介護医療院への移行、「各地で滞っている」 ── 介護保険部会で武久会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

01_武久洋三会長_20180726介護保険部会

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は7月26日、厚生労働省の社会保障審議会(社保審)介護保険部会に委員として出席し、医療療養病床から介護医療院への移行について「各地で滞っている」と指摘し、介護保険の保険者を市町村から都道府県に変えることについて厚労省の見解をただしました。厚労省の担当者は「介護保険は市町村を保険者とし、地域で完結するコンセプトでつくられている仕組み」と答え、慎重な姿勢を示しました。

 介護保険部会は昨年11月以来、約8カ月ぶりの開催となります。厚労省は同日の会合で、「介護分野の最近の動向等」と題する63ページの資料を示し、平成29年の介護保険法改正や平成30年度介護報酬改定、骨太方針2018や成長戦略の関連部分などを報告しました。

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「介護給付費の適正化が極めて重要」との声も

 厚労省の説明に続く質疑では、保険者を代表する立場の委員が社会保障費の将来推計などに触れながら「介護保険制度の持続可能性を確保するためには介護給付費の適正化が極めて重要な課題」と強調。地域別の取組や進捗状況の「見える化」などを積極的に実施するよう求める声が上がりました。また、生産性向上やICTの推進などをさらに進める必要性を指摘する意見もありました。
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03_全体_20180726介護保険部会

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介護保険の財政規模は国保と同じ都道府県に

 
 「介護分野の最近の動向」について武久会長は、介護医療院の創設に言及。「空いているベッドを有効に使うほうが、2040年までにどんどん増えてくる高齢者のために新しい施設をつくるよりは効率的でいい。介護医療院は非常に素晴らしい」と高く評価しながらも、「各地で移行が滞っている」と現状を伝えた上で、「介護保険の実務は市町村が行うけれども、財政規模は少なくとも国保と同じ都道府県にすべき」と主張しました。

【武久会長の質問】
 05_武久会長_20180726介護保険部会 資料1の「介護分野の最近の動向等について」について、一番大きい出来事は、新しい施設 介護医療院ができたことですね。現実問題として、病院病床が、地域によって違いますが、約30万床のベッドが空いている。この空いているベッドを有効に使うということが、2040年までどんどん増えてくる高齢者に対応する施設を新しくつくるよりは効率的でよいと私は思っていました。介護医療院をつくったことは非常に素晴らしい考え方だと思います。現実に4月から介護医療院は始まりましたが、各地で移行が滞っております。
 滞っている理由の一つとして、介護療養病床からの移行はスムーズに、財源が介護保険から介護保険の介護医療院に行くわけですけれども、医療療養病床から介護医療院に移行する場合には、財源が医療保険から介護保険に行きます。そうすると、小さな市町村で人口が数千人程度の所では、1つの施設が医療療養から介護医療院に行くと、その町の保険料がボンと上がる。これは非常に大きな問題でありますから、都道府県の基金で調整するというレベルの問題ではありません。この介護保険部会でも数年前から私が発言していますが、介護保険の財政が非常に厳しくなる。小さい市町村ではとても耐えられなくなるだろうと予想しておりました。当時検討されていた国民健康保険の財政を市町村から都道府県に移すということが決まった時に、「介護保険も移してはどうか」という意見を強く述べさせていただきましたけれども、その時はまだ賛同者がおりませんでした。実際の介護保険の実務は市町村が行うとして、財政規模は少なくとも国保と同じ都道府県にすべきだと思います。介護医療院が今後、増えていきます。病院のベッドに入院されますと、1日の単価が非常に高い。介護医療院であれば病院よりも安くて済む。国全体の予算としては少なくなる。ということは、この介護医療院という施設をこれからどんどん増やしていって、新たな介護施設をつくらなくてもよいということになれば非常にいいのではないかと思います。
 それから、今回の改定では、介護の世界に医療の要素をかなり入れていただいた。これは非常に大きないい点だと思います。特にリハビリテーション等を入れていただいたこと、また低栄養、脱水についても入れていただきました。大変ありがたいと思います。
 最後に、私は介護認定審査会の委員を2000年から今までずっと継続して18年間務めております。コンピューターがかなり良くなりまして、5名の委員が対象者30名に対して審査し、だいたい1割程度の変更が生じます。今回の資料でもあるように、簡素化というのは非常に重要で、コンピューターによってある程度整理して、問題があった点を審査するというような簡素化をしないと、介護認定審査会の費用も莫大になってきます。
 今回の改定の動きは非常にいいと思いますが、IT化につれて要介護認定の一次判定などもかなり正確になっておりますので、このへんももう少し評価するとよいと思います。
 介護保険の保険者を市町村から都道府県に変えていただけたらということについて、厚労省のご意見をお聞きしたいと思います。よろしくお願いいたします。

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02_事務局2_20180726介護保険部会

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介護保険制度の本質をよく踏まえた上で検討

 
 武久会長の質問に対し、厚労省老健局総務課の北波孝課長は「介護保険制度の本質、これまでの経緯、機能をよく踏まえた上で財政運営はどうあるべきかが検討されるべき」との考えを示し、理解を求めました。

【北波課長の回答】
 04_厚労省北波孝課長_20180726介護保険部会 (前略) 介護保険の実務は市町村で行いながら、財政運営は県単位でもいいのではないかというご指摘がございました。ただ、介護保険自体につきましては、まさに地域保健、市町村を保険者とし、地域で完結するというコンセプトの中でつくられている仕組みでございますし、また保険者機能の強化という議論の中でも、この介護保険自体はまず市町村で行う。市町村の住民がサービスを受けたら、それが保険のほうに反映される、非常に緊密な関係を維持しながら保険事業を運営しているという前提がございます。そういったこの介護保険制度の本質と、これまでの経緯、機能というものをよくよく踏まえた上で財政運営はどうあるべきかということが検討されるべきであると思っておりますので、その所はしっかりと押さえる必要があると考えております。以上でございます。

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                          (取材・執筆=新井裕充) 

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