「介護助手の活用が有用に機能」 ── 介護給付費分科会で田中常任理事

審議会 役員メッセージ

2023年4月27日の介護給付費分科会

 令和6年度の介護報酬改定に向けて「介護現場の生産性向上」に関する調査結果が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は「介護助手の活用が大変有用に機能している」と評価した上で、「介護助手の活躍可能な業務内容が明示されたことは、これから導入したい施設に大きな示唆を与える」と期待を込めた。

 厚労省は4月27日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・国立社会保障・人口問題研究所所長)の第216回会合をオンライン形式で開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。

 厚労省は同日の会合に「テクノロジー活用等による生産性向上の取組に係る効果検証について」と題する資料を提示。見守り機器や介護助手の活用など4つのテーマに関する効果測定事業の結果を示した上で、「着目すべきデータや、検討に当たって留意すべき点など」について意見を求めた。

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01_P19_【資料1】生産性向上の取組に係る効果検証_2023年4月27日の介護給付費分科会

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「導入費用が高額」などの懸念も

 今回の実証事業のテーマは、①見守り機器等を活用した夜間見守り、②介護ロボットの活用、③介護助手の活用、④介護事業者等からの提案手法──の4項目。

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02_P1_【資料1】生産性向上の取組に係る効果検証_2023年4月27日の介護給付費分科会

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 委員からは「機器の導入により職員にも利用者にもプラスの影響が出ている」と好意的に受け止める意見があった一方で、「導入費用が高額」「ランニングコストがかかる」などの懸念も示された。「人員配置の緩和ありきとならないよう慎重な検討が必要」との意見もあった。

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「生産性」という言葉に不快感

 厳しい意見もあった。鎌田松代委員(認知症の人と家族の会理事)は「生産性の向上とはどういう意味なのか」と疑問を呈し、「生活の場に『生産性』という言葉を使うことは、私たち家族がモノのように見られているような感じで不快感がある」と詰め寄った。

 厚労省老健局高齢者支援課の須藤明彦課長は「介護現場における生産性向上として今、考えていることは、例えば介護ロボット等のテクノロジーを活用して、しっかりと業務の改善や効率化等を進め、職員の業務負担の軽減を図ること」と説明した。
 
 その上で、須藤課長は「業務の改善や効率化によって新たに生み出されるような時間を直接的なサービス、介護ケアの業務に充てていただくことで、利用者さんと職員が接する時間を増やすなど、介護サービスの質の向上にもつなげていただく。こうした介護の現場ならではの生産性向上をしっかり図っていくべき」と理解を求めた。

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説得力が弱く、さらなる検証が必要

 石田路子委員(名古屋学芸大客員教授)は「生産性を向上して就労環境を整えることは大変重要」としながらも、「最終的な目的は利用者に対するケアの質の向上」と強調。Vitality index(意欲の指標)の変化に言及した上で、「もう少し詳しい分析や追加調査が必要」と指摘した。

 小林司委員(連合・生活福祉局長)は「定量的データと定性的なものをどのように捉えていくのか。今後、しっかりした検討が必要」とし、「施設によってばらつきが見られる」「サービス類型によって差がある」「サンプル数が少ない」などの課題を挙げた。

 田中常任理事は「n数が1桁といった実証データは説得力が弱く、さらなる検証が必要」と指摘。堀田聰子委員(慶大大学院教授)は「今回のデータだけで何かモノを言うには時期尚早」と苦言を呈した。

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公的な事業としては不適切

 江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「全体的な印象として、実証に値する研究計画の質の向上が課題」とし、「田中委員からも意見があった n数の問題もあるし、アウトカムの設定の問題もある。業者に偏りも見られる」と指摘した。

 その上で、江澤委員は「しっかりとしたプロトコールを作成して、そのもとでしっかり質の担保された研究事業を行っていく必要がある」と主張。勤務体系などの基本情報が不足している点や、使用されたアセスメントツールに対応するデータが掲載されていない点を挙げ、「公的な事業としては不適切」とし、「今後は広く公募のもと、質の高い研究を採択することが重要」と述べた。

 最後に江澤委員は「介護の『生産性』とは何なのか。介護に『生産性』という言葉がそもそもなじむのか」と問いかけた。「介護は人が人に濃厚なサービスを提供する心の通い合う究極のサービス業。物を作る仕事ではない」とし、「介護保険の2大目的である尊厳の保持と自立支援、ここだけは決してわれわれの現場では譲れない」と締めくくった。

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今後も細く長い支援を

 この日の会合では、コロナ対応の臨時的な取扱いも議題となった。厚労省は同日の会合に対応案を提示。一部を除いて「これまでの臨時的な取扱いを当面の間継続する」との方針を示し、了承を得た。

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03【資料2】臨時的な取扱い_2023年4月27日の介護給付費分科会_ページ_3

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 田中常任理事は現場の厳しい状況を伝えた上で、「今後も細く長い支援をいただかないと、数年後に事業を諦める施設が続出する」と警鐘を鳴らし、継続した支援の必要性を訴えた。田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。

■ 令和4年度実証事業の結果について
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 今回の実証データ全般を評価するにあたり、意見を2つ述べる。今回の実証データ全般を評価するにあたって実証する機械の選定方法、機器の種類の少なさ、参加施設や参加利用者ならびに職員、家族数の少なさが心配である。ビッグデータでモノを見ようという時代に、 n数が1桁といった実証データは、症例報告のような個別性が高いものであって、広く普及するには説得力が弱く、さらなる検証が必要だと思う。担当課におかれては実証の透明性、普遍性、公平性に基づく検証をお願いしたい。
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■ 介護助手の活用に関する実証結果について
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 一方で、介護助手の活用については、実際、利活用している現場の立場から、先ほど東委員のご発言にもあったが、大変有用に機能していると考えている。
 介護助手さんを導入できていない事業所においては、その仕事の切り分け方がなかなかイメージできないのではないかと推測しており、そんな中で、10ページ右下の表にあるような介護助手さんの活躍可能な業務内容を明示されたことは、これから導入したい施設に大きな示唆を与えることと考えられる。

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■ 臨時的な取扱いの対応案について
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 方針について賛成しつつ、コロナ感染下にあっては、その感染力の高さから職員が次々と感染していったという経験をしている。感染対策をすればかからないというものではないので、どうしても欠勤せざるを得ない職員が多い。感染した子供の世話に当たる職員の数も多く、引き続きの配慮をお願いしたい。
 また、欠勤する職員が多いために穴埋めを要求すると、代理で出勤できる職員に負担がかかりすぎるので、地域クラスター、事業所クラスターといった感染拡大時の人員緩和を視野に入れた検討を続けていただきたい。
 さらに、基準のみならず、少し余談にはなるが、感染対策費用について、全てとは言わないが、引き続きの支援をお願いしたい。これらは今後も減少できるものではなく、給付の中から支払うことになる。人件費をできる限りスタッフに分配しながら、物価高騰の中で諸費用を用立てることはボディーブローのように各施設に響いている。今後も細く長い支援をいただかないと、数年後に事業を諦める施設が続出することを危惧している。高齢化と反比例して、高齢者施設が減少することがないようにしなければいけないと考えている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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