「療養病床の制度を廃止しませんか!」 ── 定例会見で武久会長が提案

会長メッセージ 協会の活動等

武久洋三会長_2021年11月11日の記者会見

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は11月11日の定例記者会見で、「療養病床の制度を廃止しませんか!」と題して見解を述べた。武久会長は、現在の療養病床は「慢性期重症治療病床」であるとし、「超重症患者治療加算」を新設すべきと提案した。

 会見で武久会長は、一般病床と療養病床との間の格差が次第に是正されてきた状況を説明。現在では、療養病棟入院料1で医療区分2・3の患者を90%以上受け入れていることを伝え、「超重症患者が多くを占めている。昔のような単なる療養のために長期入院されている状況と全く異なる」と強調した。

 一方、急性期病院での対応に問題がある点を指摘し、「急性期病棟の改革が喫緊の課題」との認識を示した。その上で、急性期病棟に介護職員やリハビリスタッフを配置する「基準介護」や「基準リハビリ」の新設を改めて提案した。

 この日の会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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療養病床は全く変わった

[矢野諭副会長]
 定刻になったので、ただいまより日本慢性期医療協会の定例記者会見を開催する。武久会長、よろしくお願いしたい。
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[武久洋三会長]
 コロナが少し落ち着いてきたということで、今日、私は東京の日慢協事務局に来ているが、皆さん方も少し動けるようになったかと思う。そのうち、皆さんの顔を見ながら記者会見をしたいと思っている。

 今回は、療養病床の制度を廃止してはどうかと提案したい。皆さん、驚かれるかと思うが、説明をお聞きになれば納得していただけることと思う。今、療養病床は、「療養」というイメージの病床ではなくなった。現在の実態は、「慢性期重症治療病床」と呼ばれるべきものだ。どういうことか、お話ししたいと思う。

 2006年、医療区分とADL区分による患者分類を用いた慢性期医療分類の包括評価が施行された。2010年には医療区分2・3の割合が80%以上で、療養病棟入院基本料1と定められた。

 医療区分は1・2・3とあって、医療区分3が一番重い。そして2018年、看護職員配置20対1以上を要件とした療養病棟入院基本料に一本化され、療養病棟入院料1は医療区分2・3の患者が80%以上、同じく療養病棟入院料2は50%以上と定められた。

 日慢協の調べでは、療養病棟入院基本料1では医療区分2・3の患者を90%以上受け入れているのが現状。条件は8割以上となっているが、実質は90%以上である。場合によっては、95%以上の病院さえある。つまり、重症で亡くなる寸前の方をたくさん抱えている状況であり、単なる療養などというイメージでは全くない。昔は療養病床は長く入院するところ、住んでいるかのように言われたが、そのイメージは全く変わった。
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現状に合っていない

 2014年、病床機能報告制度ができた。医療機能は、「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」となっている。このうち慢性期機能の内容を見ると、長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能と、もう1つ、長期にわたり療養が必要な重度の障害者を入院させる機能とある。

 しかし、この機能の定義は現状とまったく一致していない。「障害者」というのは、後遺症である。つまり、過去に何かがあり、その後遺症として障害者になった。多くの医療ケアを必要としていない患者は新しくできた介護医療院に移っており、実際、療養病床には重症者しかいない。

 ところが、現在も療養病床では65歳以上の入院患者に対して介護施設と同じように居住費1日370円を患者負担としている。これに対し、一般・精神病床入院患者および65歳未満の患者の負担はない。慢性期重症患者の治療を専門とする病床となっている現状に合っていない。こうした制度の不整合を、正すことを検討していただきたい。

 地域包括ケア病棟や回復期リハビリ病棟は、療養病床からも一般病床からも届出ができる。同じ病床機能であるにもかかわらず、療養病床であれば居住費を負担しなければならない。居住費のイメージとして、一般病床の回復期リハビリ病棟および地域包括ケア病棟では自己負担が食事療養費だけだが、療養病床の回復期リハビリ病棟と地域包括ケア病棟では食事療養費以外に光熱水費という居住費が自己負担になる。1カ月の合計では、1万円近い負担額の差が出る。
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「慢性期重症治療病床」に名称変更を

 1994年、入院時食事療養費制度が導入された。その後、2005年に介護保険制度においても食費・居住費の見直しがされた。2006年には、入院時生活費療養費制度が導入された。その際、「一方、療養病床については、介護病床と同様に『住まい』としての機能を有していることに着目し、介護保険における食費・居住費の見直しを踏まえ、介護施設において通常本人や家族が負担している食費及び居住費を自己負担化」するとしている。

 また、医療区分1は入院医療の必要性が低いということで、いわゆる社会的入院として、介護として対応することが可能であるということから、医療区分1に限定して、最初は居住費の負担を求めていた。

 それが2015年6月30日に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針2015(骨太の改革2015)において、医療・介護を通じた居住に係る費用負担の公平性について検討を行うことが盛り込まれた。

医療区分1の65歳以上の方における居住費負担について、当時は320円であったが、介護保険施設の居住費負担が2015年4月から370円に引き上げられたことを受け、介護保険施設と整合性を図るべきとの理由から、2017年10月より、医療区分1の65歳以上の患者についても居住費負担額が370円に引き上げられた。

 さらに、医療区分2・3患者における居住費負担についても医療保険部会で議論が行われた。当時、委員として私も参加しており、多くの診療側委員が医療の必要性の高い医療区分2・3患者に居住費負担を求めるべきではないと訴えた。

 私は、慢性期治療病棟以外の療養病床が介護医療院へ移行することを見据え、2018年度以降に検討すべきではないかと提案したが、2017年10月から医療区分1患者の居住費負担額の値上げとともに医療区分2・3患者への負担が義務付けられた。

 こんなばかな話はないが、強引に推し進められた。激変緩和のため、2017年10月から2018年3月までの半年間は医療区分2・3の患者の居住費負担は1日200円とされたが、2018年4月からは医療区分1同様、370円となった。

 今の医療療養病床は介護保険施設と同じ「住まい」と厚労省は見ているが、医療療養病床は現在、慢性期重症治療病床である。介護保険施設とは、入所の患者の状況が全く異なる。決して療養の場ではなく、治療の場である。昔の療養病床機能については、介護医療院に引き継がれている。療養病床という実態に合わない名称から、実態に沿った「慢性期重症治療病床」へ名称変更すべきである。
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療養病床を責めるのはおかしい

 一般病床にのみ認められていた特定除外制度が、2014年に完全撤廃された。特定除外制度とは、重症の患者を何年でも急性期病床に入院させておける制度であった。特定除外項目に入る患者については12項目定められていたが、重症度、医療・看護必要度2に該当する、かなりの重症患者である。

 この制度が2014年に完全撤廃されたことにより、一般病床に長く入院している重症患者はほとんど全て、療養病床に移されてしまった。その結果、療養病床の死亡退院割合が非常に増え、50%にもなった。亡くなる可能性の高い人をどんどんと療養病床に入れたわけである。にもかかわらず、半分の患者が亡くなるとは何事か、というように療養病床を責め立てるとは全くおかしい理屈である。

 とはいえ、厚生労働省も一般病床と療養病床との差を明らかにつけていた昔に比べ、だんだんと療養病床のレベルが上がり、重症患者を診ているということを認識はされているようで、入院基本料等加算の見直しが行われている。

 2006年に超重症、準超重症患者の加算が一般では4000円あったが、療養では不可であった。6年後の2012年からは、療養病床でも算定できるようになった。また総合評価加算は2008年新設だが、もともとは一般だけであったのが、2012年、療養病床でも加算できるようになった。医師事務作業補助体制加算についても同様に、2016年に療養病床でも算定できるようになった。栄養サポートチーム加算、DPCのデータ提出加算も2012年、2014年に療養病床でも算定できるようになった。

 評価していただいていることは承知しているが、現在の療養病棟入院料1の入院患者の多くは、死亡する可能性の高い重症患者である。これらの患者を治療することによって、その半数を治して軽快退院させている実績は、正当に評価されるべきではないか。亡くなる前に放っておく病院は、どこにもない。死亡する割合が高いということは、死亡割合が低い病棟と比較にならないくらいの医療を提供しているということだ。
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急性期病棟の改革が喫緊の課題

 亡くなる前の患者にどのような医療を行っているか。2016年と2021年の比較を示した。中心静脈栄養の管理、注射、レスピレーター(人工呼吸器)、また酸素療法、経管栄養やモニター測定、褥瘡の措置や喀痰吸引など、非常に多くの医療を提供している。回診も1日何回も行い、看護師や介護職員も非常に手間がかかっている。

 療養病床は以前のような「療養」というイメージではなくなったのだから、療養病床という名前をやめてはどうか。療養病床制度を変更し、慢性期超重症病棟としていただきたい。厚労省から重症の患者を受け、医療区分2・3を8割、できれば9割入れるようにという方向性が示され、そのとおりにしてきた。慢性期重症治療病棟には、「超重症患者治療加算」を新設していただけるとありがたい。

 高齢患者が急性期病棟にも増えている。急性期病院では介護ケアがほとんどなく、看護師の基準看護しかない。高齢者が大学病院でも7割以上になっているにもかかわらず、残念ながら介護のケアがないために、夜中にトイレに行く必要のある人、少し認知症状のある人は行動を抑制されてしまう。身体拘束をされたり、膀胱に管を入れられたりすると動けない。その結果、1カ月の入院で寝たきりになってしまう。

 臓器別専門医は急性期メインで治療をしているが、自分の専門領域の主病名の治療に集中した結果、高齢患者の低栄養や脱水を引き起こしている。しかもこれらの病態に対して、自分たちの治療がもたらしたものだと自覚していないようだ。慢性期の重症患者をつくり出している急性期病棟の改革が喫緊の課題である。それができると要介護者が減り、慢性期に来る患者が減り、介護保険の対象者も減っていくということは、患者にとってもいいことである。
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良質な慢性期医療を提供している

 急性期病棟での介護職員を、40床に10人の割合で配置すべきである。また、「基準リハビリ」として、PT・OTも40床の急性期病棟に10人配置する。そうすれば、1人ずつ夜勤ができる。看護師の夜勤2人、介護職員、リハビリのスタッフがいれば、夜中にトイレに行きたい患者を誘導でき、リハビリもできる。介護もできる。その結果、看護師は看護に専念することができ、患者の悪化を防ぐことができる。

 夜勤を増やすことで大きな成果を上げている病院がたくさんある。ぜひ急性期病棟にも介護やリハビリのスタッフを入れていただき、急性期でつくられる要介護者を減らしていただきたい。

 良質な慢性期医療を提供している日本慢性期医療協会として、以上のようなことを、ぜひともお願いしたい。

 急性期の後は、全て慢性期である。きちんと対応して日常に帰すことが、われわれの仕事だと思っている。われわれ日本慢性期医療協会は、きちんとした医療、看護、介護、リハビリを提供し、できるだけ多くの方に短期間で日常生活に戻っていただけるよう、これからも努めていく。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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