維持期リハの減算、「ペイしない」 ── 4月11日の定例会見で武久会長

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武久洋三会長_20190411_日慢協会見

 日本慢性期医療協会は4月11日、「リハビリテーションはどうなる ─ 早急な対応が必要か ─」をテーマに今年度最初の定例記者会見を開きました。会見で武久洋三会長は、維持期リハビリの医療保険から介護保険への移行について説明した上で、脳血管障害の2,450円が1,470円に減額される場合などを挙げ、「維持期リハの減算選択をすると、なかなかペイしない」との認識を表明。採算を合わせるために自費のリハビリが実施されていることに言及し、「ちょっとグレーなところがある」と指摘しました。

 武久会長はまず、急性期リハ、回復期リハ、維持期リハの概要を説明。このうち急性期リハについては、ICU(特定集中治療室)の「早期離床・リハビリテーション加算」(1日500点)が平成30年度の診療報酬改定で新設されたことを紹介し、「加算だけで5,000円だから、従来の点数を入れると、ほんのちょっとしただけでも1万円近くになる」と述べました。

 一方、維持期のリハビリは厳しい状況にあることを説明。疾患別リハビリの算定日数上限を超えた維持期リハビリについて、要介護認定者の外来リハビリが今年4月から介護保険へ移行したため減額されるケースを樹形図を用いて解説し、「これを見ながらでも、なかなか理解できない複雑なリハビリの点数の仕組みになった」と指摘しました。

 武久会長は、減額された報酬では十分に採算が取れないことを説明し、自費のリハビリが一部の病院などですでに実施されていることを紹介。「リハビリが介護保険になるとPTやOTの給料に見合うだけの報酬が出ないため、混合診療がどうなるのか。自費リハビリに問題はないのか」と問題提起しました。
 
 会見に同席した橋本康子副会長は「自費のリハビリで何か事故が起きたときに、誰が責任を取るのか。骨折したり、いろいろなことが起こりうる。そうしたリスク管理をどうするのか」と指摘し、「リハビリテーションはやはり医療であるから、きちんと決めていただきたい」と明確化を求めました。

 以下、会見の模様をお伝えいたします。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページに掲載しておりますので、ご参照ください。

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医療保険から介護保険へ、非常に大きな改革

[武久洋三会長]
 リハビリテーションが猛烈な勢いで変わってきている。本日の会見では、今後どうすべきかを皆さんと一緒に考えてみたい。

 医療保険のリハビリテーションから介護保険のリハビリテーションへ。これは非常に大きな改革である。12年ぐらいかかって、ここまで来た。今後どうするか。非常に重要な問題である。

 リハビリテーションに対する財務省および厚労省のスタンスは明らかにシフトしている。われわれリハビリテーションを担当している、特に慢性期リハビリテーションを担当している団体としては、いろいろ検討しなければいけないと思っている。

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急性期リハ、回復期リハ、維持期リハ

 資料2ページを見ていただきたい。

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 急性期は、「急性期リハビリ」である。2週間以内が急性期ということになっているので、急性期病院でのリハビリに限定させていただいている。

 回復期は当然急性期ではないので、慢性期の中に入っている。リハビリテーションは慢性期的な技術であり、日本慢性期医療協会が主体的に発揮しないといけないところだと思っている。

 回復期リハビリテーション病棟もだんだん入院期間が短くなってきている。われわれは、「回復期リハビリ」は2カ月以内、「慢性期(維持期)リハビリ」は6カ月以内と考えている。

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急性期リハ、ちょっとしただけで1万円に

 3ページをご覧いただきたい。平成30年度の診療報酬改定では、ICUにおけるリハビリテーションに対して、加算だけで5,000円が付いた。

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 これはどういう意味か。リハビリテーションは、病気が起こった瞬間からリハビリテーションをしたほうが間違いなく回復がいいということである。和歌山県立医科大学の田島文博先生がICUでやり始めたことがここに反映されていると思う。加算だけで(1日)5,000円だから、従来の点数を入れると、ほんのちょっとリハをしただけでも(1日)1万円近くになる。

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要介護認定の有無で大きな差

 リハビリテーションは医療保険から介護保険へ移っている。このため、非常に複雑なシステムが組まれている。この先、どのようになるのだろうか。

 疾患別リハビリテーションは2006(平成18)年度の診療報酬改定で導入された。標準算定日数と診療報酬は、次のようになっている。

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 算定日数の上限を超えたら、維持期リハビリテーションとなる。このときに、要介護認定を受けているかどうかということで、非常に大きく差が出てくる。

 すなわち、疾患別リハビリテーションの算定日数上限を超えた維持期リハビリテーションについて、要介護認定者の外来リハビリテーションは平成31年4月から介護保険へ移行することとなった。

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 8ページに時系列的な分岐図を書いた。これを見ながらでも、なかなか理解できない複雑なリハビリの点数の仕組みになった。

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 最も高い脳血管リハビリテーション料(Ⅰ)の2,450円について見てみる。算定日数上限(180日)を超えたときに、リハ実施により改善が期待できる場合には、継続理由書を書けば2,450円のままだが、書かなければ単なる維持期リハになり1,470円の13単位になってしまう。

 続いて退院したとき。リハ実施により改善が期待できる場合は、継続理由書を書けば2,450円のままだが、書かなければ介護保険の維持期リハに移行する。

 それから、要介護認定を受けている脳血管障害の人が60日までに「目標設定等・支援管理料」を算定していなければ、「いいえ」ということになり、2,210円(90/100)に減額される。

 要介護認定を受けていない場合には2,450円がそのままフルに入って、180日以上になると、継続理由書を書くと2,450円のままである。退院したあとでも継続理由書があると2,450円ということで、維持期リハも2,450円のままということになる。介護保険の認定を受けているかどうかによって大幅に違う。

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減算を選択すると、ペイしない

 こうした診療報酬で、果たしてペイできるのかを考えたい。9ページ。

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 リハビリテーションを実施するOTやPTの収入は平均で月30万円、年360万円である。これにボーナスをプラスして、年収を約450万円と仮定する。この場合、時給は2,435円となり、20分間では811円となる。

 そこで、維持期リハの1,470円でペイするかを計算してみる。維持期リハビリの減算選択をすると、なかなかペイしないという現状がうかがわれる。

 良くなると思えば継続して点数が取れるということであるが、逆にいうと、リハビリ担当の先生の良識による。

 継続理由書はこのような書式になっている。これまでのことや、これから良くなる見込みなどを書かなければいけない。これを書くためには、結構な時間がかかる。

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介護保険への移行、複雑になっている

 要介護認定を受けていると介護保険に移行する。では、介護保険サービスに行ったらどうなるのか。

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 医療保険のリハビリから介護保険の維持期リハビリになり、13単位になる。そして、一定期間は医療保険と介護保険を併用できる。医療保険でも7単位までは取ってもいいということになるが、これが3カ月の期間を過ぎると介護保険に完全に移る。移る前には移行支援料として1回だけ5,000円が算定できる。このように複雑になっている。

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医師の関与の度合で点数が変わる

 介護保険でのリハビリが4月から新しくなった。何が一番変わったか。「医師がちゃんと関わるように」と、お尻を叩かれている。

 介護保険のリハビリについて、12ページを見ていただきたい。

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 訪問リハと通所リハに、「リハビリテーションマネジメント加算」Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳがある。この加算については、14ページをご覧いただきたい。

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 現場ではリハビリ専門の医師がまだ少なくて、十分なリハビリの知識のない先生も回復期リハの担当をされているが、「リハビリテーションマネジメント加算」を取るためには、医師がリハビリテーションの実施に当たり詳細な指示を行う必要がある。

 それから、リハビリテーション会議にもどんどん出てきちっとやるとか、いわゆるVISITを活用してちゃんとデータを提出することなどが求められている。医師の関与の度合によって、点数ががらりと変わってくるのが特徴である。リハビリに対してお医者さんもどんどん関与してくれ、というふうになっている。

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介護保険のリハには、いろいろな制限

 介護保険に移行したリハビリテーションは、どのような内容か。老健、特養、介護医療院ではこのようになっている。

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 老健に入所すると、短期集中リハビリテーションの1日240点で、入所後3カ月の間に20分以上の個別リハを週3回実施できる。

 特養はリハスタッフが特にいないので、非常に安い12点になっている。

 介護医療院はリハスタッフが結構いるので、特別診療費として細かく決まっている。「1日3回程度」など、いろいろな制限がかけられている。

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「要介護認定を辞退しようか」と考える人も

 このように要介護認定を受けているか受けていないかで大幅に違うので、もしかすると、「リハビリを十分してくれないから、もう要介護認定を辞退しようか」という利用者が増えるのではないかと心配している。要支援1とか要支援2であれば、要介護認定を返上したほうがいいのではないかということを考える人が出てくるのではないか。

 先ほどの樹形図で、右側の「なし」でいったほうが、サービス提供機関としては効率がいい。それだけちゃんとリハビリをしてくれるということもある。要介護認定を辞退できるのかどうかはちょっと聞いていないが、こんなことになるとは介護保険のほうも思っていなかったと思う。

 人間は動物であるから、まず動物としての機能の復帰が重要である。食事をするとか、排泄をするとか、動くということである。そして人間としての復帰、家庭への復帰、社会への復帰、仕事への復帰である。まずは動物としての機能の復帰、すなわち食事が自分でできるかどうか、排泄ができるかが重要視される。

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発症直後のリハで、寝たきりが減る

 今後、医療保険から介護保険への移行が進む。最近の改定では、地域包括ケア病棟でのリハビリテーションの2単位包括が衝撃的であったが、今回も老健でいろいろな点数が包括された。今後、リハビリテーションの包括化がどのように進んでいくかについては、リハビリテーションが急性期においても必要な技術となってきている現在、非常に注目される。

 リハビリテーションを、発症直後の急性期から行うことがきちんとできれば、寝たきりの患者は減るだろうと想定している。急性期病院の入院は1カ月かかるから、回復期に移った時には関節が硬直しかかっていることもある。そのため、発作が起きたあと、リハビリが必要になった時からすぐにリハビリを集中的に開始する必要がある。

 しかし、急性期病院には入院患者に必要なPTやOTが十分にいないことが多いので、そのような場合には、リハビリテーションをよくやっているところからの「派遣リハビリ」を認めてはどうか。救急車で高度急性期病院に運ばれた脳卒中患者に、その次の日からリハビリが行えるようになれば、寝たきりがだいぶ減るのではないかと考えている。

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混合診療がどうなるのか

 一方で、リハビリテーションが介護保険になると、PTやOTの給料に見合うだけの報酬が出ないとなると、混合診療というのがどうなるのかということになる。

 平成25年の11月27日に医政局医事課長から「理学療法士の名称の使用等について」という通知が出ている。

 それによると、「理学療法士が介護予防事業等において、身体に障害のない者に対して転倒防止の指導等の診療の補助に該当しない範囲の業務を行うことがあるが、このように理学療法以外の業務を行うときであっても、『理学療法士』という名称を使用することは何ら問題ないこと。また、このような診療の補助に該当しない範囲の業務を行うときは、医師の指示は不要であること」とある。

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 この通達を論拠にして、「自費リハビリテーション」というものが注目されるようになった。身体に障害がない人については、自由にPTが勝手にやっていいということだが、「障害があるか、ないか」はやっぱり医師が判定するべきであろう。

 ということで、「これはちょっとグレーなところがあるかな」と思う。障害があるかどうか。障害があれば、医師の指示が要る。なければ、PTだけでもいいということになる。この通知は、理学療法士に対してのみ発出している。作業療法士や言語聴覚士には認めていない。

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自費リハビリ、問題はないのか

 自費リハビリテーションは、問題はないのか。

 リハビリテーションは、特に慢性期の病院では集中的に行われているため、日本慢性期医療協会でも大きなマターとなっている。公に認められていることを協会としては、進めていきたい。認可機関や認可条件について調べたが、どこにも載っていない。

 医療機関以外の民間企業で全国に20カ所以上の自費リハビリテーションのステーションがある。医療機関では、全国10カ所以上で、病院として自費リハビリをやっているところがあるようだ。

 理学療法士は1995年に1万5,000人ぐらいだったのが、今は16万人。22~24年間で、約10倍になっている。これも非常に大きな問題となる。

「保険外併用療養費関連告示」(告示495)のコピーをご覧いただきたい。選定療養として、10年近く前からある。維持期リハビリ13単位をオーバーした場合(診療報酬の算定方法に規定する回数を超えて受けた診療)であっても、赤枠で囲んである状況下のリハビリについては、自費リハビリを認めるという選定療養の認可が出ている。

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99_「保険外併用療養費関連告示」(告示495)

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 当然、病院側から申請をして認められた場合だが、維持期リハビリテーションについてのみ、選定療養としての決まりがある。

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リハビリは医療・介護費を効率化する

 日本の病床が減り続けており、平均在院日数の短縮も止まらない。医療費や介護費を効率化するためには、リハビリテーションが必須である。患者は、短期間の入院で病気を改善してくれて、リハビリテーションで日常に戻る確率の高い病院に集中してくる。

 リハビリの世界が急激に変わろうとしているとき、果たして回復期だけにリハビリテーションが必要な状態の方が多いのだろうか。介護保険、在宅はどうか。いろいろなことが大きく変わっている。

 今日は、橋本副会長に来ていただいた。リハビリテーションの病院をいくつか運営しており、リハビリテーションに詳しい。橋本先生からも一言、お願いしたいと思う。

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自費のリハビリ、誰が責任を取るのか

[橋本康子副会長(慢性期リハビリテーション協会会長)]
橋本康子副会長_20190411_日慢協会見 私は回復期リハビリも運営しているし、維持期、生活期リハも、在宅のリハビリもやっている。今、武久会長がおっしゃったように、今のリハビリテーションの流れは医療保険から介護保険にシフトしている。

 現場から見ると、“川の流れ”の大本である急性期で筋力が落ちるとか、拘縮があるとか、そういったことが起きて悪くなってから回復期に来て、そこで一生懸命それを治す。これは、なかなか時間もかかるし、手間暇もかかると感じている。従って、今の流れである「医療保険から介護保険へ」というよりは、むしろ急性期のリハビリを手厚くするほうが理にかなっているのではないか。今回の改定では、武久会長が言われたように介護保険よりも医療保険のほうがリハビリをする者にとっては有利であると感じている。

 一方、患者さんの側からすれば、医療保険のリハビリよりも自費のリハビリのほうが、むしろいいのではないかというふうな感覚を持たれるのではないか。そこはまだはっきりとは分からないが、そういう感じがしている。患者さんから「もっとリハビリをしてほしい」と言われてリハビリを提供することが、患者さんにとって良いことであれば、それは望ましいことではある。

 疾患がないのにリハビリをするのはいかがなものかという問題はあるにしても、やはり皆さん、年を取ると病気ではなくても筋力が落ちてくる。「必要なときにリハビリをしたい」という思いはあるだろう。体力が落ちたり腰が曲がってきたり、ちょっと歩くスピードが遅くなったりすれば、リハビリをして、もう少し体力をつけたいと思われるのではないか。そのため、自由が利くリハビリも選ばれるようになってくる。

 そこで私たちが危惧するのは、自費のリハビリに伴うリスクである。何か事故が起きたときに、誰が責任を取るのか。医者が関わっていなければ、骨折をしたり、いろいろなことが起こりうる。そうしたリスク管理をどうするのか。リハビリテーションはやはり医療であるから、きちんと決めていただきたいと思う。

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「混合診療はしない」という建前がある

[武久会長]
 リハビリテーションが大きく変わろうとしている。県によっては、大幅に減点する場合もあると聞いている。リハビリテーションは、患者さんが回復するために絶対に必要な技術であるにもかかわらず、「こんなにたくさんリハビリしなくていいだろう」と削られる場合がある。医学的な理由ではなく、そういうことがある。

 自費をどの程度認めるのかということも含めて、自費で医師の関与なしにやってもいいのであれば、それはまた正式にそう発表していただければ、もっとたくさんの事業所ができると思うが、どちらかというと混合診療的になる。

 医療保険では、「混合診療はしない」という大きな建前があり、一部例外として選定療養を入れているだけである。ここを大上段に振りかぶって、「どんどん好きにしてくださいよ」と言っていただけるとありがたいが、何かそうではないような雰囲気であるし、かといって「してはいけない」ともはっきり言われていない。非常に迷うところである。

 リハビリテーションは慢性期医療にとって非常に重要である。ここで問題提起をして、皆さんと一緒に考えていきたい。皆さん、病気になったら早く日常生活に戻れるように、できるだけリハビリテーションをしてほしい。「3カ月で終わり」と言われたら、「もうちょっとしたい」と思うのは当然であろう。そのあたりをどう考えるか。ということで、今回はリハビリテーションを取り上げさせていただいた。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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