居宅介護、「この程度でいいのか」 ── 次期介護報酬改定に向け、武久会長

日本慢性期医療協会の武久洋三会長は8月19日、令和3年度介護報酬改定に向けて審議した厚生労働省の会議で、居宅介護支援事業所の厳しい経営状況などを指摘した上で「この程度でいいと思われているのか」と見解を求めた。厚労省の担当者は「ケアマネジャーがきちんとプランを立て、それに見合ったサービスが提供されることが重要」との考えを示した。
厚労省は同日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田中滋・埼玉県立大学理事長)の第182回会合をオンライン形式で開催した。
会議の前半は、前回に引き続いて2回目となる事業者団体ヒアリングを実施し、日本認知症グループホーム協会や四病院団体協議会などが意見を述べた。
約10間分の休憩をはさんで開かれた後半では、訪問介護や訪問リハ、居宅療養管理指導、居宅介護支援などのテーマについて審議し、厚労省が示した論点を踏まえ、各委員が意見を述べた。
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居宅介護支援事業所、「まだ0.1%の赤字」
後半の質疑で武久会長は、居宅介護支援事業所の経営状況について「まだ0.1%の赤字だが、これはぜひプラスにしていただきたい。居宅介護支援事業所のバックには事業体が存在するから、まあいいだろうという考えがあるとしたら改善していただきたい」と求めた。
武久会長はまた、居宅療養管理指導について「薬剤や栄養、歯科は非常に重要であり、ここをもっと増やせればいい」と見解を述べた上で、「居宅療養管理指導は、この程度でいいと思われているのか、もうちょっと増やしたほうがいいと思われているのか」と尋ねた。
厚労省の担当者は「居宅療養管理指導のサービス利用者数は、高齢者数の伸び以上に増えている」としながらも、「適正な量がこれで十分か、一律に申し上げることはできない。ケアマネジャーがきちんとしたプランを立てて、それに見合ったサービスが提供されることが重要だと思っている」と述べた。
武久会長の発言要旨は以下のとおり。
■ 事業者団体ヒアリングについて
前回のヒアリングでも非常に多くの団体が発表された。介護施設の多様性はよく理解しているが、類似の施設も多い。できれば将来的には、数をどんどん増やすのではなく、同様のものはできるだけ同じような団体にまとめ、現在のヒアリング団体を半分ぐらいにして効率化したほうがいいようにも思う。それぞれの施設がそれぞれの立場で、自分たちの施設がベストだと主張することはよく分かっているが、ぜひご検討いただきたい。
医療と介護の距離が非常に近くなってきた。以前は、介護の現場に医療はあまり入っていなかったように思う。看取りは当然、医療が関与しなければいけない。
本日、四病院団体協議会が発表した「介護給付費分科会への要望」について、私は非常にリーズナブルな内容だと思っている。現場でいる者にとって適切であり、要介護者にもプラスになる提案が含まれていると感じた。
今後、ますます医療と介護が密接になっていく。従来は、「医療は医療、介護は介護」というイメージがあったが、できるだけ医療側が介護側に近寄ってサポートする必要がある。
看取りの場合にも医療が必要である。医療を提供すれば、看取りの状態だと思われていた患者が、かなり良くなって症状が改善する場合もある。ただ単に一方向として看取りを推進するようなことは、ぜひ避けていただきたい。助かる命は助け、終末期にあっても有意義な人生を送っていただくということも必要だと思う。
本日、多くの団体からの意見があった。いろいろな施設がたくさんあるが、それぞれよく似た状態の人は、よく似た待遇なり報酬というものを、ある程度、平均化していくべきである。ある施設だけは人員規制が非常に厳しいということでは困る。
グループホームについては、1ユニットに1人当直することも必要かもしれないが、状態がある程度まで落ち着いている場合には、1ユニットではなく2ユニットで1人当直し、何かあれば呼び出すという柔軟な対応を認めてはいかがだろうか。ほかの施設などに比べて、収容人数に対するスタッフ数の割合が高いように思う。
高齢者の住まいにおいて看取りがかなり増えている。ぜひ、いろいろな施設との連携を取り、助けられる命は助け、看取るべき時は医療側としても、ぜひ協力させていただきたいと思っている。
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■ 居宅介護支援等について
居宅療養管理指導と居宅介護支援について述べたい。新型コロナウイルスの影響がどこまで続くかは別として、この傾向が長い間続くと仮定すると、在宅での対応というものが今後、非常に重要になってくる。
居宅介護支援において医療の必要性が非常に増えている。現在のケアマネジャーは、どちらかと言えば福祉系や介護系の方が多いので、医療について勉強する時間が非常に重要になる。
しかし、居宅介護支援事業所の収支状況を見ると、まだ0.1%の赤字である。この部分については、ぜひプラスにしていただきたい。
厚労省として、この居宅介護支援事業所のバックには事業体が存在するから、まあいいだろうというようなお考えがもしあるとしたら、それは改善していただきたい。
ケアマネジャーというのは、できれば後ろにある事業体の意向を反映しない、独立的で、利用者にとって非常にいいケアプランを立てることが本来の趣旨である。
今の状態では、独立ケアマネの事業所というのは、とても不可能である。できれば、たとえ独立してもやっていけるくらいの前向きの改定をお願いしたいと思う。
居宅療養管理指導については、薬剤や栄養、歯科が非常に重要であり、ここをもっと増やしていけたらいいと思う。
そこで厚労省の方にお伺いしたい。居宅療養管理指導は、この程度でいいと思われているのか、もうちょっと増やしたほうがいいと思っているのか。
また、居宅介護支援事業においてケアマネジャーの報酬がマイナスであってもいいのか。できれば独立ケアマネというのも考えていただきたい。ご意見を聞かせていただければ幸いである。
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【厚労省老健局老人保健課・眞鍋馨課長】
居宅療養管理指導については、本日お示ししたように、サービス利用者数は増えている。おそらく、高齢者の伸び以上にちょっと増えているのではないかと思う。
それは、このサービスの重要性が認知されてきたこと、あるいは施策の後押しなどもあったかというふうに思っている。
適正の量はこれで十分かと言えば、なかなかそれは一律に申し上げることはできないが、ケアマネジャーがきちんとしたプランを立てて、それに見合ったサービスが提供されることが重要だと思っている。
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【厚労省老健局認知症施策・地域介護推進課・笹子宗一郎課長】
ご指摘のとおり、居宅介護支援事業所の収支差率はマイナスで、ほかのサービスがプラスということであるので、貴重なご意見として拝聴した。
(取材・執筆=新井裕充)
2020年8月20日