今こそ慢性期医療の現場で看護・介護の実力発揮を ── 第25回日本慢性期医療学会④
会員・現場の声 協会の活動等 官公庁・関係団体等 役員メッセージ
「地域が創る慢性期医療 ──新たな医療への挑戦──」をテーマに、日本慢性期医療協会が10月19・20日の両日、仙台市内で開いた「第25回日本慢性期医療学会」の2日目のシンポジウム4は、「今こそ慢性期医療の現場で看護・介護の実力発揮を ~優秀なスタッフがあなたの病院の未来を救う~」と題して開かれました。特定行為研修や医療介護士養成講座にかかわる医師や、特定行為研修を受けた病院と施設の看護師、さらに環境変化に応じたチームビルディングの必要性を説く医療マネジメント研究者がそれぞれ講演し、同協会常任理事の井川誠一郎氏が座長を務めました。
■「良質な慢性期医療は特定看護師の存在に左右」── 矢野氏
多摩川病院理事長の矢野諭氏は「良質な慢性期医療を支える『チーム医療のキーパーソン』の養成」と題して、日本慢性期医療協会で行っている看護師特定行為研修について講演。チーム医療における特定看護師の重要性を強調しました。
矢野氏は冒頭で、「チーム医療の重要性が声高に叫ばれて久しいが、患者の近くで最も長い時間かかわってきたのは、いつの時代においても看護師であり、看護師の情報・記録や補助がなければ、診療が成り立たない」と指摘。一方で「私見を含め」と前置きしたうえで、チーム医療を妨げる医師の例として、▼傲慢・自己中心的、他職種の意見を聞かない、▼連絡してもすぐつながらない、つながっても不機嫌、▼明らかに不適切・誤った治療、自己流の治療──など挙げ、「看護師はかなり残念な思いをしている」と代弁しました。
そのうえで、「医師の絶対数が足りないため医師の時間的関与が少ない」や「すべての職種が直接患者にかかわることはできない」などの理由から、「チーム医療のキーパンソンは“時間”と“患者”の『全体』を見る目を持つ看護師が最適」と主張。看護師の役割として、療養上の世話や診療所の補助に加え、「医学的知識の最適化や、患者さんの代弁者、教育者にもなれる。この辺が『高度の専門性』をもっているといわれる所以」と指摘しました。
以上のような認識を踏まえ、本題である看護師の特定行為について「医師や歯科医師が手順書を用意し、その範囲内で医師の判断を待たずにいくつかの行為ができる。つまり診療の補助の範囲が広がった」と解説。その理念として「チーム医療のキーパーソンである看護師が、期待される役割を十分に担うため、在宅を含む医療現場において、高度な臨床実践能力を発揮できるよう、自己研鑽を継続する基盤を構築するものでなければならない」と強調しました。
また、特定行為および特定行為区分(38行為21区分)を示し、「高度急性期でしか行われないようなものから慢性期で頻回に行われるものまである」と述べ、そのなかで「当協会の研修では現在9区分16行為を必修にしている」と紹介しました。
特定行為で重視される「手順書」については、「病状の範囲、診療の補助の内容、対象となる患者を記載して、ある程度限定する。看護師の能力などに合わせて適宜見直していくことが必要」と指摘しました。
さらに特定行為研修の到達目標として、「キーワードは“多様な場面”」と指摘したうえで、「多様な場面でのアセスメント、ケア、安全対策、標準化などの能力を身につけてもらう」と紹介。そのうえで「看護師が最新の知識やエビデンスを用いて話さなければ、医師に聞いてもらえない。医学的な視点・科学的な視点を補完していくことは、看護の質向上にもつながる」と展望しました。
そして改めて「研修の目的はミニドクターを養成するのではなく、看護の質を上げることであり、医師の負担軽減である」と指摘。特定行為研修を修了した看護師に求められる役割には、▼チーム医療のキーパーソンとして医師を含む他職種からの信頼増大による多職種協働を推進、▼根拠に基づく医療・看護(EBM・EBN)の提供を通して医師との積極的な討論による良好な関係構築と質向上─を挙げ、期待をのぞかせました。
特定行為を進めていくうえでの課題としては、「特定行為研修・修了看護師が周知されていない」「組織的な体制ができていない」「手順書の作成が進んでいない」などの調査結果を紹介し、「組織全体としてのサポートがなければこの制度の維持・継続・普及は困難。特に医師の意識改革が必要」との認識を示しました。
最後に矢野氏は「特定看護師は慢性期医療で圧倒的な需要がある」と述べ、「良質な慢性期医療の要はチーム医療であり、チーム医療のキーパーソンは特定行為研修を修了した看護師である。ゆえに良質な慢性期医療は特定行為研修を修了した看護師の存在にかかっている」と結びました。
■ 特定看護師、「院内全体で好循環に作用している」── 中原氏
国分中央病院の看護・介護部部長代理の中原さとみ氏は、「慢性期医療で求められる特定看護師の役割」について講演し、実際の特定看護師としての経験を踏まえ、成果や課題を指摘しました。
中原氏はまず、国分中央病院のある鹿児島県霧島市の人口動態や地域における同院の役割について説明。2040年に高齢化率34.2%になることが見込まれる同地域で、「地域の慢性期医療に責任を持つ病院として、地域に根差した医療の充実を目指すとともに、医療と介護の切れ目のない連携体制を実現している」と紹介しました。
また、「他病院等から医療必要度の高い患者を積極的に受け入れている」と説明し、15台所持している人工呼吸器の稼働率が7割、長期気管カニューレを使用している患者の割合が入院全体の2割あることなどについて報告。そのなかで「常勤医師3名で対応をしている」との現状を明らかにしました。
そのため、「高齢化に伴い、さらに医療必要度の高い患者が増えることを考慮して、当グループでは特定看護師の人員配置を進めてきた」と述べ、「現在5名の特定看護師が勤務し、実習施設としても活動している」と報告しました。
また、同院で勤務する4名の特定看護師について「対象となる患者を受け持ち制にして活動している。これにより日々の状態やその変化をいち早く把握することができ、早期治療・ケアにつなげることができる」と述べたほか、「特定看護師間で症例検討や情報共有を行い、互いに感化されとてもよい影響を受けている」と同体制のメリットを報告しました。
さらに、「看護師間でアセスメントを行う機会が増え、多職種が連携を図りながら専門性を活かすことができるようになっている」と分析。特定看護師に対する多職種の意見として、医師からは負担軽減、他の看護師は看護師全体のスキルアップなどを挙げ、「院内全体で好循環に作用している」と感想を述べました。
次に中原氏は、特定行為のなかの①呼吸器関連の人工呼吸療法に係るもの、②呼吸器関連の長期呼吸療法に係るもの、③感染に係る薬剤投与関連の内容─の3つについて、同院の症例数を提示して紹介。そのなかで③では、「感染徴候が疑われる患者に対して、特定看護師が病態把握・アセスメントを行い、手順書をもとに抗生剤の臨時投与を行う」と説明したうえで、「しかし、現状では感染臓器となる原因を明確にするまでに、病態把握・アセスメントが困難であるため、指導医や薬剤師のアドバイスのもと抗生剤の臨時投与にかかわっている」と報告しました。
また、特定看護師として従事した経験から、慢性期医療で求められる特定看護師の役割として、①に医学的な根拠にもとづいた医療・看護の提供、②チーム医療のキーパーソンとしての多職種協働の推進─を提示。今後の課題には、適切な判断力・アセスメント能力のさらなる向上や特定行為を実施していくうえでの安全面の整備を挙げました。
最後に中原氏は、効果的かつ効率的な医療・看護が求められているなか、「特定行為制度の重要性を強く受け止め、特定看護師としての実践を積みあげ、看護の質、医療の質の向上に努めていきたい」と述べ、今後の研さんを誓いました。
■ 特養においても家族の承諾を得て迅速な対応が可能に ── 根本氏
介護老人福祉施設ヴィラ町田の看護主任である根本千恵氏は、「特定行為看護師としての取り組みと課題~施設看護師の立場から~」と題して講演、常勤医師がいない特養における特定看護の実践とその成果について説明しました。
根本氏は、最初に介護老人福祉施設ヴィラ町田が「特養ではめずらしく看護師の24時間常駐体制を敷いている」と言及し、そのために、①医療的ケアが必要な方の受け入れが多く、利用者様の体調の変化や急変も少なくない、②高齢化や要介護度の重症化に伴い、医療的ケアを必要な利用者が増加している─といった利用者の特性を紹介しました。
加えて、「介護老人福祉施設では医師は常勤であることは求められていない」と述べたうえで、「回診時以外の体調変化、不穏・不安などの症状出現時は、非常勤の医師に連絡して口頭指示を受け対応していたが、連絡が円滑にいかないことも多く、場合によっては利用者の受診や救急搬送もしばしばあった」と報告し、特定行為研修に参加した経緯を説明しました。
続いて、特定行為の実施方法について「病状が手順書の範囲内であることを判断し、家族に連絡して承諾を得る」と説明したのち、「迅速な対応が可能になった」と評価。①栄養および水分管理に係る薬剤投与関連、②感染に係る薬剤投与関連、③創傷管理関連、④精神および神経症状に係る薬剤投与関連──の特定行為区分を示し、特定行為研修後の実践内容・件数を紹介しました。
また、脱水の可能性がある入所者の家族に連絡して承諾を得、点滴を施行した事例などを紹介。脱水の事例では「覚醒不良になることなく、食事は半量から全量、水分も1日1ℓ摂取できるようになった」と説明しました。
根本氏は特定行為研修について、「アセスメントする力や必要な治療を理解し、特定行為を実施する力がついたことで自信が深まった」と述べたほか、「医師の指導内容により自らの看護実践を見直しつつ標準化することの大切さを学んだ」と振り返り、研修内容は特定行為だけでなく、日々の看護業務に活かされている点を強調しました。
一方、看護師の特定行為に対する家族の反応に対して、「当初は否定的に捉えられ、拒否されるのではないかとの不安もあった」と心情を告白。「しかし、家族へ連絡して利用者の状況と、特定行為についての説明、実施したい内容を伝えると、家族は快諾してくれる」と紹介し、「できる限り施設内で対応することに好感を持ってくれたのだろう」との認識を示しました。加えて今後は、全利用者の家族に周知していくために、「家族会などの機会に特定行為の説明を行い、理解をしておいてもらう必要がある」と述べました。
今後の課題として、非常勤医師との連携による施設特性に応じた手順書の定期的な見直しを挙げたほか、「医師回診時の的確なフィードバックと利用者に合った指示をもらうことも重要」と指摘しました。
根本氏は最後に、「特定行為の看護師の存在は利用者の状態に合わせたタイムリーな対応が可能になる」として、きめ細かい病状の把握・管理による、重症化予防・早期回復、外来受診や救急搬送の減少、施設生活の継続などのメリットを提示。そのうえで「今後はできる
限り、在宅や施設の看護師が意欲的に特定行為の研修を受け、修了者数を増やしてもらいたい」と呼びかけました。
■「介護が変われば看護が変わる、看護が変われば医療が変わる」── 富家氏
富家病院理事長の富家隆樹氏は、「介護士の力を本気活用~現場で活かす、たんの吸引・経管栄養の実施のための研修~」と題して日本慢性期医療協会で行っている医療介護士養成講座について講演し、「介護士の能力を生かすことは医療全体の底上げにつながる」と強調しました。
富家氏はまず、「介護士の可能性についてすごく期待している。介護学は医学、看護学と並ぶ大きなアートだと思っている」と切り出し、平成22年にスタートした同協会の医療介護福祉士認定講座について「医療知識を踏まえた介護士を養成しようという事業」と紹介。その後、平成23年にたんの吸引の実施が法律で公布され、それを受けてたんの吸引や経管栄養の研修を開始したことに加え、27年には医療介護士養成講座と装いを新たにして、「たんの吸引の研修を受講すれば介護士に認定されるというものにした」とこれまでの経緯を説明しました。
医療介護士の認定については、「時代の変革に備えることに他ならない」と指摘し、平成28年の診療報酬改定における25:1病棟の医療区分2、3割合の厳格化、特養の要介護度厳格化、来年の介護医療院の創設を挙げ、「そのようななかでたんの吸引ができる介護士の充足は急務ではないか」と問いかけました。
続いて、チーム医療における介護士の可能性についても言及。「施設内ではチーム医療の一角として十分役割が担えると信じている。介護が変われば、看護が変わる、看護が変われば医療が変わる、そういうボトムアップなチーム医療がつくれる」と述べ、重度の方に対応できる医療介護士の増加で「生産性の向上とモチベーションアップにつながる」と期待を込めました。
同協会の研修内容については、「1号研修が主になる。1号研修は口腔内、鼻腔内、気管カニューレ全部吸引できる。経管栄養は胃ろう、腸瘻、経鼻経管栄養の接続をすることができる」と説明。加えて、口腔内10回以上など実際に患者のたんの吸引を行う実地研修も紹介しました。
一方、たんの吸引ができる認定特定行為業務従事者の登録数は4万2,000人であることを明らかにしたうえで、「たんの吸引をする事業所は2万1,000所。1事業所当たり2名とまだまだ足りない」と課題を指摘しました。その背景として、「29年度の受講者数は9,000人だが、実地研修を終えた人は5,000人と半分程度にとどまっている。実地研修を受けられる機会が少ないのが問題」として、同協会で基本コースを免除したコースをつくり、「実地研修を受けられるようにしている段階」と紹介しました。
また、「研修に出したいという施設長は多いが、人手が足りないために研修に出せない施設も少なくない。出しても苦労に見合うだけの加算がつけられない」などの現状を指摘したうえで、「ただ、そんなに未来は暗くない」と展望。「11月に外国人技能実習生の制度が新たにスタートする。数のベースができれば、日本人の介護士を研修に出せる。インセンティブに関しては武久会長をはじめ幹部が頑張っている」と期待を込めて語りました。
最後に富家氏は、「実施研修の場所がないということについては、協会を使い倒していただきたい」と呼びかけ、「来年は介護医療院ができる。介護士がここで活躍できると信じている」と締めくくりました。
■ 環境に応じた絶え間のないチームづくりの必要性を強調 ── 小山氏
兵庫県立大学大学院名誉教授の小山秀夫氏は、「リアリティーの追求&チームビルディング」と題し、医療マネジメントにおけるチームづくりの重要性を強調。今後の医療経営と組織のあり方について見解を述べました。
小山氏は冒頭、「ケアを提供する方と受ける方のリアリティーを追求することは美しい」と述べ、サービスの「見える化」の重要性を指摘。また、慢性期医療について「一般的にとても誤解されている。例えば、看護師さんも急性期よりは楽というイメージで慢性期医療に来る方もいる。しかし実際には守備範囲は広いし、広範な知識がいる。いろいろな職種と働いていくという観点から見ると、かなり難しい職場」との認識を示しました。
日本における医療・介護事業を取り巻く状況については、①少子高齢化が進み、人材不足が深刻化、②医療・介護運営・施設運営基準が、人員配置基準に固定化、③人員配置基準の強調が、生産性向上の阻害要因、④どんな人でも、数が揃っていれば良いのか、⑤医療・介護事業者を取り巻く環境は厳しい──という5つの視点を提示。このうち②については、「既存の人員配置基準では実際に回していけない。運営基準や施設基準は最低基準であり、それをクリアすればいいという考えは改めたほうがいい」と指摘しました。
そのうえで小山氏は、チームビルディングの必要性について強調。その定義について、「職員が心を一つにして、共通のゴールに向かって進む組織づくり」などを紹介。一方、「私は別のことを考えている」と前置きしたうえで、「チームワークはチームで仕事をしていくということ。チームビルディングはチームの土台、壁や柱、屋根をつくっていくというイメージ」と述べ、「土台は共通理念とコミュニケーション、そのうえに教育、財務、法令順守、業務標準化の各システムを構築し、屋根(経営目標)を支えていくことが大事」との持論を展開しました。
続いて、機能しているチームの特徴として、▼役立つ事をしている、意義のある仕事をしていると感じながら働き、仲間の間での意見の衝突を恐れない。意見をぶつけ合うことから新しいイノベーションが生まれることを知っている、▼「失敗しないこと」ではなく、「達成すべきゴール」に焦点を当て、それぞれが責任を果たすことに誇りを持っている、▼専門性による異なる意見を尊重し、お互いに敬意を持って接し、「犠牲を払う」のではなく「協力する」──の3つを挙げ、「これらがチームの原則」と強調しました。
さらに、ミンツバーグのマネジャーにおける10項目の役割を紹介。対人関係における役割(看板、リーダー、リエゾン)、情報にかかわる役割(監視役、配布者、スポークスパーソン)、意思決定における役割(企業家、妨害排除者、資源配分者、交渉者)をそれぞれ解説。「役職に就いた方にはこの10項目を渡して、チームにおける自分の役割は何かを考えていくことが大切」と述べました。
一方、小山氏は「医療概念が拡大している」とも指摘。具体的には、「リハビリは昭和38年に理学療法士、作業療法士が産声をあげ、昭和48年くらいに医療需給は均衡状態になった。その後、医療需給関係の調整が必要になるなか、リハ不足が指摘された」などと経緯を説明し、それ以降の回復期リハビリテーション病棟の整備、2006年の診療報酬・介護報酬の同時引き下げ、地域包括ケアシステムの構築、地域医療構想の進展にも言及しました。そのような経緯を踏まえ、「医療や介護だけでなく、障害や子どもも含まれていくというなかで、皆さんの守備範囲が広がっている」と指摘しました。
そのうえで、「今なぜ経営管理が重視されるのか」と問題提起。小山氏は「組織全体をどう動かしていくか。院内のことだけしかわからないということでは経営できない。治療する医療から生活を支える医療にチャレンジしていくことも大事」と述べました。
さらに地域を支える病院の使命として、「これまで病院は地域に支えられていた。これからは病院が地域をどう支えているのか、Community basedの精神が問われている」と指摘。最後に「病院の寿命は30年、組織の寿命は3年」との認識を示し、「30年経ったら第2、第3の創業に切り替えていく、また3年ごとチームビルディングし、リアリティーを追求していくことが、この難局を乗り越えていくポイント」と強調しました。
■ スタッフの向上心を最大限引き出していく組織づくりを目指せ
質疑応答では、座長の井川氏が会場からの質問を広く呼びかけました。会場の参加者からは「誤嚥性肺炎や尿路感染で発熱すると夜間なら当直医が呼ばれる。特定看護の抗生剤使用のタイミングについてどういう手順書になっているのか」との質問がありました。
この質問に対して中原氏は、日本慢性期医療協会の手順書をもとに同院の医師が作成したことを紹介。「当院の慢性期病棟でも肺炎や尿路感染が多いので疾患に応じたものに少しアレンジし、活用している」と述べました。
また、矢野氏は補足として「感染の場合、手順書が疾患によって変わってくるが、なるべく広く使うために『感染臓器が推定できる場合』『過去に感染の既往があって推定できる場合』『感染臓器が特定できる場合』など、あえて細かい項目は入れないでいる。臓器障害がない場合に限るなど能力に応じて使えるようにしている」と紹介。そのうえで、「手順書の内容によって特定行為ができる範囲に違いがあり、手順書をつくる医師の力量にかかっている」と指摘しました。
一方、小山氏は臨床栄養士の研修にかかわっていることを踏まえ、「来年の改定では栄養関係に間違いなく点数がつく」と予想したうえで、「臨床栄養士の重要性がまだ組織に理解されていない。つまりチームができていないということ」と指摘。さらに「特定行為ができる看護師や医療介護士を育てても、組織のほうにそれを受け入れる土壌ができていないと、育てるだけ損ということになる」と述べ、チームビルディングの重要性を改めて指摘しました。
富家氏も、小山氏の指摘に同調。「実際に、介護士の研修を受けた方が施設で有効に活用されていないケースがみられる。まず環境としてニーズをつくる。つまり、たんの吸引ができる介護士をつくる前に、たんの吸引が必要な患者さんを入れていくことが大切」との考え方を示しました。また、「次にアウトカムが感じられるにようにしていくことも重要。『あなたがいたことで、誤嚥性肺炎が減った』などを示せるようなチームをつくっていただきたい」と期待を述べました。
最後に座長の井川氏は、「特定看護やたんの吸引はスタッフの向上心の現れ。そこをスポイルしないように、スタッフの向上心を引き出すような組織にしていく。そして彼ら、彼女らの実力を最大限発揮させていくことが重要。それが日本の慢性期医療を救う」と結び、シンポジウムを終えました。
(取材・執筆=新井裕充)
この記事を印刷する
2017年10月21日