日本で最初の特定看護師へ、「第1回看護師特定行為研修」が開講

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「第1回看護師特定行為研修」が開講

 日本慢性期医療協会は10月3日、第1回看護師特定行為研修の開講式を開きました。同協会の東京研修センターには、51人の受講生が出席。開講のあいさつで武久洋三会長は、「第1回の受講生である皆さんは日本で最初の特定看護師となる。無事に研修をクリアして特定看護師の修了証を全員に受け取ってほしい」とエールを送りました。この日の開講式では、武久会長の講演に続いて2つの特別講義などを開催。看護師の特定行為をめぐる実務的な課題や今後の学習の進め方などについて丁寧な解説がなされました。

 開講式の総合司会を務めた池端幸彦副会長は冒頭、看護師特定行為研修について「当協会がいま最も力を入れている研修事業」と強調。続く開講のあいさつで武久会長も「全国14の指定研修施設の中でトップの開講となる」と力を込め、協会の役員や事務局職員らが全力で支援することを伝えました。

 そのうえで、「看護師は自分のレベルをどんどん上げていこうというモチベーションが非常に強い職種であり、その思いは医師よりも強いのではないか。その熱意に頭が下がる思いである」と評価。今回の看護師特定行為研修が業界誌で報じられたことを紹介し、「皆さんは全国から注目されている。どのようなレベルの特定看護師が誕生するのか、全国から見られている。そういう自覚を持って臨んでほしい」と期待を込めました。

 この日の開講式では、武久会長が「持定行為研修を修了した看護師に求められる役割」と題し、特定看護師の制度が創設されるに至った背景などを解説。続く「特別講義①」では、在宅医療に取り組む医師の立場から全国在宅療養支援診療所連絡会会長の新田國夫氏が「地域包括ケアシステムにおける看護師特定行為の意義と実践」と題して講演。「特別講義②」では、臨床研修指導医の立場から卒後臨床研修評価機構専務理事の岩﨑榮氏が「臨床実習における指導」をテーマに講演しました。
 

■「特定看護師がカバーする範囲は非常に幅広い」── 武久会長
 
武久会長20151003 武久会長はまず、今後の多死社会に向けて医療・介護提供体制の改革が進められていることを具体的に説明。「2025年には死亡者数が現在の1.5倍になる。ということは、2回入院して2回目に死亡したら入院患者は3倍に、3回入院して3回目に死亡したら4.5倍になり、慢性期医療の対象者が急増する」との予測を示し、在宅医療をはじめとする慢性期医療の現場で看護師のニーズも拡大していることを指摘しました。

 療養病床や在宅医療の対象患者が重症化している一方で、長期療養の施設などで医師不足が深刻化していることなどの課題を挙げ、「特別養護老人ホームや訪問看護ステーションなどに特定看護師が来てくれたら非常に心強い。厚生労働省は特定看護師に大いに期待している」と述べました。
 
 武久会長は、また特定看護師のモデル事業が高度急性期病院で実施されたことに触れ、「医師が忙しいからそれを補助するという考えが当初はあったが、特定看護師は医師の補助にとどまるものではない。今や特定看護師はICUやHCUよりもむしろ慢性期医療で必要とされる存在である」との認識を示しました。慢性期医療がカバーする領域が拡大していることを挙げ、「慢性期病院や特別養護老人ホーム、在宅医療などで活躍する特定看護師には超一流の能力が要求される。特定看護師がカバーする範囲は非常に幅広い」と今後の見通しを示されました。
 
 武久会長は最後に、今回の研修プログラムの概要を紹介。日本慢性期医療協会に所属する病院の医師が中心となってオリジナルのテキストを作成したことに触れながら、「医師が行ってきた行為を特定看護師が単独で行えるようにするのだから、医師が直接指導することは当然である」との考えを示し、当協会の臨床研修指導医資格を持つ医師らが中心となって特定看護師の養成をバックアップすることを伝えました。今後、患者や家族への説明に関するマニュアルなどを整備し、研修内容を充実させていく意向を示し、「指導医には多大なご尽力を頂くが、皆さんも一生懸命に勉強して、どうか立派な特定看護師になっていただきたい」と結びました。
 

■「医療モデルから生活モデルに変える」── 新田氏
 
新田先生20151003 続いて「特別講義①」では、全国在宅療養支援診療所連絡会会長で、厚生労働省の医道審議会保健師助産師看護師分科会「看護師特定行為・研修部会」委員などを務める新田國夫氏が、「地域包括ケアシステムにおける看護師特定行為の意義と実践」と題して講演しました。
 
 新田氏は冒頭、「2040年に向けた検討が現在、厚労省の研究会で進められており、2025年は1つの通過点にすぎない。いま50歳の人が75歳になる時、世の中は大きく動いている」と指摘。慢性期疾患を抱える患者が急増する中で、急性期・回復期・慢性期の各段階における看護師の役割がさらに増大することを強調し、「地域包括ケアシステムの構築に向けて最も必要なのは看護師が果たす役割。医師は医療を重視する傾向があるが、患者さんの次のステップを考えて生活の場に戻す看護師の役割が今後さらに重要性を増す」との考えを示しました。そのうえで新田氏は「いわば医療モデルから生活モデルに変える規範的統合が必要である。そのために看護師の特定行為ができた」と制度創設の背景を説明しました。
 
 新田氏は、特定看護師の業務範囲や法的責任にも言及。脱水を繰り返す在宅患者を例に挙げながら、医師の包括的な指示の下で看護師が実施するまでの流れを説明したうえで、「在宅医療における看護師の役割が拡大されてきているので、看護師の責任も医師や病院の責任とは別個の独立したものとして理解されるだろう」との考えを示しました。看護師に業務上過失致死罪が適用された過去の判例を詳しく解説し、米国の状況についても紹介。新田氏は、「過失の存否の判断に際しては、標準的な医療水準と当該医療行為との関係が斟酌される。現在の標準的な医療水準を満たしていれば過失が否定されることが多いので、皆さんはぜひ頑張って研修してほしい」とさらなる研鑽を求めました。
 
 新田氏は最後に、特定行為研修の基本理念を紹介。「チーム医療のキーパーソンである看護師が、患者および国民ならびに医師および歯科医師その他医療関係者から期待される役割を十分に担うため、医療安全に配慮し、在宅を含む医療現場において、高度な臨床実践能力を発揮できるよう、自己研鑛を継続する基盤を構築するものでなければならない」との理念を読み上げたうえで、「この中で『チーム医療のキーパーソン』とあるのが非常に重要である」と指摘しました。2025年に向けて厚労省が「2桁万人の養成」を想定していることを伝え、「皆さんの活躍の場がさらに広がる。ぜひ頑張ってほしい」と激励しました。
 

■「指導者と学習者が『共育』で成長していく」── 岩﨑氏
 
岩崎先生20151003 「特別講義②」では、卒後臨床研修評価機構専務理事の岩﨑榮氏が「臨床実習における指導について」と題して講演し、医師が作成する手順書や留意事項などについて丁寧に解説しました。

 岩﨑氏は冒頭、「手順書が基本になる。医師がきちんと記載しなければいけないので、医師たちにこそ教育しなければいけない」との認識を提示。「特定行為の現場には、特定行為を理解した医師がいなければならないので、医師もしっかり勉強しなければいけない」と強調しました。
 
 そのうえで岩﨑氏は、看護師の役割に言及。特定行為研修の基本理念に「チーム医療のキーパーソンである看護師」と明記されていることを紹介し、「医師は果たしてチーム医療のリーダーになり得ているのだろうか」と問いかけました。岩﨑氏は、「看護師がチーム医療のキーパーソンになれば、チーム医療はもっとうまく進むだろう」との考えを述べ、「病棟でも、看護師は患者さんから信頼されている。特定看護師は必ずや国民から信頼され、期待される存在になるだろう」と特定看護師の未来に期待を膨らませました。
 
 その一方で、「病棟の看護師を見ていると、『省察』が足りないと思うこともある」と苦言を呈し、経験学習の重要性を指摘。「現場で実際に経験した後、自らを振り返る『省察』をして、そこから学び、施行し、また経験する」とフィードバックの課程を説明し、「第三者からのフィードバックを受ける必要があるが、日本の医療や看護の現場では、十分にフィードバックできるシステムになっていない」との課題を挙げました。岩﨑氏は、「忙しくてもフィードバックはできる。忙しい病棟でもフィードバックできないことはない」と強調し、「きめ細かいフィードバックによって学習し、仲間と共に成長していく『共育』が必要である。生徒から学ぶことによって教師も育っていく」と語りました。
 
 岩﨑氏は「共育」(協調的学習)を進めるうえで必要な評価方法などを詳しく解説。「チェックリストなどで第三者から評価してもらったら、それを記録に残して1年間溜める。その溜まったものが皆さんの『ポートフォリオ』になるので、これを繰り返し実行すれば成長していく」と説明しました。岩﨑氏は、特定行為研修において指導医の役割が重要であることを指摘し、「私たち指導者も、皆さんと一緒になって学んでいきたい。指導者と学習者が一緒になってやっていこう」と呼び掛けました。
 
 特別講演の後には、日本慢性期医療協会の矢野諭常任理事(学術研修委員会副委員長)が受講から修了までの研修スキームを丁寧にガイダンス。看護師特定行為研修の事務局からは、eラーニングによる学習の進め方や操作方法の説明もなされました。閉会のあいさつで、看護師特定行為研修ワーキンググループ副委員長の富家隆樹常任理事は「先生方から貴重なエールを送っていただいた。ここにいる51名の皆さんは難関を乗り越えて選抜された方々ばかり。ぜひ全員が本邦第一号の特定看護師になってほしい」と締めくくりました。
 

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