介護施設のクラスターで厳しい状況 ── 武久会長、「臨時の介護報酬を」

会長メッセージ 協会の活動等

武久洋三会長_2021年2月18日の記者会見

 日本慢性期医療協会は2月18日の定例記者会見で、介護施設で発生したクラスターによる損失が最大で約3,500万円に上るなどの調査結果を発表した。会見で武久洋三会長は「介護施設に臨時の介護報酬の単位を十分に付けていただき、損失に見合う以上のサポートをいただかないと厳しい状況」と訴えた。

 2020年4月以降にクラスターが発生した当会会員の介護施設を対象に実施した調査によると、発生後1か月半程度で終息したものの、クラスター発生により必要となった経費は最大3,500万円で、入所者の受け入れ停止などによる収入減を含めると約9,000万円の損失となる施設もあった。

 武久会長は「純損失に加え、入所者の受け入れ停止が解除された後も地域の風評、噂などにより空床が続き、大きな減収となっている」と現状を伝え、経営の安定化に向けた支援を求めた。

 武久会長はまた、「介護施設には医師が24時間常駐しているわけではない」と指摘。施設内でクラスターが発生した場合に、近隣の医療機関から診療スタッフや感染対策チームが介入できるような支援も必要であるとした。

 この日の会見は、前回と同様にWEB会議システムを用いて開催。司会を矢野諭副会長が務め、武久会長が介護保設のクラスター発生状況などを説明した。

 会見の模様は以下のとおり。資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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良い日本の医療を取り戻す

[矢野諭副会長]
 ただいまから定例記者会見を開催する。では早速だが武久会長、よろしくお願いしたい。
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[武久洋三会長]
 南国では雪が積もっている。今年最後の寒さではないか。病院も非常に寒い状態だが、幸いコロナの患者さんもだいぶ減ってきてワクチン接種も始まった。

 2通りのワクチンがなんとか行き渡って収束に向かってほしい。イギリスもかなり減ってきたようであるし、日本でも秋にはコロナ禍が落ち着いていればいいと期待している。

 このコロナ禍は病院業界にも大きな影響を与えている。日本慢性期医療協会の会員病院にも、いろいろな影響が出ている。本日はそうした状況も含めてお話ししたい。

 当会の常任理事会が先ほど終わった。コロナに対応した各病院の運営状況などを聞くと、大変な状況である。

 一方、令和3年度の介護報酬改定については、1月18日に単位数などが発表された。この改定に対し、どういうスタンスで臨むか。また、来年度の診療報酬はどうなるかという課題もある。

 日本政府はコロナのためにお金をたくさん使っている。今後、どれぐらいかかるか分からない。オリンピックを開催するとしたら、さらにどれだけかかるか。

 そうした中で、今回の介護報酬改定でプラス0.7%は厚労省もよくやってくれたと思うが、来年の診療報酬は期待しないほうがいいだろう。

 今回の介護報酬改定も来年の診療報酬改定もそうだが、最近は全て「加算行政」と言うか、「これとこれをやったら余分にお金をあげるよ」というスタンスがはっきりしている。その加算を取れば優秀な病院へと動いていけるよ、という道筋を示してくれるが、現状は厳しい。

 この記者会見も最近はWEB会議となっている。コロナ以前は、皆さんの顔を見ながら話して、皆さんの顔色も見えていたが、今はそういうわけにもいかない。

 まだしばらくこういう状況が続くと思うが、なんとか早くコロナを制圧して、良い日本の医療を取り戻すために日本慢性期医療協会も頑張りたいと思うので、よろしくお願い申し上げる。
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02_【資料】2021年2月18日の定例記者会見

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介護施設で発生すると厳しい

 それでは、資料を見ていただきたい。本日の記者会見の概要は資料2ページ。

 まず、病院に併設している介護保険施設に焦点を当てたい。われわれの会員の介護保険施設におけるクラスター発生について。

 次に、一般病床と療養病床での新型コロナウイルス感染者受け入れに対する評価の差について。図らずもはっきりしてきたが、一般病床と療養病床との間で受入評価に差が出てきたことについても述べたい。

 会員病院が運営している介護保険施設は、把握している範囲で老健が686件、特養が360件である。
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04_【資料】2021年2月18日の定例記者会見

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 病院に併設している特養や老健、通所事業所などでも感染防止対策を行わなければならない。

 この資料は、実は昨年3月13日の定例記者会見の資料である。昨年3月の時点で、日慢協としては、コロナは大変なことになるという危機意識を持っていた。病院だけでなく介護施設も困ったことになるという意識があった。

 介護施設などで感染者が出ると、コントロールが困難である。これは今までの経験で明らかである。そのため、防御意識や危機意識を強く持ってほしいと考え、提携病院の医師は、可能なら1度現場へ出向いて指導することを検討してほしいと伝えた。

 すなわち、病院ではなく介護施設が危ない。医療のウエイトが少ないので注意すべきであると、すでに1年前に言っている。
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05_【資料】2021年2月18日の定例記者会見

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 緊急事態宣言で夜8時以降の外出が禁止された。これにより、陽性者数は東京でも500名以下になっているが、300~500人から大きく下がる状況にはない。ワクチンを接種してから1カ月後の経過を見る必要がある。

 全国のクラスター発生状況をまとめた。あまり知られていないデータではないかと思う。
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06_【資料】2021年2月18日の定例記者会見

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 同一の場で2名以上の感染者が出ている集団感染等の件数は、2月15日時点で5104件となっている。

 これを見ていただくと分かるように、最も割合が多いのが高齢者福祉施設(19.93%)。障害者福祉施設(2.41%)、児童福祉施設(4.31%)を加えると、なんと25%にもなる。隘路としては目立たないようだが、少しでも発生すると厳しい環境であることが分かる。
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クラスターで9,000万円の損失も

 日慢協では、2020年4月以降にクラスターが発生した老健や特養、介護医療院などの介護保険施設を対象にアンケート調査を実施した。

 その結果、クラスター発生の報告があったのは9施設で、その施設種別は、老健6施設、介護医療院2施設、デイサービス1施設であった。

 陽性者発生後、8施設の陽性者は保健所から紹介された医療機関へ入院し、1施設の陽性者は関連病院へ入院していた。なお、3施設では一部の陽性者を自施設で診ていた。45人の陽性者のうち、32人を自施設で診ていた施設もあった。

 職員の陽性者・濃厚接触者は、看護・介護職員がほとんどであり、職員不足のため、関連する介護事業所、医療機関から補充されていた。

 いずれも発生から1か月半程度で終息していた。クラスター発生により必要となった経費は、最大3,500万円、入所者の受け入れ停止などによる収入減を含めると、約9,000万円の損失となった施設もあった。

 純損失に加え、入所者の受け入れ停止が解除された後も地域の風評、噂などにより空床が続き、大きな減収となっている。

 なお、クラスターが発生したが未回答の施設もあると思われる。
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スムーズに実施されない支援策

 介護施設等でクラスターが発生した場合の支援策について、厚生労働省は令和3年1月14日付けで事務連絡を発出した。

 この事務連絡「病床ひっ迫時における高齢者施設での施設内感染発生時の留意点等について」では、感染者が発生した施設等への支援として、以下の事業等を活用することとしている。

 すなわち、感染者発生時の医療従事者や感染管理専門家などの派遣として、保健所や自治体、地域の医療機関等を通じた専門家派遣、相談・支援体制確保。また、DMATやDPATなどの医療チームをクラスター発生施設へ派遣する際の支援のほか、都道府県看護協会からクラスター発生施設へ感染管理認定看護師等を派遣する費用の支援もある。しかし、こうした支援は十分ではなかったように思う。

 また、感染者発生時の応援職員派遣として、新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所等に対するサービス継続支援事業、さらに社会福祉施設等への応援職員派遣支援事業、各都道府県で構築している応援体制の活用などがあるが、スムーズに実施されていない。
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クラスター発生後の資金援助はあるが

 クラスターが発生した後の支援策については、「新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所等に対するサービス継続支援事業」がある。先ほどの支援策はマンパワーの補充だったが、これは資金的な補充である。

 すなわち、介護サービス事業所等において新型コロナウイルス感染者が発生した場合に、「かかり増し経費」として、消毒費用、人員確保・手当等の人件費、旅費・宿泊費などの支援が認められている。

 特養・老健では1名あたり38,000円、介護医療院では48,000円。老健・特養は100ベッドで380万である。

 介護サービス事業所等との連携支援事業では、特養・老健で1名あたり19,000円、介護医療院で24,000円となっている。

 このほか、新型コロナウイルス感染症に係る介護サービス事業所等に対するサービス継続の支援事業として、数10万円単位で項目別に少しずつ支援してくれるという制度もある。
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介護施設内での医療への評価が必要

 介護施設等で最初の感染者が判明した時には、すでに施設内クラスターが発生している可能性が高い。そして入所者だけでなく職員にも感染が及ぶ可能性が高い。

 感染した職員だけでなく、濃厚接触者も最低2週間は業務に就くことができなくなる。先に述べた国の支援策では、施設内クラスター発生時の人手不足に対して迅速な対応ができるとは言い難い。特に、単独施設では運営の継続が困難となる場合がある。

 また、介護施設内で感染者を診る場合に行う診療行為に対する評価が十分ではない。病院で感染者を診る場合には診療報酬上の手当てがあるが、介護施設内で感染者を診る場合には診療行為に対する評価をしていただけない。

 厚生労働省は令和3年1月14日付けの事務連絡で、「病床ひっ迫時における高齢者施設での施設内感染発生時の留意点等について」を発出した。

 それによると、介護保険施設に対し、病床ひっ迫時には「施設内での入所継続」および「入所継続中のモニタリングや医療への迅速なアクセスを可能とする体制整備」などを求めている。

 しかし、「新型コロナウィルス陽性患者」を診療する医療施設に適用されている診療報酬による評価と同様の評価が介護報酬では一切行われていない。

 こうした中、2日前の2月16日には、新型コロナウイルス感染症の退院基準を満たした「ポストコロナ患者」を受け入れた場合について、介護報酬上、特例的な評価として退所前連携加算(500単位)を30日間算定できることが決まった。
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介護施設への補填が十分ではない

 医療と介護の連携が欠かせない。介護施設には医師が24時間常駐しているわけではない。最初の感染者が判明した時点で、近隣の医療機関から感染対策チームが早期に介入し、徹底したゾーニングやPPEの装着・細菌防御の指導など、感染拡大防止を行ってもらわなければならない。

 施設内でクラスターが発生した場合、無症状や軽症の患者を施設内で診るためには、近隣医療機関から医師をはじめとする診療スタッフ、感染対策チームの介入が必須である。近隣の医療機関から介護施設へ介入できるように十分な支援を行ってほしい。

 日慢協の会員の施設は病院と関連している場合が多く、病院の併設施設として介護保険施設がある。そのため、親病院が支援することにより周辺の医療機関にご迷惑をかけることが少なかったということはある。

 介護施設においてもコロナ発生に対する十分な補填を行い、運営の安定化に努めてほしい。訪問介護や訪問看護、通所サービスなどについても、入所と同じような補填が十分に行われていない。
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コロナ対応の評価、一般病床と療養病床に差

 厚生労働省は令和3年1月13日付けで事務連絡を発出した。この臨時的な取扱いでは、コロナ患者の受け入れ病床として都道府県から割り当てられた療養病床に入院させた場合、一般病床とみなして、一般病棟入院基本料のうち最も安い特別入院基本料の算定が認められた。

 療養病床にコロナ患者が入院してくる状況下において、今までは一般病床だけを対象としていたが、1月13日の事務連絡の発出により、療養病床への対応も発表された。

 そこで、療養病床を有する病院でクラスターが発生した時に、自院で軽症・中等症の患者を診るために、都道府県に受け入れ病床としての割り当てを申請したところ、今後、継続的にコロナ患者を受け入れることを要請された例がある。

 すなわち、「今後はあなたの病院の患者だけではなく、他の病院からもコロナ患者を『一般病床』として受け入れてほしい」と要請されたという。

しかし、病院によっては病床数が少なかったり病床に空きがなかったりするため、現実には受け入れられない場合がほとんどだった。該当する病院は非常に苦労している。

医師や看護師などの数が限られている中で、他の病院から5床、10床で受け入れ、「コロナ受入病床」としての役割を果たしていくのは非常に困難な状況である。500床もあるような公立病院でベッドが50床ぐらい空いているのに、コロナ対応の病床は10床しか申請していないような病院もまだ全国にあると思われる。

 損失を税金で補填してくれる病院と、損失を出せば直ちに潰れる民間病院との差は大きいものがある。とはいえ、民間病院としても、できる限りの対応はさせていただきたいと思っている。

 現在、「都道府県による受け入れ確保病床」の報酬は、一般病床であれば4,709点だが、療養病床の場合には4,007点と低く設定されている。
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18_【資料】2021年2月18日の定例記者会見

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一般病床と療養病床、統一すべき

 厚労省はいまだに一般病床と療養病床を差別し、一般病床でなければ患者を治療できないと思っているのだろうか。今の療養病床は医療区分2・3が80%以上の重症患者を治療している。10年前とは様変わりしていることを厚労省は無視していると思われる。

 日慢協の会員病院は、病床がすべて療養病床という病院はむしろ少ない。慢性期の多機能病院として、地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟を持ち、介護保険施設を併設していることが多い。地域包括ケア病棟と回復期リハビリ病棟は療養病床でも運営可能であり、一般病床の同病棟と変わらず、13対1の看護配置で鋭意、治療に集中している。

 ところが、図らずも今回の新型コロナ対応について、大きな差別を受けている。真面目にコロナ対応に協力しようとする慢性期多機能病院の意欲が評価されていない。私たち日慢協の会員病院は、新型コロナ対応に積極的に関与し、主にポストコロナ患者を受け入れているし、一部の急性発症についても地域医療を果たしている。

 2001年に、これまで病院病床が同一であった状況から、一般病床と療養病床に分かれた。現在、療養病床の看護体制は20対1であり、7対1から15対1は一般病床であるが、そろそろ病床を統一するべき時代が来ていると思う。
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栄養や水分を補充していたのか

 昨年の秋頃にテレビを見ていたら、コロナに感染してECMOという機械を装着していて意識がなかった重症患者が快方に向かったというニュースがあった。

 しかし、最後に「体重は1カ月で20キロも減っていた」と言った。

 20キロと言うと、体重60キロの人が40キロになるということである。2日で1.5キロ減る。ということは、きちんと栄養を補給してくれていたのか、ほとんどできていなかったのではないかという疑いもある。まだ若かったので、なんとか回復したのだろうと思うが、そういう状況である。

 今年に入り、急性期病院からの紹介でポストコロナ患者が慢性期病院に多く入院している。ある病院では、1月から9例の入院がある。調べたところ、急性期病院からの入院であるが、9症例中1症例を除く8症例は、栄養状態の指標であるアルブミン値が極端に低い値を示していた。
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28_【資料】2021年2月18日の定例記者会見

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 一番上の患者さんは、黄色い所(アルブミン)が4.0と正常だが、その他の患者さんは一番低い2.3から3.3ぐらいまで、栄養状態が非常に悪い状況であった。そのほかにも尿素窒素のデータが悪かったり貧血があったり血糖値が高かったり、いろいろな患者さんがいた。

 皆さんもご存知のように、人間が生きていくためには1日のカロリーは1100キロカロリー、水分も1200ミリリットルは必要で、高齢者でも普通に生活していればこのぐらいは必要である。
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29_【資料】2021年2月18日の定例記者会見

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 29ページを見ていただくと分かるように、静かに寝ている場合には、いわゆる基礎代謝的に言うとエネルギーは1100キロカロリー、水分も1100から1200ミリリットルは必要である。

 ところが、39度の発熱があると、なんと1.5倍以上のカロリーが必要だということが分かる。発熱によってカロリーが消費されてしまうからである。水分も同じように1.5倍が必要になる。こういうことを分かっているのだろうか。熱が高い時に栄養や水分をきちんと補充していたのか、非常に心配になる。
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臨時の介護報酬などの対応を

 日本慢性期医療協会の会員病院では、ポストコロナ患者を積極的に受け入れるように努力している。介護保険施設におけるクラスター発生時の初期対応等、積極的に対応していく所存である。

 公立・公的急性期病院で新型コロナウイルス感染症患者の受け入れが少ない病院は、急性期治療病院として、どんどん受け入れるべきではないだろうか。
 
 2週間以上経った場合には、状態がどうであれ、慢性期医療の現場に送っていただきたい。高齢者の治療に習熟している病院に送っていただければ、栄養や水分等についての対応もきちんとしながらリハビリテーションを中心として回復させるべく努力をさせていただくので、よろしくお願いしたい。

 会員病院の多くは、老健や特養を病院に併設している。本日のような発表を他の介護系団体がしているかは分からないが、そうした介護系団体の会員施設でもクラスターが発生していると思う。

 日本慢性期医療協会としては、介護保険施設にもコロナに対する臨時の介護報酬の単位を十分に付けていただきたいと考えている。損失に見合う以上のサポートをいただくなど、なんらかの対応をしていただかないと、さらに厳しい状況に陥ってしまう。

 入所・通所・訪問などの介護保険サービスで非常に大きな損失を被っている所があるので、なんとか協力していただいて、事業所が健全に運営できるようにしていただけるとありがたい。

 本日の記者会見の内容は以上である。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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