軟な対応が必要ではないか」と見解を求めた。厚労省の担当者は「柔軟に対応していきたい」と述べた。

 厚労省は9月8日、社会保障審議会(社保審)医療保険部会(部会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第153回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が委員として出席した。

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議事次第

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 この日の主な議題は、①感染症法の改正、②今後のNDB──の2項目。このうち①は前回8月19日の会合に続いて2度目の議論となった。政府の対策本部がまとめた方針を踏まえ、厚労省の担当者が「流行初期医療確保措置」の実施期間などを説明し、委員の意見を聴いた。

 このほか報告事項として、③医療機関や薬局で閲覧できる項目の追加、④令和5年度予算、⑤10月から始まる見直し(後期高齢者の窓口負担、紹介状なしで受診する場合の定額負担)──の3項目がテーマになった。

 池端副会長はこのうち、①②③⑤について意見を述べた。

■ 感染症法の改正について
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 資料1ページ(次の感染症危機に備えた感染症法等の改正)の②では、「都道府県等と医療機関等は、感染症発生・まん延時の具体的な役割・対応等について、あらかじめ、医療機関等の機能を踏まえ協定を締結する」とある。この「あらかじめ」としている改正の趣旨としては、平時において、こういう協定を結ぶ医療機関を選定しておくということだと思う。 
 これについて先ほど猪口委員もおっしゃったように、これからどういうパンデミックを起こすのか、新興感染症が出るかわからない状況で、その時点で、各都道府県で必要十分な病床確保等をこの締結病院だけでできていればいいのだが、それ以外に、例えば急速なまん延によって、その締結された病院だけでは追いつかないとき、しかも必要な補助金や診療報酬などの対応ができていない時期、これが「初期」に当たると思う。 
 その時期に、もし足らなかったら、そこで追加で、この新たな協定を緊急に結んで、そこの医療機関に入っていただく、こういう立て付けも必要ではないかと思っているが、この点について、今回の改正によって、それが認められるのか。あるいは、これはあくまでも平時における締結のみを想定しているのか、それをお聞きしたい。 
 これから想定できない新興感染症が起きることも考えれば、その辺はある程度、柔軟な対応が必要ではないかと思うが、ご意見をお伺いしたい。
 今回の第1波の時、すでに感染症の指定病院があったが、その病院にどんどん押し付け合って、それ以外と対立してしまったことがある。協定を結んだ病院があったとしても、「そこでやればいいじゃないか」ということになり、非協定病院との間で変な押し付け合いになってしまわないように、そういうことを憂いたので質問させていただいた。

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【厚労省保険局保険課・原田朋弘課長】
 今回の感染症の改正では、このたびの新型コロナウイルス感染症の経験を踏まえ、法律上の根拠を位置づけて、平時から協定を結ぶというスキームを改めてつくっていきたいと考えている。 
 猪口先生、池端先生がご指摘したように、次に新型コロナウイルス感染症と類似の感染症の流行があれば当然、こういったスキームで十分対応できるとは思うが、一方で、全く違うような感染症が発生する場合も当然ありうると思っているので、そのあたりは柔軟に対応していきたいと考えている。

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■ 今後のNDBについて
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 NDBと公的データベースの連結については、医療DXを進める意味でも、ぜひ進めていただきたい。全く異論がない。 
 それと関連して、もう1つ大きな公的なデータベースとして国保データベース、いわゆるKDBがある。この利活用も有用ではないかと考える。特に高齢者医療や在宅医療等、各都道府県の地域医療計画を立てる上で、またアウトカム評価をするためにもKDBの利活用が非常に有用だと思う。
 しかし一方で、匿名性を担保することはなかなか難しいということもお聞きしている。困難なことは重々理解している。数年前になるかもしれないが、この医療保険部会でその話をしたときに、国民健康保険中央会の原勝則委員から「困難なこともあるが前向きに検討していきたい」という回答をいただいた。そこで、現状、今後の方向性や進捗状況等がわかれば教えていただきたい。

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【厚労省保険局国民健康保険課・高木有生課長】
 おっしゃるとおり、国保データベースについては、今回の資料でご説明した匿名化したデータとは異なり、被保険者と一対一で健診、医療・介護のデータを取り扱っているデータベースである。 
 そういう意味では、今日ご説明したデータベースというのは、もともと個人の名前をハッシュ化して匿名化し、医療費適正化計画や地域資源の分析などに用いるものであるが、KDBは一対一の情報であり、高齢者の保健事業、介護予防の一体実施といったところで活用されている。
 令和5年度の概算要求でも、そうしたクラウド化によって、さらにデータの活用、拡張性を確保し、利便性の向上を図っていきたいと思っている。 
 今後もそうしたかたちで生涯を通じた健康づくり、重症化予防の取組など、介護関係、国保関係者、医療関係者の協力を得ながら活用に取り組みたいと思っている。

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■ 「全国で医療情報を確認できる仕組みの拡大」の運用開始について
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 医療機関・薬局で閲覧可能な追加項目について質問したい。今回も含めて今後、こうした閲覧可能な情報がどんどん増えていくと思うが、それに対する同意について、それぞれの項目ごとに同意を求めることになるのか、または一括して同意を求めるかたちになるのか。今後の見込みについて、お知らせいただきたい。
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【厚労省医政局・田中彰子参事官】
 今回の診療情報の拡充については、1つひとつではなく、手術以外については一括の同意となっている。 
 今、医療DXについて電子カルテ情報の共有なども議論されている。どのような情報について同意を取るべきか、本当に同意が必要なのかということは、ほかの検討会などでもご指摘をいただいている。 
 今まではレセプトでご本人にお返しする情報を基本的には閲覧可能としていたが、それを越えて、今までご本人に返していないような情報も閲覧の対象となる。その時点で、やはり同意の在り方については再度の検討が必要であるというご指摘をいただいている。やはり、その共有の際には、ご指摘いただいた同意について議論する方向で検討している。

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■ 令和4年10月の制度改正施行に向けた周知・広報等について
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 紹介状なしで受診する場合の定額負担の見直しについて、こういうスキームが始まることは重々理解しているが、私自身は個人的にはあまり納得していないところもある。選定療養で2000円以上を患者さんに請求して、そして、それが控除されることについて、まだまだ患者さんにご理解いただけないことだと思う。
 いろいろとパンフレット等を用意していただいているので、ぜひそれを使っていきたいとは思うが、今後、これによる混乱が起きないかどうか注意深く見て、必要なときには、さらに第2、第3の説明等をしっかりやっていただければと思う。医療機関も頑張るので、よろしくお願いしたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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