「生活ショート」の機能分化を ── 次期介護報酬改定に向け、武久会長

日本慢性期医療協会の武久洋三会長は10月15日、令和3年度介護報酬改定に向けて審議した厚生労働省の会議で、特別養護老人ホームなどのショートステイ(生活ショート)が「本入所のための待機目的で利用されている」と指摘した上で、「本来のショートの機能と分けたほうがいい」と提案した。
厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第188回会合をオンライン形式で開催し、前回に引き続き次期改定に向けた検討を進めた。
この日のテーマは、主に7項目。①通所介護・認知症対応型通所介護、②療養通所介護、③通所リハビリテーション、④短期入所生活介護、⑤短期入所療養介護、⑥福祉用具・住宅改修、⑦福祉用具貸与価格の上限設定の見直し等──の各サービスについて、これまでの主な意見を紹介した上で論点を示した。
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サービスの類似性の観点
このうち、短期入所(ショートステイ)に関する④と⑤については、「サービスの類似性の観点」を挙げた。
具体的には、老人保健施設などで提供されるショートステイ(療養ショート)について「基本サービス費を見直すことを検討してはどうか」と引下げを示唆した。
また、「緊急短期入所受入加算」の統一も提案。療養ショートで緊急に受け入れる場合の上限日数「7日」について、生活ショートとの均衡を考慮して「家族の疾病等やむを得ない事情がある場合には14日を限度」に見直す方針を示した。
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医療ニーズある人の受入促進
一方、機能分化を進めるための論点も提示。老健などの療養ショートについて、「医療ニーズのある利用者の受入を促進する観点」などを挙げ、医師の総合的な医学管理を評価する方針を示した。
質疑で東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「今後、老健が在宅支援をする上で、老健の医療機能をできるだけ使って医療提供しながらショートを使うことが増加すれば、安易に病院に入院するのではなく、より在宅支援がやりやすくなる」と賛同し、「非常に有用な方法だ」と評価した。
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今後、どうしていくのか
武久会長は、特養などで提供される生活ショートについて「本入所が一杯で入れないために生活ショートでウェイティングしている。これは本来のショートの目的からずれている」と苦言を呈し、「ウェイティングのベッドと本来のショートのベッドを2つの機能で分けたほうがいいのではないか」と提案した。
また、療養ショートとの関係にも言及した上で「今後、これらを制度的にどうしていくのか」と見解を求めた。
厚労省老健局老人保健課の眞鍋馨課長は、待機目的の生活ショートについて「やむを得ない利用の仕方の一類型」としながらも、「本来の主目的は在宅での療養を支えることで、そういう本来の目的や趣旨が発揮されるように誘導していくべき」との認識を示した。
その上で、療養ショートについては「医療ニーズのある方々を受け入れて、その生活を支える」とし、生活ショートについては「そこまで医療ニーズは必要ないが、ショートステイのニーズに対応するもの」と説明。「そのような目的を達成していくため、今回いくつか提案させていただいた」と理解を求めた。
武久会長の発言要旨は以下のとおり。
〇武久洋三会長
ショート(短期入所)について述べたい。ショートには生活介護と療養介護がある。いずれもレスパイト目的の利用が多い。
このうち特養などのショート(生活介護)は、本入所が一杯で入れないために利用されている。本来の利用ではなく、本入所のためにウェイティングするような利用の仕方がメインになっていると思われる。従って、生活介護のショートにも実際は2種類ある。
例えば、2カ月も3カ月も、1カ月ごとに1日休んだり、また自費にしたり、いろいろと継続してショートを利用する。この多くは本入所のためのウェイティング・ポジションである。これは本来のショートの目的から考えて、少しずれていると思う。ウェイティングのベッドと、本来のショートのベッドは2つの機能で、むしろ分けたほうがいいのではないかという感じがしている。
一方、療養介護のショートは医療の場合で、1泊2日や2泊3日の入院は、病状によっては当然あり得る。ショートに対する考え方が生活介護のショートの場合と違う。
そこで、本来のショートとの分け方をどうするか。特養のショートと、介護医療院や老健などのショートとの利用方法が違うことについて、担当課は今後どうしていくのか。
例えば、特養のベッドが100床でショートが20床ある場合に、本入所は一杯だが、ショートは20床のうち15床しか入っていないような特養が非常に多くある。
療養介護と生活介護のショートに対するスタンスについて、お聞かせいただけるとありがたい。われわれ現場にとっては、特養などのショートと老健などのショートでは、全く扱い方が違う。
従って、これらを制度的に、今後どのように運営していきたいと思っておられるのか、ご説明をお願いしたい。
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〇厚労省老健局老人保健課・眞鍋馨課長
ショートのサービスは短期入所生活介護、そして短期入所療養介護ともに「ショートステイ」と言われている。私どもは、在宅での療養を支える非常に大事なサービスだろうと思っている。
ご家族のレスパイト、あるいはご本人の一時的な体調の変化等に対応して、ご家庭にはなかなかいられないといったときに短期で利用されることにより、結果的に居宅での生活を継続できる。そういう機能が本来であるべきであろうと思っている。
その上で、今、武久委員からご指摘があったように、本入所待ちであったり、あるいは実際には入所と形態が変わらないような利用をされている。そういう実態があるということも承知をしているところである。
それはやむを得ない利用の仕方の一類型であり得ると思ってはいるが、やはり本来は、主目的たる生活の療養を支える、在宅での療養を支える、そういう本来の目的や趣旨が発揮されるように誘導していくべきものだろうと思っている。
そういう意味から、例えば療養ショート、あるいは生活ショートのみならず、施設の整備といったことも視野に入ってくると考えており、総合的に見ていかなければいけないと思っている。
その上で、生活介護と療養介護とに分かれるが、療養介護のほうがより特徴があるので、こちらから申し上げる。本日の資料でもご説明させていただいたとおり、医療ニーズがある方というのは、そういう専門職がいらっしゃる場所で受け入れを行う必要があるだろうと思っているので、老健施設、あるいは介護医療院、介護療養病床での療養ショートというのは、医療ニーズがありながら在宅で頑張っていらっしゃる、そういう方々を受け入れて、その生活を支えるべきだろうと思っている。
そういうことから考えると、そこまで医療ニーズは必要ないけれども、生活ショートのニーズがあると言われる方に対応するものが本来、生活ショートであると承知をしている。
今回、ご提案を双方させていただいているが、そういった目的を達成していこうということで、いくつかご提案をさせていただいている。
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〇武久洋三会長
昔は主に特養のショートが利用されていたが、そのニーズが小多機(小規模多機能型居宅介護)や看多機(看護小規模多機能型居宅介護)などに流れているのではないか。
そういう中で、特養のショートは本入所に対するウェイティング目的の割合がかなり上がっているのではないかと思う。本来のショートと入所待機のショートを分けていただけたらと思う。これは要望である。
(取材・執筆=新井裕充)
2020年10月16日