「BPSDチームケア加算」は尊厳を損なう名称 ── 新加算の議論で田中常任理事

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20231127_介護給付費分科会

 認知症への対応力を強化するため、現行の「認知症行動・心理症状緊急対応加算」に加え、平時から予防に資する取り組みを評価する「BPSDチームケア加算」の創設が提案された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は「BPSDという表現はマイナスイメージ。尊厳を損なう名称」と変更を求めた。

 厚労省は11月27日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第232回会合を開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。

 令和6年度の介護報酬改定に向け、厚労省は同日の分科会に「認知症への対応力強化(改定の方向性)」と題する資料を提示。その中で、「認知症加算の見直し」など3項目の論点を挙げた。
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01スライド_資料1論点P8目次

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適切な認知症ケアに向けて

 このうち「論点3」については、「BPSDの発現を未然に防ぐ」「BPSD出現時に早期に対応する」との目的を掲げた上で、「適切な認知症ケアに向けて、(中略)新規加算を創設してはどうか」とし、「BPSDチームケア加算Ⅰ」を提案した。名称は「仮称」としている。
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02スライド_P21対応案

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 さらに、対応案では「老健事業で検討している認知症の評価尺度について、更なるエビデンス収集を図り、現場における多様な活用やLIFEにおける活用を検討してはどうか」と提案した。

 単位数・算定要件(案)については、「BPSDの予防に資するケアを実施するための知識・技術を有する一定の研修を修了した者が配置され、認知症(日常生活自立度Ⅱ以上)の利用者に対し、BPSDの予防のためのケア計画に基づくチームケアが継続して実施された場合、1月につき算定する」としている。
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03スライド_P22抜粋1

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評価指標は「BPSDQ25等を想定」

 これらの要件等については注釈が付されており、算定要件の「研修」については、※1~3、「評価指標」は※4、単位数は※5に示されている。
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04スライド_P22抜粋2加算1

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 このうち、同加算Ⅰの要件である「別途国が定める評価指標」については、※4で「NPI-NH、BPSDQ25等を想定」とし、「なお、管理者はBPSDを予防・軽減する体制を構築し尊厳あるケアを提供を行うことを施設方針として明示すること。該当研修や評価については、別途通知等で示す」としている。
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05スライド_P22抜粋3(注釈)

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 田中常任理事は名称変更のほか、研修に関する課題などを指摘した。

【田中志子常任理事の発言要旨】
 論点1、2については賛成する。次に、論点3の21、22ページ。認知症の行動・心理症状への対応についても基本的には賛成である。ご指摘のとおり、BPSDを引き起こさないことが最も重要な認知症ケアであり、広く理解を広める必要がある。
 一方で、「BPSD」という表現自体がマイナスなイメージでもあり、世界的にはこの表現を変えようとする流れも出てきた。名称を「BPSDチームケア加算」とすることが、ご本人たちにとって大変尊厳を損なう名称であると考える。例えば、診療報酬とあわせて、「認知症ケアチーム」や「サポートチーム」などへ変更してはどうかと提案する。
 算定要件に示された研修については、皆さんもおっしゃっているように課題がある。現場には受講している職員が既にいるため、厚労省が医療従事者向けに継続的に実施している、その他の認知症研修等にも拡大してはどうかと提案する。

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好事例の横展開を急ぐ必要性

 このほか、同日の分科会では、災害時の対応や口腔・栄養、身体的拘束、送迎など横断的事項についても論点や対応案などが示された。
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06スライド_資料一覧

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 田中常任理事は資料1「認知症への対応力強化」のほか、資料3・4・6についても見解を示し、身体的拘束については「好事例の横展開を急ぐ必要性について改めて指摘したい」と述べた。田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。

■ 資料3「業務継続に向けた取組の強化等」について
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 8ページの論点①(業務継続計画未策定事業所に対する減算の導入)について。多くの事業所が計画を立ててはいるが、まだまだ小規模事業所では計画策定ができていない。また、コロナ禍において、計画に対してしっかり訓練の上で実のある計画を立て直すことができてこなかった現場の実情を踏まえて、減算延長の必要性について賛成する。
 19ページの論点②「非常災害対策における地域住民との連携の推進」については、「住民を含めた地域全体での取組を促す」としているが、各事業所ならびに地域の負担を鑑み、いくつかの施設と地域との合同活動も同等に認めてはどうかと提案する。

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■ 資料4「LIFE」について
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 入力の手間だけでなく、本人、データのフィードバックの確認に対しても多大な手間が取られていることや、18ページの調査結果にあるように、なかなか理解しにくいという現状を速やかに改善する必要性がある。
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■ 資料6「高齢者虐待の防止、送迎」について
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 9ページの論点①「高齢者虐待防止の推進」については、老健事業でも構わないので、経済的虐待の実態調査を実施していただきたい。それが難しければ普及活動をしてはどうかと提案する。 
 12ページの論点②「 身体的拘束等の適正化の推進」については賛成である。一方で、介護施設でも医療依存度が高く、例えば、介護医療院などでも点滴等の医療処置が増えていることから、身体的拘束廃止に苦労しているというようなデータも出ている。身体的拘束を行いたいケア者はいないので、皆、拘束廃止の仕方がわからないと言えるのではないか。好事例の横展開を急ぐ必要性について改めて指摘したいと思う。
 また、身体的拘束廃止のガイドラインが20年以上前のものであることから、現状の利用者さんの像とアンマッチになってきている。医療における身体的拘束の廃止とも歩調を合わせてガイドラインを見直す必要があるだろう。ガイドラインの見直しについてはコロナ禍で減速していると思うので、改めて促進してはどうかと提案する。
 送迎の取扱いの見直しについては、公共交通機関が衰退している地域においては重要な課題であり、今回の人的、経済的、環境面の全ての提案について賛成するとともに、更なる検討に期待する。
 その上で、責任の所在等について、あまりガチガチに規定をつくってしまうと逆に使いにくい緩和となってしまう可能性もある。そのあたりにも、ご配慮をお願いしたいと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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